「……戦極凌馬か」
「そうだよ。さあ、変身してくれたまえ」
『ロックオン』
そう言いながら手加減なしで振り下ろしてくる弓を避けながら、
ドライバーに装着されているレモンとオレンジのロックを解除した後にもう一度、
ロックをし直すと奴が弦を引き絞る態勢に入ったのでその場から飛び退くと容赦なく矢を放ってきた。
あいつ、丸腰の人間に撃ってきやがった!
「変身!」
『ミックス! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ! ジンバーレモン! ハハー!』
あいつが放ってきた矢をバック中をして避けながらブレードを降ろすと、
俺が地面に足をつけたと同時にかぶさって鎧が展開され、手に赤色の弓が現れ、
弦を引き絞って矢を放つが奴が放った矢とぶつかりあい、消滅した。
その直後に俺は駆け出し、奴を切り裂くが奴はひるみもせずにゆっくりと弓を振り下ろしてきた。
それを弓で防ぐが凄まじい重みが俺の全身にのしかかり、一瞬体勢が崩れて、
地面に倒れるところだった。
ジンバーという新しい力を手に入れた今の状態をもってしても、
こいつとのスペックの差は開きすぎているっていうのか!
「すまないね。素人なもんで手加減というものが分からないんだ」
俺は押し込まれているときに少し相手の弓を押しのけ、その場から飛びのくと、
奴は前に重心を置いていたせいで少し前によろめいた。
確かにスペック差は開いているが確かに技術は素人! ならば!
俺はすぐさま戦極からさらに距離をとり、矢を数発放つが奴の弓にすべて叩き落とされる。
しかし、叩き落とされた矢が地面に着弾して砂埃が奴に覆いかぶさった。
直後にその砂ぼこりの中へ突っ込んでいき、姿勢を低くしながら弓を振るうと、
奴の脇腹あたりを切り裂き、そのまますれ違った。
「ふむ。煙幕か。考えたね」
素人ならば視界を一瞬でも潰すことができれば大きな隙ができる。
奴でいえばその強大なスペックからでてくる余裕、そこを狙ったんだ……が、やつは科学者だ。
同じ戦法はもう通用しない。
「こちらも行こうか」
そう言い、やつは矢を上空へ二発放つと矢がレモンの形をしたエネルギーの塊へと変形し、
その直後に破裂して凄まじい数の矢が俺の目の前に降り注いだ。
「くっ!」
降り注いでくる矢を弓で弾きながらも迫ってくる奴めがけてトリガー付きの刀から、
光弾を放つが直撃しても意に介さず、弓を振り下ろしてくるのを俺の弓で防ごうとした瞬間。
「うぉっ!」
『ロックオン・レモンエナジー』
手首を掴まれ、片腕だけで背負い投げの要領で投げられるがドライバーから、
レモンのロックシードを瞬時に取り外し、
弓に装着させて地面に落ちる間に奴めがけて矢を放つと直撃して大爆発を上げた。
……流石に直撃でのダメージはあるはずだ。
『レモンエナジー!』
「ぐぁ!」
爆煙の中から黄色の矢が飛んできて俺に直撃し、
大きく吹き飛ばして背中から地面に落ち、強制的に変身が解除された。
……こいつが変身しているアーマードライダーの異常なほどに高いスペックが補っているのか。
「三直!」
後ろから声が聞こえ、振り返ると戒斗がこっちに向かって走りながら変身を完了させ、
槍を持って奴に斬りかかるが、その一撃を避けられると同時に弓の一撃を喰らった。
「ぐぅ! はあぁぁぁ!」
『バナナオーレ!』
「よっと」
ブレードを二回おろして一度、槍を上にあげると槍を覆うようにバナナの形をしたエネルギーが出現し、
それを横薙ぎに槍を振るった。
が、戦極は上空へ跳躍してそれを避けるとそのまま落下の勢いを借りつつ、
弓を振り下ろした。
「がぁ……ぁ」
「戒斗!」
縦に切られた戒斗は数歩後ろへ後ずさった直後に背中から地面に倒れ込むと同時に、
変身が解除され、元の姿に戻った。
「ふむ。やはり、私じゃ測ることは不可能か」
そう言い、レモンは止めを刺さずに俺達のもとから去っていった。
……ある意味、最強の敵はユグドラシルじゃなくて奴かもな。
「戒斗。しっかりしろ」
倒れている戒斗の肩を抱いて無理やり立たせ、全員が集まっている会場へと歩きだした。
「なぜ、わざわざ貴方が行ったんですか。プロフェッサー凌馬」
「ふふ。君が尊敬している彼の実力を確かめたかったんだが……やはり、
私のスペックじゃ差が開き過ぎてろくに計測もできなかった……ただ、
もしものはなしだが……彼が新しい力を手に入れたら……彼が一番上に立つかもね。
ま、ロックシードを僕が管理している以上はあり得ないけどね」
「と、言うと?」
