リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

26 / 84
●幕間3 それぞれの行動

 11月の終わりごろというべき季節。

 いつものように鮫島の送迎するリムジンで帰宅の途についたアリサ・バニングスは、屋敷の前で倒れている犬を発見した。犬といってもとんでもなく大型の種類。ゴールデンレトリバーか、それ以上の大きさを持ったどちらかと言えば狼に近い犬種。妙にもふもふで艶のある蒼い毛並みが気になるが、放って置くことも出来ず、怪我が回復するまで面倒を見ることにしたのだ。

 体毛に隠れていくつかの切り傷を負っていたが、それ以上に酷かったのが衰弱。元気のない様子でアリサを見上げて、弱々しく懐つき。外見から想像できる誇り高そうな部分は見る影もない。人に懐かなければならないほど追いつめられていたのだろう。

 愛犬家としてアリサは自分から献身的に世話をした。跡取り娘に何かあったら大変と執事やメイドが制止するのを遮ってまで行ったのだ。一応、人を襲うような気配がなかったので両親も渋々ながら許可を出したが、鮫島だけは傍に控えさせていた。万が一のことに備えてである。

 包帯を代えてやったり、警戒して食事を摂らない彼女(調べたら雌だった)を安心させるように撫でて、食べ終わるまでじっと堪えていたりと、忙しい合間を縫って世話をしたアリサ。そんなアリサに誇り高い狼が懐くのも、そう時間は掛からなかった。

 

 やがて、ヨノと名付けられた狼は元気を取り戻すとアリサと行動することが多くなる。

 

 ヨノは異様に頭が良くて賢い狼だった。扉のドアノブを自分で開けて行動する。アリサが鞄などの忘れ物をした時は、傷つかないように加えて届け出た。雇ったメイドや執事が怪我をしたり、困っている様子なら吼えて、人を呼んだ。

 しまいには広い庭でアリサを背中に乗せて、飼っている犬や警備の犬と共に駆け回ると、アリサはすっかりヨノの虜にされてしまって、大のお気に入りになる。それを気に喰わない犬と争うかと思われても、ヨノは先住の犬を敬って譲るところは譲り、喧嘩もしなかった。

 ここまで名犬のごとく活躍すれば、他の人間もヨノに全幅の信頼を置くことになる。しかも、誰に対しても懐いて決して嫌がらないヨノが好かれるのも当然のことで。今では、バニングス家の一員として、マスコット的な存在として可愛がられていた。

 アリサもヨノの傍にいることが多くなり、寝る時は一緒と部屋の中にヨノを招く。もはや凶暴だからと堅牢な檻に閉じ込めておく必要すらない。

 その信頼を得ることが作戦のうちであると知らずに。

 

◇ ◇ ◇

 

「おやすみヨノ。良い子にしてるのよ?」

 

「ウォン!」

 

「そうね。お前は悪いことするような子じゃないものね」

 

 天蓋の付いた絢爛豪華なベットの隣に大人しく居座るヨノ。彼女の頭をひと撫でしたアリサは乱れていたネグリジェを整えると、柔らかな羽毛布団に包まって眠りに付く。

 すやすやと寝息をたて始めた主人の姿を見計らっていたかのように、ヨノは伏せていた顔を静かにあげた。そして、起こさないように膂力のある四肢を使って身体を起こすと、その大きな体躯からは信じられないほどの忍び足で部屋の広場に移動する。不気味なまでに足音を立てなかった。

 ヨノは周囲を警戒するかのように見回すと、問題はないと安心したのか全身の力を抜く。さらに、身震いするかのように身体を揺すって、蒼色の光に包まれた彼女の姿は一変。二秒と掛からずに黒色の色気を含んだドレスを着る少女の姿へと、その形態を変えていた。ヘアバンドをした艶のある紫髪と特徴的な闇を凝縮したかのような瞳はナハト・ヴィルヘルミナその人である。

 

 はぁ、と彼女はため息を吐いた。

 

