「遅かったのですねー、どうかしたんですかー?」
料理を終え、炒飯を持っていくと待っていたのは少し訝しげな目でこちらに問い掛けてくる薄墨さんと、
「…確かに少し遅い。何かあった?」
あまり興味がなさそうだがこちらの心配?をしてくれたシロさんだった。
「特に何もありませんよ、少し話し込んでしまっただけです」
俺は薄墨さんの前に炒飯とサラダを置き、元々座っていたシロさんの向かいの席に座る。
「はっちゃん、作ってくれたのにそれはひどいんじゃないかしら。悠斗さんは善意でやってくれたのよ?」
すると、厨房から巴さんが自分の分の炒飯とサラダを持って出てきた。まぁ善意でやった、って訳じゃないだけど…
「もうお腹ペコペコなのですよー…ん? 巴ちゃん、今藤堂さんのこと名前で呼びました?」
「うん、呼んだけど、どうしたの?」
「どうしたの?じゃありませんよー!まさか六女仙のしきたりを忘れた訳じゃありませんよね。私たちはーー」
巴さんと薄墨さんが何やら話し始める。六女仙、名前とか聞こえてくるからさっき巴さんがいっていたことなんだろう。
「悠斗はこれからどうするの?」
巴さんたちの話を流し聞きしていたらシロさんが話しかけてくる。
(これからかぁ…元々対局室にいく予定だったんだから対局室に行ってもいいけど、誰かいるのかな?昼時だしもうちょっと待てば誰か帰ってくるかもしれないし。でも一応四人揃ってるから麻雀できるよな。三人とも了承してくれればだけど)
思考を巡らせ、これからの予定を考える。このままここにいてもいいんだけど…
「あのー藤堂さん、ちょっといいですかー?」
口元に指を当て考え込んでいると、横から薄墨さんの声が聞こえる。
「本当に藤堂さんは姫様を名前で呼んでいて、姫様からも名前で呼ばれているのですかー?」
「さっき巴さんにも言いましたけど、確かに俺は小蒔さんって呼んでますよ」
薄墨さんは目をぱちくりさせながらこちらを見てくる。時折、「まさか姫様が…」とか独り言を言っては考え込む仕草をしていた。
「なんかごめんね、はっちゃんがいろいろと」
「いえ、大丈夫ですよ。それより巴さん、これからなんですけど、暇ありますか?」
「んー、少しぐらいなら大丈夫だと思うけど、午後からはやることがあるからあんまり暇ではないかな」
巴さんほそう言ってはにかんでくる。となると麻雀をうつのは難しいか?三麻も出来ないことはないけどやっぱ四人でやりたいし
「巴ちゃん、そろそろ時間になっちゃいますよー」
「え、もうそんな時間なの?ごめんなさい悠斗さん私たちはこれで失礼しますね。あぁ、お昼ご飯美味しかったです」
「そうですか、それじゃあまた」
巴さんが薄墨さんと共に食堂を出ていこうとする。
「あ、そうでしたー藤堂さん!」
「は、はい、何ですか?」
「私のことも名前で呼んでくれて結構ですよー!後、私は悠斗さんって呼ばせてもらいますねー!」
「え、ちょっと薄墨さん?」
「それではーお昼ご飯美味しかったですよー」
薄墨さんを引き留めようとするがもう遅い。二人とも出ていってしまっていた。別に追いかけようとすれば追いかけられるのだがそこまでする必要もないだろう。
「…案外、手が速いんだね。悠斗は」
それより、シロさんをどうにかしなきゃいけないみたいだし
あれからシロさんにいろいろと言い訳はしたものの通じているのかどうかわからない、とにかく必死にそんなことはないとしか言えてなかった気もする。
(シロさんは食堂を動く気はないって言ってたし、これからすることも特になくなっちゃったな。皆の部屋がある方に行けば誰かに会えるのかも知れないけど、あんまりいかない方がいいよな)
俺の足は自然と対局室に向かっていた。仮に誰もいなくてもたまには牌符をみることもいい経験になるだろう。
「……ん?」
「……あ、どうも」
対局室に入ったら一人で麻雀卓に向かい合ってる人がいた。俺がドアを開けた音に気付き、こちらを見てきた。目があったので咄嗟に挨拶と軽く会釈。
「藤堂くんやん、ここにはうち以外誰もおらんで」
「特に誰かを探していたわけではありませんよ、末原さん」
麻雀が出来るかもしれない、そう思うと俺の足は自然に前に進んでいた。
「末原さん、一人で何してるんですか? 麻雀をする訳じゃないなら部屋でもよかったと思うんですが…」
「麻雀卓の前に座ってる方が集中出来るんや。それにこれもとりにこなあかんかったしな」