「もうこれ以上の進化は彼には起きえない。コアスロットル、エナジーロックシード。
彼はもう進化の素材を使いきったんだ。新しいものを開発しない限りは進化はもうないね」
そう言って含み笑いを浮かべながらプロフェッサーはゲネシスドライバーを手に持って帰路へと就いた。
次世代型ライダーの中で最も高いスペック……戦闘の素人が変身しながらも、
あの二人を圧倒するなんて……プロフェッサーの予測不可能な事態が起きない限り、
あの二人が貴方に勝つことなんてありえませんよ。
僕はそう思いながらプロフェッサーの後を追いかけた。
レモンに打ちのめされた俺だったが途中で戒斗が俺を突き飛ばして、
ヘルヘイムの森へと突入したことでやることがなくなってしまい、
そのまま舞達とともに拠点へ戻って、サガラのチャンネルを全員で見てみると、
批判のコメントは若干だが成りを潜め、手のひらを返したように賞賛のコメントが溢れていた。
まあ、現実を知らなければ小さなことだけで右にも左にも傾く。
とはいえ肯定的な意見が出てきからビートライダーズを取り巻く状況は一変したといっても良いだろう。
「良かった。まだ否定的な意見もありますけど、
またダンスができる日が来るのはグッと近づきましたね、舞さん」
「うん! 健太! 本当にありがとう! あんたがステージとかセットとか、
準備をしてくれていたから私たちはダンスだけに集中することができた。本当にありがと!」
メンバーの中で一番喜んでいるのは舞か……まあ、今までの状況が変化して、
ダンスが踊れるようになる日が来るのがぐっと近くなったんだ……これで、
もう俺が出来ることは無くなったな。
俺は礼を言ってくる舞に笑みを浮かべてからサングラスをかけて、
出口へと歩いていくが後ろから呼びとめられた。
「健太……今度はお客さんとして来て。その時は今回以上のものを見せるから」
「あぁ……楽しみにしとくよ」
そう言い、出口を出てロックビークルを解錠するとともに、
変身を完了させてバイクへと跨り、俺もヘルヘイムの森へと突入した。
俺がビートライダーズに出来ることはすでに終わった……これからは、
ユグドラシルを叩き潰すことに専念する。
ヘルヘイムの森へと突入を終え、少しばかりバイクを走らせると前方に、
果実を回収している戒斗が見え、近くでバイクを止めて、
変身を解除して近づくと奴は驚いたような表情を浮かべて俺を見てきた。
「何の用だ」
「俺もお前のやることに参加したい。ユグドラシルを潰したいんだろ?」
「連中は良いのか」
「あぁ。もう俺が出来ることは終わった……これからは奴らを潰すことに専念する」
そう言うと戒斗は首を上下に振り、俺について来いと、
言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら歩き始め、俺もそれについて行く。
その間、会話は一切ないがところどころで奴が果実を回収していくと、
その中にロックビークルに変形するらしいものが生成された。
どうやらロックビークルも果実から生成することに成功したらしい。
そんなことを考えていると急に立ち止まった。
目の前に広がっている光景は以前、
奴らのキャンプがあった場所で何人かの護衛の黒影も立っていた。
なるほど……チームを抜けてからずっと準備をしていたという訳か。
「この時間帯は護衛が少ない……今がチャンスだ。行くぞ」
「いや、待て……いくらなんでも少なすぎないか」
周囲を見渡し、護衛の数を確認してみるがその数は五人にも満たっておらず、
ユグドラシルに直行できる場所を護るには少し……いや、かなり足りない。
ここはヘルヘイムの森だ。いつ大量のインベスが襲いかかってきてもおかしくはない。
その時、俺達の背後でミシッという音が聞こえ、慌てて振り返ってみると、
まるでバッタの脚部を模した二足歩行型のロックビークルに乗った複数の黒影とシドが立っていた。
「待ってたぜ、ここは我々の領域だ」
「「変身!」」
『ソイヤ! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ!』
『カモン! バナナアームズ・ナイト・オブ・スピアー!』
俺達は同時に変身を終えるとすぐさま連中が襲いかかって来た。
まるでバッタのような長い足で地面をピョンピョンとび跳ねながら、
装備されている機関銃が俺たちに向かって放ってくる。
己の得物で新型のロックビークルに攻撃をしようとするがピョンピョンとび跳ねるうえに、
周囲を取り囲まれているせいで背後からの攻撃に反応がしにくい。
「邪魔だ!」