 バニングス家に潜入するためとはいえ、人の尊厳を捨てて犬に身をやつしてしまえば、誰だって溜めい息のひとつも吐きたくなるものだ。

 作戦会議のあと、ある程度の状況を此方側で操作しようと画策するマテリアル。特に八神はやてと接触することは早急の課題と言えた。シュテルの様子を観察することと、完全復活に必要な闇の書を入手するのだから最重要である。

 しかし、事を起こす前の直接的な接触は避けねばならない。向こうは蒐集の為に魔導師を襲っているので、迂闊に近寄るのはご法度だ。マテリアルの少女たちも魔法生命体だから、同じ存在である守護騎士も勘付くだろう。警戒されるのは目に見えている。

 だから、間接的に接触する必要がある。こうして誰かを媒介に様子を見ようというわけだ。そう、接触する可能性の高い月村すずかや友達のアリサ・バニングスとか。

 問題は潜入方法と誰が行くか、だ。まさか身寄りがないので拾ってくださいと馬鹿正直にいう訳にもいかない。レヴィは性格からして身を潜めるのに向いてないので除外。何よりビデオメールの件でフェイト・テスタロッサの姿を知っているすずかとアリサに妙に勘ぐられたら誤魔化しきれない。アスカも存在が有名すぎるので却下。

 ここで白羽の矢が立ったのはナハトだった。彼女はザフィーラの能力を継承しているので狼に変身できる。アスカに「アンタ、今日から野良犬」と言われ、「大丈夫、アタシなら絶対に怪我してる犬を見捨てないから」と模擬戦で傷ついた怪我をそのままに、バニングス家の近くに放り出された次第である。

 あとでたっぷりと埋め合わせをしてもらわないと割りに合わないとナハトは思う。好きな本を買ってもらって、ディアーチェの手料理を頂いて、レヴィとシュテルを着せ替え人形にして、アスカを好きなように弄りまわすくらいはしないと気が済まない。

 

 もっとも、良かったことと言えば、この世界のアリサ・バニングスと出会えたことか。

 ナハトはそっとアリサの眠るベットに忍び寄ると、だらしなく顔をにやけさせた少女の髪を愛おしげに撫でた。良い夢を見ているのかアリサの口から嬉しそうな寝言が漏れる。「えへへ~~そうよ、ヨノ……」と呟きを聞く限り夢の中でも変身したナハトと遊んでいるようだ。

 

「世界が違っても『アリサ』ちゃんは変わらないんだね」

 

『呼んだかしら?』

 

「うっ……ぷはぁ!」

 

『いきなり念話で話しかけないで、アスカちゃん。びっくりして叫びそうになったんだから、もうっ』

 

『そりゃ、悪かったわよ』

 

 あまりにも唐突に頭のなかに響いてきた親友の声。恐らく念話なんだろうが、いきなり過ぎて驚く。叫び出しそうになった口を両手で塞ぎ、漏れる息を吐きだしたナハトだった。

 アリサが目覚めてナハトの正体を見られたら計画が水泡に帰してしまう。それだけは何としても避けねばならない。

 

『でも、どうしたのアスカちゃん。何か問題でもあった?』

 

『いや、ナハトがアタシ、じゃなかった。アリサの携帯電話を見れなくて困ってるんじゃないかと思って』

 

『ううん、まだ見てないよ?』

 

『たぶん、パスワード掛かってると思うのよね。******で解除できない?』

 

 ああ、成る程。確かに向こうの状況を知ろうと言うのに携帯を見れないのは困る。仲良し三人組のなのは、アリサ、すずかは頻繁にメールのやり取りをする。それは、この世界においても変わらない。だから、八神はやてに出会ったとき即座に報告のメールが来るはずなのだ。こんな子と仲良くなったよ。今度紹介するね、といった具合に。

 ナハトはアリサの枕元からそっと携帯電話を抜き取ると、折り畳み式の画面を開いて操作する。すると、やはりというべきかパスワードが掛かっていた。アスカの教えてくれたパスワードを打ち込むと簡単に解除されたが。

 

『解除できたよ。でも、よくわかったね。パスワード』

 

『アタシ自身のことだもん。よく分かるわよ』

 

 それじゃ、と言ってアスカは念話を切った。あまり念話を使うと二勢力のどちらかに傍受される危険もある。長時間の会話はできない。今回は緊急のことだったので仕方なく使ったのだろう。

