その日、私――――高司舞は普段のダンスの練習を終え、
自己練習をしているいつもの場所へと向かっていた。
まだ、私達の状況は悪評とかであふれてるけどあの日の最後のステージ以来、
最初のころと比べて格段にマシになった。
もしも健太がいなかったらブラーボに邪魔をされてそれどころじゃなかったし。
「今度、お礼にどこか一緒に……な、何言ってんだろ」
自分で自分の言っていることに焦りながら歩いていると急に、
目の前にスーツを着たスタイルの良い女の人が私の前に立ち止まった。
す、凄い……スラッとしてて足も綺麗だしスタイルだってモデルって思うくらいに良いし……。
「高司舞さんですね?」
「は、はい」
「私、ユグドラシルコーポレーションで秘書をしております湊耀子と申します」
丁寧な言い方で自己紹介をされながら差し出された名刺を受取ると確かに、
名前の隣に選任秘書って書かれてるし、スーツの胸のところにも、
ユグドラシルコーポレーションのロゴマークが掘られたバッジがついてあった。
「今日は貴方にお伝えしたいことがあって参りました。少々、お時間をいただけないでしょうか」
……この人はなんか極悪人には見えなさそうだけど……。
「ま、まあ少しだけなら」
「それは良かった。ではこちらに」
そう言ってニコッと笑みを浮かべると近くに止められていた車に案内され、
それに乗るとドアが自動でしまって、湊さんが私の隣に座って来て湊さんの一言で車が動き出した。
何故か知らないけど窓にはスモークが張られていて外の景色はまったく見えない。
……なんか誘拐された気分。
「今いくつかしら?」
「じゅ、十七です。今年の誕生日で」
「そう。十七か……私も青春時代を楽しんだわ。
男なんか一月で一人くらいのペースで付き合ったり、別れたりしたわ」
確かにこの人くらいの綺麗な人になるとその位に男をひっかえとっかえしたりするよね。
ユグドラシルコーポレーションで選任秘書ってことはもう、
出世街道まっしぐらのキャリアウーマン。
湊さんと色々と話をしていると急に車が止まった。
目的の場所についたみたいでドアが自動で開いて、湊さんに手招きされて、
そのままついて行くと地下の駐車場みたいなところからエレベーターに乗って、
上へと上がっていって、案内されたのは会議室みたいなところだった。
「御連れしました」
『ご足労をおかけして、申し訳ありません。高司舞さん』
その時、部屋に声にモザイクをかけた音声が響き渡った。
……顔も出さずにしかも、声まで隠して話しかけてくるなんてなんか感じ悪い。
『今回、貴方に来てもらったのはあることをお願いしたいからです』
「あること?」
『ええ。三直健太が持つ戦極ドライバーを奪って我々に渡してほしいのです』
健太の戦極ドライバーを……。
『もちろんタダで、とは言いません。もしもあなたがドライバーを我々に渡してくれれば、
貴方はもちろん、貴方の周りの友人の安全を保証いたしましょう』
「……顔も見せないでしかも、声まで小細工している人に守ってもらうよりも、
もっと信頼のおける人に守ってもらいます」
『そうですか……では、これはどうでしょう。最近、
ユグドラシルコーポレーションは芸能面にも進出をしています。
その一環としてアイドルグループが作られているのはあなたもご存じでしょう』
最近、有名になった話。ユグドラシルコーポレーションっていう大きな会社がバックにあれば、
テレビとかにも引っ張りだこの状態にすぐなれる。
でも、私はあまり興味はなかった。
私がしたいのはダンスだけであって別に歌って踊ってをしたいわけじゃないし、
根本的に芸能界なんていう世界に興味もない。
「興味ありません」
『そのアイドルユニットのメンバー……ではなくバックダンサーなんてどうですか?』
部屋から出ようとしている時にそんなことを言われて、ドアを開けようとする腕を止めてしまった。
メンバーじゃなくてバックダンサー……つまり、
大勢いるお客さんの前でダンスを踊れるっていうことだよね……で、でも私は。
『貴方はたくさんのお客さんの前で踊っていた時期のことが忘れられないんですよね?
