オーバーロードを追ってクラックの外へと出たのはいいが奴の姿を見失ってしまい、
クラックがあった場所の近くを探し回っていると悲鳴とともに爆発音が聞こえた。
その場所へ向かってみると人が集まっていたオープンカフェらしき場所でオーバーロードが周囲の建物などに火球をぶつけながら派手に暴れていた。
「ハハハハハ! シネェ!」
「させるか!」
オーバーロードが逃げ遅れた幼い少女に向かって手に浮かべた火球を投げつけようとしたのを見て、
俺は迷いなく奴の目の前に立つと放たれた火球が俺に直撃し、
あまりの威力に地面に膝をついて崩れ落ちてしまった。
「ハァ……大丈夫か? あっちだ」
痛む体を何とかして動かし、少女にオーバーロードから離れた場所へ走るように指示し、
彼女の姿が見えなくなるのを確認している最中に胸に衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされて、
設置されていたテーブルの上に落ちた。
「構えろ!」
その時、そんな声が聞こえ、そちらのほうを見ると非常事態の連絡を受けた警官隊が銃を構え、
リーダーらしき人物の合図と同時に発砲した。
が、そんなちっぽけなものでオーバーロードの足を止めることなどできなかった。
「ヨワイヨワイヨワイ! コノテイドノサルガノサバッテイルコトジタイガムイミ!」
「うわぁ!」
オーバーロードは叫びながら警官隊へ突っ込んでいき、次々と警官たちをなぎ倒していく。
ある者は腹部をけられて壁に激突して気を失い、ある者は放り投げられて地面に叩きつけられ、
またある者は火球が地面に直撃した際の衝撃と熱風で吹き飛ばされていく。
……幸せを……幸せを守るんじゃなかったのかよ!
弓を地面に突き刺し、それを杖代わりにして立とうとするが膝から力が抜け落ち、
再び地面に倒れ伏した。
……やめろ。
何の罪もない人たちが……守ると決めた人たちが俺の目の前で次々と傷ついていく。
「やめろォォォォォォォォォ!」
『ソイヤ! カチドキアームズ・いざ・出陣! エイエイオー!』
カチドキアームズへと形態を変え、暴れまわっている奴を後ろから羽交い絞めにし、
そのままそいつを警官隊から引き離すように回転の反動を利用して奴を軽く投げ飛ばし、
さらにやつが立ちあがる前に全力の力で奴を殴り飛ばした。
…………もう、取捨選択している場合じゃない……この世界を救うには俺が……この俺が、
ヘルヘイムの森を支配する王になる。それ以外に方法はない!
直後、俺の背後から黄色い矢が飛来し、オーバーロードに直撃した。
「三直。片付けるぞ!」
「あぁ、行くぞ!」
「ヌアァァ!」
走りながらオレンジ色の銃の側面にある円盤をスクラッチし、スイッチを九十度押し倒すと同時に、
奴が振り下ろしてきた刀をオレンジ色の銃で防ぎ、さらに腰のホルダーの入っている刀を抜き、
奴の腹部を切り裂き、さらに至近距離で火球を直撃させた。
「喰らえ!」
さらに俺の肩を飛び台にして跳躍し、上空から矢を放った戒斗の攻撃と同時に、
俺も銃の引き金を引いて奴めがけて巨大な火球を放つが奴が液状化したことで、
ダメージを与えられるどころか、目の前で姿を元に戻した奴の振り上げてきた刀で切り裂かれ、
軽く吹き飛ばされた。
「フハハハハハハ! ヨワイ! ヨワスギル!」
「なぜ、お前はそこまでして破壊にこだわる!」
「ナゼ? キマッテイル! ソレガキョウシャニアタエラレタケンリダカラダ!
キョウシャハジャクシャヲアットウシ、フミツブス! アタリマエノコトダ! ハァ!」
「ぐあぁぁ!」
奴が手のひらに火球を生み出し、上空へ投げたかと思うとその火球がいくつにも分裂し、
上空から俺へと降り注ぎ、数発の直撃を受けた俺はそのまま大きく吹き飛ばされ、
戒斗にいたっては俺よりも直撃した数が多かったのか俺の視界から外れるほどにまで吹き飛んだ。
「っこの!」
「ヌアァァ!」
吹き飛ばされてからすぐさま銃の側面に設置されている円盤をスクラッチし、
スイッチを九十度上げると流れている待機音が早いものとなり、
奴に向けて引き金を引くと無数の小さな火球が奴に直撃し、そのまま跪いた。
『ロックオン! カチドキチャージ!』
「……強者の権利か……だったらこの世界を救うために俺がその強者になって、
お前たち弱者を俺が叩き潰す! お前たちは必要のない存在だ!」
ドライバーからカチドキの錠前を取り外し、オレンジ色の銃にセットすると銃口に炎が集まっていき、巨大な火球が生み出され、それを奴へ放とうと引き金に指を置いた瞬間!
