仮面ライダー鎧武 Another hero   作:kue

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第三十四話  終わりと始まり

「…………舞」

「け、健太! 大丈夫!?」

目を覚まし、体を起こそうとするが凄まじい痛みが全身を駆け巡り、ソファから落ちそうになるが舞に支えられたおかげで落ちることなく、何とか起きることができた。

全身を見てみると所々に薄らと赤くなっている包帯が巻かれていた。

「……戒斗は」

「ザックと一緒にさっき出て行った……ねえ、今何が起こっているの? 携帯もつながらないし外の信号だって全く機能していなかったし、テレビも飛び飛びでしか映像が映らないし」

「……向こうの森からとびっきり強いインベスが現れて暴れてるんだ……テレビに関しては、

俺も何が起きているのかは知らん」

あながち間違ったことは言っていないが……携帯が使えないということはこの町の電子機器はすべて、

使えないと思った方がいいな。電波は遮断されたとすると……ユグドラシルの連中か。

民間の電機会社が沢芽市の住民を閉じ込めるようなことはしないからな、少なくとも。

戒斗とザックが出て行ったのはオーバーロード関係だろう……ザックにも、

ヘルヘイム関連の真実を全て話しておくべきだったか。

「携帯も使えないから救急車も呼べないし、病院もパニックになってるみたい」

「確認しに行ったのか?」

「うん。ペコと一緒にね……今は自分の家に避難してるけど」

病院がパニックになっているということは警察も同じ状況になっているだろう。

……本格的に奴らが攻め込んでくれば一日ともたずに壊滅か。

「そうだ……姉貴……今日は休みだったな」

「どうするの……健太でも勝てない相手なんでしょ」

「邪魔が入ったから負けただけだ。戒斗と俺で行けば勝てる……邪魔さえ入らなければな」

すると舞は包帯が巻かれた俺の手をやさしく握り締めた。

「お前は家には帰らなくていいのか」

「私まで帰っちゃったら誰があんたを看病するのよ」

「……ありがとう。でも、もう大丈夫だ。おまえも早く」

その時、ガレージの扉から凄まじい爆音が鳴り響くと同時に鉄の扉が吹き飛んで、

俺たちの目の前に落ちてきた。

痛む体に鞭を打ってどうにかして起き上がり、舞を俺の後ろへと隠すと、

ガレージに入ってきたのはすでに変身を完了させたシドだった。

「なんのようだ、シド!」

「何って? 俺が神になる最後のピースを貰いに来たのさ!」

丸腰の俺たちめがけて戸惑いなく矢を放ってきたのをどうにかして避け、

ドライバーに手を伸ばそうとするがさっきの衝撃で傷が開いたのか先ほど以上の痛みが全身を走り、

のばしていた腕を思わず引っ込めてしまった。

「おらよぉ!」

「ぐぁ!」

「健太!」

その一瞬のすきを突かれ、アーマードライダーのシドに顔を殴りつけられ、

周りに置いてあったものを巻き込んでいきながら殴り飛ばされて壁に激突した。

『ソイヤ! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ!』

「シドォ!」

「離して!」

舞の悲鳴が聞こえ、顔をあげてみるとシドが舞を人質のように押さえつけており、

奴に切りかかろうとした瞬間、舞の首筋に弓の刃が当てられた。

「おっと、そのまま来たらこいつ死ぬぜ?」

「シド……何故、舞を巻き込むんだ! そいつは関係ないだろ!」

「あるんだよ! お前がカチドキを持ってるからな!」

……さっき言っていた神になるための最後のピース……奴はすでにそれ以外のピースを手中に収めたということか……こんな強硬手段に出たのもあせっているからか。

「さっさとそいつをよこせ。でないとこいつ、死ぬぜ?」

シドはそう言いながら弓の刃をさらに舞の首筋に近づけた。

ようやく世界を救うことができるかもしれない力を手に入れたと思っていた……なのに、

