「……ここは」
目を開き、周りの景色を取り入れてから数秒後……見慣れた場所だと理解した。
起き上がってみるとあいつとの決戦で負った傷はどこにもなく、服も全く汚れていなく、
さらに言えば疲労感も全くなかった。
ここは俺たちの拠点地……確か、俺はあいつの戦いの後、気を失って……。
その時、後ろに誰かがいるのを感じ、振り向いてみるとそこには初めて俺がアーマードライダーとなった時に俺に警告を与えてきた金髪の舞が立っていた。
「……舞……なのか」
『ごめん……健太。私……運命を変えられなかった』
舞は目から大粒の涙を流しながら俺にそう言った。
「……まさか、お前」
警告を俺に与えてきた女は……正真正銘、俺がともに生きてきた高司舞自身。
……神の……いや、黄金の果実は時間すらも超える力を持つのか。
『私はこの黄金の果実の力を受け入れた。この力を使えば健太や戒斗達が闘わなくて済む世界にできるってそう考えたから……駄目だった。時間軸の支配力はそれを越えていて本当に言いたいことが言えなかった』
ループしているのか……この物語が始まったその瞬間から時空を超えて過去へ向かった舞がアーマードライダーの力を手に入れた俺たちへ警告をし、その力を使わせないようにする……偶然、
今回はこんな結果になってしまったが……平行世界というものが存在しているのならば、
この物語とはまた違った世界があると言う事なのか。
「……舞」
俺は彼女の名を優しくつぶやき、そっと抱きしめた。
「確かにお前が行ったように過去へ飛べば時間の支配力によって未来は変えられないかもしれない。
でもな……未来は……運命っていうのは後ろに戻る力ではなく、前に進む力じゃないのか?」
『え?』
「俺たちこの世界に生きる七十億の人間すべてに未来を進む力がある。
その力は確かに後ろへは進むことができないのかもしれない……でも、前へ進むことで新たな未来の可能性を信じることができ、無数の未来が生み出される……運命っていうのはたった一つじゃないんだ。
その未来という道を進んでいく中の無数にある分岐点の一つでしかないんだ。
たとえ過ぎ去った運命を変えることができなかったとしてもこれから来る運命っていうのは、
いくらでも変えることができる。たとえ黄金の果実を持っていなかったとしてもだ」
『……貴方は戒斗ととは違う未来を選ぼうとしている……』
そう言い、舞が壁の方を指さしたので俺もそちらの方を向くといつの間にかテレビがついており、
その画面に傷だらけの戒斗と余裕綽綽の戦極が映っていた。
そして戒斗は近くに生えていたヘルヘイムの果実を手に取り、それを貪りついた。
テレビからは音声が流れてはこなかったが戦極の驚きようは画面に映されている奴の表情で分かった。
そして数秒後……戒斗の全身が緑色に発光したかと思えば奴のポケットからバナナ、マンゴー、
レモンエナジーのロックシード、そして戦極ドライバーがひとりでに外に出ると、
ヘルヘイムの植物に塗れている奴へ飛び込んだと同時に植物が辺りに飛び散り、
通常のインベスとは違う……そして、
姿だけで通常の上級インベスとは次元が違う力を持っていることが分かった。
そこで、テレビの映像は途絶えた。
『戒斗は森の力を使ってこの世界を潰し、新たな世界を作ろうとしている……自分が王になるために』
そう言うと舞は俺から離れ、徐々にその姿が薄くなり始めた。
「おい、舞。どこに行くんだ!」
『健太……信じてるよ』
「舞!」
「健太! 起きちゃダメ!」
そう言われ、後ろから無理やりにベッドに押し込まれたかと思うと周囲にラットとチャッキー、
そして姉貴がいた。
