鳥の鳴き声が聞こえる。 あれだけ暗かった外には今や太陽が空高くのぼり、生物に目覚めの朝を体全体を使って表現しとる。
でも、うちには迷惑な話や。 太陽がのぼるとうちの前には悪魔が現れるんやから。
うちの仲間は既に半分はヤられた......皆幾多の戦場を駆け抜けた歴戦の強者達や。 もの言わぬ屍となって味方の足を引っ張るその姿はきっと、そう遠くないうちの未来でもあるんやろう。
「生き残りは......あと何人や?」
『何とか無事、でも時間の問題かも』
『はやてちゃん頑張るねぇ......お兄さん将来が心配だよ』
『............』
「残りはうちも入れて三人......そろそろ限界やな」
返事がないのはつまりそういうことや。 さっきまで十人以上いた仲間は壊滅と言って良いくらいの被害受けとった 。
不意に意識が遠退いた、頭を振って無理矢理意識を保とうとするけど限界が近いのは間違いない。
「うちももう限界や、次で終わりにするで」
『......りょ~かい』
通信機から聞こえる仲間の声も何処か辛そうや。 それにまた一人ヤられた可能性がある。
武器を握り直して眼前の敵を見据える。 後ろでは悪魔が未だに手招きしとるからシャレにならへん。
......それから十分後。 うちにも限界が訪れた。
意識は途切れ途切れで、これ以上はきっと無理や。
「うちも......もう......」
『............』
どうやらいつの間にか戦っとるのはうちだけやったみたいや。 こんな小さな女の子より先に行くなんて情けない。
戦闘終了の鐘がなり、うちも武器件通信機の電源を落とした。
「............眠たい」
うちとエクソシストでも敵わない最強の
所謂ネトゲで一徹っちゅうやつや。
......アカン、頭痛までしてきた。
フラフラになりながらベッドに身を投げ出す。
ふかふかのベッドはうちの事を優しく包み込んで、もう離してくれへん。
「犯罪的やぁ......」
浮遊感にも似た心地よさ、意識がゆっくりと落ちていく感覚は何度経験しても飽きんなぁ。
この安眠のためなら多少の軽犯罪程度犯しても後悔はせえへんかもしれん、信号無視とか。
眠りに落ちるか落ちないかの瀬戸際でやけに耳に響く音が聞こえた。
枕元に置かれた黒い携帯電話。 うちに悪意でもあるんやないかと思ってしまう程に音を響かせるそれに、うちのテンションはだだ下がりや。
「こんな時間に.......いったい誰や」
お世話になっている病院の先生の場合もあるから無視できへん。 携帯を右手で取り半分閉じた目で見てみると其処には明らかに先生の名前やない文字が表示されとった。
《ラブリープリチーたばねちゃん》
.......勿論、うちがこんな名前を登録する訳あらへんし。 一体何時の間に設定を変えたんやろうか?
うちは露骨に嫌な顔をしながら携帯の通話ボタンを押した。
『ハロハロ~!! おっはよー!はやてちゃん!! あ、それともはやてちゃんにとってはお休みの時間だったかな? どちらにしてもオハヨウおはよ(ry』
プチリと通話を終了したうちはきっと悪うない。 平常時でも着いていけんテンションの高さ、電話の呼び出し音など比ではない大音量は通話を切るには十分な理由やった。
それから一分と経たずに呼び出し音が響き渡り、またうちの鼓膜を刺激する。
「.......今何時やと思うとるん?」
『良い子はとっくの昔に起きてる朝の七時だよはやてちゃん! ネトゲをして徹夜する小学生.......慢性的な寝不足で将来はやてちゃんのツルペタお胸が成長しなかったらと思うと束さんは夜も眠れないよ!』
「今日は何時間?」
『意識が落ちてた時間なら七時間! 束さんの大きなお胸の秘密は十分な睡眠時間にもあるのだよ!』
「そうなんか、じゃあ成長の為におやすみな」
『寝る子は育つからね! ぐっない☆.......ってちょ(ry』
何か言いそうになっていた束さんを無視して再び通話を切る。 今度は電源ごとや。
うちが知っとる彼女のあしらい方の中では不正解なんやけど今は少しでも眠りたいという気持ちが押し勝ってしもうた。
離れた場所で固定電話が鳴らす古臭い呼び出し音をBGMにうちの意識は微睡みの中に沈んで行った。
◆◆◆
「おっはようございまーす。え~本日は寝起きドッキリを仕掛けたいと思い八神家に潜入しております、いやーはやてちゃんの寝顔は可愛いですねぇ.......まるで起きているみたいです」
本来は赤に近い紫色の髪を黒く染め、わざとらしく声を小さく掠れさせながら此方を覗きこんできとるのは先程の電話の相手や。
うちはリビングで車椅子に座ってるにも関わらず、うちが寝とるって思えるんは彼女が寝てるんかツッコミ待ちかのどっちかなんやろう。
ニコニコと心底楽しそうにうちの顔を眺める彼女の名前は
.......一応うちの保護者や。
「ツッコミ待ちなん? ソレ」
「寝言でもツッコミを忘れないはやてちゃん! 其処にしびれる憧れ......ごめん、殴らないで」
思わず『テ』で殴ろうとしたうちを必死なんかふざけとるんか解らん半笑いで静止してきた束さん。
