僕は帽子を深くかぶり、誰もいない公園で周りの声や時間などすべてのことを思考から排除し、
ただボーっと無気力に無限に広がっている青い空を眺めていた。
僕は確かにあの時、ヨモツヘグリに生命力を食われ、戦いで負った傷で死んだ。
なのに……
「どうして僕は生き返ったんだ」
両手もある……両足だってちゃんとあるし死ぬ前の記憶もある……僕が行ってきたことの記憶も全て僕の頭の中に鮮明に残っている。
僕は敵だった……三直健太というこの世界を救った英雄と戦って、そして無様に死んだんだ。
なのにどうして、あの人は僕を生き返らせたんだ……戦極凌馬のようにヘルヘイムの知識全てを消去して甦らせたように記憶を削除したうえで甦らせればよかったはず……なのにどうして、
僕だけは何の手も加えられないままよみがえったんだ。
その時、ポケットの中でスマホが震えるのを感じ、取り出して画面を見てみるとそこには呉島貴虎という僕にとっては今、会いたくない人からだった。
僕は通話バーを下ろそうと指を近づけていくけど直前であの時の戦いの様子が思い浮かび、
指を動かす腕が止まった。
そのまま放置されたことで通話はその後も数秒、続いたけどすぐに切れた。
後ろからはビートライダーズが踊っているのか音楽が鳴り響いているのが聞こえてくる。
僕も以前はあそこにいたんだ……でも、それは以前の話。
戦いの記憶を持っている人たちからすれば僕は人類を滅ぼそうとした大犯罪者。
「どうして…………どうして死んだままにしてくれなかったんだ……っっ!」
突然、大きな爆発が起きた。
凄まじい爆音に驚きながらも僕は爆音が聞こえた方へかけていくとその間に多くの人と通り過ぎていく。
……僕は舞さんだけを価値ある人間とし、ほかの人間は無価値とした。
「っっっ! あれは」
爆発音が聞こえた場所へたどり着くとそこにいたのは漆黒の鎧に身を包んだ戦士……そう。
僕が一度、死ぬ前に何度も戦った三直健太が変身した姿である鎧武の姿がそこにはあり、
以前には見られなかった悪意が満ち溢れていた。
『ほぅ。貴様、呉島光実か』
「……誰だ、お前は。三直健太じゃないな」
『わが名は邪武……とでも名乗ろうか。次なる王だ!』
「くっ!」
奴が叫ぶと同時に衝撃波が僕に向かって放たれ、どうにかして踏ん張った。
『この世界は良い。俺には向かうものが全くない。この世界は俺のものだ!』
そう叫ぶと奴は掌から衝撃波を放って周囲の建物を破壊し始めた。
…………もうこの世界にロックシードも戦極ドライバーも戦うすべは残されていない……僕の戦極ドライバーを除いては……僕が闘っていいのか……人間を滅ぼそうとした僕が……。
『はぁ!』
「ぐぁ!」
考え事をしている間に奴に近づかれ、首を鷲掴みにされてそのまま持ち上げられた。
『この世界を手にした暁には別の平衡世界をも俺の手に』
「ふざ……けるな! 変身!」
『ぬっ!?』
『ハイー! ブドウアームズ・龍砲・ハッハッハ!』
戦極ドライバーにブドウロックシードをはめ込み、ブレードを下すと上空から降りてきたブドウアームズが奴に体当たりをして吹き飛ばし、僕を解放してから地面をバウンドして僕に被さり、展開されて、
右腕に紫色の銃が治まった。
大犯罪者の僕が生き返ったのは……こういう事なのか?
「はっ!」
『ぬわぁ! 効かぬわ!』
奴めがけて引き金を引いて紫色の光弾を放つも奴の持つ漆黒の湾曲した剣に叩き落された。
そして近づいてきて振り下ろされてくる剣を避け、至近距離から引き金を引くと奴に直撃し、
鎧の上で小さな爆発がいくつも起きるけど奴自身にダメージはなさそうだった。
『この程度かぁ!』
「ぐぁ! はぁ!」
『ぬぅ!?』
奴の振り上げられた剣で切り裂かれ、吹き飛んだ瞬間に空中で奴めがけて引き金を引き、
紫色の光弾を数発連続で放つと思ってもみなかった攻撃だったのか直撃した奴はそのまま数歩、
後ろに後ずさった。
倒すには今しかない!
