一段落ということで長めです。いつもの二倍ぐらいです。
ちなみにいろいろあって全部ガラケーで打ちましたorz
「え、タッツン。ホンマに出るん?」
「うん。体調ももう大体いい感じだし」
「そか?龍田も心配しよったで。今まだ入渠してもらっとるけど」
龍田が入渠中か。ならばチャンスは今しかない……かな?
ちょうど僕が白い軍服から飛行服に着替え終わったタイミングで
僕が体調の悪い時、(普段も大概なんだけど)龍田はめちゃくちゃ過保護になる。それで寝室に軟禁状態になったところに天龍が自慢話をしに来たり、暁雷電響が押し掛けてきて布団に潜り込み、しばらく遊んだ後にそのまま寝てしまったり……というのがいつものパターンだ。
僕がへばって抵抗しないのをいいことに色々と仕掛けてくる節があるから参る。まあ、元気付けようとしてくれる気持ちはとても嬉しいから何も言わないけど。
「司令官?」
「あれ、響か。いま入渠待ち?」
「うん」
気付くと、立ち話をする僕と龍驤の側まで来ていた響。どこか心配そうな視線をこちらに向けて、何か言いたそうにしている。
「司令官、その……大丈夫かい?ひとりだったとはいえヲ級が居たんだし、今日は別に飛ばなくても」
「いや、それはダメ」
僕らの基地はこんな小さな基地だけど、一つだけ、他の鎮守府にはない重要な任務があったりする。
―――『深海棲艦出現時における民間
民間の船舶には維持費や構造の関係から無線機を積んでいなかったり、積んでいても性能が悪く正常に無線を受信できないものも少なからずある。
僕らは、軍からの退避命令を受信できずに退避し損ねた船を見つけて港まで帰るように指示する、いわゆる警備員かお巡りさんのような仕事を引き受けているのだった。
まあ、他の鎮守府とは違って鎮守府正面の海域を漁場として許可制で解放しているウチならではの仕事ではあるんだけど。
「今日はいい天気だし海も凪いでる。漁をするには持ってこいの天気だし、漁船も多く出てると思うからさ」
「でも」
「大丈夫大丈夫、心配ないって。暁たちにもそう伝えといてよ」
「………わかったよ」
しぶしぶといった様子で引き下がる響の頭を撫でてやり、ドックに戻るように促す。響は聞き分けがよくて助かるな。
「んじゃ行ってきます。なんかあったら連絡すると思う」
「ほんなら任務が終わったら連絡よろしく。気ぃつけてなー」
「響たちもね。お留守番よろしく」
「Уразуметно」
「わかんないわかんない」
どうやら『了解』ぐらいの意味らしいけど、響がたまに口走るソビエトの言葉はいまいち分からない。『
妙に地域色豊かな(?)言葉を背に、格納庫へと向かう。
首に下げた飛行時計が指す時間は
ところかわって格納庫。
大きなシャッターを開けると、僕が来ることをどうしてか予知していたらしい妖精さんから、全員での敬礼で出迎えを受けた。思い思いのの作業服を着た20人ほどの妖精さんがビシッと横に整列しているのはなかなかに壮観だ。ちっちゃいけど。
「整備おわってますー」
「暖機すりゃいつでも飛べるですー」
「頼もしいね。ありがとう。すぐ出るけどいいかな?」
「あいさー。スタータもってこーい」
ベニヤ合板製の壁に打たれたフックに掛かった咽喉マイク(首に巻いて喉から直接声を拾うマイク)と防眩ゴーグル(薄い黒色付きのグラスがはめられたゴーグル)を身に付けて、ステップに足を掛けて機体に乗り込んだ。
機体左側の自動車のものに似た横開きのドアを閉め、計器盤を確認。現在時刻
「計器よし、昇降舵、補助翼…よし、方向舵もよし。完璧」
全て確認し終わったのでドアを開け、妖精さんを呼んだ。
もうすでに何人かはこの先の作業を予測してか、細長いシャフトを持ってエンジンカウルの上に登って待機している。死角になっている位置でも作業しているのか、目の前のプロペラが何度かゆっくりと回転した。
「点検よし。エンジン始動するよ」
「あいさ!イナーシャ回せー!」
「「「おぅー!」」」
リーダー格の妖精さんがツインテールを揺らしながら号令すると、返事をするや否やすぐさまシャフトがエンジン横の穴に突っ込まれる。
……てか、このエンジン始動は何度見てもすごいな。エンジンカウル上の妖精さんが仲間の足首を持って吊るし、吊るされた妖精さんが両手でぐりんぐりんとシャフトのハンドルを回している。
摩擦係数がどうとか、相当な力がいるスターターをいとも簡単に回しているだとか、ツッコミどころが多々あるけど、そもそも妖精さん自体が謎の存在だ。気にするだけ無駄かもしれない。
考えるのをやめてバッテリーをONに。通電を示すパイロットランプが点灯し、電圧計の針が振れた。適正電圧、その他の計器にも問題なし。妖精さんの整備はいつも完璧だ。
「まわりましたー」
「にーげろー」
妖精さんが回したイナーシャスターターの
フロントガラスを伝って主翼の上に避難する妖精さんを見ながら、心のなかで目の前をプロペラが通過した回数を数え、……所定の回数に達した瞬間、エンジンプラグを点火!
