リリカルなのは アナザーダークネス 紫天と夜天の交わるとき   作:観測者と語り部

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〇全力全開! そして……

 クロノは一瞬だけ飛んだ意識を、気合と根性でつなぎ戻すと、体当たりするかのようにして真・ルシフェリオンブレイカーの一撃から助けてくれた人物の正体を見やる。

 絹糸のように美しい金糸に、黒衣のレオタードのような衣装と黒き戦斧。フェイト・テスタロッサその人だった。

 バリアジャケットのマントと左腕に装着されている銀色のガントレットが消失しているが、間違いなく彼女本人。第一、特徴的な赤の瞳と金髪のツインテールは一度見たら忘れられないくらい目立つ。見間違いようがなかった。

 フェイトの表情は安堵。助けることのできた喜びと安心感。

 

「クロノ……よかっ……た。ッあっ、痛ぅぅぅ……ぁぁぁあああ!!」

 

「フェイト!!」

 

 だが、それも一瞬だけのことで苦痛に顔を歪めて飛行する体勢崩してしまう。どうしたのかと、クロノが慌てて支えれば、彼女の背中のバリアジャケットが焼け千切れており、白い素肌が丸見えになっていた。

 非殺傷設定だったのか目立った外傷はないが、内部に浸透した痛みと衝撃は相当なものだろう。恐らく飛行するのも辛いはずだ。

 非殺傷設定の魔法攻撃は相手の魔力だけにダメージを与える。したがって身体を傷つけることは稀だが、痛みや衝撃はそのままだ。過度なダメージを負えば身体機能すら低下させ、当たり所が悪ければ昏睡、最悪は死に至る。

 シュテルの放った真・ルシフェリオンブレイカーを掠めただけとはいえ、薄い装甲は何の意味もなさずに、フェイトの背中に何かで削り取る様な激痛と間欠泉を浴び続けたような熱さを与えていた。気絶せずに意識を保っているのは、ひとえに彼女自身の強すぎる意志だ。

 

「いま治してやるから、ジッとしてろっ!!」

 

 助けてもらった礼を言うよりも、クロノを助けるために捨て身とも取れる行動をしたことに、心配する苛立ちが口から漏れるクロノ。

 フェイトを抱き寄せるように支えながら、S2Uの杖先にフィジカルヒールを展開。青色の癒しの光が、暖かで心地よい輝きとなって徐々にフェイトの痛みを和らげていく。

 しかし、フェイトは震える手で杖を遠ざけ、拒絶するかのように静かに首を振る。今にも気絶しそうな程に弱々しい瞳で、けれど、何にも屈しないと言わんばかりの意思を秘めた瞳でクロノを見詰めた。

 思わず、圧倒されたように息を呑んで、見つめ返すクロノ。どうして回復魔法を中断させるんだという反論を呑みこんでしまった。

 

「……ぉ……ぁ……て……」

 

「――!? なんだフェイト。何が言いたい?」

 

 か細い声で何かを呟くフェイト。自分を省みずに懸命に何かを伝えようとする少女の意思を汲もうと、クロノはフェイトの身体を抱き寄せ、口元に耳を近づける。互いの温もりと鼓動が伝わる。普段のクロノなら破廉恥だと赤面するだろうが、必死過ぎて気にならなかった。

 少女の願いを込められた呟きが、責任感を抱く少年の耳を通して、受け継がれる。少女の意思と覚悟を少年は受け取る。

 

「――分かった……僕に任せて休んでいてくれ、こちらの結界も破壊されたが、相手の結界も破壊された。すぐに救援が来るだろうから、大人しくしているんだぞ?」

 

 クロノの指示に静かに頷いて、安心したように瞳を閉じるフェイト。限界だったんだろう。恐らく気絶したのだ。

 健気なフェイトの呟きを聞いて、不甲斐なさと申し訳なさで、思わず顔を歪めるほどに歯ぎしりしたクロノは、フェイトを素早く地面に横たえると、少女の願いを叶えるべく。そして、己の時空管理局、執務官としての使命を果たすべく、背を向けて逃げるシュテルを全力で追いかけた。

 風を切り、草原の上を駆けるかのようにクロノが疾走すると、通り過ぎた大地に衝撃と爆音が伝わる。それほどまでの勢いだ。クロノ。ハラオウンが出し切る全力全開の飛行だ。

 

――お願いクロノ。あの子達を止めて、助けてあげて。でないと取り返しのつかないことになる。わたしは……だいじょうぶだから。

 

 それが、クロノに伝えたフェイトの言葉だ。

 マテリアルの少女たちを止めることも、助けることも、まともに動けるクロノにしかできないこと。

 自分よりも五つも歳の離れた女の子に頼られたら、男として、年長者として応えてあげたくなるものだ。それが、身を挺してクロノを救った心優しい健気な少女であれば、尚更に。

 

「待っていろシュテル・ザ・デストラクターと、その仲間たち。必ず追いつめて捕まえてみせる――」

 

