リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき 作:観測者と語り部
○月×日
結局、わたしは、誰も……
アリシアのいもうとが、めのまえで……
落ちて行って……
夢に見る。何度も、何度も。
わたしは、手を伸ばして……でも、届かなくて…………
わたしは、わたしは……
うああ、あああああぁぁぁぁっ!!
ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!
誰も助けられない、弱いなのはを、ゆるして……
でも、なのはのこと……ゆるさないで………
ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい……
○月×日
アリシアがきおくを、うしなった……
それに、びょうきだって、それも、いのちにかかわるかもしれないほどの……
わたしのせいだ……わたしの…………
○月×日
○月×日
○月×日
今日は何も書きたくない。何も……
○月×日
………………わたしは
○月×日
久しぶりにユーノさんとお話しした。
忙しいのに見舞いに来てくれて、リンゴまで食べさせてもらった。
それから、アリシアの事で、お話ししました。
アリシアは本当の『アリシア』ではありません。アリシアのクローンなんだそうです。
でも、何となくですが想像はついていました。崩壊する時の庭園で、11人の女の子の遺体を見たから。それも、アリシアと同じ顔の。
まだ、何かを書くのが辛い。落ち着くためにも時間を置くことにします。
気持ちの整理をしないと……いいかげん、前に進まないと……
追伸
アリシアの事でお話ししたことの続きを書こうと思います。
ユーノさんにはアリシアの事で、よく頑張ったねって頭を撫でてもらいました。
その、ちょっと恥ずかしかったのは内緒です。
アリシアのお母さん。プレシアさんは次元世界では有名な人だったそうです。特に魔導炉と呼ばれる動力炉。その開発で右に出るものはいない程の人物だったそうです。
でも、ある時、魔導炉の実験中に事故が起きて、それで娘の、本当のアリシアを……亡くしたらしい、です。
大切な人を失う気持ちはよく、分かります。今も痛いほどに心が悲鳴を上げているから。
わたしも、お母さんを亡くしました。でも、もしも立場が逆だったら、お母さんもこんな風に苦しんで……プレシアさんみたいに、なってしまったのでしょうか?
なのははそんなのは嫌です。家族には幸せになっていてほしいです。でも……大切な人を取り戻したい気持ちは、今なら少しだけ分かるかもしれません。
プレシアさんは、きっと。とても苦しんで、とても悲しんで。大切な一人娘を失って辛くて堪らなくて。でも、なのはみたいに支えてくれる優しい家族も残っていなくて。だから、ひとりぼっちで……
だから……
だから、彼女はある決断をしました。
アリシアの遺伝子を使って、娘のクローンを作り、大切な人を取り戻そうとしたんだそうです。
プロジェクトFと呼ばれる技術を使って。
その事で、なのははとやかく言うつもりはありません。
ただ、そのおかげで、なのはにとってのアリシアと会うことができたのは確かです。
生まれてきたアリシアの調整は完璧だったそうですが、ひとつだけ誤算があったとすれば、プレシアさんの体に限界が来ていた事でした。
魔導炉の事故の後遺症が、彼女の身体を蝕んでいたそうです。
わたしたちが見たプレシアさんの状態は、その事が原因でした。
記憶にも障害が見られるようになって、それでも娘のことだけは絶対に放っておけなくて。無理してでも調整を終わらせたのだと……ユーノさんが言っていました。
そして、プレシアさんが意識不明になって、面倒を見てくれていたリニスさんという方も消えてしまって。幼いアルフも負担を掛けないために眠りについた。
この空白の期間の間に、アリシアは何かをしたのでしょう。それが原因で、アリシアは魔法を全力で使うたびに苦しんでいる。放っておけば寿命も……
やっぱり、日記を書いても落ち着かない。
……きっと、わたしは後悔している。
結局、誰も助けられなかったから……
アリシア……
〇月×日
ユーノさんがアリシアの病の治療のため。そして封印されたジュエルシードを今度こそ安全に保管して、依頼主のところに届けるために、元の世界に帰ることになりました。
正直、寂しくないといえば嘘になります。まだ、何のお礼もできてないし、助けてもらった感謝も出来てないのに……
だから、数日だけ待ってもらうことにしました。
告白みたいな事を言われた時は、素直に嬉しかったです。
本当は、別れたくない。傍にいてほしい。
ひとりは寂しいから……不安になる。
でも、どきどきもしている。
ユーノさんの声が耳に残っている。
あの温もりがまだ残っている。
どうしてこんなにも意識してしまうんだろう?
