城楠学院高等部。
その屋上に喰はいた。
現在風も強く、雨も激しく降り注いでいる。
喰は周囲に結界を張って雨から身を守る。
そして、双眼鏡を構えて校庭の一角にいる巫女装束の少女を眺めていた。
「ったく、予定外の雨か。笑えねぇ。濡れる所だ。あの妙な気配を感じる“刀”が原因か?」
眺めながら愚痴る。
とはいえ、馨からの依頼なので断るわけにもいかない。
少女が校舎の壁に何かをしているのを見終えると携帯を取り出して馨に連絡を取る。
「馨か?」
『ぼくだよ。それで何の用だい?』
「言われた通りに清秋院恵那だったか?そいつの行動を見張ってた経過報告だ」
『連絡してきたという事は何かあったかい?』
「あぁ。校舎を中心に何か仕掛けしているな。俺にはさっぱりだが」
近くに言ってじっくりと確かめればどういう類いかは分かるがそれをするのは向こうの機密に触れかねないので今回はやらない。
それは馨の方から機密関連には出来るだけ触れるなと言ってるので深くは聞かない。
『今のところはそれだけかい?』
「まぁそうだな。このまま見張りは続行か?」
『そうだね。そうしてくれると助かるよ。草薙さんの周辺に現れるだろうから暇な時でいいから頼むよ』
「了解」
それを最後に通話を終える。
「さて、雨もやんだし帰るか」
喰は立ち上がり住処の廃墟まで移動を始める。
この後学校があるのだ。
それに半月も“骸”を起こしに来るくらいだろう。
骸は学校へ行く気がほとんど無いに等しいので喰と半月で引きずっていくのが日常だ。
肉体的にも、精神的にも攻められては骸も渋々学校へ行くのだ。
今日は仕事もあったので喰が体を使っているが半月は知らないので何時も通り来るだろう。
というわけでそれなりに急いで戻るのだった。
◆◆◆◆◆
放課後。
骸は欠伸をしながら席を立つ。
「本当にダリィな。そろそろサボりてぇくらいだ」
(半月に言うぞ)
「それはやめてくれ、うるさくて敵わねぇから」
何時も通りのやり取りをしつつ、荷物を纏める。
そこで護堂とリリアナが話しているのを見付け、荷物を纏めながら聞き耳をたてる。
情報は貴重だ。
どんな情報だろうが得て損は無い。
基本的に無気力な骸だがそこらへんの感覚はあるのだ。
一通り聞き終えると怪しまれない様に先に教室を出る。
「茶道室だとよ。どうする?変わるか?」
(まぁこっちの仕事だしな)
一瞬頭がカクンと下がったと思うと髪が一房白くなる。
喰が表に現れたのだ。
「しかし笑えねぇ。普通、学校に堂々と来るかね……」
愚痴りながら半月にメールをしておく。
そして茶道室を覗ける場所へと向かう。
もちろん盗聴用の呪符を茶道室に投函するのも忘れない。
◆◆◆◆◆
喰からのメールを見て半月は溜め息を吐く。
喰も骸も使う携帯は同じだが文面で大体の区別がつく。
内容としては何かありそうだから気を付けて先に帰っててくれ、という感じだ。
「さて、どうしたものかしらね」
何か悪戯を企むかの様に半月は顔を歪める。
何かは裕理関連だとは察しはついている。
裕理関連と言うよりは媛巫女やもっと大きな枠だろうが。
色々と考えている内に時間は経つ。
いい案も浮かばないのでとりあえず喰の所に向かう事にする。
髪飾りの“鈴”を利用すれば“彼ら”の位置は探れる。
「私としては手を出したい所なんだけどね~」
試したい事が幾つかあるのだ。
試さなくてはせっかく骸に用意させた物の意味が無くなる。
喰の気配を辿ると和室棟の近くまで来る。
大雑把な位置は分かるのだが詳細は面倒なのだ。
そういえば、裕理は茶道部だったなと思い、窓から気付かれない様に覗く。
中には草薙護堂、リリアナ、裕理等がいた。
扉がちょうど閉まった所から見て誰かが外に出たのだろう。
裕理の顔色とメンバーからしてエリカ辺りだろう。
「(っ!?)」
誰かの近付く気配を感じて半月はその場を離れる。
そして、遠くから観察する。
足音はほとんどしなかった。
もしかしたら此方も気付かれている可能性がある。
それでも見ておく。
現れたのはエリカと黒髪の少女だった。
「エリカがいるって事は政治的な話かしら?それとも………」
そんな事を考えながら見ていると政治的な話では無さそうだと察する。
黒髪の少女がエリカに向かって使い魔を放ったのだ。
それもエリカの何らかの術により破壊されたが。
その後、少女が大振りの刀を抜くのを見て、否、その刀から何か感じ、顔を歪める。
「何あれ、神具?面白そうじゃない…………」
乱入したい欲求を抑えつつ、その力の性質を観察する。
しかし、それもすぐに終わる。
少女は何故かすぐに刀を鞘に収めて立ち去っていったからだ。