 クロノの己を奮い立たせる誓いは、熱い身体と魂に刻み込まれて、彼のチカラを飛躍的に高めていくのだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「……フェイト・テスタロッサ。なんてことを」

 

 真・ルシフェリオンブレイカーを、凄まじい踏込と同時に撃ち放ったシュテルは、ルシフェリオンから溜まり過ぎた熱を排出しながら呟く。

 シュテルの身体を覆い隠すほどの白煙がデバイスから吹き出し、身体に熱がまとわりつくが、気にもならない。そもそも常時展開されているバリアジャケットで感じる温度は常に適温に保たれている。

 彼女を悩ませた存在の名はフェイト・テスタロッサ。

 クロノのルシフェリオンブレイカーに対する回避行動は見事な反射神経のおかげで、最適ともいえるタイミングを発揮した。素早さが伴っていれば確実に回避されただろう。もっとも、それを見越して、シュテルはぶっ放したのだが。

 必中必殺の一撃からクロノを助けたのは、フェイトだった。レヴィの八つ当たりか、愚痴のような報告を聞いて、無力化したものだと思っていたが、復帰したようだ。

 問題は彼女の行動と決断。あろうことか、自身のバリアジャケットを限りなく薄くして、高速移動魔法のブリッツアクションで、収束魔法の射線に割り込んで、突き抜けた。魔力の濁流が迫っているにもかかわらずだ。

 直撃、いや、掠めただけでもどうなるのか予測はできていたはず。それでもクロノを助ける為に実行に移すとは、なんという度胸と胆力。無謀でなければ、全力で惜しまぬ称賛を送っただろう。敬意すら表する。

 それでも、彼女の行動はシュテルを苛立たせ悲しませる。その、自身を蔑ろにする姿は、かつての『なのは』そのもの。なにより、シュテルだって無謀なことをする癖は変わらない。今も、昔も。

 

「――ちっ、馬鹿ですかシュテル。お前には関係のないことです」

 

 そう自分に言い聞かせても、納得しない。理解できても感情は納得しない。 シュテルの頭によぎる映像は、クロノに体当たりするように突っ込んで砲撃の射線から押し出そうとする少女の姿。

 それを、無理やり振り払って、友と同じ存在を傷つけたと泣き叫ぶ心を、感傷と罪悪感を引き剥がし、押し殺す。

 目の前で、親友を傷つけたクロノには容赦しないが、友と瓜二つで、並行世界という真実から同一存在だと考えるフェイトに怪我させた事実。それは、シュテルの心をかき乱すには充分すぎるようだ。

 鬱陶しい本心に、誰が好き好んで友に似た女の子を傷つけるか! と内心で吐き捨てたシュテルは、相手の様子を伺うことなく、後方へと全力で飛行していく。

 

 レヴィが高速機動のスプライトフォームを使ってまで、大怪我したアスカとナハトを救出。一か所に集めて後方で大規模な長距離転移を必死に準備してくれているからだ。

 本当なら怪我した二人を助けたいだろうに、あの子もまた感情を押し殺して、最優先の務めを果たそうとしている。

 きっと、いろいろな感情がグチャグチャでつらくて、苦しいだろう。それでも『力』のマテリアルは、余計な感情に耐えて頑張っているのだ。常に冷静沈着な『理』のマテリアルが理性を保てなくてどうする。

 

 だから、シュテルも全力を尽くす。

 外部から転移魔法を補助して迅速に完成させ、発動を促すのだ。一緒に転移するために近づく必要もある。

 それに、周囲を懐かしい魔力で構成された隔離系の結界魔法が覆いつつあるようだ。さきの強壮捕縛結界程の強度ではないようだが、砲撃で破壊するのも、術式に干渉破壊するのも手間が掛かる。この結界なら打ち破るのは、さらに困難。

 同時に後方からクロノの魔力と気配が烈風のごとく迫っている。とんでもない速度だ。だから、急がなければならない。

 

「レヴィ――!」

 

「――シュテるん!!」

 

 シュテルの焦ったような叫びを聞いて、気が付いたレヴィが嬉しそうな、元気いっぱいの明るい声を出したが、すぐに気を引き締めた。

 バルニフィカスを両手で握り、地面に突き立てる体勢を維持したまま、呪文を唱えるのを再開する。シュテルもすぐに駆けつけて、大地に展開された水色のミッドチルダ魔法陣に手で触れ、サポートとブーストをするべく干渉していく。

 

「逃がすものかぁ!! スティンガーレイ!!」

 

 そこに怒涛の勢いで接近するクロノが、レヴィに向けて高速の直射弾を放ってきた。命中精度、威力共に抜群な魔法。なによりバリア貫通効果が高く、フェイトを一撃で戦闘不能に追い込んだ実績がある。

