「……本気か、舞」
俺の質問に舞は至極当然といった表情で首を縦に振った。
家でゆっくりしていたら急に舞から電話がかかってきて緊急招集だとか言って呼びだされ、
話を聞いてみると凄い話をしてくるもんだ。
これも本気でダンスを愛しているが故なのか。
「本気よ! ビートライダーズ全チームを集めて合同ダンスイベントを行うの!
もうビートライダーズはロックシードなんか使わないってことを町のみんなに知らしめるのよ!」
全チーム合同ダンスイベント……レッドホットは抜くとしてバロン、レイドワイルド、
インヴィットとあとその他連中を集めるのか……別にやろうと思えば、
そんなに難しくないことなんだろうが。
「他のチームがバロンと一緒に踊るかが一番の心配だな」
そう言うと舞もそれを予想していたらしく首を縦に振った。
多くのチームがバロンによってステージ、ロックシードを奪われた経験がある以上、
チームバロンをよく思っていない連中が多いのは決まってるし、
バロンもバロンで俺たちと一緒に踊ってくれるかどうか……どちらかというと、
踊らないっていう可能性の方が高いんだがな。
「そこはどうにかして皆を説得して納得してもらうしかないと思ってる」
「良いと思う……でも、どうやって宣伝するんだ? ステージは?
踊る際の小道具だっている。そこら辺はどうするんだ?」
「……確かに今の私達の状況は最悪だけど今、ここでうじうじしていたら、
これから一生、最悪な状況になると思う。私はそんなの嫌……だから、
今ここで皆の前で踊って私たちは危険なんかじゃないってみんなに知らしめたいの。
それを成功させるためにはどんなこともする。いろんな人に頭下げて頼んだり、
自腹でお金出したりしてでも絶対に何が何でも成功させる」
……やっぱり、俺は舞に勝てる気はしない。
「わかった。俺も手伝わせてくれ……合同ダンスステージ。必ず成功させる」
舞にそう言った直後、ポケットに入れていたスマホが震えだし、
拠点から出て画面を見ると、また非通知設定で誰かが俺に電話をかけてきていた。
……あんまり非通知設定でかけてくる奴は信用できねえんだよな。
「もしも」
『Hello! Mrガイム!』
通話ボタンを押すとやたらとハイテンションな声が向こう側から響いて来て、
思わず耳からスマホを離した。
サガラか……なんでこいつ、俺の電話番号知ってんだよ。
「これはまた良いタイミングでかけてくるじゃないか」
『偶然さ。どうやら俺の力が必要みたいだな』
「……あぁ。全ビートライダーズで行う合同ダンスイベントについて宣伝して欲しい。
開催日時、およびやる場所については数時間後にまた電話してきてほしい」
『良いぜ~。俺を誰だと思ってるんだ~? 俺の名はDJ』
「じゃあな」
そうとだけ言って通話を切ってやった。
前々から思っていたがあいつは普通の人と比べて異常なまでにハイテンション過ぎる。
俺が拠点に戻ろうとしたとき、ドアが開いて、
張りきった様子のメンバー達が次々と出ていき、最後に舞も出てきた。
「あ、健太。あんたはバロンをお願い。他のチームは私達が行くから」
「了解した」
何気に一番苦労するところを俺に任せたな……まあ、
あいつらが舞達の話をまともに聞くとも思えないしな。
ポケットからロックビークルを取り出し、解錠してバイクへと変形させ、
バロンの本拠地である場所へと走らせた。
およそ五分ほどバイクを走らせたところでバロンの本拠地であるガラス張りのビル内の白い、
カーディーラーのようなたまり場にたどり着いた。
……いったい、こんな施設を使う資金がどこにあるんだ……メンバーに、
このビルの所有者が親だって言う奴がいるのか?
