「建前……本当の目的……」
静かな部屋の中に声が響く。末原さんと別れた後、自分の部屋に戻ってきてから末原さんとの話のことをずっと考えていた。ベットに寝転がっていた体を起こし座ったまま壁に寄りかかる。こんなところで考えていてもわからないこともわかってはいるが、思考の迷路に迷い込んだままになった。もし、咲たちが何かに利用されることになったのならば……
「いや、流石にないだろう。末原さんも大げさに言っただけだろうし、第一麻雀を強くしたのもこれからの大会を盛り上げたりするためとか、それともアンダー18とかの選考会だったり、あったとしてもそれぐらいだろうな」
時計を見ると4時、そろそろ外出組も帰ってくる時間だろう。咲と優希と一緒に出掛けたキョウも咲が迷って時間かからなければもうすぐ帰ってくると連絡があったし夕食の準備を……
「あ、そうか別にいいんだ」
土日が休みだと昨日知らされた際、いつも作ってもらってばかりだと悪いということで土日の夕食だけは交代で作ると言ってくれたのだ。だから今日明日の夕食は作らなくてよいとのことなのだがそれはそれで暇を持て余してしまう。いつもならば高校の同級生とカラオケなり、ゲーセンなり行って時間をつぶすのだが、今ここにいるのは合宿に呼ばれたメンバーだけでかつ地理にも詳しくないときた。
「どうするかな……淡に案内してもらうのも確か今いないから無理だし、咲やキョウもまだいないし、でもここでやることもないしなぁ」
だがこのまま考えていても埒が明かない、知らない土地だし外を軽く散策でもしとこうと思いつき、合宿所から出る。夏もそろそろ終わりだというのにこの時間でもまだかなり暑さを感じる。この合宿所の周りにはあまり建物がなく東京ではあるが緑の多い場所だ。東京では地方でも自然は少ないと思っていた悠斗としては少し珍しい場所であった。インターハイは都市部の方で行っていたし、買い物などもそっちで済ましていたから一層感じられた。
少し歩くと誰かがこっちに向かって歩いてきているのが見える、というかこの暑い中マフラーをしているのが見えるので必然的に宥さんであると分かった。あともう一人いるがあれはたしか宥さんの妹の松実玄さんのはずだ。にしても大きな荷物を持っているがあれは一体……?
「松実さん、宥さん、こんにちは。随分大きな荷物ですね、重いでしょうし持ちますよ」
「こんにちは、ハルくん。大丈夫だよ~玄ちゃんと交代で持ってるしそこまで重くもないから」
「いや、でもその大きさで重くないってことはないと思いますが……やっぱり持ちますよ」
宥さんが持っている荷物は宥さんが両手で持っても大変そうな大きな袋で中に入っている物もそれなりの大きさが見える。これで重くないって方が珍しいと思うが、
「大丈夫なのです! お姉ちゃんが持っているのは布団なので、大きさの割には重くはないし、それに私たちは旅館のお仕事で重いものを持ったりしているから慣れているの」
宥さんの荷物を見ていると隣の松実さんが答えてくれる。布団? そういえば暖房が欲しいって言っていたような……だから布団を買いに行っていたのか。
「玄ちゃんの言う通りだよ~こう見えても少しは力があるんだから」
そう言って宥さんが胸を張る、その姿は年上だとはわかっているがとてもかわいくどこか和むものだった。そしてなぜか隣で松実さんもどや顔していた。
「だとしても運びますよ。まだ十分以上かかるんですし今まで運んできて疲れているでしょう?」
「優しいんだね、ハルくんは。でもハルくんもどこかに行くところじゃないの? 合宿所の方向から歩いてきたんだし」
「いや、その恥ずかしい話なんですが暇になって少し周りをうろついていただけなんです。そういうわけで特に用事があるとかじゃないんで大丈夫ですよ」
「お姉ちゃん、せっかくここまで言ってくれてるんだし持ってもらおうよ。藤堂君の好意を余り断り続けるのも悪いと思うし」
「玄ちゃん……そういうことなら持って貰おうかな、ありがとうハルくん」
「いえ、こちらこそなんかすいません。気を使わせてしまったみたいで」
宥さんから荷物を預かり、重さを確認する。確かにそこまで重くはないけどここまで運んでくるのは大変だったはずだ。
「あ、そうだ。私のことは松実さんって呼ばないで玄って呼んで? 苗字で呼ばれるのは余り慣れていないし、あと私もハル君って呼んでいいかな? お姉ちゃんがそう呼んでいるなら私も同じ呼び方したいし」
「わかりました、玄さん。俺のことは好きなように呼んでいいですよ」
