「悪い護堂、リリアナと万里谷を巻き込んだ挙げ句に拐われちまって」
「それはいい。そこを話してもしょうがないからな。問題はどう助けるかだ」
「奴の居場所ならすぐに分かる。半月に発信機みたいなのを付けてるからな」
言った直後に喰は護堂、エリカ、万里谷、ヴェーラからジトーとした目を向けられる。
「ストーカー………」
「オイ、誤解すんな」
ヴェーラの呟きに即座に突っ込む。
そこを勘違いされては困る。
とは言っても釈明は後でいい。
「とにかく居場所は分かる。だが、すぐに乗り込むのは駄目だ。無用心にも程がある」
「そうね。何も対策せずに挑むべきでは無いけれど、リリィや神宮さんが何をされるか分からないでしょ?」
「そこは問題無いと思うぜ。あの狂った様子じゃ行動を読めないのは確かだが必要な人材はすぐは殺さない。それだけは分かる。魂が欲しいなら殺せばいいだけなのにやらずに拐ったからには準備が必要と思える」
あくまで推測に過ぎないが。
「それで一応聞いておくぞ。今回は共闘って事でいいんだよな?」
「当たり前だ」
「そうか。なら、一時間後に指定した場所に来てくれそこから攻め込む」
「傷は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。このくらいならすぐ治る」
血さえあればだが。
その後、喰は護堂達と別れるのだった。
◆◆◆◆◆
「それで僕を助けてどうするつもりだい?」
「別に特に何をしようってわけじゃねぇよ」
「…………そういう事を言うやつほど後で何かを要求してくるもんだけどね」
「…………信用ねぇな~」
護堂達と別れた後に喰はヴェーラを担いで住処まで戻っていた。
ヴェーラをソファーの上に置いて治療をした後に保管庫から輸血パックを取り出して三パックほど飲んで傷を癒した所である。
現在は“糸”と呪符の調整をしながらヴェーラに治療系の魔術をかけている所である。
「……ハッ、僕は誰も信用なんてしちゃいないさ。どうせ信用しても意味無いからね」
「まるで依頼人すら信用してない言動だな」
「当たり前だろ?あいつらは僕の事を道具としか思って無いからね」
「道具ね…………まぁ分かると言えば分かるが」
(お前が言える事じゃねぇけどな)
「(うるせぇ!!お前だって似た様な経験をしてるちゃしてるだろうが!!)」
(まっそうだな。俺の感じた似た匂いってのもそこらへんだろうしな)
「(お前じゃ気が合いそうにも無いな)」
(だろうな。ダリィ事この上ねぇだろうし。と言うわけで任せた)
それを最後に骸は意識の奥へと沈んで行った。
「君の経歴を見た限りは似た様な経験をしてそうだけどね。それでも分かりゃしないさ」
「具体的には何も言わない癖に分かって貰おうなんて虫が良すぎるんだよ」
「なら話そうか?僕の事を」
「あぁ、まだ四十分はある。聞こうじゃねぇか」
ヴェーラは自分でも何故言い出したかは分からなかった。
それでも何となくこの男になら話していいと思ったのだった。
◇◇◇◇◇
「始まりは根本的な所からだ。僕は孤児だった」
「物心がついた頃には親なんていなかったよ」
「それをあいつらが引き取ったんだ。僕のいた孤児院の連中も金を出されたら進んで差し出していたよ。あの時の僕は心を閉ざしてたに近くてね。特に抵抗する事もなくついていったよ」
「何処にだって?決まってるだろ?僕が今所属してる魔術結社だよ」
「あいつらは有望な人材を回収して利用する為に幼い頃から訓練させてるんだ」
「それは当然僕もだ。しかも、あいつらは邪派と呼ばれるに近い魔術結社だったからね。人道なんてあった物じゃ無い」
「とは言っても僕は元々素養が高い上に飲み込みも速かった様だから薬物や改造を受ける事もなかったけどね。だからこそ、この年齢で仕事をやってるし、君みたいなカンピオーネの所への仕事を任されたりするんだよ」
「あぁ、安心していいよ。君や神宮半月の事はまだ報告してないから」
「話を戻そう」
「訓練と言っても体術や魔術を仕込まれたりなどの技術方面や、人体実験とかのモルモット方面があるけど僕は幸運な事に前者だったよ」
「まぁ前者が幸運と言っても一定条件さえ満たしていれば死にはしないって意味での幸運だけどね」
「もしかしたらすぐに死ねる実験体の方が幸運な可能性もあるからね」
「さて、それで僕は“完成した”と判断されたわけだよ。そこからは仕事三昧だよ」
「暗殺、潜入とか仕事は色々だよ。まともじゃないのは間違い無いけど。僕は言われるままにこなしていったよ。従わなければ用済みとして消されるだけだしね」
