オーロラが輝く地。
“彼女”は上空にて天馬に股がり、空を駆けていた。
「極東の地にちょうどいい強き魂があるようですね…………我が主に捧げるべく、招待しに行きましょうか」
極東の地に向かって天馬は駆ける。
その後を追う様にオーロラも輝く。
その様子を眺めながらある“少女”が呟く。
「上手い事、誘導出来たようね。その調子で“骸”を倒してね」
少女の姿は陽炎の様に揺らぎ消えていくのだった。
◆◆◆◆◆
「で、何でお前が此処にいるんだ?」
骸が面倒そうに言う。
半月は髪をポニーテールに纏めながら骸の方を見る。
「別に居てもいいじゃない」
「そろそろ暗くなるぞ」
「高校生に何を言ってんのよ。それに今日は此処に泊まるし」
「…………………聞いてないんだが」
「今言ったもん」
「うぉい!!」
「いいでしょうが。部屋はあるでしょ?着替えも持って来てるし」
「そういう問題じゃねぇだろ…………」
「それに明日はあんたに付き合って貰いたい事あるし」
「は?何をだよ」
「買い物」
「うぉい!!そんな事に何で俺が付き合わないといけねぇんだよ!?」
「どうせ暇でしょ?」
「確かに暇ではあるがよ………と言うか、それなら泊まる必要ねぇだろ……………」
「あんた逃げるでしょうが」
「そんな事ねぇよ」
白々しく言う。
先に言われてたら確実に早朝に逃げていた。
「ともかく付き合って貰うから!!」
「仕方ねぇな…………」
渋々了承するのだった。
まぁこうなったら仕方ない。
「(いざとなったら喰に変わればいいし)」
(アホか。変わらねぇぞ)
「(何でだよ!?)」
(自分で考えろ)
喰は面倒そうに突き放すのだった。
(ったく、女がああいう誘いをして来たんだから少しは察しろっての。笑えねぇ)
骸に聞こえない様に呟くのだった。
◆◆◆◆◆
廃墟・二階。
半月は溜め息を吐きながら愚痴っていた。
「あの鈍男め!!これで喰で来たらぶん殴ってやる!!」
叫びながら壁を殴る。
現在は着替え中である。
覗かれてる気配は無い。
むしろ覗けってくらいではあるのだが骸は確実に来ないだろう。
明日は休日である。
休日に女子が買い物に付き合う様に言ってアレなのだ。
覗きになど来るわけが無い。
半月としては骸と喰のどちらも気に入ってるが明日は骸といたいのだ。
何故かは自分でも分からない。
「まぁいいわ!!とりあえず料理の腕を見せ付けて驚かせてやる!!」
意気込んで三階へと登って行く。
◆◆◆◆◆
「よぉ、遅かったな」
そこで見たのはエプロンを装備した骸と用意された夕飯だった。
「あんた、料理出来たの?」
「そりゃ旅するのも長かったし、ほぼ一人暮らしだし出来るっての。“あの野郎”に散々教えられたのもあるがな」
「“あの野郎”?」
料理の腕を見せて、手料理を食べさせるチャンスが消えたとか。
むしろ手料理を食えてラッキーとか。
そういうのは置いといて、半月が気になったのはそれだった。
「あぁ気にするな。俺の“昔話”の事だ。それより冷める前に食おうぜ」
適当に流す様に言われる。
追求したい所ではあるが、あえてしない。
まだその時では無い。
「(とはいえ、覚悟出来てないだけだけどね)」
自覚はある。
“昔話”とやらを聞く心の準備が整っていないのだ。
その後、食事を食べ終わると半月が風呂に入る事になる。
どうやら風呂の準備までしていたようだ。
◆◆◆◆◆
「気が利くのか、利かないのか分からないわね~」
湯船に浸かりながら呟く。
風呂はさすがに内装まで新調されていた。
床もタイルも風呂桶も外が廃墟とは思え無い程には綺麗だった。
◆◆◆◆◆
翌日。
着替えを終えた半月は何時も以上のノリで骸の鳩尾に向けて蹴りを放った。
「ぐぼぁ!?何しやがる!?」
「早く起こすにはこれがちょうどいいでしょうが」
「だからって他にやり方って物があるだろうが!!」
「うるさいわね。さっさと着替えなさいよ。朝飯は私が用意してるから」
「あぁ、そこは悪いな」
「いいのいいの、簡単な物だし」
言いながら半月は階段へと歩いて行く。
骸は最上階で寝る。
わざわざ半壊してる最上階でだ。
壁は壊れて無いがよく分からない拘りだ。
朝飯のメニューはトーストにサラダに卵焼きと本当に簡単な物だった。
食べ終わると、支度を済ませて、二人で街に出るのだった。
◆◆◆◆◆
「意外に日本に来てから半月と出掛けると言うのは初めてだな」
支度をしながら自室で呟く。
(つーか、二人で出掛ける事自体が初めてじゃねぇか?)