「中々興味深いわね………」
「何してんだ、お前は」
「は!?」
背後から突然声を掛けられて驚く。
声を掛けて来たのは喰だった。
「あんたが何してるか見に来ただけよ」
「とてもそうには見えなかったけどな……」
「それで何してたの?」
「茶道室でのやり取りを盗聴しようと思ったんだがな」
「失敗したの?」
「まぁな。盗聴用の呪符を投函したはいいが次々に台無しにされたぜ。せっかく護堂の女関係のあれこれを聞けると思ったのによ!!」
「は?」
まさかの言葉に唖然とする。
まともな事をしてるかと思ったら何をしているのだと。
「ついでではあるんだがな。気になる所ではあるんだよな~」
呆れて何かを言うつもりも無かった。
というわけで教科書を丸めてぶっ叩く事にした。
「てぃ!!」
「痛ぇ!?何すんだよ!?」
「な・に・を馬鹿な事をしてるのかな?人様のそういうのは別にいいのよ、放っておけば!!」
「いやでも、あいつの弱味掴んどけば!?」
再度叩く。
その後は言い合いをしながらも二人で帰路に着くのだった。
◆◆◆◆◆
その夜。
自室にて半月は刀の手入れをしていた。
近々試せるかもしれないのだ。
手入れはしっかりとしておく。
「それに刀だけでも無さそうだしね……」
少女から感じた何かを思いながら手入れを続けるのだった。
◆◆◆◆◆
ほぼ同時刻。
月光を浴びながらソファの上で横になっていた。
彼の住処である廃墟の最上階は天井が崩落しているエリアがある。
引っ越しの時に最低限の補強と改造をしてベランダに近い扱いにしていた。
「誰だ?」
「おや、お気付きになりましたか。さすがはカンピオーネと言った所ですか」
人の気配を感じた骸が物陰に問うと、男か、女か判別のつけにくい声が返ってきた。
骸は声のした方に向かってナイフを投げ付ける。
「そこか」
「おっと、いきなり危ないですね」
飄々とした様に避けられる。
物陰から出てきた姿は黒いロングコートに身を包み、フードを被り、何も描かれていない無地の白い仮面を付けた人物だった。
性別は判断すら出来ない。
「何者だ?」
「それは言うわけにはいきませんね」
「なら、いい。殺るだけだ」
どの道、正体を知られているなら消すだけである。
廃墟周辺に仕掛けた罠や“糸”すら掛かった様子では無いし、探知に引っ掛かってすらいないのだ。
判断するまでも無い。
一切の躊躇無くナイフで斬り裂く。
「囮か」
「そうですね」
斬り裂かれたのはロングコートだけであった。
そして、いつの間にか背後に回られていた。
背後に向かって当てずっぽうに足払いをする。
ロングコートの人物は慌ててそれを避ける。
何故か格好に変化の無い人物は懐から拳銃を取り出して骸の額に当てる。
同時に骸も相手の喉元にナイフを当てる。
「俺が喉を裂くのと引き金を引くのどっちが速いだろうな?」
「っ!!」
躊躇無く引き金を引いてくる。
同時に骸もナイフを振るが上半身を後方に倒される事によって、ナイフは喉を薄く斬るだけだった。
「まぁ引き金を引けても意味ねぇんだが。【鏡】」
舌に刻んだ陣で魔術を発動し、銃弾を防ぎ、跳ね返す。
返っていった銃弾は仮面を掠める。
仮面にヒビが入り、一部が割れ、露になる。
見えたのは青い瞳、白い肌、そして白に近い金髪だった。
「っ!?」
仮面の人物割れた所に手をやり、放した時には修復されていた。
そんなに見られたく無いのだろうか。
仮面の人物は姿を崩壊した壁の上へと移動する。
「まぁ今日は様子見ですのでここら辺で去らせていただきます」
「待て、一つ聞かせろ」
「何でございましょうか?」
「何者かには答えなかったが、俺はお前を何て呼べばいい?」
「お好きに呼んでくださって構いませんが強いて言うなら………ルーシャでしょうか」
「そうか、ルーシャか。次に会う時は覚悟しておけ」
凄まじい殺気を感じながらもルーシャはその場を落ち着いて去っていくのだった。
追いはしない。
そんな事をしなくても向こうから再び現れるだろうから。
(何で呼び名を聞いた?)
「一応聞いておきたかっただけだ。似た様な臭いを感じたからな」
(?)
喰は首を傾げる。
しかし、骸もあまり分かってないので説明はしない。
仮面の割れ目から見た素顔。
そこからは自分と似た何かを感じるのだった。
恵那及び新キャラ登場でした。
五巻と並列してオリ展開も進めていきます。
ルーシャ
全身を包む様な黒いフード付きロングコート
無地の白い仮面
今のところはこんな感じです。
それでは質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。