刀を横に振るうがバッタのように飛び跳ねて一気に全員が距離を取ったかと思えば、
一機が俺達の間にレーザーを照射すると俺たちの背後にクラックが開いた。
「じゃあな」
「うおおぉ!」
全ての機械から凄まじい勢いの突風が俺たちめがけて放たれ、
直撃した俺たちは耐えるえることもできずに一瞬でクラックの外に弾き飛ばされた。
弾き飛ばされた場所はタイヤやテレビなどが大量に廃棄されている場所だった。
「イテテテテ……戒斗。感づかれていたな」
「こういう事態も予想済みだ……俺がこれで終わると思うなよ」
そう言い、不機嫌な様子で歩いて行く奴の後を追いかけようとしたとき、
ふと地面に別人の影があるのに気付き、そっちの方を向くとサガラが階段に立って、
俺達のことを眺めていた。
「サガラ……何の用だ」
「よう。随分と頑張ってるじゃねえか」
「毎度毎度、お前は一体何なんだ」
「俺はただ単に傍観者だ」
「その割には介入が多い気がするが」
戒斗がそう言うと両肩を上げておどけたような表情を浮かべた後に、
ポケットから一つのロックシードを取り出して俺に向かって投げてきた。
それを受取って見ると他のロックビークルと同じくらいの大きさの錠前に、
チューリップの装飾が施されたものだった。
「それは連中が新開発したロックビークルだ。その場でクラックを生成することもできる優れものだ」
「何故、これを俺たちに渡すんだ」
「言ったろ? 俺は傍観者だ。お前たちが何をして、
この世界がどうなるのかを見ているのさ。さあ、さっさと行って来て俺を楽しませてくれ」
そう言い、サガラは階段を下りていき、数秒後には俺たちには見えなくなった。
サガラ……ただ単に海賊チャンネルをしているDJじゃなさそうだが……まぁ、いい。
俺はポケットからスイカのロックシードを取り出して、戒斗に渡すと、
奴は一瞬だけ驚いた様子を示したがすぐに理解して、再び変身し、
ロックビークルでヘルヘイムの森へと突入した。
「俺がシドを片付ける。お前は護衛を片付けろ」
「任せろ……それじゃ、始めるぞ」
そう言うと変身を終えた戒斗があえて連中の目の前に突撃していき、
ロックビークルに搭乗している連中を一気に引きつけ、
それを見て俺はタイミングを見計らって戒斗から受け取ったタンポポのロックビークルを解錠し、
変形させて前々から準備がされていたワイヤーを括りつけて、思いっきり蹴り飛ばすと、
勢い良く吹き飛んで括りつけられた縄によって連中を絡みとめた。
「だぁぁぁ!」
その隙にサガラから受け取ったロックビークルを使用し、それに乗り込んで、
ビークルの脚力を最大限に利用して空高く跳躍し、装備されている機銃で、
連中が搭乗しているビークルの関節部分を破壊し、
行動不能にしてから急降下の勢いを利用して蹴りをぶちこむと連中ごとビークルが爆発した。
ふと、戒斗の方を見るとスイカアームズに形態を変え、シドと交戦していた。
俺がユグドラシルに直行しても良いんだが、今回は止めておくか。
ビークルを利用して高くジャンプを繰り返しながら移動を続けていると、
突然、何処からともなく緑色の矢が飛んできて、
ビークルに直撃してバランスを崩し、地面に落ちた。
「……よう。会いたかったぜ、メロン」
『ミックス! ジンバーレモン! ハハー!』
目線を上げると前方にメロン野郎を確認し、レモンを解錠して追加パーツにはめ込み、
ブレードを降ろすとオレンジとレモンのロックシードが同時に展開されると同時に、
二つのアームズが融合し、俺にかぶさって赤い弓が俺の手に現れた。
互いにゆっくりと近づいていき、同時にかけだして弓をぶつけあうと火花が散った。
「貴様! それをどこで手に入れた!」
「さあな。プレゼントとでも言っておこうか!」
奴に蹴りを入れ、後ろに飛び退きながら矢を放つが奴の放ったものとぶつかりあい、
辺りに衝撃をまき散らしながら消滅したがそんなものお構いなしに、
俺達はひたすら斬りあった。
相手の攻撃を避け、至近距離から矢を放つがそれも避けられた。
「何故、貴様は我々にはむかう!」
鍔迫り合いをしながら奴が尋ねてきた。
「お前達のろくでもない作戦のせいでどれだけの人間が傷つき、悲しんだと思う」
「知ったことか! 我々の目的のために犠牲はいたしかたないことだ!」
「お前達のせいで……お前達のせいでやってもいない罪を着せられた連中の痛みが理解できるか!」
「ぐぁ!」
奴を殴りつけ、腹部を横に切り裂くと火花が散り、奴が数歩後ろに後ずさったところをすかさず、
矢を放って追撃するが奴も矢を放ってすべて打ち落としていく。