やっぱり、別れてしまうから? もう二度と会えないような遠いところに行ってしまうから?
こういう時は誰かに相談するのがいい。アリサにも、すずかにも、そう教わったから。
わたしもしっかりしないと。
……アリシア、どうか無事でいてください。
ユーノさんがきっと助けてくれます。わたしも、精一杯アリシアを支えますから。
追伸
悩んだら相談しようってなって、アリサちゃんに相談したら、相談したら……
その、ちゅうしろって。
その方が男の子にとって忘れられない思い出になるからって。
わたしが、ユーノさんと―――
…………ふぇぇ!? どうしよう!? どうしよう!?
ユーノさんとキス? わたしなんかが、キスしていいの――!?
それで本当に喜んでくれるの!?
あわわわ、は、恥ずかしいよう。なのはは、なのははどうすれば!?
あぅあぅ、て、天国のお母さん。なのはに勇気を、勇気をください!!
~~~~~~っ!!
○月×日
昨日の事はその、一旦考えないようにしました。
今日はユーノさんと別れの挨拶をして回りました。わたしはその付き添いです。
父が相変わらずの態度でしたので、人としてそれはどうなのかとちょっと文句を言いそうになりました。
いくらなんでも縁側に座って背中を向けたまま、「そうか」なんて挨拶はないと思います。
兄はちゃんと寂しくなるなって、言ってくれて。それでも笑顔で見送ってくれたというのに。父は、もうちょっと愛想良くすればいいと思います。本当に。
月村家では忍さんに、わたしとの事でユーノさんがからかわれてしまいました。
すずかの事をこっそり見てみたら、ごめんねって仕草で謝られました……うぅ、企みが、ばれてます……
後で、わたしもからかわれるパターンです……
恥ずかしくなったので、ユーノさんと忍さんのやり取りから目を逸らしました。
月村猫さんは今日も元気です。他のねこたちも可愛い。ちなみに猫が名前らしいです。だから、月村猫さんです。
バニングス家では忙しい当主に代わって、アリサちゃんと鮫島さんが挨拶してくれました。
まあ、ジュエルシードなんていう危険物に子供が関わっていると知ったら、とても心配されてしまうので秘密裏に協力してくれたんでしょうね。
アリサのお父様のデビットさんは、魔法のこととか知らないと思います。
執事の鮫島さんは本当に人の好い初老の方で、ユーノさんの探し物が見つかったことを自分の事のように喜んでくれました。それからお嬢様の友人が遠いところに行ってしまうのは、少し寂しいですなとも。
父にも少しくらい分けてほしいですね。その愛想の良さを。
……わたしも少し欲しいかも。もうちょっと感情豊かで、素直になれたら。学校のクラスメイトにも仲良くなれた子がいたのかなぁ。
友達もアリサとすずかくらいしかいないですし。まあ、親友と呼べるくらい仲は親密ですけど。
こんな性格じゃなくて、もっと可愛らしかったら。それも、理想の妹と呼ばれるくらいに愛らしかったら。お父さんの心を、お姉ちゃんの悲しみを、もっと慰めてあげられたのかな……?
……はっ、いけない。いけない。
明日はユーノさんが遠いところに行ってしまう日。
こんな風に感情が乱れてしまって、悲しい顔をしてしまったら、最後の別れが悲しい思い出になっちゃう。
それに明日は――――
うぅ、やっぱり恥ずかしい――
本当にキスしなきゃだめなの……?
