俺――――三直健太は今、ガレージの屋上でロックシードを床に広げて立っていた。
それにしてもなんでこうも俺の手元にはロックビークルがほぼすべて、集まってんだかね。
バイク、空中バイク、バッタみたいなやつ……それよりも俺が今知りたいのは、
以前、やつから奪ったピーチの性能だ。
別に俺の自室でやってもいいんだがやはり広い所でやったほうがいい。
「じゃ、やるか」
『ミックス・オレンジアームズ・花道・ON・ステージ! ジンバーピーチ! ハハー!』
「試しに……ふん!」
変身が完了し、試しに近くの柵を思いっきり殴ってみると確かに柵は壊れたが、
そんなに異常なまでに壊れたのではなく、普通に凄まじい衝撃のせいで、
壊れているからパワーはそこまで上がっていない……だったら。
俺は屋上の端に立ち、端から端まで全速力で走ってみるがチェリーのように、
速度が強化されているわけでもなかった。
「いったい何が強化……ん?」
一瞬だけ大きな騒音のようなものが耳に入って来たかと思いきや大勢の人の声が大量に、
しかも大音量で耳の中に入ってきた。
それも曖昧なものではなく、何を喋っているのか、どんな性別の人が喋っているのかなどが、
ハッキリと聞いて取れるほどにまで拡張されて耳の中に入ってくる。
となるとジンバーピーチの強化は……。
ここでピーンと来た俺は意識を集中させ、音に耳を澄ませると携帯で、
誰かと話しているらしき声、カップルらしい男女二人の声、怒鳴り声まで聞こえてきた。
凄いな……まさか携帯で喋っている人の声どころか、
連絡を取り合っている人の声まで聞こえるとは。
レモンがオールラウンダー、チェリーが高速移動、そしてピーチが聴覚強化か。
こいつの力を使えばヘルヘイムの森のどこかにいるオーバーロードを容易に、
見つけることができるかもしれない。
……それと光実のことも気になる。
以前、俺とシドの戦いの際にいいタイミングで入ってきたが……良すぎる。
あいつが工場内に入ってきたときにはすでに変身を完了していた……工場の外から、
俺とシドの戦いの最中を見ているだけで変身をすることはないし、
もしも仮にあのクラックが自然に開いたのだとすればそれは突然なこと。
突然、起きればあいつは工場内で変身をする……その際に、
ドライバーの待機音が聞こえてもおかしくはないんだがな。
まあ、念には念を押して変身して待っていたと、
言われたらそれでおしまいなんだが……決定的なものにかける。
『健太ー!』
「っ! 舞か」
凄まじい音量で俺を呼ぶ声が聞こえ、慌てて変身を解除してから下を見下ろすと、
いつものようにダンス服に身を包んでいる舞が上を見上げていた。
「どうした」
「ちょっと振り付け見てよ」
「俺がか?」
「うん。まあ、ミッチーがいないから途中までだけどね」
そう言われ、屋上につながる扉を通って階段を降り、ガレージ内へと戻ると各々、
ストレッチなどをしているメンバーが集合しており、
今すぐにでもダンスを始められる状態だった。
あたりを見渡し、光実の姿を探してみるがガレージ内には見えず、
昨日に続き、今日もあいつは練習を休んでいるようだった。
……練習を休むことがなかったあいつが休みだしたのも気にはなるな。
「じゃ、行くよ……1・2……1・2・3・4!」
舞の掛け声とともに混合チームとなったガイムのメンバーがダンスを踊っていく。
ダンスを踊っている面々の表情は全員が笑顔を浮かべており、
今の状況に幸福感を抱いていることは顔を見なくてもわかることだった。
……俺が守るべき幸せは俺の傍にもあったんだ……ヘルヘイムの侵攻で、
この世界が滅亡する事実はすべてが終わってから……本当にそれでいいのか。
サガラの前ではああ言ったが秘密にされている当人は相当な苦しみだ……だが、
事実を知れば舞が首を突っ込んでくるのも明らかなこと。