が、俺はすぐさまトリガーを引っ張って弾丸を装填し、
打ち終わった瞬間の奴めがけて弾丸を放つと全て直撃し、軽く吹き飛んだ。
『ロックオン』
『オレンジスカッシュ!』
「喰らえ」
レモンのロックシードをドライバーから外し、弓に装着してブレードを一回降ろし、
弦を引き絞って奴を狙った瞬間、突然変身を解除しだした。
「……どういうつもりだ」
俺はそれを見て弦から手を離し、変身を解除して奴にそう問いかけた。
戦いのさなか、ダメージのせいで強制的に変身を解除させられたならともかく、
今まさに攻撃しようとしている奴の目の前で変身を解くなんて気が知れてる。
「ろくでもない作戦……か。確かに何も知らない貴様らからすれば、
そうとれるだろう……だが、それは全人類を護るには致し方なのないことだ」
「……どういう意味だ」
「ついて来い。お前にも真実を知る権利はある」
そう言い、逆方向を向いて歩きだした奴を慌てて追いかけていき、
生い茂っている雑草をかき分けながら、歩いて行くと開けた場所に出た。
その景色を見てみるとそれはヘルヘイムの草花によって支配されていて、
理解しづらいが建物のようなものが多く立っていた。
だが、そのほとんどの建物が半壊、もしくは全壊していた。
……野生の動物は集落は作るが建物を作ることはない……つまり、
今目の前に広がっている場所にはかつて、
人間と近しい生命体が存在していたということになる。
「気づいているとは思うが……今、
目の前に広がっている場所にはかつて人に近しい生命があった。
だが、ヘルヘイムの侵攻を受けてあっという間に滅亡へと追い込まれた」
そう言いながら傾斜を下りていき、建物へ近づいて行くと遠くでは分からなかったが、
地面には土器らしい器が砕けた状態で大量に落ちていた。
建物の壁には壁画のようなもの描かれており、高い文明力があったことが見受けられる。
少し歩いたところで洞窟のような場所に入ると前方にテーブルと椅子のようなものも見えた。
「ヘルヘイムの果実を食せばインベスに、インベスの攻撃を受けた者が、
植物になる……これらはすべてヘルヘイムの森による繁殖活動の一つ……という訳か」
「そうだ。クラックから放出された種は凄まじい勢いで繁殖していき、
その範囲は一週間も放っておけば広範囲にまで及ぶ」
「……俺達の世界もいずれ、こうなるのか」
「あぁ……専門家による試算によればあと……10年といったところらしい」
10年……長いようにも思えるが地球全体が今、
ここにいる場所と同じようになると考えれば、10年という数字はあまりにも短すぎる。
だから連中は水際で侵攻を食い止めていたのか。
「だが、なぜわざわざ秘密にする必要がある。公表して全世界に協力を仰げば、
今よりも作業効率は上がるんじゃないのか?」
「公表すれば十年後には滅亡するという事実から自暴自棄になり、
犯罪が増加……暴動につながりかねん。国家という存在はそう単純なものでもないんだ」
「それで戦極ドライバーを開発し、俺たちに流布することでデータを集め、
体勢を整えていくという訳か……確かにビートライダーズは実験のカモだったという訳か。
にしてはひどい扱いをするもんだな。実験体のことはお構いなしか」
「何十億という人類を救うために数十人の犠牲はいたしかたないことだ」
奴がそう言った瞬間、俺は奴の胸倉をつかんだ。
「ふざけるなよ。さっきも言ったよな? お前らのその行動が人を悲しませてるんだ。
何が数十億という人間を救うのに犠牲はいたしかたないことだ。ふざけるな!
お前らのせいでまだ十代の若者の人生がいったいいくつ潰れたと思っているんだ!
罵倒に耐えきれず、喧嘩をし、人生に傷がついた者もいれば学校でのいじめにつながり、
辞めざるを得なくなった奴だっているんだ!」
俺は叫び散らすが奴は何とも言えないような表情を浮かべながら、
ゆっくりと俺の手を離し、俺に背を向けた。
「今回は見逃してやる……貴様が我々の正義を気に食わないというならばかかってこい。
全力で貴様を潰してやろう……そして人類を救ってみせる。たとえ犠牲を出し、
永遠に犠牲者から恨まれてでも私は世界を救う」
「っっ!」
こいつはただ単に世界を救うことで犠牲が出ると考えているんじゃない……犠牲者に、
永遠に恨まれようがこの先の人類を救うという決意をした上で……。
――――――犠牲を出してでもこの世界を救う
――――――犠牲を出さずにこの世界を救う
混ざり合うことのない思想を持った人間が、
同じ舞台に立つのは必然か……それとも、偶然なのか。