た、確かにユーノさんは優しくて、わたしよりも綺麗な人で、頼りになる男の子ですけど。そんなんじゃないですし。落ち着こう。心頭滅却です。おちつくんです。なのは。
でも、キスは大人の男の人と大人の女の人がするもので、結婚式とかデートとかで好きあう人同士がするもので。でも、ユーノさんの事嫌いじゃないし。でも、わたしとユーノさんは友達同士で、助け合う仲で、恋人ってわけでもない。いや、ユーノさんみたいな素敵な男の子がボーイフレンドさんだったら、なのはも嬉しいと思いますけど。それとこれとは話が別で。それにわたしみたいな武道一辺倒で、どこか男の子っぽくて愛想もない。すずかちゃんみたいな清楚さも。アリサちゃんみたいな明るさもない。二人みたいなお嬢様とか、可憐な花みたいな可愛らしさがないですし。女の子らしさなんてあんまり、ないと思います、し……うぅ、自分で書いてて悲しくなってきました。
せめて、お母さんみたいに料理上手で、お菓子作りも得意だったら、わたしも将来の夢はお嫁さんとか、そんな夢を持てたのですけど。お母さんの料理、とっても美味しかったらしいですし。シュークリームは特に絶品だったって噂ですが……なのは、あんまり覚えてないの……
お母さん……
ううん、しっかりしよう。
明日はユーノさんと会える最後の日。
なまえを呼んで、寂しくないように笑顔で見送るんです。
また、会えるって信じて。
それに、明日はアリシアにも会える。
今日は安静にしてないといけないから眠っていたみたいですし、最近はあまり会えてなかったですから。
アリシア、元気そうだといいなぁ――
今日は早く寝て、明日に備えよう。
○月×日
キスしてるところ見られちゃったの……
うぅぅ、不破なのは、一生の不覚だよぉ。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしいよぅ……
アリサちゃんのばか、ばか、ばか。
うわぁぁぁぁん。
追伸
前のページの事は忘れましょう。そうしましょう。
とにかく今日はいろいろな事がありました。
まず、アリシアの事ですが、何故がバニングス家に養子入りしてました。
アリシア・T・バニングスです。どうしてそうなったんでしょう?
何でも、アリシアの事を心配してくれる人が行くあてのない彼女を保護してもらうために、バニングス家の養子縁組を後押ししてくれたんだとか。
いくら何でも、バニングス家の息女であるアリサの一声だけで、養子縁組を結べるほど簡単ではなかったはずです。
本当に何があったんでしょう? 不思議です。
いや、何となくアリシアの事を知っていて、御当主であるデビットさんとも知り合いとなると、候補となる人物は限られてくるのですけど。
でも、父がそんな事をするとは思えませんし……やっぱり忍さんあたりなんでしょうか……?
この事は、考えても分かりませんね。
それからユーノさんにわたしたち四人の名前が刺繍されたスカーフをプレゼントしました。
きっとユーノさんのバリアジャケットに似合うと思います。
それと、レイジングハートを返却しようと思いました。
わたしには無用の長物です。元々、ユーノさんの物ですし、それにわたしの魔法では誰も救えはしないと、分かりましたから……だから、返そうと、思いました……
そしたら、ユーノさんはお守り代わりにと、レイジングハートを譲ってくれて。レイジングハートもわたしといることを嬉しそうに承諾してくれて。だから、嬉しいです。でも、わたしなんかが本当に持っていていいのかと、少し悩んでもいます。
……いえ、せっかく、ユーノさんがくれた大切な宝物です。わたしもレイジングハートと一緒にいると、心強いですし。それに、やっぱり魔法には未練があるみたいですから……
不破以外の力にもすがりたいのかな…………?
それとも、ユーノさんとの繋がりを失いたくない……?
