まーじゃんぱにっく!!   作:ハルハルX

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5にちめ!

 

 

部屋にあるのはノートに文字を書く音と本をめくる音だけだった。現在この部屋の主たる悠斗はイヤホンをその耳につけ真剣な表情で何かを書いていた。

 

「…こんなもんでいいか」

 

イヤホンを外し背伸びする。ノートには見やすいように配慮が施された数式が書かれていた。この麻雀合宿では学校には行かない代わりの処置として高校ごとに課題が出題されている。一定期間までに行い日本麻雀協会に提出することによって単位は保証される制度となっているのだ。

 

もともと悠斗は成績は悪くないうえに応用問題でなければ先生に教えを請わない程度の頭の良さは持っているため習っていない範囲でも教科書や参考書さえあれば問題は解くことができる。清澄ではもちろん和は大丈夫であるし、久やまこもそれぐらいならば問題ない。咲も時間はかかるかもしれないが本人はまじめだし提出期限は守るであろう。しかし

 

「キョウはともかくとして優希はなぁ…和や咲が助け舟を出せばいいが出さなかった場合は俺のところか。部長たちがそういうの助けるわけないし」

 

体全体のコリをほぐしつつ仲間のことを思い描く。が、いい感じに空腹感があるためその思考はすぐに昼食へと切り替わった。自分だけ食べるなら別にインスタント食品でも構わないがこの合宿所では置かれていない。となると簡単でもいいから調理しなくてはならなかった。

 

この4日間は女子に作ってあげることを考えたりしたため栄養バランスであったり、女子受けの悪そうなものは一切食べていなかったが今日は別。がっつりと肉料理でも食べたい気分である。

 

椅子から立ち上がり、食堂へと向かう。決めてしまえば体が空腹感を訴えてきていたためすぐにでも食べたい気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

昼時ということもあって食堂ではいくつかのグループごとで固まって座っていた。中にはこの4日間で知りあい、話すようになった人たちもいたが軽く会釈だけして調理場に入る。調理場では清水谷さんが皿洗いをしていた。

 

「どうも、清水谷さんも昼食ですか?」

 

「ん…そうやね、藤堂はこれから?」

 

「えぇ、そうですね」

 

業務用と思われる大きな冷蔵庫から食材を取り出しながら会話する。距離はあるし、お互い目を合わせないが、そこに険悪な雰囲気はなかった。

 

食材を切り、炒めて味付け、簡単な作業のみであるが男が食べる分にはそれで充分。味付けも目分量で適当である。

 

「なぁ竜華、作ってくれるんはありがたいんやけど…足りん」

 

「あんまり食べ過ぎちゃあかんで。怜と同じメニューやから栄養バランスはばっちりやし、必要な分のカロリーも摂取できてるはずや」

 

調理場に誰かが入ってきて清水谷さんと会話する。それを横目で見て誰かだけを確認し、江口さんであるとわかると自分の料理に戻る。これが怜さんであれば挨拶もしたであろうが、流石に話したこともない江口さんでは急に話されても迷惑だろう。

 

「そうはいうてもな…ってええもん作っとるやん」

 

「セーラ!?」

 

江口さんがこちらを確認すると同時に近くに寄りフライパンの中身を見る。

 

「どうも、どうしましたか? 江口さん」

 

「なぁ、それ分けてくれへん? 竜華の飯だけじゃたらんくてな」

 

「別に構いませんが、切り方や味付けも大雑把ですよ?」

 

「それでええよ、藤堂の飯もうまいしな」

 

「…名前、知ってるんですね」

 

「そりゃあ竹井もいっとったし、洋恵からも聞いたからな。それに飯も作ってもらってるのに名前も知らへんのは失礼やしな」

 

こう言っては失礼だが、あまり女性を感じない人だ。なんというか運動部に所属しているイケメンの先輩のような感覚に陥る。この合宿では今まで出会わなかったタイプだ。服装もボーイッシュといえば聞こえはいいが、背が小さめの男子が来ていても何の遜色もない。

 

江口さんの後ろにいる清水谷さんは何か言いたげだが、何も言ってこない。おそらく江口さんの行動に不満があるようだが自分勝手な意見であると思っているのだろう。

 

「竜華、怜と先に部屋行っといてや。オレも食べ終えたら行くわ」

 

「…わかった」

 

清水谷さんはそういうと調理場を出ていく。その姿を確認すると江口さんは一つため息をついてからこちらに苦笑いを見せてくる。

 

「悪い奴やないんやけど…頭硬くてな。怜が絡むと特に。あんま気にせんといてな」

 

「気にしてませんよ。第一女子だらけのこの場所で俺らを受け入れてもらえてるほうが不思議なぐらいですから」

 

「藤堂は話を聞く限り巻き込まれた側やろ? それなのにオレらのために働いてくれる。冷たくするとかありえへん」

 

「…ありがとうございます」

 

今まで過ごしてきて、正直不安だった。受け入れてくれてる人も多いけど、やっぱり内心避けられていると思っていたから。こうやって実際言葉にしてもらえると、少しは心が軽くなる。

 

「江口さんはどれくらい食べられます?」

 

「じゃあーー」

 

そんな気持ちにさせてくれたせめてものお礼として、今はこの人の望む料理を作ってあげよう。

 

 

 

 

「やっぱうまいわ。怜にはきついかもしれへんけどオレはこういう飯好きやで」

 

調理が終わると二人で向かい合って食べる。献立は豚丼(材料豚肉のみ)である。自分でも一口食べ、うまくできたと安心する。

 