「まぁ確かにそうだな」
教会から二人で日本に移動するまでの道のりはそういうのにカウント出来る事では無いし。
日本に来た後はゴタゴタしそれどころじゃなかったのでこれが初めてなのだ。
とはいえ、骸が面倒がってるのは変わり無いが。
喰としてはやらかすなよ、と心配ではある。
骸の事だから最悪怒らし、気まずくなる事はあるかもしれない。
そんな事を思われながら骸は支度を済ませ、半月と街に出るのだった。
◆◆◆◆◆
とあるアパート。
ルーシャはそこを仮住居としていた。
「……そうですね。現状は問題ありません。あの話も間違い無さそうです」
ルーシャは携帯で連絡を取っていた。
「例の件についてはまだです。何度か接触しましたが手掛かりになりそうな事はありませんでした。正体については確定で良さそうです」
淡々と報告をしていく。
「ええ。了解しました」
それを最後に通話を終える。
携帯を机に置いて溜め息を吐く。
「全く無茶を言ってくれるね。カンピオーネを監視しながら情報を聞き出せ何て」
ロングコートを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行くのだった。
◆◆◆◆◆
骸は黒の半袖パーカーに黒いズボンである。
髪は後ろに一纏めにし、髭は剃ってある。
半月はロングスカートに薄手の半袖の上に袖無しのジャケットを着ている。
髪はストレートである。
長い黒髪が風に吹かれて揺れる。
「それでまずは何を買うんだ?」
「まずは服かしらね」
「下着は付き合わねぇぞ」
「そんな所に行くわけないでしょ。秋用の服が欲しいだけよ」
ちなみに同日の昼辺りにエリカが護堂に下着を選ばせてるのだが、それは別の話である。
その後、昼飯時まで半月の服選びに付き合うのだった。
◆◆◆◆◆
「何でこんなに必要なんだ?」
大量の荷物を持ちながら聞く。
「女には色々あるのよ」
「そうかい」
現在は昼飯を何処で食べるか検討中である。
別にファミレスでもいいのだがせっかくだから珍しい所を探していると言う感じである。
そんな時に骸は妙な気配を感じて振り返る。
「………………?」
すれ違ったのはミニスカートに黒い半袖のシャツにネクタイをした同年代と思える少女だった。
何より気になるのは雪の様に白く感じる金髪である。
「どうしたの?」
「いや、何でも無い」
「ふぅん」
半月が怪しげに呟く。
女子と二人っきりの時に他の女に気を向けるとこうなるのだ。
その後、二人は小さい蕎麦屋に入るのだった。
「(何か妙な感じがしたんだがな)」
(まだ考えてんのか)
「(そりゃ……な)」
「てい」
「痛っ!?何しやがる!?」
つまようじで刺された。
これはこれで結構痛い物である。
「何を考えてんのよ?」
「この後のプランだよ」
「へぇ、なら楽しみにしておくわ」
特に考えているわけでは無いので期待されても困るが。
とっさの嘘だが、何だか面倒事を招いた気がしてならない。
注文した蕎麦が来て、食べながらようやく思い出す。
「(あの表情に、あの瞳、何かを妙に思ったんじゃねぇ。何も感じないからこそ妙に思ったんだ)」
何も感じない無機質な瞳に、作り物の表情。
だからこそ、妙に感じたのだ。
とはいえ、今更確認しようも無いのだが。
たまたま街ですれ違った相手など再び出会う事など稀であろう。
もし、魔術師で無ければの話ではあるが。
すれ違ったのが偶然で無いなら再び出会うだろう。
まぁ考え過ぎだろうが。
「さて、食べ終わった事だし考えていたプランとやらを教えて貰おうかしら?」
「そうだな」
会計を済ませ、店の外でこれである。
言ったからにはしょうがない。
何とかするか。
やれやれといった感じに骸は歩き出すのだった。
二人の出掛けでした。
冒頭のは後々。
正体は……括りなら分かる人はいると思います。
それでは質問などがあればきいてください。
感想待ってます。