深海ヨリ、異端ノ提督カラ   作:UNKNOWN819

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オリジナルだけじゃなくって、二次創作にも挑戦しようかなと。
まだまだ素人なのでご指導ご鞭撻よろしくお願いします。....あ、嫁は不知火じゃないですよ。RJです。


プロローグ
一話 僕らのブイン


「ふわぁ………っ」

 

 1942年、9月18日の金曜日。時刻は午前で1140(ヒトヒトヨンマル)

 開きっぱなしの鎮守府の窓から入り込んでくる、潮の香りをたっぷり含んだ海風に眠気を誘われて、大きなあくびをひとつ。

 ああー……今日もいい天気だなぁ……快晴、だなぁ………。

 

「たっちゃん提督~、居眠りしちゃダメよ~?」

「ぅ、居眠りしてないし………眠いけど。あとたっちゃん言うな」

「うふふ~」

 

 間延びした、独特なしゃべり方でにこやかに話しかけてきたのは、僕の座る大きめの椅子の正面、机を挟んだ向こう側にいる女性。紫っぽい黒髪のショートヘアの頭の上にはちょっとメカっぽい輪っかが浮かんでいて、胸を強調するようなデザインの、ぴっちりした黒のワンピースを着ている。

 

 この女性の名は、『龍田』。

 

 またの名を、『天龍型軽巡洋艦二番艦・龍田』。

 

 十年ほど前からの付き合いになる、僕の頼れる相棒役の『艦娘』だ。前まではそうではなかったのだけど、二年ほど前からとある事情で提督である僕の秘書艦を交代でしてもらっている。今は艤装を解除しているため、頭の上を浮遊する輪っか以外の見た目は人間のそれと変わらない。

 

「提督、疲れてなぁい?そろそろお昼にする?」

「んー……そうだね。もう正午近いし、そうしようか」

「はぁい。それじゃ支度してくるわね~」

 

 手にしていた書類を机に置き、執務室から出ていく龍田。

 あー、やっと午前の仕事が終わったかな。疲れた疲れた。

 

 あぁ、そうだ。このタイミングで何だけど、僕について簡単に自己紹介をするとしよう。

 

 僕の名は、『白鷺洲 多一(さぎしま・たいち)』。『さぎしま』だ。『シラサギス』なんて妙ちきりんな読み方をしないように。年齢は19歳で、階級は少佐。特注の真っ白な軍服に、錨と桜がみっつ描かれた少佐の階級章。髪(伸びると龍田に切られる。短髪)は黒髪で瞳も黒。えーと、あとの特徴は……身長、かな……。

 僕は、人に比べて身長がかなり低い。最近の統計では成人男性の平均身長は160センチ前後と新聞に書いてあったけど、僕はそれよりさらに20センチ近く、具体的には16センチ低い144センチ。子供っぽいらしい顔と相まって、よく子供と間違われる。ちなみに正直、これは結構気にしてる。軍でナメられるとかそういうの以前に、まず大人としての最低限の特権が使えないといろいろ困るのだ。特に移動のときの自動車の運転とか。

 17歳のときに海軍に志願したときの検査では、甲・乙・丙・丁・戊の5段階評価のうち、見事にギリギリの乙種2類。ちなみに乙種2類というのは合格の最低ラインで、これより1つ下の評価の丙種になると一般的な兵役にはまず就けないと思っていい。まあとにかく、僕はギリギリで合格することができたわけだ。

 そしてめでたく従軍できた僕は、(自慢じゃないけど)持ち前の頭脳と色々なコネをフルに活用して、わずか一年という短い期間で『提督』として艦娘たちの指揮を執れる少佐にまで上り詰めた。

 僕の父が生前(・・)大佐の職に就いていたのもあって、かなり強力なコネがあったからこそできた事だと思う。普通ならこんなことできやしないし、経験不足の若者に少佐なんて重要な職を任せられない。

 

 ………それに僕は……いや、この鎮守府がおかれている状況は、かなり特殊なものなのだ。

 

 それもあってこその、『白鷺洲多一少佐(・・)』なのだろう。

 いろんな思惑が絡み合った末の折衷案が、今の僕なのだ。

 そしてこの鎮守府の、かなり特殊なところというのは.....

