仮面ライダー鎧武 Another hero   作:kue

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第二十八話  真実

「うらぁ!」

今日も今日とて、自然に開いたクラックから出てくるインベスの掃討を俺と光実、

そして最近アーマードライダーとなったザックも加えて行っていた。

「どっらぁ!」

やけに気合いの入った声を上げながら両腕に標準装備としてはめられている、

巨大な鉄球のようなもので何度も上級インベスを殴っていく。

最初は余裕で耐えていた上級インベスだったが連続で拳を打ちつけられていくと、

徐々にその足が後ろへと下がっていき、最後の一発を受けた直後に、

火花を散らせながら大きく吹き飛んだ。

一発が弱くても連続で食らわせればたとえ上級インベスでも耐えきれなくなっていき、

そして最後の一発で大きく吹き飛ぶ。

ザックの戦いぶりを見ながらも俺もオレンジの刀でインベスを切りつけていくが……気のせいか、

いつもよりも体がずいぶんと重く感じる。

……早いとこケリをつけるか。

『オレンジスカッシュ!』

『クルミオーレ!』

俺はブレードを一度降ろし、オレンジの刀で周囲の下級インベスを切り裂き、

光実は銃についているトリガーを引いて相手に連射して粉砕、

そしてザックは二度ブレードを降ろして上級インベスにとびかかり、

殴りつけるとインベスの全身を一瞬だけクルミのオーラが覆ったかと思えば、

大爆発を起こして消え去った。

周囲に開いていたクラックを確認しようと首を振った瞬間、突然、視界がぼやけ始め、

さらには足に力が入らなくなり、地面に座り込むと同時に変身が解除された。

「お、おい。どうしたんだよ健太」

「……なんでもない。もうクラックは大丈夫だろう」

そう言って何とか立ち上がり、ポケットにあったロックビークルを解錠し、

バイクへと変形させ、それに乗ってチームの拠点地へと走らせていく。

……この距離から一番近いところは拠点だ……そこで少し休もう。

徐々に目眩が起こる間隔が小さくなっていくのを感じながらも俺はバイクを走らせ続け、

どうにかして拠点にまでたどり着いた。

「あ、健……どうしたの。顔色悪いよ」

ふらつきながらも何とか扉を開けて中へと入るとちょうどザックを除いたメンバーが練習を終え、

休憩をしている最中だったらしく、各々が座り込んでスポーツドリンクなどを飲んで寛いでいた。

「悪い……少し」

「健太!? ―――――太!」

だんだん遠くなっていく舞の声を聞きながら俺の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健太が拠点で倒れてすぐに救急車を呼んで病院の先生に診てもらった結果、

倒れた原因は過労だった。

点滴を打って安静にしていればすぐに症状は治まるって言っていたけど……今の状況で、

健太が素直に先生の指示に従うと思わないけどね。

その時、急に扉が開いた音が病室に響いた。

あわてて顔をあげてみると肩で息をしている健太のお姉さんがいた。

「はぁ、はぁ……よかった」

本人が眠っているのを見たお姉さんは顔を綻ばせて一息つくと、

バッグを置いてベッドの近くに置かれていた椅子に座って健太の手を握った。

健太が過労を起こして倒れた原因はもう分り切ってる。

……最近、インベスが暴れる頻度が上がってきてそのことばっかり考えていて、

寝ていてもそのことを考えていたから十分に眠れなかったんだと思う。

ザックも最近、眠たそうにしてるし。

「すみません、お姉さん」

「なんで舞ちゃんが謝るのよ~。体調管理ができなかったこいつが悪いのよ。

このこの! こんなに可愛い舞ちゃんを心配させやがって。とうとう!」

そう言いながらお姉さんは頬を突っついたり、

でこに軽く連続でチョップを加えたり、鼻に凸ピンを何発も当て始めた。

でも、お姉さんの言うとおり……健太が体調管理に失敗するなんて、

よっぽど大きなことでも考えていたのかな。

それになんだか最近、私たちのことを避けているような気も……まあ、

それは気のせいだと思うけど何かに悩んでいたことは事実だと思う。

そうじゃなきゃ過労を起こして倒れるまで疲れがたまることなんてないと思う。

「でも……最近、家でもなんか上の空な時があったのよね」

「やっぱり、あったんですか」

「うん。なんだか……聞きたくても聞いちゃいけないようなことを考えているみたいだった」

……一体、あんたは何を考えていたっていうのよ。

私はお姉さんに見えないようにかけられている布団の中に手を入れて、

眠っている健太の手を軽く握った。

「でも、まさか姉弟そろって過労起こしてぶっ倒れちゃうなんてね」

……姉弟そろって?

