自殺志願の神殺し(F)/生存欲の魔王(B)   作:天崎

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序章パート1と言ったかんじです。




期待外れの悪意(F)/血に汚れた運命(B)

数年前

とある少年は、神殺しとまつろわぬ神の戦いを目撃する。

それが、自身の人生をどれだけ歪める物かも知らずに。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

あたたかな春の夜。

ローマの街で銃声が響く。

それは“彼”、上月 骸を狙う物であった。

狙われてる当人は携帯を片手に状況を確認していた。

 

(人数は……七人って所か。どうせ俺の“後遺症”が目的だろうが。大方、あの馬鹿の起こした騒ぎのどさくさに紛れて捕まえようって所か……ダリィ)

 

とことん面倒そうに骸はため息を吐く。

だが、それは決して面倒事に巻き込まれた事が理由では無い。

そのくらいなら“馴れて”いる。

 

(何で“捕縛”に来るんだよ………“殺し”に来いよ、期待外れ共が………)

 

彼の願望、それは死ぬ事であった。

だからこそ、“捕縛”目的の襲撃者は期待外れなのだ。

その時、ちょうど繋がった。

 

『何の用だ?』

 

「ちょっとドニの奴に用があるんだが、いるか?」

 

『ちょうど隣に座ってる』

 

「何か機嫌悪くねぇか、リベラ?」

 

『こっちは隣の馬鹿のせいで監禁されてたんだ!!そして、明日から忙しいからこれ以上面倒ごとを持ってくるなよ!?』

 

「それはねぇから大丈夫だ」

 

骸が現在話す相手は、アンドレア・リベラ。

通称、[王の執事]である。

六人目のカンピオーネ、サルバトーレ・ドニの介添え役にして監視役である。

そんな人物と連絡を取っている理由はただ一つ、ドニと話す為である。

 

「俺には携帯を持たせといて、お前は何で持ち歩かねぇんだよ……」

 

『何時も言っているだろう?僕は持ち歩いても何処かに忘れるだけだよ。それで何の用だい?』

 

「お前が七人目絡みで変な事を起こしたせいで此方は面倒事に巻き込まれてるんだよ。せっかくバチカンで魔導書を盗み見てたのに警戒強まったせいで台無しだろうが」

 

『文句を言いたいだけかい?神獣とかじゃないのかい?』

 

「そんなほいほい出てたまるか」

 

骸とドニの関係は三年程前に始まった。

骸は“後遺症”の影響で“神獣”などの類いに狙われやすかった。

そして偶然出会ったドニに目を付けられ、その体質を利用されてるというわけだ。

携帯を持たされたのを一刻も早く知る為である。

骸としてもドニの名を多少利用しているので、お互い様ではあるのだが。

 

『じゃあ、何の用だい?』

 

「お前は今どこにいる?そして何処で七人目と決闘するつもりだ?」

 

『それを聞いてどうするつもりだい?』

 

「そんなもん決まってるだろ。出来るだけ離れる為だ。お前ら神殺しの戦いになんて近付きたくねぇ」

 

『そこまで気にする程じゃないと思うけどね~』

 

その後、決闘場所がガルダ湖で、日時は明日という事を聞くと無駄な話をせずに通話を切る。

ドニと長く話すとろくな事が無い。

とはいえ、決闘前ではそれも無いだろうが。

通話を切る前に、

 

『“神獣”が現れたら、僕に一早く教えてくれよ』

 

など言われたが、骸は基本的に無視をする。

ドニと話す間でも襲撃者の事は忘れていない。

骸は路地裏を駆け回り、敵の位置を大体把握する。

 

「囲まれたか………ダリィな」

 

そんな事を呟いてる間にも襲撃者は発砲してくる。

物陰でやり過ごしつつ、手元に呪を刻んだナイフを五本ほど“召喚”する。

“召喚”の際に手の平と甲がうっすらと紋章を浮かび上がらせる様に光る。

骸は、言霊の代わりに手に直接“陣”を刻み魔術を発動させる。

骸は呪力を込めたナイフを襲撃者に投げ付ける。

勿論、避けられるが。

だが、相手が怯めば充分である。

物陰から飛び出し、襲撃者へと接近する。

魔術で身体能力を強化し、襲撃者が銃を構える前にその喉にナイフを刺す。

隣にいた者が乱射してくるが、

 

「“弾”」

 

呪符を展開し、銃弾を“弾く”。

この呪符も呪力を込めれば、即魔術が発動する様に突き詰めた代物である。

発動までが短くなった分、予め印した魔術しか発動しないが。

 

「“縛”」

 

いつの間にか敵の背後に“投函”した呪符で敵を縛り付け、喉に裂く。

 

「ダァァァァ!!」

 