シュシュシュッ、バルルルルルンッ!!
「いよっしゃ!」
一発でエンジンが始動した。かなり快感。
やっぱり、こないだのプラグをアメリカ製の輸入品に換えといたのが良かったかな。まあ、少ない経費で出せるわけもなく、あえなく自腹を切ったから少々痛い出費だったけどもさ。
車輪止めが外されて、プロペラの回転に合わせて進みはじめた機体が格納庫からゆっくりと進み出た。
機体が完全に格納庫から出たあたりで車輪のブレーキをかけて停止し、しばらく待って暖機する。とはいえこの陽気だ。十分じゃないにしろ、エンジンオイルも暖まっていた。10分そこらですぐに飛べるだろう。
腕まくりをしながら、ドアを開いて風を入れる。プロペラからの風で押し戻されるドアを押さえて2つある後部座席を指差しながら、エンジン音に負けじと声をあげた。
「乗りたいひと、いるかい?先着2人!」
「「「「はいー!」」」」
……おお、みんな手を挙げた。
こりゃ時間が掛かるな。無線機にマイクとヘッドホンの端子を繋ぎながら、僕は思わず苦笑したのだった。
「では出発します。お客様、シートベルトはきちんとお締めになりましたか?」
「「はいー!」」
暖機を終えた機体の中で、激戦(じゃんけんだけど)を潜り抜けた二人の妖精さんが
前座席のツインテの子が双眼鏡を、ボブカットの子が支柱に取り付けた縦横25センチぐらいの
もっとも上半身と腰を固定するシートベルトはあるものの、妖精さんサイズではないので締めてもらっているのは腰だけだ。それもどうせ離陸したら勝手に外してしまうんだろうから、着けようが着けまいが別にとやかく言う気はない。というか言っても聞いてくれた試しがない。もう諦めた。
「じゃあ飛ぶよ。……それ」
スロットルレバーを操作して、アイドリング状態のエンジン出力を一定まで上げる。
すぐに機体は滑走路を軽快に滑り始めた。テールスキッドがアスファルトを引っ掻く音と振動が感じられ、それからすぐに静かになった。機体が加速し、風を受けた尾翼が持ち上がったのだ。
4、50メートルほど滑走し、速度計が60km毎時を超えた所で操縦悍を引くと、機首が持ち上がり、主脚から伝わる振動も消えた。これで離陸成功。
「それではお客様。これから2時間、退屈かつ単調な空の旅をお楽しみください」
ま、そんなに刺激的な事があってもらっても困るんだけどさ。艦載機で侵攻してくることが無いのが分かっているとはいえ、主力空母であるヲ級が出没したわけだから警戒は怠れない。
まあもっとも、
「右側方にウミネコはっけーん」
「撮りまーす」
……真面目に(?)索敵・記録してくれる妖精さんたちがいるから問題ないか。………無いかな?