「あ、あのそれってどういう」

「いやね。恥ずかしい話なんだけどさ……私も健太みたいに無理しちゃって、

過労起こしてぶっ倒れちゃったのよ。まあ、その時は仕事でも大きな案件を取り扱っていたし、

健太もやっとお友達もできてきてさ。昔から友達が少なかったこの子に、

友達ができていくのが嬉しくてね……それでいろいろと自分でやってたら、

ぶっ倒れちゃったのよ~。そのせいで健太、ダンス辞めちゃったみたいだし」

え……え? ど、どういう意味よ……だって健太がダンスをやめたのは、

やっている事が子供っぽいからって……なんで。

「たった一人の家族として本当にうれしかったのよ。この子が徐々に、

幸せになっていくのが……でもそれをぶち壊しちゃったのよね」

お姉さんは申し訳なさそうな表情をしながら健太の頭をなでた。

でも、私の頭の中ではもう理解が追い付かないくらいに、

色々なものがごちゃごちゃになっていた。

……ちゃんと……ちゃんと理由があるんだったら何で言ってくれなかったのよ。

「あ、ごめん。もう時間だから行くね。休憩中に慌ててきたから」

「あ、はい。ありがとうございました」

「それを言うのはこっちのセリフよ。ありがと、舞ちゃん」

そう言ってお姉さんはバッグを持って病室から出て行った。

健太の家の大黒柱はお姉さんだからそんな簡単に仕事で休みなんか取れないよね……。

椅子に座りなおすと静かすぎる空気が病室に充満していて、

かなり変な気分になってきた。

いつも騒がしい所にいるからこんなに静かな所にいるとなんか落ち着かないな。

「……なんか最近、バラバラ」

健太はもともとバラバラだったとして、最近ミッチーも練習を欠席したり、

途中で早退したりしてるし……前までのミッチーとは大違い。

前は練習を休んだり早退したりしなかったのに。

「……舞」

「あ、起きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました俺がいたのは病院のベッドらしき場所の上だった。

右腕には点滴がされており、来ている服もいつもの服ではなくて病院服だった。

……最近、いろいろなことを考えすぎていたから眠れていると思っていても、

そんなに眠れていなくて過労で倒れたってことか。

ヘルヘイムの森の侵攻、裕也の死の真実……俺の睡眠を妨げるには十分すぎる理由だな。

「たっく、お姉さん心配してた」

「……姉貴は?」

「さっき、来てたけど仕事で休み取れなくて戻っちゃった」

「……そうか」

それを聞いて俺は若干の不安ができた。

姉貴にダンスをやめた理由を今でも話していないからもしかしたら俺が眠っているときに、

姉貴自身が過労で倒れたってことを舞に話したかもしれない。

別に姉貴を責めるわけではないが……まぁ、そのことを舞から聞かれたら正直に話すしかないか。

「最近、光実の様子はどうだ」

「どうって……いつも通りよ。でも最近は休んだり早退したりが多いけど」

一番気になっているのはその点だった。

俺とピーチが戦っている場にもやつは何故かいたし、シドと闘っているときも、

いいタイミングでクラックが開いてまたまた良いタイミングで、

あいつが変身を終えた状態で突っ込んできた。

そして最近のあいつの練習での様子……疑問を抱くには十分すぎる状況だ。

ただ、状況なだけであって確固たる証拠がないままの状態であいつを問いただしても意味がない。

あいつもあいつで頭がいいからな……正直、世渡りはあいつのほうが断然上だ。

「医者はなんて」

「そうひどいものでもないみたい。ただ数日くらいはしっかり休まないといけないらしいけど」

数日か……三日間……いや、できれば今すぐにでも復帰したいところだが、

無理して今度はひどい状態で倒れればそれこそ意味がない。

……ここは光実とザックに任せるしかないか。

「ねえ、リンゴでも食べる?」

「あぁ、そのまま」

「私が剥く。あんたは病人だからじっとしていなさい」

「……その割には果物ナイフらしきものは見当たらないな」

そう言うと舞は小さな引出しをあけけていき、ナイフらしきものを探していくが、

そんな危険なものを常備しているはずもなく、引き出しにはなかった。

……こいつまさか、病室には果物ナイフが常備されているとでも思っていたのか?

「……その気持ちだけ受け取っておくさ。また今度、お前の料理食わせてくれ」

そう言い、舞の手からリンゴを受け取り、かぶりついた。

うん。やはり病気の時に食うのはリンゴに限る。

ふと舞のほうに視線を向けると何故か顔をほんのりと赤くしながら手で顔を仰いでいた。

……俺なんか言ったか。

「な、何食べたい?」

「そうだな……お前の得意料理がいい。ちなみに俺はなんでも食うぞ」

「そ、そう……わかった」

顔を赤くしている舞を放っておきつつもリンゴを食べながらハンガーでカーテンのレールに、

ひっかけられているズボンのポケットの中を確認すると普段から常備しているドライバーと、

ロックシードは全てそのままの状態でポケットに入っていた。。

俺たちビートライダーズが嫌われている以上、確認はしておかないとな。

「ねえ……もしもロックシードなんてなかったら……私たちって普通に暮らせていたのかな」

すべての始まりはこの町にロックシードがばらまかれ始めたこと……でも、

本当の始まりはこの世にヘルヘイムの森というものが生まれてしまったこと。

森さえなければ俺たちは普通に一般人として過ごせていた……まあ、

そうなると俺はあの思い出すだけでも恥ずかしい状態でずっと生き続けるということだがな。

「暮らせていたかもな。ロックシードさえなければ……でも、

これがあったからすべてのチームが一つになった……そう考えられないか?」

「そう……もしもそれがなかったら今でも争っていたと思うし今以上にひどい状況だったと思う。

……でも、いつかは誰かが一つにするとも考えられない? ロックシードなしで、

ランキングも何もかもを廃止して、ただ楽しむためにダンスをしようって」

「確かに……そうとも考えられる」

俺たちはロックシードが存在した世界のことしか、

知りえることができない……存在しない世界など想像の中でしか分からないが、

知りえることのできない世界ではすべての可能性が存在する……。

……この状況……必ず俺が変えてみせる。

これ以上の犠牲を出さず、誰かの幸せをつぶさせないためにも。


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