この力があるせいで舞を巻き込んだだけじゃなく、余計な争いまで生んでしまった。

本当に……本当にこの力は俺に必要なものなのか。

「さっさと寄越せよ! 殺すぞ!」

シドの叫びを聞いた俺は右手にカチドキのロックシードを握りしめた。

「分かった……だが、同時だ。おまえは舞を、俺はこいつをお前に投げる」

「良いぜ。ただ、お前が先に投げてからだ」

「あぁ……ほらよ!」

カチドキのロックシードを俺が投げ、奴が舞を突き飛ばしたと同時にトリガーを引き、

弾丸を装填して空中に放り投げられたカチドキめがけて弾丸を放つと、

シドの手に収まる寸前に弾丸がカチドキに直撃してカチドキのロックシードが粉々に砕け散った。

「っっ! お、俺の……俺の!」

シドは地面に散らばったカチドキの破片を集めて何とか一つにしようとするが、

カチドキのロックシードに入ったヒビがそんなことできるわけもなかった。

「これ以上、無駄な争いをそのロックシードが引き寄せるんならこの世に存在する価値はない。

俺が欲しかったのは……この世界を、誰かの幸せを守ることができる力だけだ!」

「ふざけるなよ……ふざけるなよ! 俺が神になるチャンスを潰しやがって! 殺す!

てめえだけは何があっても絶対にぶち殺す!」

『ミックス! ジンバーレモン! ハハー!』

ジンバーレモンへ形態を変化させると同時に駆けだし、手に現れた弓をシドへ振り下ろし、

奴が受け止めたと同時に横走りしながらガレージの壁を突き破って外へと出て、

奴の蹴りを腕で弾き、赤い弓で奴を一度切り裂き、至近距離から矢を放って、

シドを軽く吹き飛ばした。

「ハァ……くそ」

痛みのせいなのかいつも通りの動作をしただけにもかかわらず体が重く、息もとぎれとぎれだった。

「三直健太ぁぁぁぁぁぁぁ!」

「っ!」

叫びながらこっちへ向かってくるシドへ一発の矢を放つ。

しかし、それを直撃してもシドは止まることなく俺に突っ込んでくるとその勢いを利用して、

俺の腹部に弓での突きを入れてきた。

「がぁ!」

「うらぁ!」

突きを食らった瞬間の衝撃でさらに痛みがひどくなり、動けなくなったところへもろに、

ドロップキックを食らい、何もできないまま軽く吹き飛んで、地面に叩きつけられた。

「死ねぇぇぇ!」

「なめるな!」

「うぐぁ!」

俺に向かって駆け出し、弓を振り下ろしてきたシドの腹部へゼロ距離での矢の一撃を食らわすと、

鎧から連続した火花を散らせながら、シドが軽く吹き飛び、放置されていた廃車に直撃した。

追撃を加えようと立ち上がろうとした瞬間に膝から力が抜け落ち、地面に膝をついてしまった。

……限界か。

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

「えあぁぁぁぁぁぁ!」

『チェリーエナジースカッシュ!』

『オレンジスカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!』

互いに叫びながら弓を投げ捨て、駆け出して高く跳躍し、俺はブレードを一回おろし、

奴はレバーを錠前に向かって押し込むと足からエネルギーが放出され、

オレンジ色に輝いている俺の脚と赤色に輝いている奴の脚がぶつかり合い、

周囲に衝撃波がまき散らされた。

「神になってどうするつもりだ!」

「ガキには分からねえよ! ただな! 俺は……人間を超えるんだよおぉぉぉぉぉぉ!」

『チェリーエナジースカッシュ!』

『オレンジスカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!』

奴が再びレバーを押しこんだと同時に俺も再びブレードを一度降ろすと、

ぶつかり合っていたエネルギーがさらに強いものとなってあたりに衝撃波をまき散らしていく。

俺は……この世界を! もうこれ以上、誰かの幸せを潰させないために戦うんだ!