 そうとも知らずに、咄嗟にレヴィを庇うように射線に割り込み、右掌を向けてシールドで防ごうとしたシュテル。飛行しながら射撃魔法を洗練させ準備していたクロノと、曖昧な術式で展開されたシュテルの防御魔法。どちらが勝つかは一目瞭然だった。

 

「かっ、はぁ……!!」

 

「シュテルゥゥゥゥ!!!! しっかり、いま――」

 

 まるで、発砲スチロールでも貫くかのように、いとも簡単にシールドを突き抜けたスティンガーレイは シュテルの腹部や右腕の関節に直撃。躯体を貫通こそしなかったが、シュテルがふらつき、膝を付いてしまう程の致命弾。

 ナハトと同じように口から血を吐き捨てたシュテルは、心配そうに泣き叫んで、駆け寄ろうとするレヴィを手で制した。むしろ、そのまま最速、最短で転移の術式に干渉して、無理やりにでも発動させる。

 シュテル自身を転移の効果範囲には含めなかった。一人分を減らせば、その分、術式の起動速度が圧倒的に早くなるからだ。

 展開された水色の魔法陣に朱色が混ざり、鮮やかな紫色に染め上げていく。

 

「――え? シュテるん!! だめだよぉ……キ、ミも………」

 

 シュテルの制止され、思わず硬直していたレヴィが意図に気が付いて、慌てて身を乗り出し、手を伸ばすが遅い。怪我が再生しつつあるアスカとナハト、そしてレヴィの姿が掻き消えていき、それぞれの魔力光を放つ光の玉となって、何処かへと転移していく。

 上空を突きあがり、蒼穹を駆け抜け、次元世界を包む空間へと飛び出していく。

 

「ブレイクインパルス!!」

 

 これ以上の転移はさせまいと、裂ぱくの気合と共にS2Uを突き出し、先端から固有振動波を纏わせてシュテルに叩き付けるクロノ。それをシュテルは、あえて前に乗り出し、脇を掠めて防護服の一部を破壊されながらも、脇でがっちりと抱え込んで離さない。

 

「ぐぅ、があああぁぁぁ!!」

 

 ただでさえ、内部の魔力構成を射撃魔法によって破壊されたのに、掠めた振動波で身体を構成する部分を微塵にされたとあってはひとたまりもない。苦痛に耐性のあるシュテルですら、思わず叫んで、声をあげるほどの激痛が駆け抜けた。

 魔力で構成、再現された血が口と、傷口から吐き出され、朱色の魔力残滓となって淡いきらめきを残しながら消えていく。

 それでも、シュテルはレヴィ達のサポートを続けた。痛みで集中力を失えば、魔法の効果は著しく低下するが、普段以上の魔法効果を、不屈の意志。否、不屈の魂によって叩きだす。

 時空航行艦アースラのセンサーに行方を探知されないように、全力を尽くしてジャミングを放ち続けたのだ。

 クロノが必死に抱えられたデバイスを引き抜こうと力を込めるが、シュテルの剛力ともいえる膂力で固められて、うんともすんとも言わない。まるで、火事場の馬鹿力、槍が深く突き刺さったまま抜けないかのごとく、どうにもできなかった。

 フェイトとの約束を果たせず、悔しげにシュテルを睨むクロノ。そして、狂笑ともいえる壮絶な笑みを浮かべながら、瞳に絶対的な意志を宿してクロノを見やるシュテル。

 

――お前だけは逃がさない!!

 

――貴方たちに大切な友を追わせはしない!!

 

 瞳を、視線を通じて互いの意思をぶつけ合うかのように、睨み合う両者。そんな二人をよそに結界魔導師と称されるユーノ・スクライアの展開した隔離結界が二人を包み込んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

 近づいてくる。近づいていく。シュテルの感じる二つの気配と魔力は、それぞれユーノとアルフのようだ。ユーノはシュテル達の所に、フェイトの使い魔であるアルフは、主人の身を優先してフェイトの所へ向かっているのか。

 

「いいかげんに離してくれないか? シュテル・ザ・デストラクター」

 

「そっちこそ離れなさい。邪魔ですよ? ええ、本当に――」

 

 忌々しい。そう呟いて、嫌気がするほど厄介で、人のことは言えないが、とんでもなくしぶといクロノ・ハラオウンとの拮抗状態を打破しようとシュテルは動き出す。

 だが、それは向こうも同じこと。クロノは空いた右手で人差し指と中指をシュテルに突き立てるように向けると、指先からスティンガーレイを構築、展開して射出する。狙いは顔面ではなく、傷ついたお腹。

 頭では非殺傷設定でも物理的ダメージを与えて怪我させてしまう。そんな、マテリアルの性質に対して配慮したのもあるが、頭部を捻って回避される可能性を懸念してのこともある。

 そうはさせまいと、誘導弾を瞬時に一発、生成したシュテルは、足元から突き上げるように、誘導弾を振り上げるように操作。クロノの右手首を弾き、射出されたスティンガーレイがシュテルの頬を傷つけて、あさっての方向に飛んでいく。