数少ないカメラフィルムが無くならないか少々不安になりつつも、規定の巡回ルートに乗るために進路を沖に向けたのだった。
―ブイン基地沖合、とある海域にて―
「ここに居たか……探したぞ」
「やや、どもでーす」
水中から現れた黒髪の少女が、くわえていたレギュレータのマウスピースを放しながら水面に立つ少女に話しかけた。
水中の少女は、顔が隠れるほどの長い黒髪の隙間から蒼く煌めく片方の目だけを覗かせながら、脱力したままぼんやりと佇む少女とは対照的にしきりに周囲を見回している。
「……本当に、何も居ないな」
「さっきまではいましたよー。ま、なんとか撃退しましたけどねー」
「そうか……また『彼女ら』か?」
「いえーす」
水面に佇む銀髪の少女は、手に持つステッキをぶらぶらと弄びながら答えると、自身の頭に被った扁平な『頭』のような――そうとしか表現できない――大きな被り物から下がった太い触手で、水中から顔を覗かせる少女の濡れた頭をペシペシと叩いた。
そのまま嫌がる素振りを見せる少女をよそに、器用に動かした触手で勝手に長い黒髪の一部を三つ編みにしていってしまう。
そして手を止めずに、何でもないことのように不意に一言。
「ところでですねー、先程出していた偵察機から妙な報告がありまして」
「……妙な?」
「いえーす。これをご覧くださいなー」
そう言った銀髪の少女が、どこからか取り出した一枚の紙を差し出した。よく見ればそれは、遥か上空から望遠で撮影された白黒の写真であった。受け取った黒髪の少女がそれを見て、僅かに怪訝そうな声を上げた。
「……何だこれは。漁船か?」
「のんのん。だいいち漁船はそんな
「………」
しばしの間黙り込んでいた黒髪の少女だったが、銀髪の少女が黒髪を編むみ終えるとやがて気怠そうに顔を持ち上げ、口を開いた。心なしか彼女の眼は先程よりも蒼い輝きを増し、僅かに覗く口元もやや引き締められている。
「面倒だが、行ってくる。……どうせ最初からこうさせるつもりだったんだろう?」
「ま、計画通りってやつですねー。キリッ!」
開いた手のひらを顔にかざし、やや上体を反らすという奇妙なポーズをとる銀髪の少女を無視して、再びレギュレータをくわえた。
いちど大きく息を吸い込んで、長い黒髪を海水に揺らめかせながら肩まで海水に浸かり、片目で銀髪の少女を仰ぎ見た。僅かに細めた蒼い目で、眠たそうな銀髪の少女の目をじっと見つめながら、口を開く。
「確認でき次第すぐに戻る。ここを動くなよ……
「はーい。ではでは道中お気をつけてー。
「……ふん」
ひとつ鼻を鳴らし、黒髪の少女―――深海棲艦、潜水カ級は海中へと潜っていく。
ぼんやりと海面に浮かんでくる泡末を眺めていたヲ級は、またどこからかもう一枚の望遠写真を取り出すと、それを見つめながらぽつりとひとつ、呟いた。
「たぶんいつもの『彼』だと思うんですがねー。怪我が……いえ、死なないといいのですがー」
彼女が見つめるその白黒の写真には、
現在時刻
「―――――ん?」
基地を離陸しておよそ30分後。太陽の強い日差しを受けてキラキラと輝く海面の上、防眩ゴーグル越しに眺めていたそれに浮かんだ小さな漁船を見つけた。
漁を終えた後なのかもしれない。船体後部に網がこんもりと積まれ、船上に立った二人の漁師さんがこちらに顔を向けていた。
ほかに漁をしている船は見当たらない。それもそのはず、基本的にこの海域は豊かな漁場ながらも深海棲艦が出現することもあり、漁をする船はそんなに多くないのだ。
「よーし。では避難していただくとしましょうか、っと」
高度をなるべく低くとり、スロットルを操作して減速しながら船に接近する。
馴染みの漁師さんならこの時点で『避難勧告』だと気付いてすぐに港まで引き返す準備をしてくれるのだけど、面倒なことに(失礼)この漁船にも乗組員さんにも面識はないっぽい。
計器盤の下に増設されたT字型のノブを握り、ぐいっと引っ張る。直後、胴体の真下あたり、ちょうど僕の足元のあたりでギアが噛みあい、けたたましい音を発し始めた。胴体下、主脚と主脚のあいだに取り付けられたサイレンが小さなプロペラを動力として鳴り始めたのだ。
遊漁証に書かれた利用規約にはサイレンを避難するようにあるので、避難勧告はこれだけ。あとは速やかに漁具を撤収して、この海域を離脱してもらうだけでいい。
「海面すれすれですー」
「航空魚雷投下ー!」
「こらこら……」
まるで航空魚雷を投下せんとする雷撃機のように海面ギリギリを飛行するのを目の当たりにして、後部座席の妖精さんたちがはしゃぎ始める。
これも僕が十代半ばの頃に、海軍で本職の雷撃機乗りだった教官に飛行技術を習ってしまった賜物だろう。父さんの謎のコネ万歳だ。
………まあ、その悪ノリが過ぎる教官のおかげで超低空飛行ばかりが得意になって、高空での立体的な機動(たとえば空中戦とかスタント飛行とか)はからっきしなんだけども。これもぜんぶ低空マニアの教官が悪いんだ、うん。きっとそうに違いない。
低速で飛行しながら、停泊している漁船の前方50メートルほどのところをサイレンを鳴らしたまま通過。
ん?なんかボーッとこっちを見ていただけ?特に動じることなく、二人の漁師さんは顔だけを回して僕らを見送った。
……なんかちょっと不気味だったな。何だったんだろ?