「せいはぁぁぁぁぁぁ!」

直後、拮抗していた二つのオーラが片一方にのみ込まれていき、最後のひと押しとして、

もう一度ブレードを降ろすと完全に俺のオーラがシドのオーラを飲み込み、

俺たちの視界を潰すように大爆発が目の前で起きた。

「っと!」

「ぐぁ!」

爆発の衝撃で吹き飛ばされ、俺は変身が解除されながらもなんとか足から地面に着地できたが、

シドは空中でバランスを崩したのか背中から地面に落ち、そのまま変身が解除されてしまった。

さすがにさっきの蹴りのぶつかり合いでロックシードのエネルギーが尽きたか……まあ、

ロックシードにエネルギーがあるかわからんがな。

「俺は……神に……こんなっ……ところでっ!」

シドはふらふらと左右に揺れながらもどうにかして立ち上がり、

ロックシードを解錠したが上空にクラックが開くことはなかった。

「ぶふっ!」

突然、腹の底から何かが上がってきたかと思えば凄まじい吐き気を感じ、

手で口を押さえるよりも前に大量の血液が俺の口から吐き出され、全身から力が抜けて地面に倒れた。

ヤバい……動くことができるあいつが何をしでかすか。

「三直……お前だけは殺す!」

そう言いながらシドは近くに転がっていた鉄製のパイプを握り締め、ゆっくり俺に近づいてきた。

どうにかして立ち上がろうとするが全く全身に力が入らず、

こうしてシドが何をするのかを見るぐらいしか体を動かす力は残っていなかった。

「健太!」

今まで隠れていた舞が俺の傍まで駆け寄ってきてなんとか俺を担ごうとするが、

21の男の俺をまだ10代の、しかも女性に運べるはずもなく少し引きずって、

ほんの少しだけ移動するくらいだった。

「死ねぇ!」

シドが鉄パイプを俺たちめがけて振り下ろしてきた瞬間、

舞が俺をかばうように覆いかぶさり、目の前の視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

が、鉄パイプが何かに当たったような音はいつまでも聞こえてこず、

舞のその声が聞こえ、顔だけを動かしてシドを見てみるとシドが握りしめていた鉄パイプに、

植物のツタのようなものが絡まっており、振り下ろされるのを阻止していた。

―――――――――直後

「うあぁぁぁぁ! くそぉ!」

シドの背後から植物のツタのようなものが大量に巻きつき、軽々とシドを持ち上げた。

そのツタが伸びている方向を見ると一つのクラックが開いており、そこから2本のツタが伸び、

シドに絡まり付いていた。

「あぁぁぁぁぁぁ!」

断末魔のような叫びを上げながらシドはクラックの中へと引きずり込まれていき、

向こうの森へ姿を消したと同時にクラックも消滅した。

それと同時にシドが持っていた神になるためのパーツの一つらしき錠前が転がり落ちてきた。

「あ~あ。まさかそんな行動に出るとわなぁ」

「……サガラ」

舞に肩をもってもらいながら声が聞こえた方へ向くとチームの拠点地である建物の屋上に、

ターバンを巻き、中東の国の人がしているような格好をしたサガラが俺たちを見下ろしていた。

「シドがお前を襲撃するようにしたのは俺だが……それはどうやら失敗だったらしいな」

「どういう意味だ!」

俺がそう叫ぶとサガラはその場から飛び降り、地面に着地すると俺たちの目の前まで近づいてきた。

「奴が持っていたのは神の果実と呼ばれるものからできた神のロックシードだ。

だが、それ単体だけでは機能しない。お前が持つカチドキのロックシードにある鍵穴。

あそこへ神のロックシードを差し込むことでこの世界を掌握できる力が手に入る……はずだった。

が、お前がカチドキを壊してしまったことであれはもう神のロックシードじゃない。ただのカギだ」

「サガラ……お前は一体何なんだ。何をしようとしているんだ」

「俺は俺さ。ただ俺の都合になるようにしているだけだ。カチドキが消え、

神のロックシードもただのガラクタ……ジンバーの力だけでどうやって勝つってんだ?」

その質問に俺は何も答えられなかった。

オーバーロードとの対話はもうあり得ない選択肢と言ってもおかしくはない状況の中、

奴らを倒し、俺自身が奴らとなり森の力をコントロールするという選択肢が濃厚になったが、

カチドキという大きな力を失った今の俺が奴と闘って勝てるかどうか。

「俺だけでは勝てないだろうな。俺だけでは」

「おいおい。まさか仲よし子よしで倒そうってんじゃないだろうな? 