『ハイー! ブドウスカッシュ!』
「くらえぇぇぇ!」
ブレードを一度おろし、引き金を引くと銃口から龍の形をした紫色の光弾が放たれてそのまま、
まっすぐ奴めがけて突き進んでいき、直撃して大爆発を起こした。
どうだ……直撃を受ければあいつもタダじゃすまないはず。
『-----スカッシュ!』
「なっ! ぐあぁぁ!」
そんな音声が爆煙の中から聞こえたかと思えば僕に漆黒の衝撃波が放たれて直撃し、
ろくに防御できなかった僕はそのまま大きく吹き飛ばされ、壁に直撃し、地面に叩き付けられると多大なダメージを受けたせいか変身が解除されてしまった。
『ヌハハハハハハハハ! 所詮は虫けらよ! 虫けらの放つ技など俺には効かん!』
「く……そっ!」
僕はまた……こいつに殺されることでまた死ぬのか。
『死ねぇぇ!』
奴が僕に向かって剣を振り下ろした瞬間!
『ぐぁぁぁ!』
顔を伏せた時に奴のそんな声が聞こえ、顔を上げてみると奴はかなり吹き飛ばされており、
その鎧の上からは煙が吹いていた。
そしてもう一つ。僕の目の前に黄金の輝きを放つ球体が降り立っていた。
この輝き……どこかで……まさかっ!
その輝きが消えていき、黄金の球体も姿を消すとそこから金髪にマントを羽織ったあの人が立っていた。
間違いない……髪の色や雰囲気はだいぶ変わっているけど間違いない!
「久しぶりだな。光実」
「な、なんで」
僕に降りったった人……それは三直健太、その人だった。
「この世界から邪悪な力を感じてな。どうやら奴は平衡世界の新たな王みたいだがな。
光実…………立て。俺と一緒に奴を倒すぞ」
「…………はい!」
僕は立ち上がって三直健太の隣に立ち、ドライバーからブドウロックシードを取り外してもう一度、
開錠して再びドライバーにはめ込むと上空に円形に開いたクラックからブドウアームズが現れた。
「変身」
「変身!」
『ハイー! ブドウアームズ・龍砲・ハッハッハ!』
ブレードを下すとアームズが僕に被さり、一瞬で鎧が展開されると僕の隣にノータイムで銀色の鎧を身にまとった三直健太が並び、自身の武器を手に取った。
……いつ以来だろうか。この人の隣で戦うのは。
「行くぞ」
「はい!」
『ウオァァァァ!』
僕たちが同時に駈け出すと奴も雄たけびをあげながら僕たちに駈け出してきた。
「はぁ!」
『ヌアァァ! グァァ!』
「はぁぁぁ!」
『グァァ!』
駆け出しながら奴に向かって弾丸を放つと奴は走りながら剣で弾丸を叩き落としたけど、
その隙をついて三直健太の剣から放たれた光の弾丸が奴に直撃して鎧で爆発が何度も起き、
奴がその場で立ち止まったと同時に僕と三直健太の蹴りが奴に直撃し、
2人の蹴りを直撃した奴は大きく吹き飛んで背中から地面に落ちた。
『ありえん! あり得んあり得ん! この俺が! 王のこの俺がぁぁぁぁぁ!』
『------スカッシュ!』
『ヌアァァァァぁ! ハァァァァァア!』
奴がブレードを下すとドライバーから聞き取れない言葉が放たれた直後に奴の背後に漆黒の色に染まった岩石のようなものがいくつも出現し、それらすべてが一斉に僕たちに向かって放たれた。
「ふん」
でも、僕たちに当たる前に三直健太が手を翳しただけで漆黒の岩石はその動きを止め、
三直健太がその拳を握ると粉々に砕け散って消滅した。
『なっ! こ、これほどの力は!』
「貴様は王ではない。王とは優しさと強さを兼ね備えた存在……貴様など王のメッキを張っただけの雑魚でしかない。行くぞ、光実。止めだ」
「はい!」
『極スカッシュ!』
『ブドウスカッシュ!』
『-------オーレ!』
「だぁぁぁぁぁぁ!」
『エアァァァァ!』
