――――妹から見て、姉ほど「完璧」という言葉が似合う人間はいなかった。
容姿も、能力も、忠誠も、生き方も。
その全ての面において、姉は完璧に過ぎた。
ボブカットの銀髪に、青白のショートスカート・メイドドレス。
主への絶対の忠誠と、それを差し引いても余りある周囲の人間への献身。
本当に、同じ血が流れているのかと疑いたくなる程に出来た姉だった。
吸血鬼の当主は言う。
……あの子は、私が手に入れた満月よ、と。
悪魔の妹は言う。
……咲夜は、あたたかいよね、と。
動かない大図書館は言う。
……あれは、レミィの拾いものの中ではかなりまともな方ね、と。
同僚の小悪魔は言う。
……メイド長は、人間にしては強すぎますよね、と。
姉貴分の門番は言う。
……咲夜さんは、一生懸命な人だから、と。
「それは貴女の勘違いよ、私はそんなに完璧な人間じゃないもの」
「…………」
「――――そう、貴女にはそう見えるのね。でも、それは……」
――――姉から見て、妹ほど「完璧」と言う言葉から程遠い人間はいなかった。
性格も、才能も、精神も、生き方でさえも。
その全ての面において、妹は完璧とは程遠かった。
ロングの金髪に、赤黒のロングスカート・メイドドレス。
不完全で未発達な「程度の能力」は強固だが脅威では無く、従者としても欠点の方が多い。
忠誠でも献身でも無い別の何かで動き、それを言葉にすることも無い。
本当に、同じ血が流れているのかと疑ってしまう程に似ていない妹だった。
吸血鬼の当主は言った。
……あの子は、私が最も忌み嫌うものよ、と。
悪魔の妹は言った。
……白夜は、壊したら気持ち良さそうだよね、と。
動かない大図書館は言った。
……あれは、実にレミィらしい拾いものよね、と。
同僚の小悪魔は言った。
……侍女長は、とても美味しそうですよね、と。
姉貴分の門番は言った。
……白夜さんは、マイペースな人だから、と。
「
「…………」
「――――そう、貴女もそう言う『時』があるのね。でも、それは……」
だから、姉妹が逆の方向を向いてしまうのは無理も無いことだったのかもしれない。
同じ『時間』に生きながら、しかしまるで異なる『時間』に生きる2人の姉妹。
吸血鬼と言う、まさに幻想の極にあるような存在の傍に在りながら。
2人の姉妹は、互いに対する感情を現実のものとして受け止めていた。
――――すなわち、お互いのことを心から「大嫌い」だと言う感情を。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
シリアスな出だしです。
ですがあえて言います。
シリアスに見えるのは文章だけです。
今後読み進めて行く内に、読者の皆様はそれを知ることになるでしょう。
それでは、竜華零が描く幻想郷。
どうか心ゆくまで、お楽しみ下さいませ!
お楽しみ頂けたなら、竜華零にとって望外の幸せです。