そうなるといつ、舞が傷ついてもおかしくはなってくる……舞自身が俺に聞いてきた時、
俺は秘密を話すべきなんだろうな……だが、今は話す必要はない。
「どうだった?」
考え事をしている間にダンスが終わったらしく、舞が俺に感想を聞いてきた。
「ん、あぁ……みんな楽しそうだったよ。混合チームになってから、
それぞれのチームの良さが混ざっていいように出てる」
そう言うと連中はうれしそうな顔を浮かべながら休憩を取り始めた。
……そろそろ俺も行動を開始したほうがよさそうだな。
そう言い、俺はサングラスをかけてガレージから出た。
「健太さんのあのロックシードはなんなんですか?」
僕――――――光実は大きな会議室で全員が集まっているときにそう聞いた。
すべてのロックシードはプロフェッサーの管轄下にあり、エナジーロックシードも含めて、
彼が把握しているので新たなロックシードは彼しか生み出せないはず。
だったのに健太さんはプロフェッサーが全く知らない未知のロックシードを手にしていた。
プロフェッサーが出した結論は……誰かが生み出したというものだった。
「ゲネシスコアと言い、エナジロックシードと言いいったい誰がやつを支援しているのだ」
「それはこっちが聞きたいよ……と、言いたいところだけど一人怪しい人物がいる」
プロフェッサーがそういった瞬間、会議室にいた全員の雰囲気が一気にざわめき始めた。
彼が言っていることはつまり、この中に裏切り者がいるってこと。
「DJサガラだよ」
「……何を言うかと思えば……やつはただのネットアイドルだ。ありえない」
「でも、試作品の存在、場所を知っているのはもうほかに彼しかいないんだよ」
「……まあいい。奴は……私の手でつぶす。それだけだ」
兄さんはそう言って窓の外を見た。
……つい、この前までは戦う資格がないとか言って下に見ていたくせに、
もう今じゃ同じ土俵にいるライバル扱いですか。
……もしかしたら兄さんまで健太さんに取り込まれることはないよね。
もしそうなったらユグドラシル自身が健太さんの下についたって言っても過言じゃない。
そんな状況になったら非常に面倒くさいな……でも、僕の行動理念はたとえ、
ユグドラシルが健太さんの下に就いたとしてもいっさい揺るがない。
僕はあの人と一緒に僕のやるべきことをするだけだ……あの人が舞さんを悲しませない限りね。
会議が終了し、それぞれのメンツが出て行き、僕も拠点に帰ろうとした時、
ふと三人の姿が見え、何やら密談をしている様子だったので思わず、息を殺して近くに隠れた。
「面倒なことになったな……こんなところで頓挫しちゃ最悪だぜ」
「あの未知の力がある以上、おそらく私たちだけでは手に負えないかと。
どうなさいますか。プロフェッサー」
「うん。そうなんだよね……オーバーロードを知ったとしてもおかしくないからね」
オーバーロード……そんな話聞いたことがない。
「いつ、やつの口から貴虎に話が行くとも分からねえしさっさとつぶすに限る」
「やってくれるかい? シド」
そう言い、プロフェッサーはポケットからチェリーエナジロックシードを取り出し、
シドに渡すとシドは小さく笑みを浮かべながらポケットから新しいロックシードを取り出した。
Sのロックシード……それにオーバーロード……つくづく、
兄さんは信用しちゃいけない人を信用する。
「ここでいいか」
そう言い、バイクから降りた俺は意識を集中させ、周囲の音を拾っていく。
耳に入ってくるのは川の音、風の音、インベス達の声、そしてインベス達の羽音。
どれもが今までに聞いたことのある音ばかりでまだ未知の声は聞こえてこない。
少しずつ移動をしながら音を拾っていくとほんの一瞬だけ言葉のようなものが聞こえ、
そちらのほうへ進んでいきながら音を拾っていくと今度ははっきりと聞こえた。
俺たちの知らない未知の言語を使用している存在……ようやく見つけたぞ!