多くの客からの声援を真正面から受けて踊りたい……たとえ少ないお客さんでも良い。
建前ではそう言えても本音では貴方は少ない客の前で踊るよりも、
大勢の観客の前で踊りたいと思ってる。違いますか?』
「…………」
『そこでさっきのことをしていただければそれが叶いますよ。引渡し期日は明日の夕方。
町はずれにある廃工場跡で。よい結果をお待ちしております』
そう言ったのを最後にモザイクがかかった音声はもう、部屋に響いては来なかった。
その後、私は湊さんに車で自宅の近くまで送られた。
「案外、黒いところがあるのね」
「黙れ……これは舞さんを護るためでもあるんだ」
「好きなんじゃないの? あの子のこと」
「……好きだからこそこっちの手の中に入れて護りたいんだ。
いつまでもあんなところにいたらいつ怪我をするか分からない」
僕は舞さんがいた会議室の隣でボーっと座っていたところをコーヒーを持った湊さんに、
絡みに近い状態のことをされていた。
僕はそれを睨みをきかせながらあしらうけど向こうは僕なんかよりもずっと、
長く生きてきた大人。ずっと年下の睨みなんか効くはずもなく笑ってやり過ごされた。
ユグドラシルのプロジェクトを完遂するには……健太さんという存在は障害でしかない。
バロンの戒斗さんも以前のユグドラシル襲撃の際にプロフェッサーから見込まれたのか、
外部協力員として出入りをしているらしいし凰連とその部下の城乃内もユグドラシルの傘下に、
入っているといっても過言じゃない。
新たにアーマードライダーになったザックに関しては特別、何かの策を講じなくても、
プロジェクトの障害になることはまずあり得ない。
……でも、あの人だけは別だ。今はプロフェッサーの頭脳の範疇にいるから、
そこまで驚異には感じないけどほんの少しの予想外の事態で、
あの人はプロフェッサーですら手に負えなくなるくらいの存在になる。
「で? 俺があのお譲ちゃんからドライバーを受け取ればそれで良いと」
「そうだ。あの人からドライバーさえなくせばただの人だよ。
あの人がユグドラシルに反抗できているのはドライバーの力があるから。
それさえなくせば、あの人は何もできなくなる」
「尊敬してるんじゃないんだっけ?」
「してるよ……でも、それは過去の話し。障害になれば尊敬している人でも、
その感情は消えて、障害を全力でつぶしに行く」
「……本当に坊ちゃんは十六歳かい?」
「そうだよ……ちょっとひねくれた十六歳だけどね」
健太のドライバーを奪えって言われた日の翌日のお昼頃。
私は未だにチームの拠点で一人悩んでいた。
健太からドライバーを奪えばそれだけでこれからの私の人生はバラ色になるけど、
向こう側に逆らって何もしなければ……何をされるか分からない。
この沢芽市で多大な経済の恩恵を与えているユグドラシルコーポレーションが、
二人の人間を路頭に迷わせることなんて赤子の手をひねるくらいに簡単だろうし。
「はぁ……どうしよ」
「何がだ」
「はぁぁ!」
突然、後ろから声が掛けられ、変な声を上げながら座っていた椅子から飛び退いて、
後ろを見るとそこにいたのはいつもの格好をした健太だった。
ビ、ビックリした……考えすぎて健太が来たのに気付かなかったなんて。
「珍しいな。お前がここで踊ってないのは」
「ま、毎日踊ってるわけじゃないわよ」
「ま、そりゃそうか」
そう言って健太は置いてある黒いソファに横になった。
最近、ザックと一緒に開いたチャックから出てくるインベスの掃討に出向いているらしくて、
中々疲れが取れないってザックが言ってたくらいだから健太だって疲れているはず。
「なあ、舞」
「な、なに?」
「……もしもお前の目の前に血だらけの人が倒れているとして今、
お前は自分の子供を病院に連れていかなければならない状況としたら……お前はどうする」
突然の質問に若干、驚きながらも私は普段と同じように装いながら質問の答えを考え始めた。
確かに子供を病院に連れて行かなきゃならないのは絶対にしなきゃならないんだけど、
目の前で倒れている人も放っておけないし……。
「私だったら周りの人に助けてもらう。私ひとりじゃできないから」
「……そうか。ありがと」
そう言い、健太がぼーっとしだした頃、健太の目が閉じたり開いたりを交互にし始め、
それからほんの数分で健太が眠りについた。
相当、私を信頼しているのか近くのテーブルにドライバーとロックシードを置いたまま。
…………あ、あれを持っていけば……い、良いんだよね。
私は健太を起こさないように足音をたてないようにそーっとドライバーに近づいて行く。
「…………」
私は物音をたてないように戦極ドライバーを手に持って、いつものリュックサックの中に入れ、
ガレージの出口へ向かい、ドアを開けようとした瞬間!