手にした宝石はちょっとだけ温かい気がします。
今手にしている。この瞬間も。
ふふ、不思議な気持ちですね。心の奥が温かくなるような。
それから、それから――ユーノさんとは、また会うことを約束して。彼は遠いところに旅立っていきました。
今度はみんなで笑い合って過ごせるような未来を創るために。
アリシアの病気を治して、普通の人と同じように長生きできるように。
――寂しくなるなぁ…………
○月×日
代わり映えのしない日々です。
いえ、平和なのは良いことなのですが……
家にいると鍛錬ばかりしてしまって、学校と比べると退屈です。
久しぶりに盆栽、しようかなぁ……
○月×日
今日はすずかとドッジボールで決闘しました。
クラスに忍者の末裔の子がいて、少し苦戦しましたが、鍛え方が違うので負けるつもりはありません。
忍者の国家資格を正式に収めていた人だったら、こっちが負けていたでしょうけど。
まあ、隣のクラスと比べて、とても真似できない超人的な球技になりましたが、いい運動になりました。
ドッジボールのボールって回転がかかると、ちゃんと変化球になるんですね。
跳躍して回避しようとしたら、対空ボールの変化球が真上に飛んできたので、さすがのわたしも驚愕を隠せませんでした。まあ、空中で投げ返してやりましたけど。
あと、「すごい、超エキサイティングだよ。鮫島のおじちゃん!!」 とか、すごく聞き覚えのある声がしたような気がしましたが気のせいでしょう。
気のせいですよね……?
○月×日
今日は学校がちょっとした動物園になりました。
いえ、アリサは飼育委員なのですが、とても動物に好かれやすい体質なんです。
クラスの皆も周知の事実だったのですが、ハーメルン。いえ、あれはブレーメン音楽隊でしょうか。
ニワトリとか、ウサギさんがアリサの後ろをついて回って離れないのです。
彼女が餌をやろうと飼育場に入ると、取り囲んで体を摺り寄せて愛情表現までしてました。
どこからかやってきた子猫が、遊びたいのかじゃれついてもいましたし。
教師の人たちが事態を収めようと奮闘するよりも、アリサが一声掛けるだけで動物たちは言うことを聞いてしまいました。
アリサは将来、動物の調教師とかのほうが向いているような気もします。
まあ、将来のことが何も決まっていない。こんな、わたし何かが言えた義理ではないでしょうが。
しかし、動物たちに何があったんでしょう。
普段はもう少し大人しいのですけど、今日は珍しい事もあるものです。
何か、動物たちの好奇心を刺激するような事があったんでしょうか。
○月×日
……今日は疲れました。
アリサはもっと疲れているでしょうし、今も苦労しているんでしょうね……
……何となく、そんな予感はしていたんです。
でも、そこまで好奇心旺盛じゃないというか。普段はもうちょっと大人しかったというか。
今日は学校の授業の質問で、先生が生徒を指名しようとしました。
ちょうど、学校のお昼休みが終わった頃ですね。
それで、聞き覚えのある声が後ろからしたんです。
すごく元気よく。「は~~い!! ボクが答えたい!!」って
それでまさか、と思いつつも後ろを振り返ってみたら。
学校の制服を着たアリシアが一生懸命手を挙げていました。
昼休みのお喋りに思いのほか夢中になってしまって、教室に戻るのがギリギリになったのがいけなかったんでしょうね。
アリシアが屋敷に書き置きまで残して、いつの間にかクラスに潜入していた事に気が付きませんでした。本当に。
しかも、天真爛漫な性格と仕草が気に入られたのかクラスメイトといつの間にか打ち解けていて。面白そうな悪戯にクラス全員が協力する始末です。しっかりとアリシアの机と椅子まで用意されてました。
おまけに誰かから貸し出された教科書にノート。手には鉛筆と消しゴム。一緒に勉強する気満々です。
まあ、アリシアの心情も理解できます。わたしたち三人が学校に行っているのに、どうして自分はお留守番なんだと、疑問に思った事でしょう。
でも、アリシアは例のリンカーコアの障害以外にも、栄養失調とかいろいろあって、安静にしていなければいけません。わたしの家でしっかりご飯を食べて、療養したといっても、ジュエルシード集めの片手間に治療しただけです。とにかく食べて、休んで、適度に休憩して眠ることがアリシアにとって療養の最善でした。お医者様からもお墨付きをもらっています。しっかりリハビリしないといけません。
ですから、アリサが本当に心配して怒るのも無理はありませんでした。
しかも、何時もの可愛らしい怒鳴り方じゃなくて、その、静かに怒る……怖い感じの……
もう、仁王立ちでした。アリシアに有無を言わさず正座させて、言い聞かせるように説教してました。担任の先生が嗜めても、ひと睨みで委縮させる程の怒気を漂わせていて。わたしは先生の「ひゃい」なんて声は初めて聴いた気がします。クラスの皆さんもあまりの迫力に何も喋れません。顔を逸らしています。中には机の上に顔を埋めて黙り込む子も。