 チッと舌打ちしたクロノが何かをする前に、シュテルは相手の腹に蹴りを放ち、その勢いで距離を取ると同時にパイロショットで追い打ち。不意打ちを受けてよろけるクロノ。せき込むほど痛みや衝撃はない。バリアジャケットが吸収してくれるからだ。

 しかも、流石は執務官といったところか、瞬時に体勢を立て直して、側転で射撃魔法を回避しながら、お返しとばかりにスティンガースナイプでカウンター。回避しても無駄。誘導弾だから反転して襲ってくる。シュテルもパイロシューターで迎撃、相殺する。

 やはり、一筋縄ではいかないと歯噛みするシュテルと、密接近接格闘における身のこなしの素早さに、相手の戦闘力を上方修正していくクロノ。

 互いに、頭のなかで次の作戦を組み立てては、直射弾、誘導弾、囮の弾と様々な射撃魔法の撃ちあいで牽制を続ける。

 二人の攻防は美しい光景だ。周囲に青色と朱色の光が飛び交っている幻想的な光景は感嘆してしまうだろう。もっともやってることは血なまぐさい闘争なのだが。

 

「ッ、ブラストファイアー!」

 

 シュテルが何かに気が付き、クロノを誘導弾で牽制しつつ、探知した気配の方向に向けてルシフェリオンから砲撃魔法を放つ。続いて聞こえるのはサークルプロテクションの掛け声。

 見ずとも結果は把握している。防がれた。後方に跳んでクロノを射撃魔法で牽制しつつ、距離をとり、多方向から迫ってきた淡い緑色のチェーンバインドを回避。

 シュテルに焦りが生まれていた。状況がどんどん悪化しているのだ。逆にクロノは苛立つほどに冷静な澄まし顔。確実にシュテルを追いつめる算段を考えているのだろう。

 その焦りのせいなのか、いつの間にか後方から接近してきた気配に気が付けなかったシュテル。ようやく、感知した時には遅かった。完全なる背後からの奇襲。無意識の反射行動でプロテクションを展開する。

 

「うおらあぁぁぁ!! パリア――」

 

 迫りくるは獣のごとく、俊敏な身のこなしで接近する体格のいい女性。特徴的なオレンジ色の狼の耳と尻尾、額に紅き宝石を宿した使い魔。

 彼女の叫びに、この世界でも補助と厄介な攻撃魔法は変わっていないのかと舌打ちするシュテル。来るであろう衝撃にシュテルは備えた。

 

「ブレィィィィクッ!!」

 

 アルフの渾身の一撃。拳にまとわせた術式がシュテルの朱色に輝く光の壁をひび割れさせ、打ち砕いて、思いっ切りシュテルの顔面にめり込んだ。とっさに殴られる反対方向へと跳んで、威力と衝撃を軽減させるも、とんでもない威力の拳打だ。

 シュテルが草原を二転、三転と転がり、吹っ飛んでいく様子から見ても、その力がいかに凄まじいか理解できるだろう。

 使い魔アルフのバリアブレイク。拳に防御系魔法の術式を干渉破壊する魔法を纏わせ攻撃する。補助攻撃系の魔法。アルフの膂力と組み合わさって繰り出される一撃は、補助なんてレベルをとっくに超えているけど。

 本来なら、フェイトの攻撃を通すための一撃。しかし、今の一撃はアルフの全力が込められた必殺の一撃だ。

 大好きで、大好きで、愛しいご主人様のフェイトを傷つけた輩に対する、アルフの怒りの打撃。

 

「どうだい! 思い知ったか! これがフェイトが受けた痛みだよ!!」

 

「アルフ、殺す気じゃないだろうな? 頼むから少しは手加減してくれ……」

 

「ふん、まだまだ殴り足りないくらいさ」

 

 怒り心頭といった様子で鼻息を荒くさせ、気性の激しい性格を、さらに激しくするアルフを冷静に押しとどめるクロノ。もっとも、とうのアルフは腕を組んでシュテルを睨み付けたまま。

 

「大丈夫かい、クロノ? 妙たえなる響き、光となれ、癒しの輝きとなりて、傷つきし者に安らぎを、フィジカルヒール!!」

 

「済まない、助かったぞ。ユーノ」

 

 別方向から飛んできたユーノは、クロノに素早く駆け寄ると、独自の呪文と共に両手から癒しの魔法を放って、クロノを回復させた。

 そんななかで、シュテルは静かに立ち上がる。口元から一筋の血と鼻血を垂れ流す顔を拭い、ぶたれた頬に手を押し当てて、癒しの風で急速に傷を回復させていく。顔面が腫れて、みっともない姿を晒したくないし、なにより痛みがうざかったのだ。