俺、宥さん、玄さんという順番で並んで歩く。宥さんと玄さんが話題を作りたまに俺が答えたり相槌を打ったりして会話が進んでいく。会った位置も合宿所の近くだったので、二人の歩くスピードに合わせても20分程度で帰ることが出来た。そのまま宥さんの部屋まで布団を運び、部屋へ戻るところでキョウから帰ってきたと連絡があったのでそのまま合流しようと玄関まで戻る。キョウと優希が疲れた顔をして咲が申し訳なさそうな顔をしているところを見るとどうやら今日も迷ったみたいだ。これでは帰ると言っていた時間よりも遅いのも納得できるというものだ。
「どうやら今日も迷子になったみたいだな」
「ど、どうしてわかるの!?」
「そりゃあ、二人の顔を見ればな……だいぶ疲れてるみたいだな」
「咲ちゃんから目を離さなかったはずなのにいつの間にかいなくなってるとか今でも意味わかんないじょ……しかも人多くて探すのも辛くて」
「今更迷うな、なんてことは言わないけどせめて自分のいる位置はわかってくれないと俺らも東京詳しいわけじゃないからしらみつぶしに探すことしかできなくて」
「電車間違えてないのがせめてもの救いだな、これで電車間違えられたら探すのに一体何時間かかるのかわかったもんじゃないな」
「もう! 三人ともひどいよ!」
「「「じゃあ迷子にならないでくれよ(ほしいじぇ)」」」
「ご、ごめんなさい……」
二人の苦労が目に浮かぶな、キョウも俺も迷子の咲を探すには慣れているけどここだときついよな。長野でさえ一度迷ったら探すのに時間かかるっていうのに。
「それで、三人ともこれからどうするんだ?」
「私は今日買ってきた本を読むよ」
「俺はとりあえず疲れたしシャワーでも浴びようかと」
「買ったタコスがまだ残ってるからタコスパワーの補充だじぇ! その後はご飯まで部屋でゆっくりするじょ」
「わかった、キョウ後で部屋に行っていいか?」
「ああ、15分後ぐらいに来てくれ」
「優希ちゃん、ご飯の時間になったら教えてくれないかな?」
「分かったじょ、部屋に行けばいい?」
「うん、お願い」
「それじゃ、後でな」
そう言って、キョウたちと別れる。15分か、それまでどうしようかな……
「お、来たか。入ってくれ」
あれから特に何をするわけでもなく時間は過ぎていき、気づけば言われていた15分を過ぎていた。俺はキョウの部屋に行くと、キョウも待っていたみたいですぐに出てくれた。当然だが、キョウの部屋も俺の部屋と同じつくりのようだった。
「それで、何の用なんだ? ハルから俺を訪ねてくるなんて珍しいじゃないか」
「それもそうだな、と言っても用があってきたわけではないんだけどな」
「そっか、じゃあハル聞きたい事あるんだけどさ、ハルはこの合宿に来てる人のなかで一番誰が好みなんだ?」
「いきなりだな、急にそんなこと聞きだすなんてよ」
「だってよーここには俺らしか男がいないのに女子は40人もいるんだぜ、しかもかわいい子ばっかり。入学してから結構一緒にいるけどハルからこの手の話聞いてないからさ、一人ぐらいはいるだろこれだけいろんな人がいれば」
「そう、だな。かわいいって思う人はいるけど……」
「だろ? 誰なんだ? ちなみに俺は断然石戸霞さんだな! あのおもちはやばいだろ!」
「キョウの好みはそういやそういうタイプだったな、和のことが好きだったみたいだし」
「ああ! それでハルは?」
「俺は淡みたいな子が好きかな……」
「へえ、あの子みたいなのがいいのかー生意気な子が好きなのか?」
「いや、そういう訳じゃなくて……」
「って話してたらもうこんな時間かよ、ハル晩飯食べに行こうぜ」
キョウに質問攻めにあっていたらだいぶ時間が過ぎていた。6時30分、キョウの言う通りそろそろ夕食の時間だろう。
「淡みたいな子、なんて言ったけど結局俺はあいつの影を見ているだけなんだろうな」
「? なんか言ったか?」
「いや、何も言ってないよ。それより早く行こうぜ」
「そうだな、行くか!」
キョウの背中を追いかけながら俺は思う。
――いつか俺が乗り越える日が来るのだろうか、と。
~4日目、末原恭子の日誌~
ほとんど麻雀打ってない日にも日誌つける意味があるのかどうかは疑問やけど、言われたから一応つけておく。やはり牌譜を見る限り照には隙がない、それに哩や竜華もやっぱり打ち方がうまい、うちもあそこを目指さなあかんのやろうな。打ち方と言えば悠斗くんの打ち方も興味があるな、麻雀初めて3か月であの腕……もともとの才能があるのかもしれないけど磨けば光るんやろうな。今度じっくり話をしてみたいと思えるわ。
恥ずかしながら戻ってまいりました、こんな駄文を読んで感想をくれる皆さま本当にありがとうございます!!
皆様の再開してくれという思いにこたえ、またゆっくりと書いていこうと思います
これからもよろしくおねがいします!