扉を開いて中に入ると部屋の奥の方に一人、トランプをしている戒斗がいて、
他の連中はソファなんかに座っていたが俺の登場に驚いて立ち上がった。
「貴様か……いったい何の用だ」
「チームバロンに参加して欲しい企画がある。全チームでの合同ダンスパーティーだ」
「合同?」
「そうだ。舞曰く、そこでビートライダーズがロックシードを使わないということを、
町全体に知らしめるらしい。お前たちチームバロンにも参加して欲しい」
そう言うと戒斗は驚いた表情を浮かべて俺のことを見てきた。
「本当に貴様は変わったな……悪いが俺はチームを抜ける」
そう言い、トランプを机に置き、メンバーの一人に近づくと以前、
ユグドラシルから奪ったイニシャライズがオミットされたドライバーと、
クルミのロックシードを手渡した。
「俺には他にやることができた。ザック、これからはお前がチームのリーダーをしろ」
「ちょ、ちょっと待てよ! 他にやることって」
「俺はただ、力を誇示するための手段としてダンスを利用していただけだ。
だが、お前たちは俺とは違う……ダンスをしたいためにこのチームに入った者もいるはずだ。
そんなやる気のないリーダーよりもやる気のあるリーダーの方が、
チームを一つにまとめあげやすい……後のことは、
ザック……お前に任せる……チームバロンのこと頼むぞ」
そう言い、戒斗は突然の発表に呆然としているメンバー達を置いて、
拠点地である場所から出ていってどこかへと歩いていった。
他にやるべきこと……ユグドラシル関係か。
「そう言う訳だ……少しついて来てくれ。ガイムの拠点で説明会がある」
そう言い、渋々といった様子のバロンの連中を引きつれてチームガイムの拠点に戻ると、
レイドワイルド、インヴィットといったレッドホット以外のチームが、
いくつか集まっており、バロンが最後のようだった。
バロンの連中を用意されていた椅子に座らせ、俺は置いてあるソファに座り込んだ。
「皆を呼んだのはほかでもないの……今、ビートライダーズは最悪な状況に置かれてる。
それを挽回するために全チームで合同ダンスパーティーを行って、
それを最後にインベスゲームもロックシードもランキング争いも無くすの。
そうしたら少なからず私達の評価は変わると思うの」
インベスゲームが流行り出したのもロックシードというものが、
流通しだしたということもあるがランキングというものも原因の一つに挙げられる。
ランキング、そしてロックシードを捨てればビートライダーズの評価は、
かなり変わるはずだ……そう願いたい。
「別にいいんだけどさ……バロンの連中とは踊れない」
レイドワイルドのチームの連中から発せられた言葉に他のチームも、
同じことを思っているらしく特に反対意見は出なかった。
あいつらの条件はバロンを出さないこと……だが、
バロンを含めてのダンスパーティーにしないと開催する意味がなくなってしまう。
「悪いけど、バロンが出ないことが決まったら呼んで」
そう言い、バロンを除いて次々とメンバーが拠点から出ていった。
「そもそも俺達は合同ダンスパーティーに参加するなんて一言も言ってない」
「だったらこのまま悪評を引っ張り続けて良いのか?」
「それは……」
「ぼ、僕は参加したいです」
そう言ったのは以前、チームガイムとのインベスゲームで、
パチンコを使って妨害行為をしていた奴だった。
「僕はダンスがしたいから一番強いチームに入ったんです。
このままダンスができなくなるのは嫌です……僕はパーティーに参加したい!」
「ペコ……」
「参加するって言うなら俺が全力で妨害因子を排除する。ステージの準備も、
俺が頭を下げてでも絶対にやる。後はお前達の問題だ。
意固地になって今までの確執を引きずったまま、
肩身狭い思いをしてこの街で生きていくのか、それとも踊って、
小さな希望を掴むのか……お前達が決めるんだ。今のチームリーダは戒斗じゃない。
お前なんだ、ザック。チームを潰すも生かすもお前の判断だ」
「……参加しよう。俺たちも合同ダンスパーティーに参加する!」
ザックのその発言にバロンのメンバーからは反対意見など出なかった。
俺は拠点から出て気合いを入れた。
全てのチームが集結するという前提でステージを準備するとなれば、
それ相応の広さがいるし会場を盛り上げる仕掛けだって必要だ。
仕掛けはそこら辺に売っているものでも代用できるだろうが、
流石に広いステージだけは他人に頭を下げて借りなければいけない。
ビートライダーズだということで門前払いを受けるかもしれが……。
「……大人になるためには社会の荒波にのまれなければいけない……理不尽さもな」
まず俺が向かったのは以前から多くのビートライダーズのチームが、
練習で使っているという大ホールへと向かった。
そこはある会社が管理をしていたんだが最近のビートライダーズの煽りを受けて、
その会社の業績まで響いたらしく、この街からの撤退が決まったらしい。
そこで俺はその撤退が決まり、大ホールを潰す前に使わせてもらえないかと考えている。
大ホールの前に着くとちょうど良い所に会社の人間らしい、
初老の男性が大ホールの扉を閉めようとしていた。
「あの、すみません。少しよろしいでしょうか」
「なんだ」
「このホールを使わせてほしいのです」
「ダメだダメだ。もう取りつぶしが決まって1週間後から、
取り壊し工事が始まるんだ……あ! てめえまさかビートライダーズか!?」
まあ、細かいところは違うんだがこんな時にいちいち修正している暇はない。
「てめえらのせいでこうなったんだよ!