今回の件は、かなり怒っていると伝わったのか、アリシアもちょっとだけ泣きそうな顔をしてました。本当に凹んでいます。基本的にアリシアは叱られても反省してへこたれない強い子なのですけどね……
かくいうわたしも、アリサの本気の怒りを前に動けませんでした。ちょっと……トラウマ気味なんです。ごめんなさい。アリシア……
あれは、そう、アリサとすずかが、わたしの友達になったばかりの頃。
わたしが自分を顧みず鍛錬ばかりで、昼食も適当な感じで。人生を投げ捨てた世捨て人みたいな雰囲気を漂わせ、何もかもがどうでもよくなっていた頃。
心配するアリサを無視し続けて、適当に相槌ばかりをしていたら。いつの間にか正座させられて、目の前に仁王立ちで見下ろすアリサの姿があって……その後はどうなったのか覚えていませんけど。いっぱい怒られた気がしますね……本当に…………
だから、アリシアの気持ちはよく分かります。逃げようにも身体が硬直してしまって動けないんですよね? 人間は本当に怖くなると、身体が震えるんじゃなくて、動かなくなるんです。車に轢かれそうになった猫が咄嗟に動けなくなるように。
そんなアリサを嗜めたのは、すずかでした。いつものように、まあまあアリサちゃんって。それで事態は一応、解決です。
すずかは、いつも後ろで支えてくれて、どんな時でも寄り添ってくれる。受け入れて包み込んでくれる優しい子ですから。アリサの怒りも瞬時に鎮火させてしまいました。おまけにアリシアに優しく言い聞かせて、フォローして。クラスの皆にも先生にも気配りを欠かさない。本当に人を宥めるのが上手です。
どんな時でも一緒にいて居心地が悪くならないすずかは本当にすごいと思います。
その後も、勝手に屋敷からいなくなったアリシアを探して、学校まで追いかけてきたバニングス家の執事やメイドの人たちが駆けつけてきたり。警察の方から何事かと電話が掛かってきたりと、担任の先生が事後処理で大変な目にあってしまいました。
その、アリシアと一緒に本当にすみませんでしたって謝るしかなかったです。アリサも一緒に謝っていました。彼女は義姉として妹の責任をすべて背負う覚悟でした。すずかも友達として一緒に付き添ってくれて。いろんな人にご迷惑を……
だから、アリシアも、ものすごく申し訳なさそうな顔してました。意気消沈です。普段の元気百倍みたいな態度が嘘のようにしおらしくなってしまいました。まあ、自分の興味本位で、こんな事になるなんて思いもしなかったでしょうね……わたしも予想外でしたから。
アリシアに世界の常識をちゃんと教え込まなかったわたしたちにも非はあります。アリシアが悪いわけではありません。
なので、今度はアリシアが寂しくないように、授業の合間に特別に電話させてもらったりとか。皆に内緒で念話でお話したりしました。さすがレイジングハートとバルディッシュです。サポートが的確で、マルチタスクの負担もかなり少ないです。こちらから一方的に念話を繋ぐだけなので、アリシアのリンカーコアにあまり負担もないですし。
魔法を使ったお話は、クラスの全員に聞こえないので気分はちょっぴり悪い子です。
そして、数週間後にアリシアが無事に転入してきて、やっぱりクラスの人気者になっていました。早くも打ち解けて、病気のことで心配されても明るく振る舞っているので、クラスも気にしないようにしています。まあ、魔法を極端に使わなければ元気でいられますから。
もっとも、かなり遅い遅行性の病なので、ユーノさんの頑張りに期待です。わたしもフォローしてあげないと。
それにしても、なんだかんだでアリサはお姉ちゃん気質です。よくアリシアの面倒を見ていて、何かと気にかけています。気分的には友達だけど、妹でもあるので放っておけないと言いますか。そんな感じです。
まあ、気持ちは分かります。私もそうでしたから。アリシアの事は心配になります。とても大切な親友ですし、放っておけないです。
それにしても、仲が良さそうで安心しました。その姉妹仲がちょっぴり羨ましい気もします。
わたしもお姉ちゃんと久しぶりに話そうかなぁ――
○月×日
何事もない平和な日々です。
春の初めに起きた魔法の事件もなく、街は平和そのものです。
こんな日々がずっと続けばいいと思います。
○月×日
今日は久しぶりに姉が帰ってきました。
相変わらず酷い顔をしています。
目の下の隈。そして、やつれた表情を見ると心配になります。
だから、久しぶりにお帰りなさいって、声をかけたら無表情だった顔が驚いていたのが印象的でした。
親子、兄妹、姉妹そろって表情の変化が乏しいので、分かりづらいですけど。家族なので分かります。
けれど、その後はいつもどおり避けられてしまいました。姉はわたしを見ると、とても悲しそうな顔をします。
やっぱり、わたしでは家族に笑顔を取り戻せないのでしょうか……?