 

 その時唐突に、僕を呼ぶ声が。食堂の方向からだ。

 

「たっちゃん提督~。お昼できたわよ~?」

「……あ、ああ!いま行く!」

 

 まあ、いいか。言わなくたって、食堂にいけばすぐわかる。

 

僕は僕よりでかい椅子から飛び降りると、食堂のほうへと駆けていった。お、この香りは……!

 

 

 

 

 

 

「ねえ龍田、きょうはカレーライス!?」

「昨日のうちに仕込んでおいたの~。金曜日だしね~」

「いよっしゃ!」

 

 食堂では、揃いの白いエプロンをかけた龍田ともう一人が、人数分のカレーの皿を配膳しているところだった。

 食堂の長テーブルには、まだ誰も席についていない。やった僕が一番乗り!

 

「龍田龍田、僕の大盛りで!」

「あらあら。いいわよ~」

 

 一番はしっこの上座に座り、大盛りのカレーを前に他の艦娘たちを待つ。お昼の合図であるチャイムは龍田が鳴らしてくれているはずだから、もうじきみんな集まってくるだろう。僕はどうしても浮く足をぶらぶらと揺らしながら、艦隊のみんなを待った。

 

「こらタイチ。行儀が悪いぞ」

「あ痛っ」

 

 ぶらぶらゆらゆらしていると、突然後ろからゲンコツが。振り返るまでもなく、龍田と揃いのエプロンを着た犯人を特定する。

 

「天龍ぅ!また提督(ぼく)をぶったなぁ」

「知らねーな。行儀悪い提督(ガキ)のしつけの何が悪い」

「あ、言ったな!?もういいよ、天龍なんて第一艦隊から外します。はい決定」

「な!………は、外せるもんなら外してみやがれってんだ!」

「てんりゅー声ふるえてるー」

「ぐ……」

「フフフ、怖いか?」

「こいつ!!?」

 

 顔を真っ赤にして、持っていたお玉でガンガンと僕の頭を殴打するこの娘こそ、龍田の姉で艦娘の『天龍』。またの名を『天龍型軽巡洋艦一番艦・天龍』。

 左目に付けた眼帯がトレードマーク。天龍も龍田と同じく頭の上にメカっぽいのが浮遊している。ただしこっちは輪っかではなく、一対の犬耳みたいな三角みたいなやつだけど。

 ちなみに龍田の姉である天龍も、十年ほど前からの付き合いだ。まあ、天龍はあまり向いてないという本人の意向もあって、秘書艦は任せたことはない。

 

「天龍ちゃ~ん、あんまり提督をいじめちゃ、めっ!よ~?」

「おい龍田!今のはコイツが!」

「あら~?そうだったかしら~」

 

 とぼける龍田。ぐっじょぶ。天龍はスネるとめんどくさいのだ。……え、じゃあ何でイジったのかって?そりゃ面白いからに決まってるじゃん。やめられないとまらない。

 

 そのとき、食堂の入り口の引き戸がガラガラと開いた。

 

「はいよお待たせ。連れてきたでー」

「RJ、GJ」

「……なぁタッツン、いま一瞬ウチの扱いがめっちゃ酷かった思うんは気のせいかいな?」

「やあ司令官。今日は金曜カレーかい」

「司令官さん、お疲れさまなのです」

「ごきげんようです。……いい匂いね!」

「やっほー司令官!お仕事ご苦労さま!」

 

 ぞろぞろと食堂に入ってくる艦娘の皆さんたち。口々にぼくを労う言葉をかけてくれたり、エセっぽい大阪弁「ちょい待ち、誰がエセっぽいねん?」で何か抗議したりと、とたんに食堂が賑やかになった。

 ちなみに入ってきたのは、可愛らしいセーラー服を着た『暁型駆逐艦』の四人と、軽空母の『龍驤』。最初の大阪弁、『~気のせいかいな?』が龍驤で、その次が暁型の面々。上から『響』、『電』、『暁』、『雷』という順番だ。