 それにしても、本当にアリサは変わらないのだとナハトは改めて驚かされた。たぶん、アスカとアリサが出会ったら以心伝心で互いの気持ちが分かり合えるんじゃないだろうか。そう、双子みたいに。

 ナハトは携帯電話のメニューからメールを選択すると履歴を覗いていく。やはりというべきか、圧倒的に多いのは、なのは、すずかのメール。次いで親、鮫島からの連絡が割合を占めている。

 最新のメールは月村すずかからだ。なんというか自分で自分のメールを見るのも変な気分になる。恥ずかしいと言うべきか。内容は風芽丘図書館で不思議な女の子とであったらしい。名前は八神はやて。どうやら随分早く接触していたようだ。

 何でもはやては記憶喪失の女の子を保護していて、彼女の記憶を取り戻すにはどうすればいいのか本を探しに来ていたらしい。そこで困っていた彼女をすずかが助けたそうだ。保護した女の子も連れていたらしく、幼くて甘えんぼだけど、どことなくなのはに似ていて驚いたとすずかは言っている。

 

 女の子の名前は八神セイというそうだ。

 

 添付されていた画像を開いてみると、車椅子に座った八神はやてと隣に寄り添うように立つすずか。そのすずかに嬉しそうな表情で抱きついたシュテルが映っていた。暗めの栗色の髪に、闇を凝縮した瞳は見間違いようもなく失った大切な女の子。

 届けられた封筒の情報は嘘ではなかったらしい。これは、早急に対策を取らなくてはならないだろう。ナハトは仲間に相談するために念話を繋げた。

 

『アスカちゃん聞こえる?』

 

『あ、ナハト。どうだった?』

 

『シュテルちゃん、はやてちゃんの所に居るよ。アリサちゃんのメールで確認したから間違いない』

 

『こっちもなのはのメールで確認したいんだけど、パスワードが分かんないから無理だったわね。でっ、どうするの?』

 

『ディアちゃんは?』

 

『なのはとぐっすり眠ってる。ここのところ添い寝してばかりよ。寝顔も穏やかでかわいいわよ? ナハトにも見せてあげたいくらいだわ』

 

『そっか。じゃあ、アスカちゃんと相談するしかないね。レヴィちゃん、寝てるでしょ?』

 

『最高にぐっすり。膝枕されてよだれ垂らしながら寝てるってユーリが言ってたわよ。それじゃあ、要件は?』

 

『昔、ディアちゃんの家で鍋パーティーしたの覚えてる』

 

『ああ、あれね。自己紹介もかねて親睦を深め合ったわ』

 

『うん、アレを早めようと思うんだけど』

 

『分かった。じゃあ、アタシが念話ですずかの家に電話して提案するか。詐欺まがいで嫌だけど』

 

『お願いアリサちゃん』

 

「ふぅ、ひと段落かな」

 

 念話を切ったナハトは再びアリサの寝顔を観察する。

 安らかに眠るバニングスの姫様はきっと非日常に巻き込まれるなんて思ってもいないだろう。そのことを申し訳ないと思いつつも、背に腹は代えられない。ディアーチェの命が係っているのだから。

 

「ごめんね、アリサちゃん。少しだけ悪い夢を見るかもしれない……ごめんね」

 

 にやけて眠るアリサの頭を撫でながら、ナハトは悲しげに謝り続ける。

 

◇ ◇ ◇

 

 次元航行艦アースラのオーバーホールと闇の書対策の切り札、アルカンシェルを搭載するために本局へと帰還したアースラチーム。それぞれの局員が次の作戦に対する準備行動を行っていた。

 リンディ提督は闇の書と、それに酷似した"紫天の書"は別物と考え、万が一に備えて人事部のレティ提督と掛け合い一時的な武装局員の増員を行うことにした。人員不足の時空管理局だが、闇の書クラスのロストロギアが相手となれば話は別で優先的に配属されているらしい。もっとも、闇の書に憎しみを抱く者も少なくないので選抜は慎重に行っているとか。

