「もう片方はどうした?」
「ちょっとヤボ用だ。お前らの相手は俺がしてやるから安心しろ」
喰は動きを止めた三人を除く六人のワルキューレの前に立ち塞がる。
護堂が準備を終えるまで足止めすれば戦況は変化する。
だからこそ、無茶もする。
それにブリュンヒルデ以外の五人ならまだ何とかはなる。
ブリュンヒルデは奥の方でまだぶつぶつ言って動きすらしない。
あれが動けばどうなるかは分からない。
だからその前に残りを無力化する。
大薙刀の岩融、既に顕現している左手の龍の爪、龍の尾を構える。
「貴様のみならまともに相手する必要も無い」
ワルキューレ達が何かを唱える。
直後に人喰い鴉が一斉に喰へと襲い掛かる。
肉が抉られ、血が舞う。
「ハハハハハハハハッ!!鴉程度で俺がどうにかなるとでも思ってるのか!?」
だが、そんな状況であれ笑う。
そして、鴉達が一斉に燃え上がる。
「何ぃ!?」
困惑した様な声をワルキューレがあげる。
しかしこうなるのも当然である。
四元素の火の発火点は喰の血液である。
喰の血肉に群がる鴉が燃えるのは当たり前なのだ。
喰は片手を上に上げる。
そのまま四元素の火を制御する。
火は次々と燃え移り鴉達の生命力の火を喰らっていく。
何時しか火は辺り一帯を飛び回っていた鴉全てを覆う。
ワルキューレ達も迂闊には近付けない。
喰は上げていた手を広げる。
すると、火は広げた掌へと収束していく。
そのまま掌へと飲み込まれていく。
生命力の火を自身の物と変換し、喰らっているのだ。
最後の一欠片すらも飲み込み、手を閉じる。
そしてニヤリと笑う。
「さて、次はお前らだ」
「やれるものならやっ………ぐぅ!?」
「何だこれは!?」
「体が!?」
「馬も……」
「何かに縛られているかのように」
「「「「「「動かないだとぉ!?」」」」」」
「今ごろ気付いたか?最初から戦ってる間からお前らが火を眺めてる間までずっと仕込んでいたんだぜ?」
ワルキューレらの動きを縛る物は“糸”である。
魔術で強度を強化してはいるが触れても気付かないレベルの細さである。
それが気付かぬ内に巻き付き続け、結果としてワルキューレ達の動きを縛っているのだ。
「動けねぇワルキューレを殺るくらい……ごぶぅ!?」
「邪魔」
いつの間にかブリュンヒルデが背後に回っていた。
半月も、ヴェーラも、鴉の相手を終えたエリカ、リリアナも反応出来なかった。
喰は背後から深々と槍に貫かれていた。
龍の尾を振るうが片手で受け止めれる。
「この怪力が…………」
呟くがそもそもブリュンヒルデは喰の話など聞いてない。
「…………邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!あなたは邪魔。私達の使命を果たすのに邪魔。邪魔は排除、邪魔は排除、邪魔は排除、排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除!!」
とち狂った様に……否、実際狂ってる。
同じ言葉を連呼しながら、喰を槍を振って引き抜き弾き飛ばす。
体勢を建て直すどころか着地もさせずに頭部を掴まれる。
ミシミシと頭部が悲鳴を上げる。
抵抗しようとする前に壁に叩き付けられる。
壁の方がヒビを大きく入り、崩れる。
「ガハァ!?ふざ……けんなぁ!!」
岩融を振るうがあっさり避けられる。
そのまま空中に投げ捨てられ、直後に槍を投げられ、腹に突き刺さり、勢いのままに吹っ飛ばされていく。
当たった物を薙ぎ倒しながら飛んでいき。
勢いが弱まり、槍が岩に突き刺さった所でようやく止まる。
「…………まだ生きている?死んでない?排除、排除排除するにはははははは確実に殺す。頭部を潰潰し、心の臓を貫、貫く、消す消す消す消す消す消す!!」
ほぼトドメを刺しに来ているブリュンヒルデに喰はそれでも笑っていた。
「ハハハッ!!笑えねぇ状況ではあるが…………死ぬとは思えねぇんでな」
「っ!?ぐぅぅぅ!?」
突然苦しみ出すブリュンヒルデ。
慌てて振り向くと半月が瀕死のゲルヒルデに刀を突き刺していた。