 龍驤の赤い和装っぽい服には今日も起伏なし。いつもどおり普段どおりの、まないt……フルフラット。

 

「……なぁ、いつもながらウチの扱いが酷すぎるんちゃう?」

「うふふ~、みんな揃った~?」

「ええ、揃ってるわ!」

「ウチはスルーなん!?」

 

 駆逐艦勢を代表して暁が答える。今日も元気いいなぁ。……あ、龍驤がなんかブツブツ言ってるけど気にしたら負けだ。

 配膳していた天龍と龍田が席につくと、誰からともなく手を合わせ、合掌する。

 

「じゃあ、いただきます」

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

 

 賑やかに会話と共に、食事が進んでいく。暁はつとめて上品にカレーを食べようとして雷に笑われていて、その横では電が龍田の持ってきた牛乳をコップになみなみと注いでいる。天龍は駆逐艦勢が何かやらかさないか気を配りながら、付け合わせの福神漬けをこれでもかと盛る龍驤に呆れていた。

 

 ………でも、それだけ(・・・・)

 

 最大で100人まで収容できる広さがある食堂にいるのは僕、龍田、天龍、暁、響、雷、電、龍驤。―――僕を除いてたったの7人だけ。それがこの『ブイン基地』の全戦力だ。新規の艦娘など来ることはなく、今は亡い父さんの代にここに配属され、2年前に僕が着任した時に行われた配置替えという名目の引き抜きで選ばれずに残った艦娘たちで編成されている。

 昔は―――父さんの代だった時は、それはもう賑やかだった。戦艦、重巡、軽巡、潜水艦に駆逐艦。

 よくもまああれだけの戦力が揃ったなと思うけれど、それも父さんの人望と性格ゆえのことだったのだろう。当時の父さんの階級は大佐だったし、ホットな地域だったから優先的に艦娘が配属されていたのもあるけど。でも、それも今じゃあ………。

 

「おーい提督」

「……………」

「なあ提督ぅー、自分カレー食べへんのんか?」

「司令官?」

「あ、うん。ごめんごめん。食べるよ」

 

 龍驤と響が、なんとなく心配そうにこっちを見ていた。いかんいかん、こんなところで心配されるなんて情けない。

 自分には少し大きいスプーン(元々は戦艦用の)で大盛りのカレーを口に運びつつ、それとなく午後の話題を切り出してみた。

 

「ところでみんな、今日の午後はいつものお隣さん……『ショートランド』の艦隊と演習だったね」

 

 そう、今日の午後からは、我がブイン基地のお隣さんである『ショートランド泊地』の第一艦隊との演習が組まれているのだ。演習では艦隊同士で実戦同様の砲撃・雷撃戦を行うことで艦娘たちの練度を向上させることができ、また試作段階ながらも新導入のシステムにより小破以上の破損は起こらないというスグレモノ。まあ、勝った場合は、って但し書きが付くんだけど。

 ちなみにこの演習システム、負ければ利益はほとんどない。むしろ損しか無いと言ってもいい。負ければあまり経験値にならないし、まずなんといっても砲弾も機動用の燃油も消費量がバカにならない。

 そういうわけだから、普通ならほとんど勢力が同等の艦隊どうしで対戦をするものなのだ。普通なら(・・・・)

 

「チッ、またかよあの野郎....よっぽどオレ達が嫌いらしいな」

「ろくにこっちの事情も考えずに、ヤなやつね!」

「電も雷と同じく、なのです」

 

 そう、ショートランド泊地の第一艦隊は強いのだ。それはそれはもう。

 潤沢な資源と資材、拡張されまくった大規模なドックにものを言わせて増強された艦隊はこの近海ではほとんど負けなし。そりゃぁ本土にある舞鶴とか呉の通称『無敵艦隊』には敵わないだろうけど、近海の資材不足にあえぐ弱小な鎮守府(ウチのことだ)では全く歯が立たない程度には無双してくれていやがるのだ。

