何故か非ログインが感想書けなくなってましたが非ログイン状態でも書ける様にしておきました。
日本海。
そこに小舟が一隻漂っていた。
動力は何もついてない。
その小舟に“彼ら”は乗っていた。
護堂との戦いから一週間。
あの後、正史編纂委員会と交渉し、最終的には沙耶宮 馨と少々面倒な“契約”をする事で交渉は成立した。
護堂との件は神獣が現れたと言う感じに誤魔化しを加える方向となった。
正体を隠せ、それなりの関係を保てるのだから多少面倒な“契約”は気にしない。
「にしても………何処にいるんだ一体?」
(分かるわけねぇだろ。日本海って事が分かっただけ幸運だ)
骸が呟き、喰が答える。
“彼ら”はとある物を探して日本海を漂っていた。
しかし、捜索開始から三日。
見付かる気配は一切無い。
釣竿を垂らし、小舟の上に寝転がっている。
足元には小さな机とクーラーボックスがある。
水は海水を処理すればどうにかなるが食料だけはどうにもならない。
そして、量はそこまで持ってこれない。
故に釣竿を垂らしていた。
机の上には方位磁石と数枚の呪符が配置されていた。
これは探し物のセンサーとして使用している。
カンピオーネになってから呪符は“弾”、“縛”以外にも増えていた。
元々即座に発動出来る簡易式であり、呪力をあまり使わない品物を使っていたのだが、カンピオーネになり呪力が増した事により、それに合わせ、呪符の種類を増やしたのだ。
「しかし、本当に日本海に沈んでんのかね?」
(だから俺に聞くな)
「暇で逆にダリィんだよ。センサーには反応ねぇし、文字を刻んで堕した魚も戻ってこねぇし」
釣り上げた魚の半分程は赤い竜の権能で獣の数字“666”を刻み、使い魔としてリリースしていた。
探し物を捜索させる為だ。
(暇なら変われ)
「いいぜ」
途端に髪の一房が白くなる。
喰が体の制御する側となったのだ。
どうやら体の制御権を手放す事に拒絶さえしなければ、頭痛は無いようだ。
(で?変わってどうするんだ?)
「別に何をやろうってわけじゃねぇよ」
喰は上半身を起こすと、クーラーボックスから小瓶を取り出す。
(酒飲むのかよ)
「別にいいだろ」
(よく飲めるな、そんなもん)
「そりゃお前が酒に弱いだけだ」
ちびちびと飲み進める喰。
“彼ら”は何故か酒の強さが違っていた。
骸は弱く。
喰は酒に強く、それなりに好んで飲んでいた。
喰は更にクーラーボックスをあさるが、酒のつまみになりそうな物は無かった。
「というか、ほぼ食い尽くしたか」
(当たり前だ。お前は三日でどんだけ飲んでんだよ)
「どんだけって………」
言いながら振り向く。
「あんだけ」
指さした先には四、五本の小瓶が転がっていた。
(二日酔いが来るのは俺なんだから控えめにしてくれないか?)
「まぁ考えて置かない事もねぇが」
適当に言い合いながら“彼ら”は漂っていた。
探し物は見付かる気配も無かった。
そして、釣竿の反応も無いに等しかった。
「あり?やり方間違えたか?」
(餌がダメなんじゃね?)
◆◆◆◆◆
そして、更に二日経って捜索開始から五日目。
“彼ら”はまだ漂っていた。
机の上に血を垂らし、ミカエルの権能である四元素の火で血を発火点とする。
四元素の火は普通の炎として使う事も出来るが、狙った物のみを焼くという事も出来る。
網を用意し、机の上の火で魚を焼く。
普通に串を刺した塩焼きから、切り身を焼いている物など様々だ。
「しっかし……いい加減飽きて来たな」
(Zzz……)
「寝た振りをしてんな。俺が起きてたらお前も起きてるだろうが」
(何だよ……ダリィな。食事はどっちかが取れば身体的には問題無いんだからお前に任せるよ)
「それが飽きて来たんだよ。三日分の食事全部魚とか笑えねぇんだよ!!」
(お前が二日で食料を食い尽くすからだろうが!!)