 エイミィは各地で頻発する魔導師襲撃事件のデータを整理している。今回の事件は負傷者が出ても殉職者や死傷者は報告されていない。闇の書事件の今までにない例だった。その為、目撃情報も多く集まる。しかし、紫天の書と思われるような襲撃事件はグリーン・ピースの一件以来報告されていないのだ。このことからも闇の書と紫天の書は別物であり、ロストロギアが二つ活動していると判断するには充分である。

 

 そして、クロノは仕事の合間に、無茶をした反動で寝込んでいるフェイトの見舞いを。ユーノは無限書庫に赴いて紫天の書の正体を探っているところだった。

 

「ほら、フェイト。果物の詰め合わせだ。好きなやつを食べるといい」

 

「……ありがとう、クロノ」

 

「じゃあ、アタシがフェイトの為に林檎とか蜜柑とか剥いてあげるよ」

 

 本局に備えられた医療ブロックにある個室。そこで安静に寝かされていたフェイトを訪ねてきたクロノは、手にしていた果物の詰め合わせ袋をアルフに手渡して、自身もベットの脇にある椅子に腰かけた。病衣を着せられているフェイトは思ったよりも健康そうで安心する。

 フェイト自身の怪我は大したことはない。非殺傷設定による魔力ダメージが主な症状で重大な後遺症も残らないと医者のお墨付きである。ただし、一日は病室で絶対安静にしなければばらばいと厳命もされたようだ。自業自得である。本人は自分だけ寝ているので、申し訳なさそうな表情をしていた。

 クロノとしては、むしろあのような無茶したことを申し訳なさそうに思ってほしいのだが。

 

「はい、フェイト。綺麗に剥けたよ? ほら、あ~ん」

 

「ありがとう、アルフ。はむ」

 

 果物ナイフを使って丁寧にリンゴの皮を剥いたアルフは、食べやすいよう一口サイズにカットすると使い捨て用の皿に盛り合わせた。そして、フォークで一刺しすると林檎の欠片をフェイトの口元に運んでやる。フェイトもそれを美味しそうに頬張っては咀嚼して飲み込んでいく。

 しばらく、そんなやり取りが繰り広げられたあと、急にクロノは座ったまま静かな動作でフェイトに頭を下げた。

 

「すまなかったフェイト」

 

「えっと、クロノ……?」

 

 クロノが頭を下げて謝っている理由が分からず、紅い瞳を真ん丸に見開いて驚くフェイト。空いた口が塞がらずにポカンとしている。

 だから、クロノはフェイトに思い出させるように説明する。自分が謝っているわけを。

 

「キミと約束しただろう? フェイトの代わりにシュテルや『アリシア』を止めるって。だけど、僕は彼女たちを止めることができなかった。約束を破ってしまったなら謝らなくてはならない」

 

「そ、そんな、クロノが気にすることないよ……わたしだって、その、役立たずだった、から」

 

「そう言って貰えると助かる。けど、自分を卑下するのは良くないぞフェイト。君だって充分頑張ったじゃないか。フェイトが助けてくれたからこそ僕は無事でいられたんだからな?」

 

「うん……」

 

「もう、しんみりしちゃってさ。暗い話はおしまい! それよりもクロノ。なのはの方はどうだった?」

 

 落ち込む主に気を使ったのか、ネガティブな話の流れを嫌ったのか分からないが、アルフは手をパンっ、パンっと叩いて場の空気を入れ替えると、話題を別の方向へと転換させる。

 フェイトもなのはのことは気がかりだったのか、クロノを催促するような眼差しで見つめた。

 エイミィが紫天の書の転移方向を地球近辺と割り出しており、相手がなのはやフェイトと瓜二つの存在。そして、レヴィの証言から推測される並行世界から来たかもしれない可能性。管理局は彼女たちが地球の海鳴市に出現すると予測して警戒していた。

 クロノは空間モニターを出現させると目にもとまらぬ速さでキーを叩いていく。画面上にミッドチルダの言語が凄まじい勢いで流れていき、ひとつの圧縮されたデータを解放した。フェイトが少しだけ読み取れた言語は音声データ。つまり、このデータは。

 

『えっと、これでいいのかな? ちゃんと録音されてる?』

 

『マスター。もう、録音は始まっていますからご安心を』

 

