アリスと白夜の出会いは、春雪異変まで遡らなければならない。
人形劇の後、人里の茶屋で湯飲みを傾けながら、アリスは隣で団子を頬張る無表情を横目に見ていた。
十六夜白夜、友人と呼んで差し支えないとは思うが、その実良くわかっていない相手だ。
あの紅魔の番犬、十六夜咲夜の妹というくらいか。
「――――それで? 貴女が人里にいるなんて珍しいじゃない」
「…………」
「いや、まぁ、いいけれど」
律儀にこちらと目を合わせてくれるのは良いが、三色団子を一口で口に入れてモゴモゴさせながらでは効果も半減だ。
そう、それで出会いについてだ。
しかし出会いとは言っても、実は一対一で出会ったわけでは無い。
終わらない冬の異変、その解決に動いた人間3人と共に彼女はいた。
弾幕戦にも参加せず、ただいる、という具合に見えたが。
その後の異変でも度々動いていたようだが、基本的には姉の咲夜のサポートに徹していた。
個人の実力はいかほどか、実の所アリスにもわからない。
「え、ああ。なるほど、おつかいに来たのね」
「…………」
「品物は……ふぅん、食糧ね。紅魔館で使うにしては、量が少ないみたいだけど」
「…………」
人を見る時、評価してしまうのは魔法使いの性なのだろうか。
外見は、表情が無いこと、言葉を話さないことを除けば美貌の少女だ。
日の光に映える金髪と、空のような紺の袴。
顔立ち自体は咲夜に似ている気もするが、アリスから見て気質は異なるように見える。
そう、気質――あれで露出の多い姉と違い、白夜は表に、前面に出ることが少ない。
そのためアリスの目をもってしても、白夜のことはわからない。
性格・力・思考、そのあたりの内面が読めずにいる。
はたしてこの人間の少女は、何を考え何を思い、悪魔の館に仕えているのか?
いかなる理の下に、生きているのか?
「まぁ、こうして見ていると……」
「…………」
「ああ、良いの。気にせず食べて頂戴」
何も考えていなさそうな顔で――無表情だが――パクパクと団子を食べている姿を見る限り、自分が考えているような大げさな思考は必要ないのかもしれない。
そんなことを思って、アリスは口元に小さな笑みを浮かべた。
手拭いなどを手に、白夜の頬についている小豆をとってやるあたり、どこか母性的というか、年上じみて見える。
まぁ実際、魔法使いとして不老のアリスの方が年上ではあるのだが。
(ああ、そう言えば)
その時、ふと思い出した。
春雪異変の際、解決に動いた人間3人と弾幕戦を行ったのだが。
札だ星だナイフだと大変に物騒な思いをしたものだが、あの時、白夜からだけは弾幕が飛んでこなかった。
(……んん?)
いや、そもそも白夜が弾幕戦を行っている所を見たことがあっただろうか。
……いくら思い返しても、そんな記憶は無い。
記憶力には自信がある、魔法使いに記憶違いはあり得ない。
さほど時間を共有していないせいか?
だが、それにしてもそのような類の話も聞いたことが無い。
(もしかして)
異変解決にも動員された紅魔館の従者、しかし弾幕戦の実績は聞かない。
もしかしてと思い、顔を上げ横を見れば。
――――そこには、白夜の姿は無かった。
「え?」
一瞬唖然としたが、白夜の姿はすぐに見つかった。
自分が座る茶屋の長椅子、テーブルも兼ねるその足元に蹲っていた。
何をしているのだろう、と思うのはほんの一瞬だ。
「……ええええ!?」
慌ててしゃがみ込んで背中をさすり始めるアリス、一方の白夜は無表情に顔色を青くしていた。
「…………!」
「お団子が喉に詰まったなら、ちゃんとそう言いなさいよ!」
我ながらなかなかに無茶を言っていると思いつつも、店員が持ってきたお茶を飲ませて事なきを得た。
良かった、紅魔館の従者が人里の茶屋でお団子を喉に詰めて死亡など洒落にもならない。
信じてもらえ無さそうと言う意味で。
「ああ、うん。お礼は良いから、お願いだから気をつけて食べなさい」
「…………」
「はぁ……幻想郷の連中って、手のかかる奴ばかりよね」
脳裏に白黒の魔法使いなどを思い描きながら、お団子のおかわりを要求している白夜――喉を詰めた後だと言うのに、こりないことだ――を見つめる。
ほぅ、と息を吐く。
もしかしたら、あの咲夜も似たような感じでこの妹に接しているのだろうか。
そう思うと、不思議と咲夜に親近感が湧いてくるというもので……。
「…………!」
「……って、どうして物の数秒でお団子を喉に詰めてるのよ!?」
再び蹲り胸を叩いていた白夜に対してそう言って、アリスはまた背中を擦りに行くことになった。
まったくもって目が離せない、それがアリスの白夜に対する感想だった。
良くも、悪くも。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
アリスさんは苦労性、きっとそう。
妹と言うのは誰の前にいようと妹的なのだと、いつか誰かが言っていたような気がします。
それでは、今回の妹シリーズを公開して、また次回です。
そろそろ妹シリーズも終わりそうですね、それでもあと何週かはありますが。
気まぐれ鈴鹿さん様(ハーメルン)
・霊烏路 虚(れいうじ うつろ)
種族:地獄鴉
能力:分裂を操る程度の能力
※物理的な分裂や精神的な分裂を司る力。
二つ名:旧地獄随一の智者
容姿:黒の長髪、白のブラウスに緑のスカート、ニーハイソックス。背中には鴉の黒羽根。
テーマ曲:地底の月はいついつ出やる
キャラクター:
地霊殿の主のペット、そして霊烏路空の妹。陽気な姉と違って知的な性格。クールな性格なこともあって、太陽の力を得た姉と対比して「地底の月」と呼ばれることもある。
地底の「経営」に対して興味を持っていない管理者、古明寺さとりに代わり地底を経営しており、事実上の管理者の仕事をしている少女。妖怪「覚」に逆らえるはずも無い。
それは、彼女の能力による。
思考分割
彼女は己の能力を使い、思考を分割している。つまり1人で複数の仕事を行うことが出来る。
他人の数倍の効率で物を記憶したり、処理したり出来るため、頭脳労働で彼女に敵う者はいない。
しかし思考依存であるため、古明寺さとりのように心や考えを読むような妖怪が相手だと、途端に不利になる。
ただ、さとり本人に言わせれば「1人でわぁわぁ五月蝿い」とのこと。
主な台詞:
「思考分割開始。はぁ、今日も書類がたくさん……」
「主さとり、今月も地霊殿は赤字です。経費の8割はペットの食費……ではなく、姉さんの炉の維持費と勇儀さんが壊した旧都の修繕費です……」
「姉さん、地底の温度管理をしてくれるのは良いけど。物事にはコストパフォーマンスというものがあってね……どう説明したらわかってくれるかな……」
「……主さとり、今日のなでなでを頂きに参りました……」