悠斗たちの会話はワンパターンだ。セーラが話しかけ、悠斗が相槌をうつ。その間も食べる手は止まることなく、お互いの丼が空になるまでその会話は続いた。二人の間には確かなつながりができ始めていた。

 

「これからどうするんや?」

 

「詳しくは決めていませんが、少し外出しようかと考えています。ここら辺の地理も知っておきたいですし」

 

主に買い物の予定であるが、地理に詳しくなっておきたいというのも本音だ。咲がいなくなったとき基本はキョウが探してくれるが、キョウが動けない時は俺が探しに行かなくてはならない。木乃伊取りが木乃伊になるという言葉もある。二次遭難などもってのほかだ。

 

「そっか、何もないなら一緒に麻雀って考えてたんやけどな、ならしゃーないわ」

 

江口さんは残念そうな顔を見せながら食堂を出て行った。俺は昼食の後片づけをした後自分の部屋に戻りバックだけ持って外に出る。外は長野に比べると暑く、顔をしかめたがその足取りは軽かった。それは俺の心のおもりがひとつ減ったからだと確信できた。

 

 

 

 

「暑かった…」

 

足取りが軽くなったとしても暑さは変わらない。インターハイの時に慣れたと思っていたが人ごみにもうんざりしていた。合宿所の近くはそれほどでもなかったが、少し離れれば東京の人の多さに圧倒されていた。なんとか買いたいものは買えたがただ買い物に行っただけとは思えないほど疲弊していた。

 

部屋につくと持っていた買い物袋とバックを床においてベットに倒れこむ。が、自分が汗まみれだと思い出し立ち上がり、着替えを持ってシャワーを浴びる。バスタオルを首にかけてベットに腰掛ける。すると心地よい眠気が襲ってくる。それにあらがうことなく目をつぶる。朦朧とする意識の中でノックの音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

夕焼けの光によって目を覚ます。もう夕方か、と思うと同時に自分の現状を不思議に思う。ベットにいるまではいいがきちんと掛け布団を羽織っていた。

 

「あ、ようやく起きた? だめだよいくら夏とは言っても風邪ひいちゃうよ」

 

「咲?」

 

「ノックしたのに何も反応がないから何か起きたのかと思ったよ」

 

「咲がやってくれたのか、ありがとな」

 

咲は俺が寝ているベットの淵を背に座り、読んでいた本にしおりを挟むとこちらに顔を向ける。

 

「ハルくんは京ちゃんよりも小柄だけど、それでも動かすのは大変なんだから」

 

起き上がり、足だけをベットから降ろす。髪が濡れていた状態で寝ていたため寝癖がついてしまった。手櫛で直せる範囲で髪をいじるが、直りそうもないのであきらめる。

 

「ねぇ、疲れてるんだったら部長に言ったほうがいいよ。朝早くから朝ごはんの用意しててあまり寝れてないんじゃ…」

 

「急にいろんなことをやり始めたから疲れてるだけ。大丈夫。慣れてくれば何ともなくなるはず」

 

「…無理だけはしないでね。私も朝あんまり強くないから、多分朝ごはんの準備手伝えないけど、言ってくれれば他のことなら」

 

「ありがと、手が回んなくなったら頼むよ」

 

口ではそういったが、あまり咲に何かを頼む気はない。たしかに咲に手伝ってもらえば楽になるだろう。迷子になるようなポンコツではあるが普段から家事をしているだけあってそこらへんは心配していない。しかし咲はインターハイ優勝校の大将だ。日本麻雀協会の思惑はわからないが期待されていることは確かだろう。それにせっかく照さんと仲直りしていろんなことを話したり、一緒に麻雀出来る機会なんだ。今までの分を埋めるためにもこの2人にはできるだけ一緒にいてほしい。

 

俺の言葉に咲は肩をすくめると持っていた本をまた開いて読み始める。どうやらこの部屋から出ていくつもりはないらしい。中学時代からの知り合いだがこの辺は変わっていない。自分の部屋だろうが俺の部屋だろうが、キョウの部屋だろうが気になる本があるのならばそこで読み耽ってしまうのが宮永咲という生き物だ。

 

立ち上がり、放置していた買ってきたものに手を付ける。机にあった教科書と一緒に麻雀関係の本を棚にしまい、本を読んでいる咲のために電気を点ける。

 

今日はもう何かする気は起きない。明日からまた朝食の準備から始まり様々な雑用をしなくてはならないことを考えると、このような日があってもいいだろう。一度はしまった麻雀指南書を手に取ると咲の隣に腰を掛けて一緒に本を読む。それは和が悠斗の部屋に夕食の準備が整ったと呼びに来るまで続いた。

 

 

 

~5日目、江口セーラの日誌~

 

今日は千里山のメンバーと姫松のメンバーで麻雀をした。たとえ休みでも俺らのすることは変わらへん。洋恵のやつとは今日も決着はつかんかった。ま、もっとやれば必ず勝つのはオレやけどな。

そういえば洋恵がおもろいこと言うっとったな。藤堂がチャンピオンのいる卓で和了ったとか。おもろいやんけ、うってみたいわ。




投稿を楽しみにしていた人はすいません。
プロットに大きな欠陥を見つけどう考えても直すことができずにそのままエタってしまいました。
しかしいろんな人が見たいといってくれているのでまた投稿してみます。
プロットがほぼなくなってどうなるかわからない作品ですができればまたよろしくお願いします。

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