 殴られたおかげで冷静に成れた。状況は最悪だが切り抜ける手段がないわけではない。

 シュテルは一度だけユーノを見て、何処か想いを馳せるような、けれど、哀愁に満ちたような表情をした。もっとも、それも一瞬のこと。

 誰も気づかぬうちに感情を冷徹に研ぎ澄まし、再び徹底的に心を潰す。

 かつての知り合いとまったく同じ姿、同じ在り方をする人間を傷つけるのは、激痛をともなうように、心苦しいから。

 

「さすがに厄介ですね。結界魔導師のユーノ・スクライアに、アリシア。いいえ、フェイト・テスタロッサの使い魔アルフ。二人の補助と、クロノ執務官の多彩な攻撃にさらされては、いくら私でも墜とされてしまう」

 

 不破『なのは』ではなく、星光の殲滅者として呟いた言葉は、シュテルでも驚くくらい、冷たかった。

 

「なのは……?」

 

「いんや、アンタも映像でみただろうユーノ。こいつは偽フェイトと同じく、なのはの偽者だよ。見た目に惑わされんじゃないよ?」

 

 粒子となって消えゆく血を拭いながら不敵に嗤うシュテル。ようやく気が付いたかのように、驚き目を見開くユーノと、偽者は偽者と割り切ってシュテルと対峙するアルフ。

 それぞれが、異なるリアクションを見せながらも、クロノだけはシュテルの気配が変わったことに嫌な予感を感じて、警戒を強める。

 シュテルが、静かに宣言した。それははったりではなく、本当なのだと理解させるような自身に満ち溢れた声。

 

「ですから本気を見せてあげましょう。『理』のマテリアルのみに許された真の力を」

 

◇ ◇ ◇

 

「真の力……だと?」

 

 クロノがシュテルの言葉を半信半疑といったように問いかけた。シュテルは静かに頷く。

 

「ええ、本来ならばレヴィにも資格がありますが、あの子では完全に使う事の出来ない能力ですよ。私の高速処理能力によって、はじめて実現できるのですから」

 

 シュテルの説明するような口調と共に、彼女の周囲に漂う魔力の気配が異質なモノへと変わっていく。

 朱色の魔力光が粒子となって周囲で輝き、それと同時に翠の魔力光も同じように輝く。

 

「そんな、馬鹿な! ありえないよ!!」

 

「落ち着けユーノ」

 

 信じられないものを見たように、驚愕するユーノ。彼は思わず叫んでしまう。クロノが務めて冷静にユーノに呼びかけたが、もっとも、クロノも内心で驚きを隠せない。それほどまでにシュテルの切り札は信じられないものなのだ。

 アルフも、警戒したように唸り声を上げて、組んでいた両手を、握り込んで拳を造りながら、徒手空拳の構えを見せた。動物の本能でシュテルの危険性を察知しているのだろう。

 

 シュテルから感じる魔力は二つ。一つの身体に異なる魔力が混在するというありえない現象が発生していたのだ。普通、というか絶対に魔力の質は一人に付きひとつ。その人の性質を表す魔力と魔力光は、何らかの要因で変質しない限り生涯、変わることはない。

 なら、目の前の現象はなんだ。説明が付かない。理解できない。

 

「なっ――!!」

 

「……ックロノ!!」

 

 驚き、警戒する間にシュテルの身体が瞬時に揺らいで消えた。何処へ? そう思い、慌てて探すクロノは咄嗟に飛びついたユーノによって押し倒された。そして、瞬時にクロノが立っていた場所にシュテルのブラストファイアーが通り過ぎる。

 クロノが、眼を見やれば、さらにありえない光景。

 シュテルの足元に展開するのは朱色のミッドチルダ式魔法陣と、翠色のベルカ式魔法陣。円形と三角形の回転する幾何学模様が二つの輝きを放って回転していた。

 

 これが、シュテルの切り札。ミッドチルダとベルカ。異なる術式の魔法を、膨大な処理能力によって同時使用する力。

 不破『なのは』にしろ、高町なのはにしろ、補助魔法は、それほど得意でもない。しかし、ヴォルケンリッターの参謀、湖の騎士『シャマル』は別。彼女の魔法と能力がシュテルの補助不足を補う。

 恐るべきは短距離をノーモーションで転移して、いかなる方向からでも奇襲、絶大威力の砲撃を放てること。両手の中指と薬指にはめられた指輪型デバイス、クラールヴィントが旅の鏡を作りだすことで可能になる能力だった。

 

「なに……?」

 

 しかし、背後からのクロノに対する奇襲はユーノによって避けられた。想定しない事態に怪訝そうに呟くシュテル。シュテルはユーノが転移する場所を感知していると予測して、行動を修正する。

 感知して避けられるというなら、避けられない攻撃を繰り出せばいい。シュテルの周囲に無数のパイロシューターが生成され、鏡のように光り輝く壁に吸い込まれて消えていく。

 

「なんだ……? ッ――アルフ、クロノ、その場を動かないで!?」

 