結局、束さんが来るまでにうちがとれた睡眠時間一時間と少しや。 頭痛は弱まったのは確かなんやけどそれでも機嫌が悪いのは確かやった。
それに束さんが家にくる前に連絡してくるなんて大抵が厄介ごとやから。
「漫才やなくて本題を聞きたいんやけど、聞いてうちは早よ寝たいんや」
「えー......束さんとしては外に出てお買い物をしながらゆっくりと話したいんだけど」
「却下や却下、こんな体調でそんなことできへんよ」
寝不足なんはまだ継続中でそんなことしとったら最終的にウトウトしながら聞くようになるんは確実や。
普通の世間話やったら束さんやしそれでもええ気がするんやけど、こういう時に限って束さんは重要な話を持って来るから困るんよ。
「じゃあ、本題だよ。 はやてちゃんはもうすぐ9歳だよね?」
「今年中に9歳になるなぁ.......。 あんまり覚えてへんけどな」
学校にも通わず、テレビも基本的に見いひんうちは季節感というか時間感覚があんまない。 八歳の時の誕生日も気付いたのは一週間以上経ってからやったぐらいや。
「うん! もうすぐだね、始まるまで」
「始まる? 始まるってなんのこと.......ああ、そうやった」
「忘れるなんて.......はやてちゃんはもうちょっと興味がないといけない事なんだけどなぁ.......」
束さんはしょんぼりと肩を落としとる、なんや重要な事らしいんやけど正直あんまり興味を持てんかった。
うちと束さんを含むある条件を満たした沢山の人にとって絶対とも言えるモノらしい。
「始まるんだよ! 一期! 無印! 原作が!!」
「ふーん、スゴいなぁ.......」
「運命が動き出すんだよ! 止まっていた世界が動き出すんだよ!」
「うちは思考を止めて眠りたいんやけど、あとうるさいで」
「はやてちゃんはその中心! ど真ん中にいるようになるんだよ!? こう.......何かないの!?」
「うち原作知らんし」
はぁ.......と大袈裟な溜め息をつきながら首を左右にふる束さん。
そない呆れたような顔をされても知らん物は知らんしなんか興味も持てんかった。
≪原作≫
なんでもうちの前世の世界ではアニメ、漫画、小説、その他沢山の方法で語られていたお話しらしい。
ストーリーはぼかして説明されたんやけど基本的には友情、努力、勝利で少年漫画みたいな話。
で、今うちが住んでる世界はそれに限りなく近い世界っちゅう訳らしい。
そして、そのお話しの重要人物がうちらしい........なんや迷惑なはなしや。
「それに、知ろうとしてもどうせ話してくれへんのやろ?」
「そうなんだけどね! まぁ今回は注意みたいなものだよ」
束さんの声がうちを心配するような声に変わり、思わず身構えてしまう。 何時もハイテンションな束さんが真面目な話をする、それだけ危険な事があるかもたしれんっちゅう事なんやろう。
「束さんがうちに注意? 物騒な事起こりそうな話になりそうやな」
「うーん........物騒って言うかね? あんまり外に出ないでほしいかなぁって」
「じゃあ心配いらへん、うち引きこもりやから買い物もめったに行かんし」
「あ! あと知らない人が来たら絶対鍵開けちゃ駄目だからね! 時期的に一番危ない時期なんだよ」
「危ない時期なぁ........。 今まで入って来た人達は鍵なんて気にした人おらんかったけど」
主に目の前にいる基本的にハイテンションな保護者とかやな。 他には.......変な人しかおらんかった気がする。
≪ピンポーン≫
「とにかくっ......誰だい、束さんが今大事な話をしてるって言うのに」
束さんの顔が一変する、敵意を隠そうともせぇへん冷たい顔に。
自分がやってる事を邪魔されるのは束さんが一番嫌いな事や、素直というか我慢がきかんというか。
「うちが出てくる、煎餅でも食べてちょっとやから待っといてぇな?」
「束さんが出ようか?」
「前に出てもらった時、あないな事になったから駄目や」
前出てもらったときは酷かった。 開幕早々罵詈雑言の嵐、おまけに拳銃まで突き付けて帰すんやからそれから暫く何時警察が来るかとビクビクしっぱなしや。 ソコまでしといて帰ったと解るや否やニコニコと上機嫌で世間話なんてするんやから質が悪い。
うちは車椅子を押してゆっくり扉に近づく。 除き穴かなんかで確認した方がええんやろうけど生憎、うちにはちょっと高すぎた。
「あ、八神さんのお宅ですか?」
「.......? そうやけど」
扉の向こう側におったんは男の人やった。 金髪の髪に赤い目でドラマとかに出てきそうなイケメンさん、歳は20くらいやろうか? 雰囲気的には優しそうな人や。
「あ、君がはやてちゃん? よく写真を見せてもらってるよ」
「へ?」
男の人の手がうちの頭に乗せられな頭をで始めた、それが突然過ぎて面を食らってしもうた。
払い除けるのもどうか思うてされるがままにしとると金髪の男の人は話を続ける。
「俺の事は聞いてない? 今日からはやてちゃんと一緒に暮らすようになったんだよ? オジサンがはやてちゃんを一人で暮らさせているのもどうかと思ったんだろうね」
「.......何言っとるん?」
「俺はグレアム叔父さんの親戚の
―――だかラはやくウチニあゲてくれナイ?