えもいえない不安感を残しながら、僕らは外洋に向かって飛び続けた。
「あれ、あの、ひこうき」
「ぴったり。準備、する」
濃緑色の飛行機を見送った胡乱な瞳はそのままに―――
二人の男が、船上の漁網を投げ棄てる。
漁網が取り除かれた船尾のうえ、9月の陽光に照らされた黒い鋼の銃身が、その身を僅かに煌めかせた。
ガッ、ガガッ……ザザッ。
『―――、発、ブイン基地司令室。宛、白鷺洲 多一少佐。現状を報告されたし』
飛行帽と一体になり、『USS』と刻印されたヘッドホンから、かなりノイズの交じった無線の音声が聞こえてきた。
時計が示す時刻は
「こちら白鷺洲。たった今外洋での避難勧告を完了。これより帰投します」
タコマイクもアメリカ製に交換したいなー、なんて思いつつ送信ボタンを押し、任務の終了を伝える。
実際、先ほどそれほど広くない担当海域をくまなく探索する作業は終わり、あとは我らがホームグラウンドの鎮守府にもどるだけだった。赤く染まり始めた空と海を三式指揮連絡機独特の広い広い視界で眺めながら、ゆったりとした速度で鎮守府へ帰る。それだけで気持ちは安らぐし、嫌なことも大体忘れられる。この任務の終わりには、いつも習慣にしている事だった。
『―――りょーかい。あ、帰ったら龍田がお説教らしいで。がんばりや』
……え、なにそれかえりたくない。
龍田の説教は、特別長いというわけでも大声で叱られるというわけでもない。ただ全身から怒気と殺気を全方位に発しながら、しかしいつものほんわか口調で過失を責められるのだ。
かの
僕だって恐怖の説教で寿命を磨り減らしたくない。なんとか龍驤に龍田を
その時、ふいに目に入ってきたものが。
「ん?あれは……」
前方、進行方向の海面に、なにやら見覚えのある小さな影がひとつ。
もしかしてあれは………さっきの漁船?
相変わらず二人の漁師さんが船上にぼんやりと座り込んでいる。
あ、でも最初に見た時とは座ってる場所が違う。一人が船尾に移動して、もう一人は中央に座ったままでこちらをじっと見ている。やっぱり目を一切動かさず、頭だけを回して飛行機を追う不気味な挙動だ。
「案の定というか何というか……妖精さん、高度下げるから撮影よろしく!―――こちら白鷺洲。龍驤聞こえる?」
『――――こちら龍驤。どないしたん?』
「お仕事が増えました。ちょっと変な船がいるから再度呼び掛け」
『あんなぁ……規約書に無いんやからせんとってええやん、ンなこと。放っとき放っとき』
「あー……、えっと………あっ!」
『ん?急にどないした?』
「急に通信にノイズが!あちゃーマズいな本部からの通信が受け取れない、ああ仕方無いから現地で判断するしかないなうんそれがいいそうしよう」
『えぇ~?……はぁ…龍田も怖いし、頼むからはよ戻ってきいや。ええか?』
「はーい。ではアウト」
通信を切る間際に聞こえた『やっぱ聞こえとるやんけ!』というツッコみはスルーして、操縦悍を前に倒す。
緩やかに高度30メートルまで降下し、旋回運動に移行すると同時にサイレンを鳴らすノブを引く。
またうるさいほどに鳴り始めたサイレンをに鼓膜を容赦なく刺激されながら、ロックを外して窓を開いた。
「うひゃあ……!!」
途端に流れ込んでくる風にビビりながらも、右手の操縦悍を放さないように口でくわえた手袋を左手に着け、その手で飛行服のホルスターに突っ込まれた円筒形の発炎筒を引き抜いた。
瞬時に夕陽に負けない明るさの赤い炎を噴き出しはじめたそれをかざして、片手操縦で漁船を中心にして旋回。主翼に炎が当たらないように、高度を下げすぎないように漁船より手前の海面と速度計に注視しながら大回りに回る。
―――――その時だった。
停泊したままの漁船の上で、いきなり何かが翻ったかと思った瞬間。
断続的に閃く閃光とともに、目の前が一瞬明るくなり、そして暗転。
視界が消えた理由も分からぬまま、急激な落下感を感じ――――
脇腹に感じた激痛とヘッドホンに響く激しいノイズを認識したのを最後に、僕の意識は完全に途切れた。
…………い、起き…!…きろ!……
(――――ん?)