『あっ、そうなんだ。ありがとね、レイジングハート』

 

 高町なのはの声を録音した音声データという事だ。

 

「なのは、そっか無事だったんだ。良かった」

 

 なのはの声を聞けたことが嬉しくてフェイトは思わず笑みを漏らす。フェイトにとって高町なのはは特別な存在だ。苦しいとき、辛いとき、悲しいときに支えてくれる存在。ジュエルシード事件で何度もぶつかり合い、想いを分かち合った親友。フェイトにできた初めての友達。

 音声データはなのはの声を再生し続ける。

 

『クロノ君から緊急の連絡があった時はビックリしました。ダメだよフェイトちゃん。なのはが言うのもなんだけど、あんまり無茶して周りの人に心配かけないようにね。それと、例のドッペルゲンガーさん。友達のアリサちゃんやすずかちゃんに聞いてみたけど、それらしき子は見たことないの』

 

『なのはの方でも暇があれば探してみます。それじゃあ、お大事にフェイトちゃん。いつか会える日を楽しみにしています。かしこ』

 

 ここで、音声データは途切れてしまい何の言葉も発さなくなった。できればフェイトとしてはビデオメールのように映像つきで親友の顔を見たかったが、急を要したので音声だけなんだろう。なのはの安否を確認できただけでも良しとしよう。なのはが言っていたように、いつかは会えるのだから。それも近いうちに。

 クロノは展開していた空間モニターを閉じるとフェイトに向き直る。その顔は何やら渋面で困っているようだった。

 

「それで、なのはの言う事が確かなら彼女一人で探索を行うらしい。正直、僕としては自宅で安静にしていてほしいんだけど、注意しても無茶するのはジュエルシード事件で証明済みだ。だから、僕と武装局員数名を連れて現地に向かう事にした」

 

「わたしもっ……」

 

 わたしも一緒に連れて行って。そう言ってベットから身を乗り出したフェイトをクロノは手で制した。アルフもいけないと言わんばかりの表情をしている。なんとしてもフェイトを行かせないつもりなのだ。

 何せ医者から絶対安静を宣言されてしまっている。クロノも、主人を最優先に行動するアルフも、この時ばかりはフェイトの意見に反対だった。身体に魔力ダメージを残したまま警護や調査に参加させても足手まといにしかならない。

 どんなに頑張って説得しても行かせて貰えないと理解したのか、フェイトはあうぅぅと呟きながら委縮してしまう。フェイトとしてはなのはが心配で、皆の役に立ちたいのだが、どうやら周囲はそれを望んでないようだ。

 

「フェイト。絶対安静だ。ゆっくり休むのも仕事のひとつなんだ。大人しくしていてくれ。一日待ってリハビリすれば、すぐに現場復帰できる」

 

「そうだよフェイト。クロノの言う通りさ。少しは自分の身体を大事にしておくれよ」

 

「アルフ、クロノ…………分かった」

 

 長い沈黙の後にフェイトは渋々といった表情で頷いた。

 無理もないだろう。親友の高町なのはが事件に巻き込まれるかもしれない不安(もっとも、なのは自身は自分から首を突っ込んでいるが)。並行世界から来たかもしれない、自分と出生を同じくするレヴィの存在。管理局に殺されたと叫ぶ、友達候補のすずかと似たナハト。勝ち気な性格で自爆するような無茶して大怪我をしているアリサに似た少女アスカ。いろんなことが頭に浮かぶ。

 こんな自分でも誰かの役に立って助けたいという強い想いを持つフェイトは、なのはのことも、レヴィ達のことも心配でたまらない。できれば力になってあげたいのだ。

 

「それじゃあフェイト。ゆっくり休むんだぞ?」

 

 クロノは挨拶もそこそこに病室を去った。一度約束を破った手前、安易に任せろとか大丈夫だとか言えるわけもない。

 

 フェイトのことはアルフに任せる。クロノも面倒を見てやりたいが、つもりに積もった仕事がそれを許してくれないのだ。ため息のひとつも吐きたくなる状況。

 

「はぁ……」

 

 とりあえず、なのはが無茶をやらかそうとしていることに、ため息を漏らすクロノだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。