「ぐあぁぁ!」
突然、俺の左側面から衝撃が走り、そのまま受け身も取れずに吹き飛ばされてしまった。
「誰だ!」
「悪いけど、オーバーロードを倒されるわけにはいかないのよ」
立ち上がりながら衝撃があった方向を見てみるとそこにはピーチ、そして、
上空を何台ものロックビークルに乗っている黒影の集団が俺とオーバーロードを覆うように、
編隊を組んで、上空で待機していた。
「一斉射撃!」
ピーチの叫びと同時にそのロックビークルから無数の弾丸が俺とオーバーロードめがけて放たれ、
その数を見て俺は迎撃を諦めてその場から飛びのいて弾丸の雨を避けた。
「っ! どけぇ!」
すぐさまオーバーロードへ殴りかかろうとするが俺を囲うようにに四人の黒影、
そしてピーチが立ちはだかり、周囲の黒影が槍を振り下ろしてくるが俺はそれを片腕で防ぎ、
引き金を引きつつ回転して周りにいる黒影に直撃させた。
「はぁぁ!」
ピーチが振り下ろしてきた赤い弓を銃で受け止めると目の前で火花が散った。
「お前は何故、俺の邪魔をするんだ!」
「簡単なことよ。プロフェッサーの命令だからよ!」
やつのけりを脇腹に食らい、体勢を崩したところへ至近距離からの矢が直撃し、
そのまま大きく吹き飛ばされ、立ち上がった瞬間に、
黒影達が乗っているロックビークルからの一斉射撃が俺に直撃し、
何もできないままさらに吹き飛ばされた。
「だったらお前はプロフェッサーの命令なら目の前の命を無視するのか」
「っ! それは……」
「どうせ奴のことだ。オーバーロードを討伐ではなく捕獲を命令したんだろうな。
だが見てみろ! これがそのプロフェッサーが命令した結果だ!」
俺たちの周囲にはオーバーロードの攻撃によってダメージを負い、
強制的に変身が解除されたユグドラシルのメンバーらしき男たちが、
苦しそうにうめき声を上げながら地面に横たわっており、
あちこちで爆砕したロックビークルが火をあげ、小さな爆発を起こしていた。
「今ここで俺と戒斗とお前と黒影のバックアップがあればこれほどの犠牲は出なかったはずだ!
今、倒れている奴にだって家族や大切な人がいたはずだ!
それを……それをお前は考えたことがあるのか!」
そう叫ぶと奴は何も言わなくなり、周囲に倒れているメンバーたちに視線をやっていく。
「っっ! 退け!」
ピーチの上空に剣を握り締めたオーバーロードの姿が見え、俺は奴の腕を掴んでそこから退かすが、
俺が退く時間がなく、急降下の勢いも付加された剣の一撃を食らった。
「トドメダ!」
「がぁっ! あっ……がはっ」
さらに振り上げられた剣の一撃もまともに食らってしまい、俺はそのまま銃を地面に落とし、
変身が強制的に解除され、全身の力が抜けていくのを感じながら地面に倒れ伏した。
……さすがに……今回はヤバいかもな。
『レモンエナジー!』
「ヌウゥォァ!」
そんな音声が鳴り響き、オーバーロードが俺から離れたかと思えば誰かに担がれた感覚がし、
薄らと目を開けて確認するとなんとなくだが戒斗だとわかった。
俺はいまだに続いている爆発音などを聞きながらそのまま意識を落とした。
「どうするの、シド」
「どうにもこうにもオーバーロードが向こうへ行ったんだ。俺たちも」
そこまで言いかけたシドが突然、喋るのを止めて僕の後ろのほうをじっと見ており、
僕もそちらの方を振り返ってみてみるとそこにはヘルヘイムの森の果実がぶら下がっている槍を持ち、
緑色の体色をしたインベスが僕たちに向かってゆっくりと歩いて近づいてきていた。
……まさか、もう一体オーバーロードがいたなんてね。
「オマエタチ、カミノカジツヲネラッテルンダッテネ」
「なんだ? 俺たちを案内してくれるとでも言うのか?」
「ソウダヨ。ホシカッタラツイテキナヨ」
そう言ったのを聞いた僕たちは互いに顔を見合せながらもここはあいつについていくことに決め、
変身を解除して緑色のオーバーロードの後ろをついていきながら歩いていく。
あの赤いオーバーロードは僕たちに神の果実を渡す気はないような雰囲気だったのに、
なんでこの緑色のオーバーロードは神の果実を渡すなんてことを……怪しすぎる。