背後から二人ほど鈍器を持って、殴り掛かってくる。

足、正確には靴に呪力を込める。

そして強化した身体能力と靴に張り付けた“弾”の呪符を使って跳躍し、二人の背後に周り込む。

そのまま、正確に頸動脈を裂く。

返り血も“弾”いてるのでナイフ以外は綺麗なままである。

 

「この黒い靄……まさか、グッ」

 

黒い靄に包まれ、吐血し、苦しそうに倒れる。

この靄は呪いだ。

捕縛が目的な為に命を奪う程では無いが、かなりの“毒”である。

 

「やっと大人しくなったか……化け物もどきが」

 

最後の一人が物陰から姿を現し、骸を拘束しようと近付こうとした時、白い羽が舞った。

 

「悪いが…………悲しい事に俺に呪いの類いは意味ねぇ」

 

口元を拭いながら、ノロノロと身を起こす。

そんな彼を中心に白い羽が舞っている。

 

「俺の“後遺症”、神と魔王の戦いに巻き込まれ、死にかけ、九死に一生を得た結果、俺の身に宿ったクソッタレな“後遺症”……“天使の浄化”の前じゃな」

 

彼が“後遺症”と呼ぶ力は、闇を祓い、浄め救う力である。

魔術師から“天使の浄化”と呼ばれるこの力は、骸が八年前の八歳の時に得た物である。

原因は不明。

魔王と神の戦いに巻き込まれ、致命傷を負い、その致命傷があり得ない速度で回復した事から致命傷を負わせた何かが原因だと推測される。

性質は天使に近い。

だから“天使の浄化”と呼ばれる。

その力は“神獣”を寄せる。

だからドニは骸を重宝する。

この力を狙う者は当然いる。

現在襲っている者もそうだ。

そんな状況だから、骸はこの力を嫌い、人生を諦め死を望む。

だが、“死ねない”。

幾ら自殺を試み様と失敗する。

何かが死ぬのを阻む様に。

 

「だが、体はしばらく動くまい!!」

 

確かに呪いは浄化したとはいえ、体の方はまだ反応が鈍い。

だが、動く必要などない。

仕込みは既に終わっているのだから。

 

「それ以上、近付くかねぇ方がいいぜ」

 

「ハッタリを!!」

 

最後の一人はナイフ片手に骸へと向かってくる。

変化は直後に起きる。

 

「は?」

 

骸が手をほんの少し動かしただけで、近付いて来ていた襲撃者が肉片に変わる。

まるで微塵切りをされた様に肉片に。

 

「だから言ったろ、近付かねぇ方がいいって」

 

骸は襲撃者を斬り裂いた“糸”を回収しながら呟く。

投げたナイフ、移動経路、それら全てに“糸”が仕掛けられていた。

呪力を流した“糸”は目視出来ない細さを保ちつつ、人体を斬り裂いた。

 

「さて、後始末が面倒くせぇ………ダリィ……」

 

本気で面倒そうに呟き、骸は立ち上がる。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

死体を適当な焼却炉に放り込み、証拠隠滅をして、骸は宿に戻った。

自室にて明日の計画を立て始める。

襲撃者の事など馴れ過ぎて、ほぼ忘れている。

本人としては正当防衛を主張し、あとはどうでもいいという感じである。

 

「荷物は大体纏めた、あとはオトラント……いやガルダ湖から離れれるなら何処でもいい。とにかくそこらへんから海を渡って、アルバニアにでも行くか」

 

かなり適当な計画である。

それもこれも骸がまともな戸籍を持っていない事に起因する。

八歳の時に神と神殺しの戦いに巻き込まれた時、致命傷を受けただけでなく記憶も失っていた。

身元不明というわけである。

そして十歳まではとある男の元でまともな生活をしていたが、その男は死に、そこから先は狙われる生活で定住地が存在しないのだ。

というわけで空路は基本的に使えない、海路も陸路もそう使えないのである。

そんな状態で海を越えようとしているのである。

方法は泳ぐ、ボート、漁船強奪くらいである。

そんな事を気にしないで、骸は寝る準備をする。

就寝前に毒を飲む。

これで死んでいれば儲け物というノリである。

だが、“天使の浄化”によって毒は意味をなさない。

何時も通り、毒が効いてない事を確認すると骸は眠りにつくのだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

翌朝。

目覚めた骸の目に飛び込んできたのは、血塗れの自室であった。

 

 

 





まだ神にすら出会ってないけど、大体こんなかんじで進んで行きます。

主人公
上月 骸
読みはかみつき むくろ
ドニの知り合い
自殺志願
特異体質
魔術はそこそこ
武術もそこそこ

と言ったかんじです。
今のところは。

次回は神様登場の予定です!
時系列はドニvs護堂あたりです。

質問あれば聞いてください。
誤字あれば言ってください。
感想待ってます。

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