……工場内で倒れているのを助けられたわけか……そして舞と会ったときに映し出されていた映像がもし現実のものを映していたのだとしたら戒斗はすでに人間を超えた存在になっているな。
光実も消え、舞も消え……そして最後は俺か戒斗すらもこの世から消えてしまうのか。
「……凰連と城ノ内、ザック、ペコはどうした」
「あの四人は湊さんと戒斗さんを探しに行った」
チャッキーにそう尋ねるとそんな答えが返ってきた。
世界は……何を望んでいるんだろうな。
そんな時、拠点の入り口が凄まじい音とともに開き、息も絶え絶えの城ノ内と凰連が入って来るや否や二人の手に真っ二つに切り裂かれたロックシードと戦極ドライバーが握られていた。
「大変よ! ムッシュバナーヌと湊、ザックとペコまで裏切ったわ!」
「戒斗もなんかインベスの姿になっちまうし!」
……どうやら俺が見た映像は現実のことらしいな。
湊は理由はわからんがあとの二人が裏切った理由は何となくだが分かる……かつてのリーダーが創り直す世界に興味を抱いたのか、それともただ単に元リーダーの下に戻ったのか。
凰連の話を聞いて、傍にかけてあったジャケットを羽織り、拠点を出ようとするが後ろから腕をつかまれ、
振り返ってみると姉貴が俺の腕をつかんでいた。
「あんたそんな体でどこ行くのよ!」
「戒斗のところだ。あいつを倒す役目は俺にある……それにけがはもう治った」
そう言って包帯が巻かれていた箇所を見るとすでに傷は見えなくなっており、そのことに驚いているあまり動けなくなっている姉貴を置いて、拠点の扉を出ると同時にクラックを開き、その中へ飛び込むと、
ちょうど目の前に四人の姿があった。
「戒斗」
「三直か……光実は死んでいたぞ」
だろうな……両肩に穴が開き、ヨモツヘグリに生命力をあらかた吸収させたんだ。
「お前はいったいその力で何をしようとしているんだ」
「俺は世界を作りかえる。弱きものが強き者に圧せられぬ世界を」
「この世界でそれを実現することは無理なのか」
「俺はそう結論付けた。戦極、ユグドラシル、オーバーロード、それらを見てきた結果だ。
貴様はこの世界を……この古い世界を変えるというのか」
「……変える気はないさ。俺は世界をこの滅亡の危機から救う」
そう言うと戒斗は俺を睨み付けながら手をこちらへ向けるとそこから衝撃波が放たれ、
地面をえぐりながら俺に向かってくるがそれを手で弾くように軽く手を振るうと、
向かってきた衝撃波が消滅した。
『カチドキ!』
「……変身」
『ソイヤ! カチドキアームズ・いざ出陣! エイエイオー!』
「それでいい。あの時を決着をつけるぞ! うおあぁぁぁぁぁ!」
奴が叫ぶや否や全身が輝きだし、
その輝きが消えると同時にバロン・バナナアームズの姿になっていた。
インベス時にロックシードもろとも戦極ドライバーを吸収したのか……。
俺は無双セイバーを手に取り、火縄大橙DJ銃と一体化させると同時に、
奴もバナスピアーを握りしめ、いつでも俺を迎え撃つことができるように構えをとった。
「あぁぁぁ!」
「あぁぁぁっぉぉ!」
互いに叫びながら駆け出し、己の得物をぶつけあうと目の前で火花が散ると同時に、
周囲に衝撃波が拡散し、周りの道路を埋め尽くしていたヘルヘイムの植物が吹き飛んだ。
ぶつけた剣を力づくで横薙ぎに振るうがその勢いを利用して戒斗は回転し、
俺の方にバナスピアーを向け、先端で俺を貫こうとするがそれを腕で弾いた。
「俺もお前もすでに人間ではない。貴様は世界を救う事だけし考えていない!」
「それがいけないのか」
「当たり前だ! 貴様、この古い人類を残したまま救えば貴様自身がどうなるか分かっているのか?