◆◆◆◆◆
「ったく、しょうがないわね。死体蹴りとか趣味じゃないんだけどね~」
喰に予め言われていた。
ヤバくなったら瀕死の何れかにトドメを刺せ、と。
どうやら読みは当たっていたらしい。
◆◆◆◆◆
「お前らが瀕死の奴だろうが瀕死に守るのはそれが理由だ。お前らは一人一人が独立してるんじゃない。九姉妹て一つの神格として顕現していたんだ」
「あがぁぁあがげりゃ!?わわわわわわ我のそ、そそ存在がけず、削削れれれれれれれれ!?」
「一人でも欠ければ全体に影響が出る。それがお前達だ!!」
言い放ったはいいが、ブリュンヒルデには聞こえていない。
頭を押さえて絶叫している。
そこへ黄金の光が襲い掛かる。
「ようやく準備を終えやがったか!!」
ニッと笑う。
視線の先では護堂が言霊を唱えていた。
◆◆◆◆◆
「ブリュンヒルデ!!今のあんたを形作る物は“ニーベルングの指環”、そして原典たる“ヴォルンス・サガ”だ」
“剣”が放たれる。
「あんた達ワルキューレの役目は勇敢な戦死者達をヴァルハラに迎える事だ。それ故に戦死者達の腐肉に群がる鴉や狼に例えられた。だから鴉達を使役する事が出来たんだ」
“剣”の光が、光球が、縛られ存在が欠けて苦しんでいたワルキューレ達に襲い掛かる。
何とか“糸”を脱出し、逃げ回る。
「そんなあんた達が戦う乙女、戦乙女と扱われ始めたのはあんた、ブリュンヒルデとジークフリードの恋物語が広まったからだ」
“剣”は勿論ブリュンヒルデにも襲い掛かる。
黄金を前にしながらまだぶつぶつと呟いている。
「言霊?我を暴く言霊?止めろ………止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろぉぉぉぉぉぉ!!」
目の色を変えて護堂へ向けて槍を投げつける。
よほど暴かれたく無いらしい。
「リリィ!!」
「分かっている!!」
しかし投げ付けた槍はエリカとリリアナによって防がれる。
「それの始まりはあんたがオーディンに命じられ、争いを起こし、戦死者を迎え様とした時に情に流され、命令に逆らったのが切っ掛けだ」
「オーディンは逆らった事に怒る。その時にブリュンヒルデを守る為に妹達が匿う。その時に登場するのがあんたら姉妹だ!!匿ったはいいがオーディンにはお見通しであり、オーディンを恐れ手が出せなかった。それによりブリュンヒルデは神格を奪われ、人間の男と結婚させられる罰を受ける事になる」
ワルキューレ達を“剣”は容赦無く斬り裂いていく。
そこを喰が追撃する。
「俺を忘れて貰っちゃ困るぜ!!」
槍を引き抜いた上で喰は左目に手を突っ込む。
そして眼球を引き抜く。
次いで岩融を左耳に当てる。
そのまま左耳を引き千切る。
最後に口に手を入れ、左上半分の歯と左下半分の歯を引き抜く。
顔面から血が溢れるが気にしない。
これくらいなら再生するし、すぐに塞がる。
喰はそれらを宙に投げる。
すると四つの靄がそれらを喰らう。
「我は身を捧げたり。神を穢す名を刻まれしその頭よ、我の前に顕現せよ!!王を喰らえ!!聖人をも打ち倒せ!!」
言霊が唱えられ、黒い靄から赤い竜の頭部が四つ現れる。
各々独立して動き獲物を待つかの様に涎を垂らす。
「いいぜ、喰らいな!!」
その言葉を合図に四つの龍頭はワルキューレ達を喰らい始める。
“剣”によって苦しんでいる所に龍が襲い掛かる。
槍を振るおうとするが、槍ごと纏めて噛み潰される。
噛み潰される血が辺り一帯に飛び散る。
噛み潰されるのを逃れた腕がボトリと落ちる。
「ハァァァァァ!!」
ジークルーネは中々に抵抗するが無意味だった。
「は?」
前方の一体に気を取られている内に背後から噛み潰された。
左半身がごっそり持っていかれた。
そして前方の龍が口を広げ、襲い掛かる。
「……嫌、嫌イヤァァァァ!?」
絶叫をしながら喰われた。
龍の口からワルキューレ達の血が滴る。
「凄い光景だね」
ヴェーラがその光景を眺めながら呟く。
「グロイっての少しは考えろっての!!」
