転生少女リリカルはやて   作:すどうりな

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ただの夢、ただの記憶


プロローグ

 

 

 

 気がつくと月を見ていた。

 

 これは夢だろうか、きっと夢だろう。 あんなに月が綺麗なのはきっと夢だからだ。

 

 綺麗な綺麗な赤い月、現実離れな程大きく見ていて吸い込まれそうになってくる。

 

 月に見とれていると泣き声が聞こえた。 小さな女の子の声だ。 何を言っているのかも解らない、ただただ泣いて泣いて泣き喚いている。

 

 俺は月を見るのもやめて声を辿り、ふらふら足を進めた。

 

 何もない平野、探せど探せど声にたどり着かない。 いや、本当に何もない平野なのだろうか? ここまではっきりと泣き声が聞こえるのだ、辺りを見渡せば見つけられるはずである。

 

 

 

 ――――そうだそうだ此処には森があった

 

 

 

 そう思い出すのが速いか否か地面からは森が生えてきた。 木ではない森がである、数えるのが馬鹿らしいほどの樹木が一斉に生えてきたのである。 見えない森で遮られていたなら見つかるはずがない。

 

 声を頼りに少女を探す。 森を思い出してからというもの声がより近く、大きく聞こえるようになっていたのだ、これならば見つけられるだろう。

 

 こっちの木の裏だろうか? ......いない。

 あっちの木の陰だろうか? ......いない。

 あそこの木の穴の中だろうか? ......やっぱりいない。

 

 俺は何か探し方を間違えているのではないだろうか......そう気づけたのは声のおかげだった。

 

 いくらその場から離れようが同じ大きさで泣き声は聞こえたのだ。 俺の居場所では声の大きさは変わらない......つまり俺は何かを間違えていたのである。

 

 そしてその何かは簡単に思いついた。 声は自分が此処に森があったということを思い出してから大きくなっていた......つまり、まだ俺は思い出していない事があったということなのだろう。 

 

 声の主が自分と同じ距離で先程からずっとつけて来ているという気味の悪い考えも思い浮かんだのだがすぐさま否定した、それは自分の精神衛生上よくない。

 

 少女を見つけるのに足りない思い出そうとその場に座り込んだ。

 

 

 

 ――――ああ、そうだ此処は光で明るかった

 

 

 

 思い出すと少女の声は少しだけ大きくなった、少しだけ、ほんの少しだけである。 思い出すものが曖昧すぎたからだろう......そう結論づけて再び記憶を探ってみる。

 

 

 

 ――――光......火の光だ、森が燃えていたんだった

 

 

 

 木が燃え、弾ける音が聞こえる。 辺りは炎に包まれ真っ赤に燃えた。

 

 火が目前に迫っているのだ、それは泣くだろう。 夢を見ている自分は熱くないが夢の中の少女は熱いに違いない。

 

 立ち上がって再び少女を探す、声はもうかなり大きい......これなら見つけられるだろう。

 

 燃えた森を走り少女を探す。 きっと熱いだろう、苦しいだろう、助けたいという思いが足をより速く前に進めた。

 

 

 

 ――――大きな鉄が落ちていたんだった

 

 

 

 ――――鉄は大きな翼だった

 

 

 

 ――――翼は飛行機の翼だった

 

 

 

 ――――飛行機の胴体は少し離れた位置にあって

 

 

 

 ――――そうだそうだ、人だったものが沢山、それはもう沢山落ちていたんだった

 

 

 

 燃えて燃えて何もかもが燃えていく。 飛行機事故なのだろう......そんな考えもかき消すくらいに、少女の声は大きく強くなっていた。

 

 「思い出すな」という訳のわからない言葉が心から聞こえた、鳥肌が立つくらい嫌な予感もした......でももう止まれない。 

 

 

 それにもう......見つけてしまった。

 

 

 それは3人の人間、それは生きている1人と2つの人間だったもの、それは泣き喚く少女と両親の死体。

 

 それを見た瞬間に涙が溢れた、拭っても拭っても次から次へと涙は零れ落ちていってもう止まらない。

 

 

 

 ――――うちが悪いんか?

 

 

 

 いつの間にか両親は近くにいた、手を伸ばせば触れられるくらいに近く。

 

 

 

 ――――うちが本物やないからこんなことになってしまったんか?

 

 

 声はもうどこよりも何よりも近くで聞こえた、泣き声はうちの口から出ていたからや。

 

 

 

 ――――うちがあないなこと言わへんかったら、うちがあの時乗り遅れへんかったら......

 

 「仕方がなかった」......誰かの声が聞こえた。 

 2人組の声の主は空を飛んでいた、まるで魔法使いのようだ。

 

 きっと彼らなら両親を助けてくれるに違いない......魔法でこないな悲劇無かったことにしてくれるに違いない。 そう思って助けを求めた。

 

 

 

 「ごめんね......死んでください」

 

 

 

 次の瞬間にはうちの体は貫かれとった、赤い大きな槍に。

 

 

 

 ――――ああ、そうやそうや、そうやった

 

 

 

 続いて数え切れへんほどの剣が、鎌が、斧が、槍が、ありとあらゆる凶器がうちの体に殺到した。

 

 

 

 ――――飛行機を落としたのはこいつらや

 

 

 

 希薄になっていく意識、原型を失っていく身体......そないなことはどうでもよかった。

 

 

 

 ――――うちの両親を殺したんはこいつらや

 

 

 

 ただ憎かった、憎くて憎くてたまらなかった。 あんなに優しかった両親を殺したこいつらが許せへんかった。 内から出た黒い何か、口から出た言葉はたった一言やった。

 

 

 

 ――――「死ネ」

 

 

 

 綺麗な黒月

 

 

 真っ赤な泥

 

 

 無数の赤黒い手

 

 

 たくさんの光景が見えて、たくさんの死体が見えて......うちの記憶の夢はそこで終わった。

 

 

 

 




ただの呪い

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