末原さんほ手に持っていたルーズリーフをこちらに渡してきた。「見てみ?」と言っているのでページをめくっていくと
「これ…今回の合宿と今までの公式戦の牌符? にしてもすごい数ですね。咲や淡なんかはそこまであるわけじゃないけど、照さんとかは何回分あるんですか?」
「正確な数は私にもわからんけど、高校の時に出た公式戦全部あるはずや。照はそれだけ数こなしてるから量が多くなるのも当然やな」
清澄、白糸台、阿知賀、永水、宮守、千里山、新道寺、そらには自分の高校である姫松の今回の合宿に参加してるメンバー全員のデータがそこにはあった。
「ここまで一人で集めたんですか?」
「さすがにそれは無理や。元々持っていたデータや代行にもらったもの、後主将と絹ちゃんの従姉妹の浩子のデータを全部集めたものがそれや」
「愛宕洋恵さんと愛宕絹恵さん、後、船久保浩子さんですか…」
「…あんたホントに話したことのない人のことまで覚えてるんやな。主将が言っとったで、自分も有名になったもんやなーって」
「名前を間違えるのはさすがに失礼なので、必死に覚えましたよ」
軽く笑いながら頬をかく。過去にやらかしてしまったことがあったから、人の名前は間違えないようにしようとしていたのが役にたったようだ。
(さっきはシロさんの名前を忘れちゃってたからなんか言われたら言い返せないな…)
「まぁ、あんまりうちには関係あらへんな。それより藤堂くん、何しにここに来たん? 流石に今日麻雀するなら面子集めんと無理やで」
「特にこれと言ってやることがあった訳ではなく、もしかしたら今日も麻雀やってるかなーっと思ってきたんですけど……」
「それは残念やな。少なくともうち以外の姫松の皆は買い物に行っとるで。というよりもここにいる人の方が少ないと思うわ、それでも後二人はおるはずやから誘ってきたら私も入ってもええ」
「それはありがたい話ですけど別にそこまでしてしなくてもいいです。皆思い思いのことやってるはずですし邪魔するのも悪いですから」
俺はルーズリーフを麻雀卓の上に置き、立ち去る。これから何をしようかーー
「…ちょいまち」
思考は途中で止まる。末原さんの方を見ると麻雀卓の電源を入れていた。
「末原さん? 何をする気ですか?」
「何って麻雀に決まっとるやろ。別に四麻する必要もあらへんしな。それに藤堂くん、あんたの実力も知りたい」
「俺の力なんて大したことありませんよ」
「それはうちが自分で決めることや、麻雀やりたかったんやろ? 二麻と洒落こもうやないか」
「……弱いな、藤堂くん」
結果から言おう、惨敗だ。正直手も足もでなかった。女子の全国レベルとの差ってもんを思い知らされる結果だ。流石にあがれないなんてことはなかったがそれでも8割は末原さんのあがりだ。
「だから言ったじゃないですか…俺は咲や皆と違って特別強い訳じゃないんですよ」
「牌効率は出来とるんやけど、まだまだやな。相手の牌を全然わかっとらんな。危険牌の察知が出来ればもうちょい強くなると思うで」
「危険牌の察知なんてまだ出来ませんよ…」
「藤堂くんは自分のことを考えすぎなんや。もっと河や相手のことも見ないとあかんで」
「とはいってもまぁ全然いい方やけどな。日本の男子のレベルならこれでも県大会ベスト8には入れるやろ」
「初心者がすぐにそんな上に行けるわけないと思いますけど…」
「初心者って…藤堂くん、それなりに麻雀してきてるんやろ? 幾らなんでもこの牌効率が出来て初心者はあり得へんで」
「そうなんですかね…? 俺始めてまだ4ヶ月たってないですけど。それに県大会が終わってからは咲や皆のサポートばかりで打てませんでしたから、実質麻雀してるのは3ヶ月もないですよ」
「は…? 今なんて言ったん? 麻雀初めて3ヶ月? いやいやあり得へんやろ、3ヶ月でこんな完璧な牌効率出来るわけ…3年って言った方がまだ信用出来るで?」
「牌効率は和の真似してるだけなんですけど…後は部長にも少し教えてもらいましたし」
俺が話終わると末原さんは牌を並べ始める。これは……
「じゃあ藤堂くんに問題や、なにきる?」
末原さんの前に並んだ14の牌、その先に自分の捨て牌であろう牌と自分以外の三人の捨て牌。牌効率の問題か
「そうですね、俺ならこれをきります」
言葉を発すると同時に牌を持ち前に出す。すると末原さんは真剣な顔でこっちを見つめていた。
「あの…これ間違いですか?」
