人里。
幻想郷において唯一、人間を襲ってはならないとされているエリアだ。
逆に言えば人里に留まり続ければ妖怪に喰われることも無い、だがそうも上手くいくはずも無い。
人里だけで自給できるわけでは無いので、水や食糧を求めに外に出なければならないようになっているのだ。
妖怪は人間を喰う、しかし人間という「資源」も無限では無い。
人間の数を保ち、かつ妖怪の勢力が強くなりすぎないよう絶妙なバランスを保つための紳士協定。
幻想郷の人間はこの紳士協定によって生かされ、そして妖怪を生かしているのである。
「わぁ……!」
「すごーい!」
(カッコいーっ!)
しかし、時として妖怪が人里を訪れることもある。
人間を必ずしも食糧とせず、姿が人間と変わらない者は、あるいは溶け込むこともある。
いわゆる「人間に友好的な妖怪」であり、特に有名な存在が2人いる。
そして、その内の1人が……。
「お人形さんが飛んでる! すごーい!」
「魔法みたーい!」
(この子、アリスの人形劇の種を一瞬で見抜いた……だと……!?)
人里の広場に、子供達が集まっていた。
彼らは半円を描くように座り込み、目の前で繰り広げられる人形劇に歓声を上げている。
人形劇とは言ってもただの人形劇では無い、魔法の人形劇だ。
青のエプロンドレスの人形「上海」と赤のエプロンドレスの人形「蓬莱」を中心に、それぞれに役割を振られた人形が宙を舞い、踊り、魅せる。
内容は騎士「上海」が、姫「蓬莱」を悪いドラゴンから救出すると言うオーソドックスなものだが、シンプルであるが故に人形劇のレベルの高さがわかる。
台詞は無いが、それが余計に人形師の技術を際立たせていた。
(いやぁ、運が良かったぁ。アリスの人形劇、今日だったんだねぇ)
偶然とは言え重畳、白夜は咲夜に命じられたおつかいを脇に置いて、広場で子供達に混じって――我ながら素晴らしい溶け込み具合だと思う――人形劇を見ていた。
<七色の人形遣い>、アリス・マーガトロイドの人形劇を。
(相変わらず、人形劇の枠を超えた人形劇だなぁ)
ほとほと感心するのは、身内に魔法使いがいるからだろうか。
小さな人間と見紛うばかりの人形達が、まるで自分の意思でそうしているのかと錯覚してしまう程に生き生きと、かつ自然に、動き回っているのだから。
人形の身体から伸びている糸が無ければ、人形と思わなかったかもしれない。
――――しかし、人形師もまた人間離れした美貌を備えている。
ボブカットに揃えた金色の髪に、感情の薄そうな碧眼、陶磁器のような白い肌。
青のノーズリーブにロングスカート、白のケープ、赤いリボンのヘアバンド。
10の指に嵌めた指輪から不可視の糸が伸び、それが陽光をキラキラと反射して、少女の美しさを幻想的な領域へと到達させていた。
まさに、幻想郷に相応しい。
(あ、目が合った)
胸の前で両手を忙しなく動かしていた人形師、アリスが、ふと子供達の中に混ざる少女へと視線を向けた。
本人がどう思っているかはともかく、5歳、6歳の集団に10は年上の少女がいれば嫌でも目立つだろう。
(……あれ?)
パタパタと手を振ると、ふい、と視線を外された。
白夜に負けず劣らず動きの少ない表情なのだが、気のせいか呆れを含んでいるような気がした。
いや、そもそも思い返してみれば、出会った頃から呆れられているような気がする。
最初に出会ったのは、そう、あの春雪異変の時だったか。
どんな出会い方をしたか、思い出そうとした所で……。
『白夜! 咲夜に負けちゃダメよ! 私の白夜の方が凄いんだって、お姉さまをぎゃふんと言わせてやるんだから!』
(ちょ、フラン様なに言っちゃってるんですか!?)
『あらフラン、貴女、私に賭けで勝てると思っているの? 私の咲夜が私に恥をかかせるわけがないじゃないの』
『むーっ、そんなことないもん! 白夜の方が凄いんだから! ね、そうでしょ白夜!?』
(え、いやいやまさか。咲夜姉にわたしが勝てる要素って皆無って言うか)
『ほら白夜も「は? 咲夜なんて小指で十分だし」って言ってる!』
(言って無いよ!?)
『…………』
(無言の咲夜姉怖い!?)
『ふぅん、そう。じゃあこの異変を解決できなかった方は、出来た方の主人に一晩好きにさせることとしましょう。フランもそれで良いわね?』
『もちろん!』
(……あ、わたしの命日って今日か)
……挫けそうになった。
いや、アリスとの出会いと言うより、そこに至るまでの入り口の記憶なのだが。
あの時は大変だった、何が大変って咲夜と異変解決を競うというムリゲーに挑戦しなければならないというあまりにもムリゲーすぎる状況が――。
(む?)
その時だ、何かふわふわした物が頭に触れるのを感じた。
ポムポムと叩いてくるそれは、紛れも無く人形だった。
顔を上げれば上海と蓬莱が白夜の頭を撫でていた、劇は終わったのだろうか。
「わー、おねーちゃん、いいなー」
「いいなー」
子供、特に女の子達が羨ましそうにこちらを見ていることにも気付く。
もしや白夜が落ち込んだのを察して、人形で慰めてくれたのだろうか。
周りの子供達を構い始めた人形を見つつ、アリスの優しさにむせび泣きそうになる。
そう言うわけで、当のアリスの顔を見ようと顔を上げた所で。
――――かぷっ
悪いドラゴン――の人形――に、頭から食べられてしまった。
視界、まさに真っ暗である。
まるで、白夜の前途を表しているかのような。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
人里1人目はまさかのアリスから。
人形劇というわかりやすい設定があるので、ぜひとも出したかったのです。
マリアリは、俺のジャスティス……!
というわけで、今回の妹シリーズです。
aki eco様(ハーメルン)
・キズリ
種族:釣瓶落とし
能力:遊火を落とす程度の能力
※幻の火の玉を操る能力
二つ名:しゃれこうべ愛好家
容姿:おかっぱ緑髪、白い着流し。桶の中。
テーマ曲:その首を置いてゆけ
キャラクター:
キスメと同じ桶で育った妹、趣味は人間のしゃれこうべを収集すること。
基本的に姉と同じく自分の桶の外に出ない引っ込み思案な性格、だが趣味のしゃれこうべに関しては凄まじいこだわりと執着心を見せる。
なお、弾幕はしゃれこうべの形をしている。
姉キスメの桶の隣にいるのが常だが、稀に単独行動することもある。
しゃれこうべ収集
彼女は人間のしゃれこうべを集めることが趣味である、死体を集めるお燐と仲が悪いのは愛好家同士だからか。
と言うのも、彼女は人間にも人間の死体にも興味が無いためだ。
ちなみに魔理沙のしゃれこうべの形が好みらしく、本人に「死んだら頂戴」と頼んでいるらしい。
主な台詞:
「しゃれこうべよこせー」
※他には何も喋りません、よりもによってこの台詞。