オーバーロードとの対話を切り捨て、奴らを倒し、ヘルヘイムの王になることで世界を救おうとしている奴が力を自ら捨てたら王になれねえだろ」

「それ以外に何がある。この町でオーバーロードが暴れている以上、

戒斗もザックも凰連も……力は貸してくれるさ。奴らのように力だけに主軸を置く王は早く死ぬ。

だが、力ではないものに主軸を置いた王は少なくとも前者よりかは長生きだ」

「力なくして王にはなれねえよ。民主主義だの選挙だの言っている今の連中も、

親のコネ、金、大きな政党からの支援という力を持って王、もしくはそれに近い立場になった。

力も何もないお前にどうやってヘルヘイムの王になるってんだ?」

……サガラの言っていることは確かに正しい。ヘルヘイムの王になるにはオーバーロードをこの手で倒し、

空席となったその地位に居座ることで王となる。

ただ、今さっき、俺はこの手でその椅子をつかみ取ることができるかもしれない可能性を、

秘めた力を打ち壊した。言っていることとやっていることが矛盾している。

「ただな、サガラ。俺の究極の目的はこの世界を救うことにある。王になることじゃない。

奴らを倒すことで王になるならばたった一人で戦う必要もない。そうだろ?」

「だが、最後は仲よしこよしで戦った奴らとも戦うんだぜ?」

「それは覚悟の上だ。覚悟の上で俺は仲間とともにオーバーロードを倒す」

そう言い残し、暴れているオーバーロードのもとへ行こうとした時、一瞬、

全身を何かが覆った感触を感じたかと思えば、さっきまで俺を蝕んでいた痛みが全く感じなくなった。

驚きながら後ろを振り返ってみるとサガラが俺の方へ手をかざしていた。

「俺は観客だ。お前達がやる試合……最後まで見させてもらうぜ」

そう言い、サガラの体が徐々に透明になっていき、瞬きをした直後に完全に姿を消した。

……奴は本当に何者なんだ。

「け、健太! あれ!」

舞に腕を引っ張られ、彼女のほうを見ると向こうの方を指さしていたのでそちらのほうを向くと、

ユグドラシルタワーの上のほうからヘルヘイムの森の植物のツタらしき緑色のものが、

すさまじい速度でタワーを蝕んでいき、現代的な建物を植物の塔へと変えていく。

さらにはユグドラシルタワーの内部から壁を突き破って大量の上級インベス達が地上へと降り立っていく。

…………崩壊の序章か……終わらせてやるよ。序章だけでな。

ポケットからロックビークルの錠前を取り出し、それを解錠して放り投げると空中で錠前が変形し、

ロックビークルになって俺の目の前に現れた。

「っ」

それに乗ろうとした瞬間、俺の手を後ろから軽く引っ張られ、振り返ってみると、

心配そうな顔をしている舞が俺の腕を軽くつかんでいた。

「……王になるとかよくわかんないけどこれだけは私でも言える……優しい王様になって。健太」

「……あぁ。約束する」

「それとこれ……お守り代わりで持って行った方がいい……と思う」

そう言いながら彼女は砕けたカチドキとシドが持っていた神のロックシードなるものを俺に渡してきた。

……ま、お守りとしてはこれ以上ないものだな。なんせ神なんだから。

『ミックス! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ! ジンバーレモン! ハハー!』

舞と約束をし、彼女の手を優しく払い、レモンエナジーとオレンジのロックシードをはめ込み、

ブレードを下ろすと解錠した際に現れ、上空に滞空していたアームズの二つが融合し、

一つのアームズとなって俺に被さり、数秒で鎧が展開された。

バイクに乗り、アクセルを全開に吹かして俺はユグドラシルタワーへと向かった。




こんにちわ……畜生! 関西圏だからガイムが見れなかった!

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