○月×日
五月の連休が終わると、姉はまた海外へ旅立っていきました。
あまり、お話することもできないまま…………
手元にはちょっとしたお土産が残りましたが、正直あまり嬉しくありません。
でも、少しずつ変わっていけたらいいなと思います。
ちょっとずつでも歩み寄って行けば、いつかきっと。
○月×日
最近、雨がひどいです。
一週間ほど曇りの日が続いて、晴れの日が来ない。
そんなことを考えていると、梅雨の季節だったことに気が付きました。
雨は苦手です。
あの日を思い出すから……
○月×日
今日はすごい雨です。嫌な予感がしま――
いま、ベッドの中に潜り込んでいます。
すごい風と雨で、雷の音も聞こえます。
レイジングハートが励ましてくれるけど……
やっぱり、こわい。
こわくて一歩も動けない。
だれか、たすけて……
だれか……
追伸
ドタバタと足音がしたと思ったら、アリシアがずぶ濡れで駆けつけてくれました。
レイジングハートがバルデイッシュに連絡してくれたみたいです。
それで、家に様子を見に来てくれていた来た兄は、アリシアを見ると呆れながらも彼女をお風呂に入れてくれました。泥棒さんと勘違いしていたのは内緒です。
なのはも、手を繋いで一緒にお風呂に入りました。
それから急にいなくなったアリシアを心配して、アリサから電話が掛かってきましたが、事情を知ると安心した様子だったみたいです。
でも、アリシアは電話越しに酷く怒られてしまいました。なのはのせいです。
ごめんなさい……
アリシアが来てくれて嬉しかったです。
怖くないように今も、一緒に眠ってくれています。
それから、アリサとすずかも一緒です。
習い事を終わらせて、わざわざ駆けつけてくれました。
毎年、酷い雨の日は、こうやって様子を見に来てくれます。
助けに来てくれて、ありがとう。
皆の温もりが暖かいから、よく眠れそうです。
もう、寂しくないから。怖くないから。
えへへへ、嬉しいな。
○月×日
ううぅ、とても申し訳ない気分です。
今日はアリサもすずかも予定を全部キャンセルしてしまいました。
絶対に、わたしのせいです。
えっ? ちょっ
これを見る人へ。
ボクはなのはの友達のアリシア・T・バニングスって言います。
やっぱり、悲しいことよりも楽しい思い出のほうが、日記を見たときに楽しいと思うんだ。
だから、ちょっとだけ日記を借りています。
前のページは見るなって言われたので、見ないことにします。まだ、あんまり漢字読めないし。
もっと、べんきょーしないと。
でね。今日はね。皆で夏休みの予定を立ててたの。
何でも学校では夏になると、たくさんのお休みがもらえて、習い事がいっぱいのお家でも、いろんな所に出かけたりするんだって。
ボク、母さんたちとアルトセイムの森とか、草原とかに出かけた記憶しかないから、とっても楽しみ。
アリサお姉ちゃんとか、すずかが言うには山とか海とかに別荘があって、今度とーきょーの一等地に共同でテーマパークを作る予定もあるんだって。
何でも遊ぶ園って書いてゆうえんち?って所を作るんだとか。
すっごい遊び道具とか、お魚さんがいっぱいの水ぞく館とか、夜になると星みたいにキラキラ光るパレードとかやるみたいで、ボクすっごく楽しみなんだ。
ボクの友達のなのはは、時々悲しそうな顔をするので、一緒に遊んで元気いっぱいになって、たくさん笑わせてあげるんだ。その方がぜったい楽しいもんね。それに、なのはが笑ってくれるとボクも、うれしいから。