「ここまで長くなるとは思って無かったんだよ!!」
ギャーギャー言い合う“彼ら”。
端から見れば一人で騒いでる不審者である。
ちなみに骸は食事をほとんど喰に任せている。
理由としては現状の通りの事が予測出来たからである。
同じ体とはいえ、記憶を共有しているわけでは無い。
認識など見方で変わる。
例え同じ事でも、実際に体験するか、眺めているかでは違うのだ。
とはいえ、こんな生活にも終わりは見えてはいるが。
現在食っている魚は使い魔の内の一匹である。
戻って来たのを“666”の刻印を剥がして情報を取ってから美味しく頂いているのだ。
「さて、そろそろ行くか。東でよかったよな」
(北東だ。というより不安だから変われ)
「分かったよ」
一房の白髪が元の黒髪へと戻る。
「これで当たりじゃ無かったらダリィな」
(それは確かに笑えねぇが、使い魔の情報だし大丈夫だろ)
“彼ら”は北東へと小船を進める。
動力を積んでいないこの船は呪符を船底に仕込んで進むのだ。
耐水用にラミネートもしてある。
◆◆◆◆◆
進む事、二時間。
突如、センサーが反応する。
近くに目的な物があるのだ。
「ビンゴ!!こりゃ当たりだ!!」
(まぁ使い魔の視認情報だしそりゃそうだろ)
骸は喰を無視して、釣竿を掴む。
釣糸の先に大量の呪符を仕込む。
準備は万端。
骸はセンサーの示す座標に向けて、釣糸を垂らす。
「さて、上手い事引っ掛かってくれよ~」
(大丈夫だろ。使い魔に誘導させてるし)
そんなやり取りの間に釣糸の先が何かに触れたのを感じる。
「【縛】【掴】、全呪符起動!!」
釣竿が一気に重くなる。
おそらく目的の物を呪符が掴み縛り上げたのだろう。
それを確認すると、思いっきり釣り上げる。
「「やっと見付けたぜ、“玉依姫”!!」」
骸と喰の声が重なる。
釣り上げられた物は巨大な氷塊だった。
その中に一人の女性の姿がある。
骸は“鬼切丸”を取り出す。
この妖刀の扱いにはだいぶ馴れてきていた。
「そんな“封印”くらいは斬り裂け“鬼切丸”!!」
氷塊を思いっきり斬る。
しかし、その斬撃は弾かれた。
氷塊にヒビを入れるだけで砕くには至らない。
「な!?」
(まぁ仮にも“まつろわぬ神”が自ら施した“封印”だからな。そう簡単には砕けねぇよな)
「なら、これだ!!」
骸は右手の人差し指の爪を剥がし、龍の爪を一枚展開させる。
「一枚なら中身は傷付かねぇだろ!!」
氷塊に向けて思いっきり爪を叩き付ける。
氷塊全体にヒビが広がって行き、氷塊は完全に砕け散り、中の女性が表に出る。
「ふぅ……ダリィ。眠り姫にしては頑丈な寝室に閉じ籠りやがって……」
(そこを愚痴っても仕方ねぇだろ)
“彼ら”はその十二単を着た女性を海に落ちる前に拾い、小舟に乗せる。
“彼ら”の探し物、それはこの女性であった。
◆◆◆◆◆
女性は小舟に降ろした途端に目覚めた。
「眠り姫は目覚めたか?」
「汝……妾が誰だと思っての口の聞き方だ?」
「“玉依姫”だろ?」
「妾を知っていてその口の聞きか……た……か?」
後半、少々口が止まる。
そして、玉依姫はマジマジと骸の顔を眺めると少々頬を紅くした。
「な……あの状況から生き残ったというのか!?」
「いや、生き残っちゃいねぇよ。というか“俺”はあんたの知ってる“男”じゃない」
「ふむ。つまり……“転生”の権能を使ってしくじったと言う事かの?」
「そういう事だ。話が早くて助かる。“俺達”にはあんたとの記憶は無い」
「ならば妾に何の用じゃ?」
「話をしようぜ、“玉依姫”。あんたの話を聞きたいんだ」
前世の記憶の断片に登場した女神。
それが、“玉依姫”だった。
“彼ら”は目的の為に彼女の存在を調べ、辿り着いたのだ。
しかし、“彼ら”は気付いていない。
記憶を継いでいない故に仕方無いが気付いていない。
この出会いが何を意味するかを。
新章開幕。
とはいえ、詳しくは次回ですが。
前半は和解した骸と喰の関係と言った所ですかね?
しかし、状況が状況なだけで関係性そのものとは言え無かったり。
“玉依姫”に関しては次回からですが、言えるとしたら前世関係者ですね。
それでは質問があれば聞いてください。
感想待ってます。