 ハッとしたように何かに気が付いたユーノが、仲間の二人に警告を叫びながら、呪文を高速詠唱。同時に素早く両手で印を結び、高等防御・結界魔法を完成させていく。

 妙たえなる響き、光となれ、不滅の城塞のごとく、我らを守護せし盾となれ。スフィアプロテクション!! そう叫んだユーノのソプラノのような声と共に、薄い半透明の障壁がアースラチームを包む。

 その瞬間、三人の魔導師を無数の鏡が完全包囲して出現。同じ数だけパイロシューターを射出して、大量の魔力弾が障壁に叩き込まれていく。

 これには、普段から冷静なクロノでも冷や汗を流した。転移魔法と射撃魔法を組み合わせた全方位多角同時攻撃。ユーノが居なければ瞬時に全滅していただろう。

 

(やはり、ユーノは優秀ですね。さすがは私の魔法の師匠。敵となると厄介です)

 

 強力な砲撃を感知されて避けられ、かといって発動速度に勝る射撃魔法は厚い防御で防がれる。相手にダメージを与えても瞬時に回復されてしまう。防御力と耐久力が組み合わさって、しぶとい。

 能力全開のシュテルとアースラチーム。全力でぶつかり合えば勝つのはシュテル。シュテルにはディバインバスター・フルパワーを抜き打ちで撃てる状態にある。

 しかし、消耗も激しい。この戦いで勝つことができても、後方に控えている戦力を退けることはできないだろう。ユーノのせいで短期決戦が望めないなら、最後の手段を取らざるを得ない。

 嘆くようにため息を吐きながら、ルシフェリオンの矛先をユーノへ。詠唱中の術者は隙だらけで、当てるのは容易い。いくら強力な防御でも、それを上回る砲撃をぶつければ、破壊できる。直撃は難しいだろうが牽制しないに越したことはないのだ。

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

 殲滅者が砲撃体勢を整える姿を見て、そうはさせまいとアルフが爆発的な脚力を持って、シュテルに飛び掛かる。

 砲撃が完成するよりも、アルフの打撃の方が速い。フェイト程ではないが、アルフも速度には自信がある。今なら防御で防ぐことも出来るだろう。しかし、拳の先に展開された魔法はバリアブレイクだから意味を為さない。

――先程と同じように拳を叩き込んでやる。そう息巻いて激情と共に襲いかかるアルフを、シュテルは横目で見て大胆不敵に微笑んだ。瞬間、アルフの背筋に悪寒が走った。嫌な予感がする。

 

「私がなんで空中戦に移行せず、地上で戦っていたのか分かりますか?」

 

 アルフを混乱させるように呟きながら、シュテルは準備していた魔法も、生成したルシフェリオンも消し去って、素手になる。利き手の左腕を矢をつがえるように引き、独特の構えをとる。空中から飛び掛かってくるアルフの攻撃にタイミングよく合わせて……

 

「それは、武術を行うとき、地に足をつけた方が本来の力を発揮できるからです」

 

 不破流奥義、透勁。鎧徹。但し魔法合成ノ武技。

 すなわち、強烈すぎるカウンターを叩き込んだ。

 

「掌底打、炎・滅・撃!!」

 

「ごはぁ……!!」

 

 アルフの拳打を交わしつつ、掌底打ちを、クロスカウンターで叩き込む。左足で踏み込んだ震脚と共に放たれた打撃は、アルフの鳩尾に深くめり込んだ。

 さらに、バリアブレイクのように魔法が付与された一撃は、叩き込まれた瞬間に爆発を起こし、アルフに胃液を吐かせながら吹き飛ばす。まるで、顔面に受けた借りを返すとでも言わんばかりの見事な一撃だった。

 爆発の反動で引いた左腕をシュテルはひらひらと振るう。さすがに全力で叩き込む掌底打ちは、手首に負担が掛かる。

 近接打撃、射撃魔法などの威力を軽減するバリアジャケットの防御。それを貫くにはこれくらいしなければならない。まあ、元は暗殺拳だが死にはしないだろう。

 

 隙だらけのシュテルの身体を、青と緑のバインドが、雁字搦めにした。見れば、クロノとユーノが手のひらをシュテルに向けて、捕縛魔法を放ったようだ。

 やれやれと、無駄だと言わんばかりにシュテルは静かに首を振る。彼女が少し力を込めただけで、縛り付けていた強固な魔法の鎖は、錆びつき風化したかのように、脆くも崩れ去った。

 

「なっ……!!」

 

「そんな、馬鹿な。干渉破壊が速すぎる」

 

「無駄ですよ。言ったでしょう? 尋常ではない処理速度を誇っていると。今の私に生半可な拘束魔法は効きません」

 

 シュテルの圧倒的な力を前にして、驚愕するユーノとクロノをよそに。彼女は淡々と、あくまで余裕を崩さない。

 それは、この状況で不利なのは、シュテルだからだ。力の差を見せつけるように戦ってはいるが、長期戦。それも消耗戦になれば、倒れるのはシュテルと目に見えている。

 少しでも優位に立ちたい、シュテルの苦肉の策。心理面を攻めて、精神的に余裕を保っているようにみせかける。

 