半月は文句を言いながらまだ生き残ってるワルキューレ、シュヴェルトライテの前に立ち塞がる。
「喰われる前に決着をつけようじゃない」
「いいだろう」
互いに剣を構え向き合う。
互いに踏み込もうとした時に銃声が響く。
「何を悠長な事をやっているんだい、君は?」
「な!?」
撃ったのはヴェーラだった。
魔術で強化された銃弾はしっかりとシュヴェルトライテの腹を撃ち抜いていた。
「何を私の獲物に手を出してんのよ」
「どうせ正々堂々なんてやる気無かっただろ?そこの“糸”辺りでも使うつもりだったろ?」
「チッ、種明かししないでくれる?つまんないわね~」
「こんな時に楽しもうとするのが間違ってるのさ」
半月とシュヴェルトライテの間には喰の仕掛けた“糸”が張られていた。
半月はそれを利用し、気付いていないシュヴェルトライテが引っ掛かり隙が出来た所を殺るつもりだった。
二人の会話で察したシュヴェルトライテは憎々しげな視線を向ける。
「こ………この卑怯者がぁ!!」
「卑怯で結構。ここは戦場よ?勝てればそれでいいのよ。それじゃさよなら」
言い終わり、シュヴェルトライテの首を斬り落とした。
卑怯だろうが何だろうが勝利を掴めばいい。
エリカやリリアナなどの騎士が恥ずべき事も半月やヴェーラは普通にやってのけるのだった。
一方、ブリュンヒルデは存在を削られる苦しみと“剣”による神格が斬り裂かれる苦しみを同時に受けていた。
黄金もこれで終わりである。
護堂は“剣”を一纏めにして放とうとする。
「………そして、その恋は悲劇で終わる。愛を裏切ったジークフリードをあんたは恨み、グンターを騙し、ジークフリードを殺させたんだ!!」
「言うな!!それ以上は言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジークフリードを殺害させた後にあんたは全てを知る。そしてジークフリードを殺害した事を悔やみ、ジークフリードを火葬する炎の中に飛び込んだんだ。それがあんたの結末だ!!」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
“剣”がブリュンヒルデを貫く。
神格を貫かれて、絶叫する。
他の姉妹も全員殺された。
九人で一つの存在というのも崩れた。
ブリュンヒルデはもはや瀕死も同然だった。
「トドメだぁぁぁぁ!!」
「………ミトメナイ、ミトメナイ、私は認めないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
トドメを刺そうと飛び掛かった喰が逆に斬り刻まれる。
どうやら何が何でも自分が殺したという事実を認めたく無いようだ。
そして察する。
どうしてブリュンヒルデがこんなにも狂った状態かを。
後悔に押し潰された状態でまつろわぬ神となった事によって精神が崩壊しているのだと。
「しょうがねぇ!!護堂、“白馬”だ!!」
「分かった!!」
「我が元に来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、我がために輝ける駿馬を遣わし給え。駿足にして霊妙なる馬よ、汝の主たる光輪を疾く運べ!!」
東方の空が明るくなる。
ブリュンヒルデはそれを見てその場を離れようとする。
そうはさせない。
喰は竜尾を叩き付け、龍頭によって馬ごと足を喰らい、その場を離れる。
吸血鬼の力を発動した状態で近くにいるのは危ないのだ。
直後に咎人を灼き尽くす清めの焔がブリュンヒルデへと降り注ぐ。
「_____」
当たる直前、ブリュンヒルデは微笑んだ様に見えた。
だが、それも全て光に呑み込まれた。
「………やったか?」
此処に来て血を流し過ぎた影響が一気に来た。
呟いた直後に喰の視界が暗転し、倒れるのだった。
戦闘は決着!!
“剣”は中略です。
その間は戦闘を的な感じです。
半月もヴェーラも割とどんな手でも使います。
そこらへんは喰、骸も似た様な物です。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。