「そうやって生きてる事に何の意味があるって疑問に思うかもしれないけどね。と言うかそんな疑問など思い付かないくらいに教育されるはずなんだけどね」
「僕かい?僕は見れば分かるだろ?そんな疑問も思うし、完全に結社に尽くすわけでも無い。おかしいよね。それでも僕はあいつらの元にいるんだもん」
「自分でも分からないさ。何で逃げ出さないとかはね。追ってとかそういうのくらいは気にしない程の実力はあるのにね」
「自画自賛するなって?いやいや、事実だって魔術結社とは言ってもそこまでの実力者が揃ってるわけじゃないよ」
「そもそも言っただろう?僕は素養が高くて、飲み込みも早いって。どうやら僕の呪力は特別らしいよ。僕自身がそれがどう特別か知らないけど」
「また話がそれたね」
「まぁともかく僕は仕事を続けてる内に…いや、最初からだね。何も信じれなかったのさ。それでいて空っぽだったのさ。心がね。何もかもどうでもいいし、何が起ころうとどうでもいい。まさにそんな感じだったよ」
「たぶん親に捨てられた時から既に僕の心は空っぽだったんだろうね。親が残した物なんて名前くらいさ」
「その名前も滑稽でね。僕の名前、ヴェーラの意味を知ってるかい?ロシア語で“信じる”って意味さ」
「笑えるだろ?誰からも信用されず、誰も信用していない僕の名前の意味が“信じる”って意味なんてさ」
◇◇◇◇◇
一通りヴェーラは語り終えた。
喰は少し間を置いて言う。
「ようはお前は誰かに信頼して欲しいし、信頼出来る相手が欲しいんだな」
「は?君、ちゃんと聞いてたかい?」
ヴェーラは明らかに気にいらない、といった表情で言う。
対して喰は涼しい顔で続ける。
「お前、自分で言ったよな。何もかもどうでもいいし、何が起ころうとどうでもいいって。それなのに明らかに“信頼”って部分だけは言い方が違うからな。心の奥底で求めてるって事だろ」
「いや、そんなはずが……無い。僕が求めてる物はそんなものじゃないし、そもそも何も求めてなんか………………」
「だーもう、つまんねぇ意地を張るなよ。笑えねぇ、本当に笑えねぇ。誰からも信頼されず、誰も信用してないだぁ?くだらねぇ。そんなもんはお前がそういう所から抜け出そうとしないからだろうが」
「…………だったら…………だったらどうしろって言うんだよ!!誰も味方なんていないんだよ!!」
「なら俺がなってやるよ」
「は?」(は?)
ヴェーラと骸が同時に声をあげる。
喰は骸は無視して言う。
「俺がお前の信頼出来る相手になってやるって言ってんだよ。俺はお前を裏切らずに味方でいてやるし、信頼してやる。そう“契約”する。俺は“契約”だけは絶対に破らないからな」
“契約”が俺達の唯一の絶対だ、と付け加える。
ヴェーラはポカンとした様子である。
喰は息を吐き、立ち上がる。
「まぁすぐに決める必要は無いさ。これからじっくり俺を見て“契約”をするだけの価値があるか見極めとけ」
「そうかい。じゃあ、見極めさせて貰うよ」
ヴェーラはソファーに寝転がり、顔を喰に見えない様にして話す。
「それじゃ、お前は傷が治るまでは大人しくしとけよ。俺は半月を助けに行っくるからよ」
「一つ聞いていいかな。君にとって神宮 半月はなんだい?」
「絶対に守る存在だ。この命にかえてでもな。それがあれとの“契約”でもあるしな。そこらへんは基本的に骸の役割だけどな」
「そうかい。そういう関係かい。聞けてよかったよ」
「くれぐれも動くなよ、ヴェーラ」
そして、部屋を出ようとする喰。
ヴェーラは一つ引っ掛かって呼び止める。
「なんだよ」
「……………ルーシャだ」
「?」
「君はヴェーラじゃなくてルーシャって呼んでくれるかい?」
喰は一瞬キョトンとした顔をするがすぐに表情を戻す。
「分かった。そうしとくよ、ルーシャ」
それを最後に喰は部屋を出て、護堂達に指定した場所へと向かうのだった。
残ったヴェーラはソファーに寝転がりながら顔を紅くしていた。
「まったく…………身をていして庇われた後にあんな事を言うのは反則だよ」
顔を紅くしながらヴェーラはクッションに顔を埋めるのだった。
口元が少々嬉しそうに歪んでるのは本人も気付いてはいない。
語り回的な感じでした。
バトルは次回より!!
語りパートに関しては試しにやってみた感じです。
今後の過去語りはこの形になるかもです。
ヴェーラの空虚は埋める物が何も無いから空虚なだけで埋める物が見付かったら色々とです。
それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。