同時にブレードを下ろし、同時に飛び上って急降下の勢いを利用しての蹴りを奴めがけて放つが奴もブレードを二回降ろして剣に漆黒のオーラをのせて放ってきた。
放たれた衝撃波と僕たち二人の蹴りがぶつかり合う。
「はぁぁぁぁぁ!」
『なっ! グアァァァァァァ!』
僕たちの蹴りが奴が放った衝撃波を消し去り、そのまま奴へ直撃させると大爆発を起こし、
断末魔を上げながら奴は消滅し、奴がつけていたドライバーと漆黒のロックシードは砕けた。
奴が消えたのを確認し、僕が変身を解除すると同時に三直健太も変身を解除した。
「…………教えてください。どうして僕を生き返らせたんですか」
「……そこにぶつかったか。確かにお前はこの人類を滅ぼそうとした奴だ。他の奴らが許そうとも悪いが俺は当分、まだお前を許せそうにない……だからお前に戒めを与えると同時に役目を与えたんだ」
「役目?」
戒めの部分はわかるけど……役目って。
「戒めは真実を知る者たちからの決してなくなることのない冷たい視線だ。そして役目。
それはこの世界を見て回ることだ」
「世界を……みる」
「あぁ。お前は舞以外を人間を価値がないと言い放った。本当に価値がないのか、お前が世界を回ってみて来い。その役目が終わるまで死ぬことは俺が許さん。もし、世界を全部見終わって舞以外の人間は無価値だと結論付けたのだとしたら……その時は首を吊るなり飛び降りるなり好きにしろ。
お前も戒斗も視野が狭いからな……以前の俺もそうだったように。だが、人は変われる。
光実……世界を見て回れ」
そう言うと三直健太は僕に背を向けた。
「ま、待ってください! 僕はあなたに言いたいことが」
「光実。世界を見て回れ。世界は広いぞ」
「健太さん! すみませんでした!」
「……三直か」
「あぁ。どうだ? 心地は」
光実に会って伝言を終えた後、俺は戒斗の後ろへと移動した。
奴は沢芽市全体が見渡せるほどの小高い丘にいた。
「……三直。何故、俺を甦らせた」
「……役目を与えたからな。お前が結論付けたこの世界が本当にお前の言うとおりに進むのか、
それをお前自身の目で見てほしかったからだ」
「ふん。たかが80年で世界が変わると思うか?」
「思わん。だからお前の子供、孫、曾孫……そして子孫にその役目を託してほしい。
それができるのはお前しかいない」
「……良いだろう。見届けてやる。貴様の信じたこの世界が行き着く先をな」
「あぁ……じゃあな」
「健太。終わった?」
2人に役目を託し、ヘルヘイムの世界へと帰った俺を迎えてくれたのは白いドレスに身を包んでいる舞と俺たちの周囲を警護してくれているインベスたちだった。
独立した世界として時を進め始めたこの世界は徐々に一つの世界らしくなってきているが、
まだまだ異端分子が多い。まあ、従うやつらもいるなが。
「あぁ。終わった。もう俺が向こうの世界へ行くこともないだろう」
「そっか……この世界も向こうの世界に負けない世界にしないとね」
「あぁ。きっとなるさ……あの星がそうなったようにな」
その時、俺の背後で足音が聞こえ、振り返ってみるとそこには上級インベスが五体ほど立っており、
俺に対して威嚇をしながら手には武器を持っていた。
「たとえ最初は敵対していた奴でも分かり合える……俺はそれを向こうの世界で知った。
今度は俺が奴らに教える番だ……行くぞ。変身!」
―――――――――――――運命は進み続けるものにのみ試練を与える。
―――――――――――進み続けるものにこそ祝福は降り注ぐ。
仮面ライダー鎧武 Another Hero 完結。
これにて完結。なんか原作の終わりにブレイドを足したものでしたがいかがでしたか?
それでは!