今更どの面下げて使わせてくれって頼んでんだ!」
「お願いします……明日だけでいいので使わせて下さい」
俺は男性に頭を深々と下げるが男性の罵倒は容赦なくぶつけられていく。
何も知らない爺が……とも思ったが俺はその怒りを顔に出すことも、
雰囲気に出すこともなくひたすら頭を下げ続けた。
ここで少しでも反抗すれば合同ダンスパーティーの開催にまで響いてしまう。
が、何故か知らないがさっきまで罵倒の嵐だったのが今度は説教に変わり始めた。
最近の若者はあいさつがなっとらんというありきたりな説教から始まり、
10分もすれば何故か世界規模の話にまで膨らんでいた。
……なんで老人が長い話をすれば話の主題が変わっていくんだ。
「ふぅ……ところでなんの話をしていたかの?」
「この大ホールを明日だけで構わないので使わせていただけないかという話です」
「あぁ、そうだったそうだった! もう好きに使ってくれ。
どのみち、この街にはもう戻らん。このホールも最後にちゃんと、
使ってくれればそれで満足だろう」
そう言って初老の男性はぶつぶつ言いながら去っていった。
男性の姿が見えなくなるまで頭を下げ続け、見えなくなると大ホールの中に入り、
状態を確認するが使われ続けていないせいで埃が少し被っているだけで、
きちんと掃除をすればステージも使えるし全チームが集まっても余裕で踊れる。
「場所は確保できた……あとは仕掛けか」
俺はすぐさま近くの100円均一へと向かい、明日のステージの準備を急いだ。
翌日、全ての準備が整い、舞達は観客に隠れる形になるように、
設置された特設ステージの下にスタンバイしている。
結局、集まったチームはうちのチームとバロンのチームのみで色々と、
ステージなどは無駄にはならないがいささか寂しい感じだ。
既にサガラに開催日時、開催場所も伝えており、
サガラが放送していた海賊チャンネルを通じて宣伝が行われている。
予想通り、叩き屋と思わしき連中が一斉に叩き始めたがそれでよかった。
叩かれれば叩かれるほどその話題は大きくなっていき、偶然見た人がSNSなどで、
その炎上状況を呟けばそれを見た人から一斉に広がっていく。
そして開演時間となり、舞達がステージの下からステージ上へと飛び出すが、
目の前の状況を見て、全員の動きが止まった。
集まってくれた観客の数……たったの五人。
少ないと思うがこれでも集まった方だ。観客が全く来ないっていう、
最悪の展開だって考えていたんだ。それに比べれば格段にマシだ。
「……踊ろ……みんな踊ろうよ! 5人でも何人でもお客さんはいるんだから!」
舞の言ったことを受けてか全員の表情にはやる気が満ち溢れ、
そしてステージわきに設置されたスピーカーの電源をONにすると、
音楽がステージに流れ、ビートライダーズ最後のステージが始まった。
そのステージが始まったと同時に俺はステージ全体を映すように設置した、
ビデオカメラを作動させ、リアルタイム中継をサガラの海賊チャンネルを通じて送っていく。
その時、突然音楽が止まった。
「あらあら、随分と面白いものをしているじゃない」
「凰連」
凰連はスピーカに差し込んであるカードを抜くと床に投げ捨てて、
ステージ全体を見渡すように首を動かし、見下したような視線と哀れな物でも、
見るかのような視線を合わせて俺達を見てきた。
そしてその後ろにはインヴィットの城乃内が立っていた。
「こんな少ない観客しか集まらないんだったらやる意味ないじゃない。
所詮、貴方達は周りの善良な市民に迷惑をかける邪魔な存在だったってわけよ。
貴方達にとってもこの街にとっても一刻も早く、解散して消えるべきよ」
「凰連……何故、お前は分からない。今、あいつらは変わろうとしているんだ。
濡れ衣を着せられ、どれほど汚い言葉を投げかけられたか……でも、こいつらは折れなかった。
折れずに今、このステージで今までの存在を捨て去り、新たな存在へと変わろうとしている。
そんな……そんな素晴らしい舞台を壊させるか!