英雄、救世主……そう呼ばれるのは少しの間だけだ。すぐに貴様の持つ力に恐れを抱き、
やがては貴様を排除しようとする。それでも貴様は人間を救うというのかぁ!」
そう叫びながら戒斗はバナスピアーを振り下ろしてくるが俺はそれを素手で受け止めた。
「なっ!?」
「そこが俺とお前の違いだ。人間を信じれるか否か……お前は今の人間を信じていない!」
「ぐあぁ!」
足を振り上げ、奴の手首のあたりを蹴り飛ばすと同時に掴んでいる手を思いっきり引くと、
奴の手からバナスピアーが抜け、さらにそれを投げ捨てて剣で縦に1回、
さらに下から上へ剣を振り上げ、奴を切り裂くとその勢いのまま真上へ吹き飛んだ。
『ロックオン! 一・十・百・千・万・億・兆・無量大数!』
「はあぁぁ!」
「うあぁぁ!」
奴が空中を飛んでいる間にドライバーからカチドキのロックシードを取り外し、
剣の側面にある窪みにはめ込むと刀身を巻くように炎が噴き出し、
剣の範囲内に戒斗が落ちてきた瞬間、剣を突き出すと刀身の先から炎が伸び、
戒斗へ直撃し、大きな爆発を上げながら地面へ落ち、変身が解除された。
「確かにお前は人間を信じることができないかもしれない……でも、まだ大人にもなり切っていないくらいの年数しか生きていないお前が……みてきた短い期間で結論付けるのは早くはないか」
「……ハハ……ハハハハハ! ふざけるな! 争いが絶えないこの人類を信じるだと!?
貴様は何もわかっていない! 搾取されるだけの弱者がどれほど苦しいか。どれほど強者に憎しみを抱いているのかを! 所詮、貴様も弱者を搾取してきた側の人間……俺と貴様は決定的に違う!
おおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
戒斗が叫んだ瞬間、奴の全身からヘルヘイムの植物が生えだし、奴を覆い隠すと植物がはじけ飛び、
そこから赤色の体色に胸のあたりが黄色に染まり、二本の角が生え、さらにデェムシュの持っていた剣と酷似した形の剣を手に持っていた。
……俺たちはあの時からすでにこうなることが決まっていたのか。
『フルーツバスケット!』
『ロックオープン! 極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!』
『無双セイバー!』
奴が最強の姿になったと同時に俺も極アームズへと形態を変えて手元に無双セイバーを呼び寄せ、
握りしめ奴に向けた。
「はぁぁぁ!」
「おおぉぉ!」
駆け出すと同時にトリガーを引き、弾丸を装填して奴めがけて光弾を銃口から放つがすべて奴に直撃するが高硬度のやつの鋼並みの肉体に阻まれたがそのまま無双セイバーを振るうと奴の持つ剣とぶつかり合い、
火花を散らすが気にも留めずに再び無双セイバーを振るうと奴の腹部に直撃するも、
同じように振るわれてきた奴の剣が俺の腹部を切り裂いた。
互いに切られたところを抑えながらもにらみ合い、そのまま横走りしつつも相手から視線を外さず、
そのまま誰もいなくなったビルのエントランスへと突っ込んだ。
「はぁ!」
「効くかぁ!」
再び奴めがけて光弾を放つが奴の剣に弾かれてしまった。
悪いが俺の狙いはお前じゃねえよ。
「っっ!」
直後、奴がはじいた場所のガラスが砕けると同時に枠も砕け散り、下が崩れたことによって、
上の方のガラスも枠が歪んだことで外れ堕ち、大量のガラスが戒斗めがけて降り注いだ。
が、奴に直撃する寸前にどこかからか放たれた朱色の矢と茶色い球体が降り注いでくるガラスの破片を弾き飛ばした。
飛んできた方向を見てみるとそこにはザックとペコがいた。
「うおおぉぉぉぉ!」
「ザック! ペコ! ここまで来て今更」
「ここは引いてくれ」
「ドルーパーズで。あとこれも」
「っっ!」
俺が二人の攻撃を無双セイバーで受け止めた瞬間、ボソッと俺にしか聞こえないような声量でザックがそう言うと同時にペコが俺に一枚の手紙を渡し、二人で俺をまるで出口へ近づけるように押し込んできた。
…………ただ単に裏切っただけじゃないのか。
『クルミオーレ!』
『ロックオン・チェリーエナジー!』
「はぁぁ!」
放たれてきた二人の強大な一撃を羽織っているマントで弾くとマントが威力を消し去り、
その爆風とともに後ろへ飛び下がるといつの間にか開いていた鋼鉄の重い扉を通って外へと出て、
そのビルが見えなくなるところまで来たところで変身を解除した。
「……何をするきだ」