 しかも(やっこ)さん、第四まで艦隊を編成しているくせに演習に出撃させるのはいつも第一艦隊だけ。要するに相手を全力で潰しに来るのが通例で、無論、実は第一艦隊が一番弱いというオチが付くわけもない。正規空母2隻、戦艦4隻。これがショートランドの第一艦隊の内訳だ。正直うちの艦隊(軽巡洋艦2隻、駆逐艦4隻。軽空母の龍驤は艦載機と燃料の不足で出せない)では勝てる見込みはほぼ無い。

 

「困ったわね~。今月の残り資材だと、もう演習後の艤装の修理で手一杯かしら~?」

「せやな。少なくともウチは今月も出せへんはずやで」

「龍驤……本当にごめん」

「ええって。別に提督のせいちゃうやんか、なぁ?」

 

 他の艦娘たちも頷いてくれたけど、申し訳ないものは申し訳ない。せめて龍驤に持たせられる艦載機、特に先制攻撃に有効な艦爆や艦攻があれば、戦局もある程度は傾くと思うんだけど。

 

「ボーキサイトがなぁ………なぁ龍田、どうにかなると思うか?」

「天龍ちゃんが遠征に行ってくれれば解決できるわよ~?」

「はわわ、そうすると基地の防備が手薄になってしまうのです!」

「そうなんだよな……」

 

 とりあえず打つ手は、ない。

 それぞれ諦めたように溜め息を吐きながら、再びカレーをつつき始める。打つ手がない以上は艦載機も製造できないし、新たな艦娘に来てもらうこともできない。

 まぁ、これは生前に父さんが掲げていたことが原因でもあるし、それを引き継いだ僕の信条というか、そういうもののせいでもある。だから、つとめて腹を立てないように心がけている。―――腹を立てたらなんか負けたような気になってしまうのだ。

 

「……よし、もう二時間ぐらいで出よう。みんな艤装の準備とかは抜かりなくしておくこと。燃料弾薬は遠慮せずに満タンにしておいてね。質問は?」

 

 誰よりも早くカレーを食べ終わってスプーンを置き、椅子から立ち上がりながらいつも通りの文言を話す。もはやお決まりのパターンだったせいか、質問も無い。僕は頷いて、お決まりの台詞をまた告げた。

 

「それじゃあ龍驤、ピンチヒッターだ。演習の終了まで龍田と秘書艦を交代してくれ」

「りょーかい」

「それじゃあご馳走さまでした。執務室か港の辺りにいるから用があったら呼んでね」

「あ、私も行きたーい!」

「おいコラ雷、艤装の整備と燃料の補給が先だっての。後でオレと一緒に行くぞ」

「ちぇー。つまんないの……」

 

 ぷくー、と頬を膨らませる雷と何かを察して雷を止めてくれた天龍に苦笑を返しながら、首から下げたゴツい九三式飛行時計―――戦闘機の計器盤から取り外した、父さんの遺品だ―――を見た。時刻、1248(ヒトニーヨンハチ)。あ、やばい。そろそろ向こうさんから電話が来るはずだ。

 冷房の効いた食堂から出て、執務室につながる長い廊下を早足で歩く。もうずいぶん慣れたとはいえ、やっぱり暑いブインの気候にテンションが下がった。が、もっとテンションが下がるのはこれからショートランドの提督と電話をせにゃならんということ。もう全方位からテンションを吸いとられっぱなしだ。

 はぁ、……憂鬱だなぁ。なんだか、かつてこの基地にも居た戦艦の山城になった気分だ。

 昔のことが更に懐かしく感じられて、もう一度溜め息を吐きながら、時間に遅れて更に面倒な事になりたくないという一心で執務室へ急ぐ。

 

 

 開け放たれた南向きの窓から見える、中天に昇った太陽だけは今日もギラギラと元気に輝いているのが、何だか少し恨めしくなってしまう僕であった。

 

 

 

 

 

 

 




導入の一話~3話ぐらいは短めです。

ご意見ご感想など、よろしくお願いします。


※12/26(木)....天龍&龍田の名前誤字を修正

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