「あれ、舞じゃない。どこか行くの?」
「っっ!」
扉があいて中に入ってきたのはチャッキーだった。
「う、うん。まあね」
「ふ~ん。あ。明日の練習のことなんだけどここじゃ狭いからさ、どこか広い場所ないかな?」
「う、うん。探しとくね。じゃあね!」
「……なんだ、来てたのか」
目を開けて、眠り眼の状態で半分寝ぼけながら周囲を見渡すと、
チャッキーが一人でポップコーンを食べていた。
今やチームガイムは混成チームとなったためにうまくメンバーの予定を組めておらず、
ちょこちょこ練習がなくなったりするらしいが今日がその日……ん?
テーブルの上に置いてあったドライバーがなく、落ちているのかと思って、
テーブルの下やソファの下なんかを見ていくがどこにもなかった。
「チャッキー! ドライバー知らないか!?」
「う、ううん。あ、でもなんか舞が慌てた感じで出ていったけど」
「……まさか」
慌て外に出てポケットからスマホを取り出して舞の携帯に電話をかけるが、
電波が届かない場所にいるらしく、通話状態にならなかった。
本格的にやばいぞ……なんであいつがドライバーを持ちだしたか知らんが、
あいつの身にもしものことがあれば。
その時、俺の後ろで誰かの足音が聞こえ、振り返ってみるとそこには髪色を金髪に変え、
白いドレスのようなものを着た舞と同じ顔をした奴が立っていた。
「今、ここで貴方が彼女を探さなければ貴方はまだやりなおせる」
……あの時とは違う警告だな。進み続けなければならないという警告から、
今ならまだやりなおせるってか……。
「……確かにやり直せるかもな……でもな。あいつとの……舞との日々はもう、
二度とやり直せないんだよ。ここであいつを探さないなんて言う選択肢は俺にはない!」
「…………」
俺がそう言うと彼女は悲しそうな表情を浮かべるが手招きをした後に踵を返し、
少しでも目を離せば見失うほどの速度で歩き始めた。
俺はすぐさまロックビークルを解錠してバイクへと変形させて、追いかけていく。
……バイクでも全く横につけないなんてあいつ、いったい何者なんだ。
奴について行くにつれて都心から離れていき、町はずれへと入っていく。
さらに突き進んでいくと以前、貴虎と戦闘を行った廃工場へと入っていき、
錆びた扉をバイクのタイヤで吹き飛ばして中に入るとそこには舞とシドが立っていた。
「け、健太……なんで」
「ちょっとな……」
ドライバーを持っている舞とシド……なるほど。ユグドラシルが何らかの形で舞に接触し、
舞にとって好条件の契約を取り付けたという訳か。
「……すまん、舞」
「え?」
そう言うと舞は驚いたような表情を浮かべた。
「お前が苦しんでいることに気づけなかった……お前、相当悩んでたんだな。
やっぱり、俺はダメなやつだ……すぐ近くにいたお前が悩んでいるのに気づけなかった」
むしろ、逆かもな……俺が大嫌いな舞が悩んでいるように気づかせないようにしていた。
「ユグドラシルから何を持ちこまれたか知らないが……舞、俺はお前を護り続けたい」
「っ!」
「俺が過去にやったことで信頼できないのはわかる……もう一度だけ俺を信じてほしい。
今度は絶対に裏切らない……お前の傍からも消えない」
「お譲ちゃん。そいつを取るか、こっちを取るか……賢いあんたなら分かるよな。
それにそいつのこと、嫌いなんだろ? 嫌いな奴の条件をのむんだったら、
俺達側の条件を飲んだ方がよっぽどこの先の人生、幸せに暮らせるぜ?」
そう言いながらもシドはすでに腰に次世代型のドライバーを装着しており、
ポケットに突っ込んでいる手の中にはロックシードが握られているだろう。
その時、突然上のほうからガコン! という嫌な音が聞こえ、上を見上げると、
いくつもの鉄骨が舞の上から落下してきた。
「舞!」
その鉄骨を見て頭を抱えてその場にうずくまった舞に近づき、
腕を掴んで鉄骨から離れた場所へ飛びのいた直後、さっきまでいた場所に次々と落下してきた。
たっく……こんなボロイ工場なんかすぐに壊してほしいもんだな。
「大丈夫か、舞」
舞を見ると向こうも俺のことを見ていたのか視線がちょうどぶつかり合った。
すると舞は俺から視線を外すとリュックサックの中から戦極ドライバーを取り出し、
俺に手渡してきた。
「信じる……健太のこともう一回信じてみる。また裏切ったら今度こそあっち行くからね」
「あぁ。約束だ」