(……とまあ、余裕ぶっていますが……そろそろ、げ、ん界、です……)

 

 戦闘前に使った広域探知魔法。無数のサーチャー。戦闘直前に使用した大規模な広域ジャミング魔法。続いて最大出力で放った、真・ルシフェリオンブレイカー。再び広域ジャミングと高速処理による儀式転移の干渉と加速。追い打ちをかけるように、異種魔法の同時並行使用と全力戦闘行使。

 立て続けに、これだけの魔法を使い続ければ、魔法において天武の才があると褒め称えられたシュテルでも限界が来る。いや、とうに超えている。

 向こうは補助特化のユーノによって、体力、魔力共に回復可能というのが、状況をさらに悪化させていた。

 本当は荒い息を吐きたいし、立っているのだって苦しい。眩暈がして、意識が朦朧としそうだ。それでも立っているのは、ひとえにシュテルの不屈の精神力ゆえか。はたまた仲間との約束を果たそうとする決意なのか。

 不敵に微笑んでいた表情をよく見れば、彼女がやや、弱々しげに笑っているだけだと分かったはずだ。頬流れ落ちる汗も、限界を突破していることへの証明。身体を支える足も、杖を握る手も微かに震えている。

 

 シュテルはユーノが展開した結界魔法を解析する。やはり、強度は高いが、覆っている広さはそれほどでもないようだ。

 正直に言えば助かった。もはや、飛行魔法を行使するのも億劫。瞬間移動のような転移も、もって数回。ならば、一度だけ無理やりにでも全力砲撃。すなわち、ブラストファイアー・フルパワーで結界を減衰させ、最後の手段でもって破壊する。

 それで、長距離転移できればシュテルの勝ち。できなければシュテルの敗北だ。捕まるくらいなら彼女は死を選ぶだろう。

 震える手で、シュテルはスカートの内側から、カートリッジの装填されたマガジンをとりだす。ようやく、クロノがシュテルの虚勢に気が付いたようだが遅い。

 

「ユーノ、シュテルは満身創痍だ。今なら……」

 

「……ざん、ねん、ですが。私の勝ちです」

 

 なかなか嵌らないマガジンを、ルシフェリオンの窪みに差し込んで、魔力の弾丸を全弾装填。連続して吐きだされた薬莢が草原の大地に転がっていく。

 杖の先端に膨れ上がる様に、朱色の輝きが塊となって生成され、次いでクロノ達に向けてぶっ放す。クロノとユーノが左右に飛んで空に逃げ回避するなか、全力で放たれた朱き閃光は結界の壁を貫かんとする。

 しかし、流石というべきか、ユーノの結界は思いのほか強度が高い。いくばくか減衰させただけでビクともしない。しかも、修復が既に始まっているようだ。破壊しようにも時間がない。

 シュテルを昏倒させようと放たれたスティンガーの弾幕。或いは捕縛しようと向かってくる緑のチェーンバインド。周囲に発生しようとしている、アルフが放ったであろうリングバインドの気配。

 それらすべてを、瞬間転移によって避け、損傷させた結界の壁の近くに移動したシュテル。わざとらしく、偽天の書をクロノ達に見せつけるように、何もない空間から取り出した。

 

「あれは、闇の書……? いや、似ているが違う」

 

「……ッ、ユーノ・スクライア!! 全力でみなを防御なさい!!」

 

「えっ……くっ……!! 広域個別防御!!」

 

 紫天の書と形状、色彩がまったく同一の、偽天の書を見て、クロノが一瞬だけ硬直した。小さな隙だが、シュテルには、それで充分。

 消耗しすぎて言葉を喋るのも億劫だが、シュテルは気力を振り絞って叫ぶ。同時に、適当な数のパイロショットをデタラメにクロノ、アルフ、ユーノに向けて連射。特に深手ともいえる一撃を受けて、ふら付くアルフを重点的に狙う。

 動揺し、あるいは怪我によって動きの鈍る仲間二人。ユーノはフォローの為に防御に徹するしかないが、それでいい。

 これからシュテルが行うのは分の悪い賭け。命を賭けに、クモの糸のような可能性を掴み取る。そんな博打だ。クロノ達は身体を魔力で構成されていない分、危険度も少ないだろうが、備えさせるに越したことはないから。

 

 シュテルは偽天の書を結界の損傷個所に向けて、あらん限りの力で放り投げる。続いて最速で生成、展開したパイロシューターでソレを撃ち抜いた。

 

 瞬間、結界内を強烈な魔力爆発と閃光が包み込んだ。無秩序な破壊の乱流が、範囲内の存在すべてを襲う。

 偽天の書に内包され安定した状態の魔力が、意図的に乱され不安定になって暴発したのだ。脆くなっていた結界はシュテルの望み通り消し去られた。

 けれど――その代償は……

 