「正解や、けどこれは姫松の二軍でも間違うかもしれへん難問や。それを特に悩みもせずに答えるんはうちらでも簡単やあらへん」
末原さんは目線をそらさない。ずっと俺を見つめ続けている。
「藤堂くん、あんたは一体ーー」
「恭子ーこんなところにおったん? 探したんやで!」
末原さんの言葉は他の声によって遮られる。
「…主将? 遊びに帰ってくるにははやくありませんか?」
「それなんやけど、実は由子が誰かに押されて足挫いたんや。ここなら治療もできるやろって絹が言っとってな。それで恭子ならこう言う時にも対処できるやろって」
「テーピングとかなら出来ますが道具はあるんですか? 後由子はどこにおるんですか?」
「道具の場所は知らへん、由子なら部屋におるで」
末原さんはため息をつき、考え込むような仕草をする。この前怜さんを医務室に連れていった時に薬はかなりあることは分かったけど、テーピングや包帯の場所は分からなかったな。けどそういったものならあるはずだよな。
「あの、洋恵さん多分医務室にならそういったものもあると思いますよ。探してきましょうか?」
「ん? なんやハルトやんおったんか。そんでなんやて? 医務室? それなら頼むわ、うち場所よう知らんし」
「え…藤堂くん、ええんやで。そんなことせぇへんでも、何ならうちが医務室行って来てもええし。主将も直ぐに人に頼るんはやめた方がええですよ」
「えー、ハルトが自分から言い出したんやで、なぁハルト?」
「はい、どこに持っていけばいいですか?」
「藤堂くん…あぁうちも行きますから主将は先に由子の部屋いっとってください。行くで藤堂くん」
「す、末原さんちょっと待ってください!」
末原さんは俺の手を引き対局室を出る。けどこの方向って…
「末原さん、だから待ってくださいって」
「待たへん。うちも行くからな」
「行くことは別に構いませんが、医務室こっちじゃないですよ。反対です」
末原さんの顔がどんどん赤くなっていくのはちょっと面白いと思ったことは内緒だ。
「ありました、テーピングと包帯。後アイシング用のコールドスプレーも」
あれから医務室に向かった俺と末原さんは着いてから別々に必要なものを探していくことにした。あまり待たせるのも悪いだろうからなるべく早く見つけることが出来て少し安心した。
「コールドスプレーはいらんな、こっちにアイシング用の道具が揃っとる。にしても松葉杖まであるんは以外やったな。探そうと思えばなんでもでてきそうや」
「そんなものまであったんですか? 随分と設備が整ってますね」
そういうと末原さんは真剣な明をして黙ってこちらを見ている。もしかして俺、なんかしたか?
「なぁ、藤堂くん。ここから先は夢物語として考えてもええんやけどな、ちょっとうちの考察を聞いてくれへん?」
俺はなにも言わず、ただ頷く。
「うち、少し思ってたことがあるんや。この合宿所、設備が整いすぎている、いくらインターハイで成績を残した言うてもこの扱いはどこかおかしいと思ってたんや」
「それに大人が誰もつかへんのは明らかにおかしい。この合宿、何か裏があると私は思うんや」
「裏…ですか? でもこの合宿は日本麻雀協会が監修してるんですよ。そんなことはないと思いますが」
「藤堂くんはこの合宿の目的、聞かされとるか?」
「確か、インターハイで活躍した選手を集め共に練習することにより、更なる発展を臨むため、だったはずですが」
「じゃあその目的が建前で本当の目的があるとしたら? それは日本麻雀協会自体が何かしとる。うちはそう考えとる」
俺はなにも言い返せなかった。言い返そうとはしたが言葉が出てこなかった。あまりにも突拍子な話、だがそんなことはないって言える確証がなかった。
「あくまでもうちの勝手な妄想みたいなものや。あまり、気にしなくてもええで」
「テーピングは貰っていくで。それじゃあ、藤堂くん今日は楽しかったで。あぁ、後うちのことはなんて呼んでもええから好きにせぇ。うちはこれから悠人くんって呼ぶからな」
それじゃあ、と言って末原さんが出ていく。俺の頭の中には末原さんの話が延々とリピートされていた。
どうもハルハルXです。
非常に長らくお待たせして申し訳ありません。実はリアルで受験を控えている高校生なので、あまり時間をとれずこんなに空いてしまいました…汗
とは言えどネタは考えております。頑張って完結させようとは思うので長い目で見てくれるとありがたいです!