チラッとシドのほうを見てみるけどその顔には幼い子供がプレゼントを何がもらえるのか、
楽しみにしているような雰囲気を醸し出していた。
……ダメだ。神の果実なんてものを目の前に出されたからもうシドは普通の考えなんかできてない。
「ココダヨ。コノサキニカミノカジツヲモッテイルモノガイル」
そう言われ、目の前を見てみると周りは高い岩の壁が僕たちの周囲を囲むように建っていて、
地面の土が見えないくらいに落ち葉が落ちているし、何より岩の壁で隠れている向こう側から、
何か形容しがたい不安のようなものを感じる。
「……行ってきなよ、シド。僕は興味ないし」
そう言うとシドは嬉しそうな顔をしながら壁の奥の方へと一人で歩いて行った。
「……ねえ、いったい何が目的なの」
「ナンノコトダ?」
「赤いのと君が違うのは分かった……でも、ことがうまい具合に行き過ぎている。
それに神の果実をもっている者って言ったよね? 君達以外にもオーバーロードがいるってこと?」
「……サルニシテハアタマガイイネ。ソウダヨ。オマエタチガカミノカジツトヨンデイルモノハ、
コノセカイノホントウノカミ……ツマリ、ワレラノオウガモッテイルノサ。
カミノカジツハセカイニヒトツシカナラナイ……ソレヲテニスレバ、
スベテヲショウアクデキルチカラガテニハイル」
……文字通りの神の果実ってわけか。
一通りの話を聞いた後、こっそりと壁の向こう側を見てみるとそこには、
布のようなものを全身に巻いた兄さんとターバンのようなものを巻いたサガラ、
そしてシドと白いオーバーロードが立っていた。
……そうか。あれが緑と赤のオーバーロードの王様ってわけか。
その時、白いオーバーロードが手をかざしたかと思えばそこに光が集まって行き、
リンゴの形をした光輝いている果実が現れた。
……へぇ、あれが神の果実か。
「やっぱり、お前が持ってやがったか」
白いオーバーロードは神の果実に指先を入れて何かをつまむように指を折り曲げてから、
指を出すと小さな光の欠片が光を失っていったかと思えばロックシードへと変化した。
白いオーバーロードはそのロックシードをサガラに手渡し、神の果実を消失させると、
シドがドライバーに手をかけようとした。
「まあ、待て。お前さんが欲しいのはこれだろ?」
サガラがそう言い、手に持っている神の果実から生まれたロックシードを解錠すると、
通常の錠前とは違って鍵のようなものがニョキッと外に出てきた。
……神の果実から生まれたものだからてっきり錠前だと思ったけど……何かの鍵か。
「神の力を使いたければ……三直が持つカチドキを奪うんだな」
「そうか……俺はそれで神になれる」
そう呟くとシドはサガラから渡されたロックシードを手に握り締めて僕の方へ歩いてきて、
一瞬だけ僕の顔を見ると小さな笑みを浮かべ、そのまま僕の横を通り過ぎてどこかへと去って行った。
「……ねえ、君もあれが欲しいわけ?」
「フフ……ホントニオマエハオモシロイニンゲンダネ」
「サガラ。おまえはいったい何をしようとしているんだ」
「今更そんなこと聞くなよ主任様よ。俺はゲームを見ている観客だ。観客っていうのは、
ゲーム中に起きるハプニングを好むものだ。
このまま神のロックシードとカチドキを手に入れたシドがすべてを掌握するのか。
それとも神のロックシードがシドを拒絶し、全く別の人物の手の中に収まるのか」
「所詮は力に溺れる人間。力を得れば我らフェムシンムと同じように弱者は、
消えて当然という考えに取りつかれ、愛する者同士、友人同士で争い、
最後は強者と選ばれた神だけが生き残る世界になる。
そんなことよりも彼女を蘇らせる方が価値はある。貴様はいったい何に価値を見出しているのだ」
「俺か? そうだな…………奴がどういった行動に出るか……それによって価値があるか、
ないかに分かれる。価値がなければフェムシンムとおなじ末路に至り、
価値があれば……世界は救われる」
「その価値がある行動をするのはさっきの奴か?」
「いいや……少なくともあいつじゃないさ……少なくともな」
いかがでしたか? 原作とは違う道筋で極アームズになります。それでは