アリサはちょっとおこりんぼだけど、ボクのお姉ちゃんになってくれた人で、新しい家族になってくれた大切な人。なのはとすずかと、ユーノ。それにアルフと同じくらい大切な人。あと、アリサママとアリサパパはすごく優しい人で、たくさん甘やかしてくれて。でも、心配もしてくれる。さめ島のおじちゃんもすごく親切で。バニングスのお家での暮らしは悪くない。時の庭園にいた時よりも楽しい。遠いところにお仕事に行っている母さんもきっと気に入ってくれると思う。
あと、いろんな犬がいっぱいいるの。アルフも友達がたくさん出来たみたいで、ボクも嬉しい。それにみんな人なつっこい良い子で、学校から帰ってくると甘えてくるし、一緒に遊んでると顔とか手をぺろぺろされちゃう。よく、ね転がって制服をよごすと、すっごくおこられるけど。
あと、バニングスの庭はとっても広いから、ボク、そこを駆け回るのが大好きなんだ。アルトセイムにいたころを思い出す。リニスに見守られながら、小っちゃいアルフと一緒に遊んでた。うんと、リニスがどうしてるのか分からないけど。きっと母さんの事を助けてくれてると思う。だって、母さんをとっても心配していたから。
それに、いつもごめんなさいねってあやまるの。だから、ボクとアルフはいつも元気いっぱいなんだ。リニスも母さんも、悲しませたくないから。いつも元気でいるの。
それから、ええっと、ええっと、違う。違う。楽しいこと。楽しいこと。あとで、消しゴムで消しこっと。
すずかはおこりんぼのアリサを止めてくれるすごい子なんだよ。ボクもね。すずかにぎゅうってされるとすごく優しい気持ちになれるの。なんだか暖かくて、それから落ち着いちゃうような。それでね、やさしく注意してくれて、それに何だか逆らえないの。素直に聞いちゃうというか。
お屋しきもねこがいっぱいいてみんな仲良しなの。よく、ちっちゃいアルフが逆に追い回されるけど。あと、なのははすごいなつかれていて、よくねこに囲まれて大変なことになるんだって。ボクもね。いっぱいなでなでしたよ。ねこさん。ひざの上に乗せると、とっても気持ちよさそうにして丸くなるの。かわいかったなぁ。
すずかの家には、おもしろお姉さんが住んでいて、よく一緒にゲームするんだ。ボク、レースする奴が好き。カミナリ落としたりとか、たけのこで爆走したりとか。
あと、すずかは絵本をいっぱい読んでくれる。ドラゴンを倒しておひめさまを救うお話とか。悪いマジョの呪いから、おひめさまをキスして目覚めさせる話とか。たくさん。たくさん。
そういえば、どうして、うさぎはたぬきを、カチカチして火をつけたんだろうね。そんなイラズラはしちゃダメなのに。
あと月にはおひめさまが住んでいてるんだって。竹の中におりてきて、それからお泊り会したあとに、男の人たちに難しい宿だいを出して。お月さまに帰っていく……そういえば夏休みに宿だいがあるらしい……遊ぶだけじゃダメなのかな。
そうだ。夏休みの終わりに全部まとめてやっちゃえば、あとは全部遊んで……いやいや、最初に全部ぱぱっと終わらせて、残りを楽しんだほうが、ぜったい楽しい。後で怒られるのはこわいし。うん、そうしよう。
えへへ、なのは、今度の夏休みはいっぱいいっぱい遊ぼうね。
ここまで、いっぱいボクの気持ちを書けたから、満足。
なのは、大好きだよ。
ええ、アリシア。
一緒に遊びましょう。忘れられない思い出を、たくさん作れるように。
それから、励ましてくれてありがとう――
わたしも、大好きです。