その場所へと向かおうとした瞬間、突然こちらに向かってくる何かの音が聞こえ、
あわてて姿勢を低くすると俺がいた場所に矢が通り過ぎた。
「よう、盗人さんよ」
そんな声が聞こえ、振り返ってみるとそこには赤い弓を手に持ったシドが立っていた。
「シド!」
よく見るとその手には緑色のカラーリングがされているロックシードが三つ握られており、
さらにその中に見覚えのない未知のロックシードも見えた。
……ロックシードの補充がきくのはうらやましい限りだ。
「人のロックシードをよくもまあ、我が物顔で使ってくれるじゃねえか」
「確かに俺も悪いが……スカラー兵器なんてものを持っているお前たちもよっぽどだぞ」
「どこでそれを……まあいい。今日こそお前に印籠を渡してやるよ!」
『ロックオン!』
『コネクティング』
そう言い、シドは持っていた三つのスイカのロックシードを空中へ放り投げると同時に、
弓にSと大きく書かれたロックシードをはめ込み、弦を引絞って矢を放った。
放たれた矢がロックシードに直撃するや否や、スイカのロックシードがドライバーのブレードで、
展開された状態に変形すると同時にその大きさが巨大化し、
光輝きだしたかと思えばその光の中からスイカの鎧が二体、出現し、俺の前に立ちはだかった。
数あるロックシードの中でもかなりの力を持つスイカのロックシードを遠隔操作……。
ユグドラシルに属しているからこそ、持てる力というわけか。
「いけ!」
『ジャイロモード!』
「うぉっ!」
シドの掛け声とともにジャイロモードへと形態を変形させると指の機銃から、
連続で弾丸が俺に向かって発射され、地面に無数の穴を開けながら砂埃を立てていく。
俺はその場を離れて弾丸をよけながらも地面に弾丸が当たった際の砂ぼこりに紛れ、
つい先日に相良からもらった新たな力であるカチドキロックシードを解錠した。
さあ、カチドキをあげていくぜ。
『ソイヤ! カチドキアームズ・いざ・出陣・エイエイオー!』
ドライバーにセットし、ブレードを降ろすとそんな音声が響き渡り、上空から、
カチドキのアームズが落ちてきて俺に被さると同時にスイカからの弾丸を弾きながら、
鎧が展開され、ものの数秒で鎧の展開が終了した。
「それが未知の力って奴か。潰せ!」
握っている銃の側面にある円盤をスクラッチし、スイッチを九十度倒すと、
ドライバーの待機音声のホラ貝の音楽が遅くなり、もう一度スクラッチしてから、
両手で銃を持って引き金を引くと巨大な火球が放たれ、スイカに直撃し、
一瞬にして一機のスイカの鎧を砕いた。
さすがにすごい威力だな……体に力を入れて撃たないと俺まで吹き飛ぶ。
「防御形態!」
「潰れろ!」
大玉モードとなったスイカに引き金を引いて、巨大な火球をぶつけていくが、
どうやらあっちもかなり堅牢らしく、何発直撃させてもヒビすら入らなかった。
……やっぱり防御形態をたたき割るのは難しいか。
直後、大玉がものすごい速度で俺に迫ってきた。
「んの! はぁぁ!」
背中にある二本のロッドを手に持ち、向かってくるスイカをロッドで弾いていくが、
二つのスイカが俺の周囲を高速で回り始めた。
「潰れちまいな!」
シドの掛け声と同時に俺の左右から大玉モードのスイカが突っ込んできて、
二つのスイカに俺は挟まれた。
っっっ! 流石にカチドキの鎧でも二つの大玉モードのスイカの突撃は完全に、
その衝撃を吸収することはできなかったか……が、この程度でつぶれるカチドキじゃない。
「はっ。大人しく従っておけばいいものを」
「……子供は大人の道具じゃねえよ! うらぁぁ!」
「なっ!」
そう叫びながらロッドを持ちながら回転するとロッドが通る軌道に炎が噴き出し、
大玉のスイカをその炎で大きく、吹き飛ばした。
「子供はいつまでも大人の支配下にあるわけじゃない……やがて、
子供も大人になり、巣立っていく。それが人間を含めた動物の運命だ!」
腰にひっかけていた銃を手に取り、九十度に曲がっていた持ち手の部分をまっすぐにし、
トリガー付きの刀を装着口に差し込むと銃口から刃が現れ、大きな刀となった。
『ヨロイモード!』
「はぁ!」
スイカの双刃刀の一撃を刀で弾き、もう一体の一撃を片腕で受け止めると、
両腕を上に振り上げて二機のスイカをよろけさせると近くのスイカの鎧めがけてかけだした。
「よっと! だらぁ!」
こちらに向かって振りおろしてくる相手の一撃を避けながら、
ヨロイモードの足を刀で切りつけて破壊し、
体勢を崩した後に全力で真っすぐに振りおろし、二機目のスイカを真っ二つに切断した。
「よっと! せいはぁぁ!」
残っていたスイカのパンチを上空に跳躍してよけ、そのまま落下する勢いを利用しながら、
刀でスイカを切り裂くと相手が盾のように刀を俺に向けるがその刀ごと鎧を切り裂くと、
綺麗に真っ二つに切り裂かれ、大きな爆発をあげて最後のスイカの鎧が消え去った。
「バ、バカな!」
「言ったろ。いずれ子供は大人の下から巣立つ……大人以上の力をもってな。
悪いが今はお前と闘っている暇はないんだ。じゃあな」
『ジンバーチェリー! ハハー!』
「ぐあぁ!」
チェリーの高速移動でシドを弾き飛ばしながら未知の声が聞こえた場所へと向かうと、
そこには洞窟のような場所があり、そこへ入っていった。
確かこの辺で奴の声が聞こえたんだ……場所は間違いないはずだ。
その時、背後から誰かの足音が聞こえ、振り返った瞬間!
