「ここが俺の部屋か」
淡の案内を終え合宿所に戻ってきた俺はひとまず部屋で休むことにした。三階建てのこの合宿所で俺とキョウだけは一階の部屋が割り当てられている。
「まぁ普通に考えて同じ階になるわけがないよな。問題とか起こされてからじゃ遅いしな」
部屋の扉を開けるとそこにはベッドがひとつと棚がふたつ、クローゼットがひとつ、後はライトなどの小物がある少し殺風景な部屋だった。それでもユニットバスはあるし過ごす分には何も問題はなかった。
「意外といい部屋だな。もうちょっとボロいのを予想してたんだがな」
実際、基本女子しかいないこの合宿所では力仕事など任せられないだろう。そういった点では俺たち二人は重宝されているのかもしれない。
「他の皆の部屋の位置でも覚えに行くか」
思い立ったら行動するまでは早いものだ。清澄の皆は二階の東側にあるはずなのでまずは二階にあがらないと。
「特に咲の部屋は覚えとかないとな。咲が迷子になったら覚えとかないと厄介だし」
一度大広間に行ってから階段を上がっていく。全体図を見た限り非常階段を除けば階段はひとつしかないようだ。
「えっと…奥から順番に部長、まこ先輩、優希、和、咲の順番か」
二階にある扉のにはご丁寧に名前の入った表札のようなものがあった。ここでそうなのだから他の場所でもこうなっているのだろう。だが、確認する分にはこっちの方が便利なのでありがたい。
この合宿所では二階、三階の東と西で二校ずつに別れているらしい。つまり二階の東側のこの場所では清澄ともう一校の分の部屋がある。
「雑用なんだし全部の学校の場所を覚えておくべきなのか?」
………いやそれはまた今度でいいだろう。今はキョウもいないし。
腕時計を見ると今は午後3時、今日は全校が集まるだけの日なので麻雀はしないはずだ。というか俺はここで麻雀をうてるのかさえわかっていないのだか。
「ハルくん? どうしてここにいるの?」
不意に声をかけられる。横を見ると扉が開いていてそこから咲が出てきた。相変わらず麻雀をしていないときの咲はいかにも文学少女と言った感じだ。今も片手に本を持っているし。
「皆の部屋の位置を確認しに来ただけだよ。そういう咲こそどうしたんだ? 本、読んでたんだろ?」
「う、うん、ちょっと京ちゃんのところに行こうと思って」
「連れていってやろうか? どうせ迷うだろ?」
「迷わないよ!」
「そういっていつも迷子になってただろ。いいから一緒に行こうぜ」
「うぅ…ハルくんのバカ…」
咲は諦めたのか黙って俺についてくる。この合宿所の詳しい地図をまだ把握してないから今迷われたら見つけるのにも時間がかかるだろうしな。
「ほら、ここがキョウの部屋だ。俺は隣にいるから何かあったらすぐに呼んでくれ」
「うん、ありがとね、ハルくん」
咲はノックをするとキョウの部屋に入っていった。俺も自分の部屋に戻ると持ってきた荷物の整理を始めた。
荷物の整理が終わると時計は午後5時を指していた。まだ夕食には時間がある。
「ここは麻雀部らしくネトマでもして腕を磨きますか」
いつもやっているケータイの麻雀ゲームを開き、少し物足りなさを感じていたが、ネトマの画面が開かれるとそんなことも忘れていた。
「ハルー居るかー夕食だってよー」
扉の向こうからキョウの声が聞こえてきた。いつの間にかけっこうな時間がたっていたようだ。軽く身仕度を整え、部屋からでると、そこにはキョウと咲、優希がいた。
「すまん、待たせたか?」
「いや、大丈夫だ。一階の食堂で夕食っていってたから呼びにきた」
食堂に着くとそこにはインターハイに出場していた有名人ばかりだった。さっき会った淡やチャンピオンの宮永照、それに千里山の園城寺怜や阿知賀の高鴨穏乃なんかもいた。
席はすでに決まっているらしく俺は清澄の空いている席に座り皆が揃うの待つ。
すべての席に人が座ったと思われると1人の男が前に出てくる。
「皆さん、今回の大合宿にお集まりいただき真にありがとうございます。私は日本麻雀協会の高山と申します。では、これから先の日程について説明させていただきます」
「明日からは必ず半荘を10局以上うってもらいます。その時の相手はここにいる誰でも構いませんが、なるべく他校とお願いします。」
誰もが静かにはなしを聞いていた。堅苦しい挨拶などは後にして夕食を食べたかったがそれを我慢してじっと話を聞く。
「また、私たち日本麻雀協会の者は1日に1度様子を見に来ますが基本的には麻雀以外は自由にしてもらって構いません。10局以上うってくださった後にはショッピングなどにでかけてもいいです。」
「なので私たちは生活の基本はあなた方に一任します」
「はいはーい! 質問があるんやけどー!」
食堂内に元気な声が響く。手を挙げたのは千里山の江口セーラだ。
「生活の基本は俺らに一任する言うてるけど、つまりご飯の用意とかも自分たちでやらなあかんってこと?」
「えぇ、そういうことです」
「炊事洗濯掃除をすべてやりつつ麻雀もうたなくちゃいけないんですかー?」
高山の言葉に反応したのは永水の薄墨初美だった。
「あら、それなら大丈夫よ」
だが、その言葉に対して部長がさらっと否定する。
「どう言うことや久、説明せぇ」
部長の言葉に姫松の愛宕洋恵が聞き返す。
「だってこのために須賀君と藤堂君を連れてきたんだもの♪」
「えぇぇぇえ!!?? ど、どういうことですか部長」
俺と比べ驚いているキョウが大きい声を張り上げる。
「藤堂君は驚かないの?」
「話の流れでもう読めてましたから」
俺はもう諦めて部長に従う気でいた。なんのためにここに連れてきたのか、最初から部長のなかでは決まっていたのだろう。
「じゃ、よろしくね、二人とも。頑張ってね♪」
部長のご機嫌そうな声がやけに耳に残った。
どうも第三話です
やはり悠斗たちを連れてきたのは部長の思惑でした。
また日本麻雀協会というのはこの小説だけのオリ要素です。でもこの小説ではよく出てきます。