「きゃう……」

 

「なんて、熱と閃光なんだ、視界が……」

 

 アルフとユーノが、ラウンドガーダーの防御結界に包まれて、自分自身もシールドを展開して暴虐の光を防ぐ。それでも、熱や衝撃を吸収して和らげる防護服越しに、熱波の熱さを感じるのだから、どれだけ凄まじい熱量なのか想像に難くない。

 そんななかで、クロノだけは腕で両目を覆いながら、歯ぎしりしていた。

 

「シュテル、馬鹿なことを――!! 非殺傷設定の魔法でも致命的なダメージになる君が、そんなことをすれば……」

 

 呟きは無謀な策を実行に移したシュテルの身を案じての言葉。

 非殺傷とはいえ、残酷ともいえるほどに、苛烈な攻撃を仕掛けたクロノだからこそ分かる。どれほどの魔力量で、どれほどの威力の魔法をぶつければ、マテリアルズの少女たちに、どんな影響を及ぼすのか。

 ただでさえ全力ではなく、戦闘不能にする程度の絶妙な手加減で攻撃を仕掛けて、クロノはシュテルをボロボロにした。なら、純粋な破壊に特化した暴発する魔力の衝撃を受ければどうなるだろう?

 シュテル自身が良く分かっていた。死ぬぐらいなら、運が良い。悪ければ……システムそのものが消滅する。

 

――あぁああああああぁぁぁぁぁ…………

 

 シュテルの声にならない絶叫。暴発した魔力の轟音にかき消されて、クロノ達には聞こえない声にならない叫び。

 

――痛い、苦しい、熱い、あつい、あつい……

 

 身体が焼けるなんて生易しい感覚ではない。むしろ、削られていく、熱さと激痛を伴いながら、徐々に身体を削り取られていく。赤く熱した鉄のやすりで擦られているかのようだ。

 身に纏う防護服なんて一瞬で、まるで、鱗が剥がれ落ちるかのように消し飛んだ。白かった肌は無残に焼かれて黒焦げ。髪や、眼や、口の中がどうなったかなんて想像したくない。

 それでも、それでもシュテルは、最後の魔法を構成しようとする。防御も、回復も、身体を維持することも、あらゆる魔力を全て転移に注ぎ込む。

 この吹き荒れる魔力の爆光の中で、転移に成功すれば、アースラチームはシュテルの足取りを完全に見失う。捕らえることなど不可能。海水の中に混じった淡水を見分けることなど出来はしない。

 

――あ、れ……?

 

 でも、賭けは成功する確率が低いから、賭けなのだ。奇跡なんて起きるのは稀。

 シュテルは、全身に熱と痛みを感じながら、自分の仮初の身体が、地に倒れ伏したことを感じた。それどころか、意識が薄らいでいく。痛みや感覚が鈍くなって、何も感じなくなる。指一本すら動かせない。

 嗚呼、死んじゃうんだ。とシュテルは凍り付いた感情で思った。怖くはない。一度、生きたまま氷漬けにされていく経験を知っているから……

 

――いや、だ……いやだ……しにたく、ない……

 

 違う、嘘だ。怖くないなんて嘘だ。本当は怖い、死にたくない。痛いのも耐えられる。苦しいのも耐えられる。けど、自分の存在を、大切な人の記憶を失うのだけは耐えられない。怖い。

 浮かんでくるのは笑顔を浮かべている家族の映像。士郎、美由希、恭也、そして、ぼやけているが母親の微笑んだ姿。

 浮かんでくるのは己よりも大切な友の顔。『はやて』、『すずか』、『アリサ』、そして『アリシア』。

 浮かんで忘れていく記憶。感じなくなる心。徐々に四肢から消える身体。

 

――みん、な、との……はた、さなきゃ…………や、くそ……く………………

 

 それらを感じながら、シュテルは最後の最後で掴み取る様に、欠けた左手を空に伸ばした。

 

――諦めないで『なのは』ちゃん。大丈夫です。私が付いてますから。

 

 意識を失うなかで聞こえたのは幻聴なのか。慈愛に満ちた母のような、『湖の騎士』のこえだろうか。

 シュテルには分からなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 その後。

 アースラチームは、最後の爆発の瞬間にハッキングを受け、探査機能がシステムダウンしたことを、クロノ達は知る。

 リンディ艦長は、追撃を中断して、ハッキング対策と整備不足のアースラをオーバーホールすることを決断。その間、地球を中心とした周囲の次元世界を調査する局員。クロノ、フェイト、アルフ、ユーノ。そして、サポートのエイミィを現地の地球に先行させる。

 なお、星光の殲滅者の生死は不明。転移したのか、消滅したのか、痕跡は残っていなかった。

 

……その日、黒紫の王と欠片の少女たちは、ひとつの絆の繋がりを失い、断たれたことを記しておく。

 


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