踊れお前ら! たとえ音楽がなかろうがどんな邪魔が入ろうが踊って、
この街の連中に見せつけろ!」
『オレンジ!』
「三直! 俺も戦う……この力でチームを……みんなを護ってみせる!」
『クルミ!』
「アマチュア風情が!」
「「変身!」」
『ソイヤ! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ!』
『クルミアームズ・Mr ナックルマン!』
『ドリアンアームズ・Mr dangerous!』
俺とザックが変身を終えると同時に奴も変身を完了し、
城乃内が解錠したロックシードから、
上級インベスが出現し、俺達は互いを睨みあった。
その直後、後ろからセットしていた煙が噴き出し、振り返ってみるとステージ上に、
誘いを断ったはずのチームが全て壇上に立っていた。
「なんでよ……なんでそこまでして貴方達は踊ろうとするのよ! 分からないわ!」
「当たり前だ……これがアマチュアとプロの差だ。確かに二つの間には、
実力という大きな差があるかもしれない。だが、アマチュアにしかできないことも山ほどある!
仲間との絆を大切にする! これがその集大成だ! 行くぞ、ザック!」
「あぁ!」
刀を引き抜き、ブラーボに斬りかかったと同時に再び音楽が流れ出し、
俺達が戦っている後ろで連中が踊りを再開した。
「はぁ!」
「戒斗!」
「行くぞ……これが俺の……チームバロンのリーダーとして最後の仕事だ!」
戒斗とザックに上級インベスを任せ、俺はブラーボに蹴りを入れて一度、
距離を取り、イニシャライズのプレートを取り外してから投げ捨て、
追加パーツを装着し、レモンのロックシードを解錠した。
『ミックス! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ! ジンバーレモン! ハハー!』
レモンを追加パーツに装着するとオレンジのロックが自動的に解除され、
オレンジとレモンのロックを施した後にブレードを一回降ろすと二つが同時に展開され、
オレンジの鎧が最初のアームズの姿に戻って頭上へと射出されると、
新たに生み出されたレモンと合体し、新たなアームズへと変化すると、
そのまま俺に覆いかぶさり、鎧が展開され終わると同時に赤色の弓が手に現れた。
「ここからは……俺達のステージだ!」
叫びながら弓を全力で振り下ろすと奴の2本の刀での防御を崩して奴を切り裂き、
怯んだすきに奴をトサカを掴んで壁を突き破って地上へと戦いの舞台を移した。
「はぁ!」
相手が振るってくる刀を弓でいなし、空いている部分へ拳をぶつけて、
怯ませると空いている手にトリガーつきの刀を握り締め、二つの違う武器で奴を攻めていく。
「だぁ!」
上空へと飛び、2本の刀を振り下ろして奴を切り裂き、
奴の刀の攻撃をトリガー付きの刀を投げ捨てて、後ろへとんで大きく下がると同時に、
弦を引き絞って矢を連続で放って奴を吹き飛ばした。
「なんでよ……なんでこうも差が開くの!」
『オレンジスカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!』
「だぁぁぁ!」
奴を吹き飛ばしたと同時にブレードを一回降ろし、高く跳躍するとオレンジと、
レモンの輪切り状態の形を模したものが交互に出現し、それを通過しながら、
急降下して奴に蹴りをぶつけると大爆発を起こして壁にまで吹き飛ばし、
変身を強制的に解除させた。
「あぁ……ワ、ワテクシが。こんな!」
「アマチュアを下に見続けた……それが今、お前がそうなっている理由だ。
お前にもあいつらが抱いてるものと同じものがあったんじゃないのか……アマチュア時代に」
そう言うと凰連は俺の言ったことに何も言わず、痛む体を引きずりながら去っていった。
ポケットからサングラスを取り出して掛けた瞬間に建物から、
ラストを飾る祝砲の音が鳴り響き、連中の嬉しそうな歓声がこっちにまで聞こえてきた。
スマホを開き、サガラのチャンネルにあるコメント欄を見てみると賞賛のコメントや、
助けてもらったことを感謝するコメントであふれかえっていた。
……これでビートライダーズの役目は終わった。
そう考え、俺も戻ろうとしたとき、建物の側面にアーマードライダーの影が写り込み、
慌ててそちらの方を向くと俺と同じレモンエナジーのロックシードをつけた、
黄色のアーマードライダーが隣のビルの屋上に立っており、
そこから飛び降りて俺の前方に降り立つとゆっくりと俺の方に向かって歩いてきた。
「お疲れのとこ申し訳ないがもう一度、変身してくれないかな」