「ぐあぁ!」
突然、誰かに刀のようなもので切り裂かれ、数歩後ろに後ずさった。
体勢を立て直し、前方を見るとそこにはマントを羽織り、俺の頭二つ分以上に大きな身長、
真紅を基調とした体色、真っ赤な両手剣を持ったインベスのような存在が目の前に立っていた。
普通のインベスとは感じるオーラが違う……こいつがオーバーロードか!
「×※▽#$%&%&$!」
「はぁ?」
俺が理解することのできない言語を口早に吐き出しながら奴が、
振りおろしてくる刀をチェリーの高速移動でよけるが奴は、
俺が高速移動している間も俺から視線を外さなかった。
こいつ、チェリーの高速移動が見えているのか……確かにほかのインベスとは、
次元が違う存在だ。言語が全く違うものを使っている以上、話をするのは不可能か。
「はぁ!」
弦を引絞り、矢を奴めがけて放つがやつは刀を両手で回転させて弾き飛ばすと、
地面に刀を差し、体をゲル状に変化させて周囲を縦横無尽に飛び回り始めた。
「くそ!」
向かってくるゲルを弓で叩き落とそうとするが避けられ、体当たりを次々と喰らっていく。
矢を上空に放つと矢がチェリーの形に変化すると同時にはじけて、
周囲一帯に大量の矢を落とすがそれらすべてを避けて、元にいた場所に戻った。
「!#$%×※▽#$%&%&$」
奴は何かを叫びながら手のひらに火球を生み出し、俺に投げつけてきた。
「うらぁ! なっ!」
放たれてきた火球を弓で叩き落とそうとするが火球が意思を持っているかのように、
俺が振り下ろした火球を避けて俺の背後にまわって俺に直撃した。
さらにやつは回転し始め、一つの竜巻と化すると俺を巻き込み、
急停止して俺を壁に叩きつけた。
「がっ! 能力多彩すぎるだろ!」
「#$%×※▽#$%&」
「あ?」
さらに別の声が聞こえ、そちらのほうを向くと何故か国語辞典を手に持ち、
ヘルヘイムの果実がぶら下がっている長柄の戦斧を持った翡翠色を基調とした体色の、
オーバーロードがゆっくりとした歩調でどこからともなく歩いてきた。
オーバーロードは一体だけじゃないのか!?
「デェ……ムシュ、レデュ……エ」
緑色のやつは赤色のやつと自信を指さしながらたどたどしい日本語でしゃべり始めた。
……こいつ、まさか国語辞典の発音を見ただけで日本語を理解したのか。
「タイクツ……オマエ……オモチャ」
「玩具!? ふざけうわ!」
奴に食ってかかろうとした瞬間に俺の足首にヘルヘイムの森のツタがからみつき、
そのまま俺を宙づり状態にした。
あわてて赤いほうを見てみると俺のほうに手を向けていた。
……そうか。こいつ、ヘルヘイムの森の植物をコントロールできるのか!
「うぉ!」
そう思った直後、突然二体が煙となって消滅したかと思えば俺の足首に巻きついていた、
ツタも消え去り、そのまま頭から地面に落下した。
「イテテ……あれがこの森の王の力か」
変身を解除しながらそう呟いた。
今までいろんなインベスやアーマードライダーと闘ってきたがその中でも、
連中の強さは計り知れないレベルだ。
「……ほんと試練にしてはでかすぎるよ」