そう言い、舞からドライバーを受取って追加パーツをドライバーに装着させ、
レモンとオレンジ、二つを同時に解錠すると奴もロックシードを解錠し、
深く帽子を被って顔を隠した。
「ほんとバカな連中だよ……ユグドラシルに従うか、
とっととこの街から消えた方が身のためだったのに」
「どういう意味だ」
「念には念をって言うだろ? ユグドラシルはたとえ秘密が漏れても、
塗りつぶすだけの力があるのさ……ま、言っても無駄だがな」
塗りつぶすだけの力……つまり沢芽市の住人全員が秘密を知ったとしても、
全ての口をふさぐだけの力があるということか……まあ良い。
「変身!」
「変身」
『ロックオン・ソーダ』
『ロックオン・ソイヤ!』
奴はレバーを押し込み、俺はブレードを降ろすとロックシードが解錠され、
上空に浮遊していたアームズが落ちてきて同時に俺たちにかぶさった。
『チェリーエナジー・アームズ』
『ミックス・オレンジアームズ・花道・ON・ステージ! ジンバーレモン! ハハー!』
変身を完了させたと同時に弓を握り締めて駆け出し、二人同時に弓をぶつけあうと火花が散った。
貴虎がこの程度の作戦をやることはないだろう……部下には恵まれないのか、
それとも信任した奴が間違っていたのか。
奴の蹴りを右腕で防ぎ、隙だらけの部分を弓で切り裂くと火花が散り、数歩後ろへ後ずさった。
「ちっ! 大人を舐めるなよ!」
「うらぁ!」
奴が矢を放ったと同時に俺の足もとに転がっていたドラム缶を蹴飛ばして相手の矢に当て、
砕けたドラム缶が奴の目くらまし代わりとなり、視界を潰した。
俺はその目くらましの中に突っ込んでいき、
奴の顔面を殴りつけた後に弓で連続で奴を切り裂き、蹴り飛ばした。
「はぁ!」
「うぉ!」
倒れ込みながら奴が放ってきた矢の一撃を避け切れずに直撃し、軽く吹き飛ばされて、
背中から地面に倒れ込んでしまった。
それと同時に追撃と言わんばかりにシドが俺に向かって駆け、弓を振り下ろそうとしてくるが、
俺はトリガーを引き、弾丸を装填した刀をホルダーに入れたままの状態で銃口だけを向け、
引き金を引くと今にも弓を振り下ろそうとしていたシドの腹部に全弾直撃し、
火花を散らせながら大きく吹き飛ばした。
「俺はこんなところで負けられないんだ。やるべきことを見つけてそれを完遂するまでわな!」
「ガキがぁ!」
『ロックオン・チェリーエナジー』
「うおおぉぉぉ!」
奴が放ってきたでかい一撃の矢を弓で受け止めようとするが、
その凄まじい衝撃で徐々に後ろと押されてきた。
決めたんだよ……俺は舞を護る! そこに敗北はない!
『オレンジオーレ! ジンバーレモンオーレ!』
「だあぁぁぁぁぁ!」
「なっ!」
『ソイヤ! オレンジスカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!』
「はぁぁぁぁ!」
「ぐあぁぁ!」
二回ブレードを降ろすと弓の刃の部分に光が走り、弓を無理やり振るうと、
シドが放った大きな一撃が消え去り、さらにブレードを一回降ろして高く跳躍すると、
シドまでの軌道にオレンジとレモンの輪切り状のエネルギーの円盤が出現し、
急降下の勢いでその円盤を通過していくたびに足に集まっているエネルギーが増大していき、
辺りを明るく照らしながら奴に蹴りをぶつけると大爆発を起こして、
大きく吹き飛んでドライバーから外れたチェリーのロックシードが俺の手元に入った。
「バ、バカな……俺がガキなんかに」
「ユグドラシルに帰ったらほかの連中にも言っておけ。今度……俺の仲間に手を出せば、
徹底的にユグドラシルをぶっつぶす!」
シドにそう叫んだ瞬間、突然真上にクラックが開き、下級インベスが二体、俺に襲いかかってきた。
その間にシドは体を引きずりながら去っていった。
「邪魔だ!」
「健太さん!」
その時、光実の声が聞こえ、反射的にその場から飛び退くと紫色の光弾が放たれ、
インベスに直撃して大爆発を上げて消滅した。
「ミッチー! なんでここに」
「偶然、舞さんが廃工場に向かってるのが見えて心配になってきたんです」
「そっか……心配掛けてごめんね?」
「いえ。無事でよかったです。さ、帰りましょう」
……クラックの開き方が出来過ぎているような気もするが……。
D×Dの連載が終わったら昨日に投稿した遊戯王の連載でもしようかなと思っている今日この頃。
そして今日、私は簿記三級の検定試験なのだ! ハハハハハハハ!