斎条湊と名乗った男の人の赤い目が淡い光を放つ。 光と言葉はゆっくりうちの思考を侵しそれが正しいように、絶対の事のように思わせようとしてきた。
うちはその言葉を正しいと思い込み.......彼をむかい入れてしまう―――
「はぁ? 何言っとるん? 気持ち悪いでそういうの」
―――訳がなかった。
「は?」
「大体、グレアム叔父さんって誰や? うちそんな人知らんよ?」
さっきから出鱈目ばっかり言ってこの人が何がしたいかがサッパリ解らんかった。 グレアムだの一緒に暮らそうだの寂しく無いだのこいつは何を言っとるんやろうか? うちの名前知っとるし人違いっちゅう訳では無さそうなんやけど。
「効いて........そんな、でも発動は間違いなく........」
男の人はブツブツと呟きうちを睨みながらゆっくりと後ろに下がっていく、うちがもしもーしと言っても反応無しや。 もしかして幻覚でも見てるんかな?
「はやてちゃん、煎餅のおかわりは........なんだやっぱり」
後ろから声が聞こえて振り返って見れば束さんが恐らく煎餅最後の一枚をかじりながら面倒臭そうに男の人を見とった。
「なんや束さんの知り合いなん? この人なんか気持ち悪いんやけど」
「ん~........顔は知ってるけど中身は知らない的な?」
「なんやそれ」
変な事を言う束さんから視線を外し再び男の人を見れば此方は驚いたように束さんを見とる。
「し.......篠ノ乃束!?」
「篠ノ義束さんだよ、し・の・の・ぎ。 解る?」
「糞、てめえもかよ!」
「どういう意味でかは知らないけど私
心底面倒臭そうに睨む束さんと怒りの表情で睨む男の人.......えっと名前誰やったかな?
なんや、言い争いを二人で勝手に始めたんやけど恐らくは当事者であるうちを置いてきぼりにして口論は白熱していく。
.......うち、寝てもええ?
正直何言っとるんかも解らんし興味も無いうちにとっては只の騒音被害でしかない。
束さんに退けてもらって家の中で終わるまで寝ていようかなぁと考え始めた時にそれは起こった。
「くそっ! はやては誰にも渡さねぇ!俺のもんだ!!」
怒り狂ったと言うか半狂乱になった男がうちの手を無理矢理引っ張り抱き寄せた。 そして強引に首輪らしき物をうちにつけると始めに見せた優しそうな笑顔ではなく如何にも小物っぽい笑みでうちを見つめた。
「くははっ! もうはやては俺のものっ!?」
それがあんまりにも気持ち悪いから思わず『テ』で叩いてしまう。
グチャリ
小さな、大きな、奇怪な沢山の赤黒い腕で構成された巨大な『テ』はその男の何倍もの質量で男を天高く吹き飛ばしてしもうた。
「あ」
反射でやってしもうたその一撃は手加減なんてしてる筈もなくて、まるでギャグマンガの様に吹き飛ばされた男の生死なんて明らかやろう。
.......これ、明日のニュースで出てくるんとちゃう?
だらだらと汗が吹き出してくる.......これはやってしもうたかも知れん。
「束さん.......アレ大丈夫やと思う?」
「アレがどうなろうとどうでも良いけど、大丈夫だと思うよ? だって、ホラ」
束さんがうちの首を、正確には首につけられた首輪を指差す。 うちは束さんが言いたい意味が解らず手で触りながら束さんに聞こうとした所で異変が起きた。
首輪が触った場所からドロリと溶け始めたんや。
まるでナメクジに塩かけたように溶け始めたそれはその全てが液体化するとあっと言う間に蒸発し跡形も残らんかった。
不思議な事や、だからうちはピンときた。 あの男の正体に。
「服従の呪いに感覚操作、オマケに感情操作? それを首輪という形にして物質化して概念強化.......ヘドが出るね、つけられたのがはやてちゃんで良かったかも」
「なんや? やっぱり束さんの知り合いなん?」
「一応秩序を守る束さん達と野良犬を一緒にしないで欲しいんだけど、細かく分類するならはやてちゃん側?」
「えー、うちこそ一緒にせんで欲しいわ.......束さんが注意しとったのってアレ?」
「うん、アレ」
概念、能力、魔法、魔術、宝具、そういう不思議なことは大体がアイツらのせいや。
大きく分類するならうちらも同類になってしまうソレ、国や.......もしかしたら世界からしても異形な力をもって産まれ
束さんはソレらを