頭を揺さぶられる強い衝撃を感じて、僅かに目を開ける。
僕はどこかに仰向けで寝ているらしいけど、開いた目も視界は暗く、酷くぼやけて物が見えない。
おまけに何故かやけに寒い。頭の中がぐらぐらして、どういうわけか眠る前に何をしていたかも思い出せない。
(―――そういや、あれ?…ここはどこ?)
赤く揺らめく明かりがぼんやりと歪んで見えるから何かの部屋なんだろうけど、壁や天井は見えない。視界がぼやけているせいで、強い光を放つ明かりしか見えていないのかもしれない。
ちょうど、真っ黒な薄い布で目隠しされているみたいなものだ。明かりだけがぼんやりと見えて、あとのモノは見えない。そんな感じ。
『気付いたか!』
(ん?……女の人?)
目の前から、本当にすぐそばから声が聞こえた。
目だけじゃなくて耳もおかしくなったらしい。少し歪んで聞こえる、年上らしい女性の声が鼓膜を震わした。
目が見えないので推測するしかないけど、たまに顔に触れる長い髪の感触とか、脇の下あたりを触る手つきの細やかさは、たぶん女の人のものだ。
……そういえば触られている脇腹の辺りの感覚も無いような。
どうなってんだ、僕。
『君、声は聞こえてる?聞こえていたら……そうだな、返事はできるか?』
言われた通りに返事を………あ、声は出るみたいだ。異様に掠れるけど。
「はい」
『おお、声は大丈夫だったか!目はどうだ?いま私は指を何本立ててるか見えるか?』
「さあ……?」
『む、目は見えないか。確かにその様子では無理も無いが』
その様子ではって……気になるんだけど。なんかヤバイのか?僕。
どっちみち、鏡があったとしても何も見えないのだ。自分の今の状態がわからないというのは不安でしかない。
『よし、なら記憶はどうだ。所属と階級、名前は言えるか?』
「あ……えっと」
記憶ならバッチリ……だと思う。
……大丈夫だよな?
「日本帝国海軍、ブイン基地提督……ふう、白鷺洲 多一です。……階級は少佐」
『あぁ、やっぱり。『サギシマ』……』
「?」
『あ、いや。何でもない。気にするな』
なんじゃそりゃ。余計に気になるっちゅうに。
一応「そうですか」とは返したものの、気になるものは気になる。後で聞いてみることにしよう。
でも今はそれより先に聞いておかないといけない事がある。自分の体がどうなってるのかとか、治療?をしてくれているこの人は誰なのか。でもそんなことよりももう少し大切な―――いや、まあ世間一般ではそうではないのかもしれないけど、今の僕にとって一番大切なことだからこれでいいんだ。多分。
「……あの、」
『ん?どうした?』
ビンか何かを開けるカチャカチャという音が止み、女の人がこちらを向いた……気がした。
息をついて、肺の奥がじんと痺れるような感覚に違和感を抱きながら口を開く。
「ところで、ここは何処ですか?僕は……その、どうなったんでしょうか?」
『あぁ………うん』
少しのあいだ女の人が黙り込み、しばらくぱちゃぱちゃと何かに液体を振りかける音だけが部屋に響いた。
目も見えていないからだろうか、不思議と気まずい感じはない。
やがて水音が止み、口と鼻の上にパサリと湿り気を帯びた布のようなものが掛けられた。
ん、何だ……?急に頭がぼんやりと………。
『今はまだ、君に話せることは殆ど無い。ただ、そうだな。これだけは言わせてくれ』
「……?」
ゆっくりと薄れていく意識の中、それに比例して
『歓迎します、白鷺洲少佐。――――ようこそ、ブーゲンビル『
(海底の……鎮守府?それって………)
ふわりと、吸い込まれるように思考に
最後に感じた驚きも置き去りにして、ぼくはまた深い眠りにつくのだった。
けっこう三式指揮連絡機は適当な感じです。ご了承くださいm(_ _)m
区切りをつけたくてつけたくて、かなり駆け足になってしまいました。
また、艦娘のみんなもほとんど出てない……多一の一人語り………ダメじゃん……
本編は艦娘の皆さんにスポットを当てた感じにしていく予定です。
では。