……やっと姉貴が言っていたことが分かった。
失敗しても目を反らすな……あれは自分を客観的に見つめなおすってことなんだ。
自分を持つ見つめなおして自分を変える……やっと分かった。
俺は先ほどよりも激しく涙を流し、嗚咽を我慢しながらひたすら泣き続けた。
目の前に人がいるということを忘れて。
俺は今までもう大人だと思ってたんだ……でも、それは主観的なだけで、
客観的に見たら全然だめだった……変わってやる。
俺はテーブルの上に置かれている二つの物を手の中におさめ、立ち上がった。
変わるんだ……子供から大人に。
「……良い顔になったじゃねえか。これは祝いだ」
そう言い、サガラはポケットから1枚のカードを取り出して俺に手渡した。
「やつらは……ユグドラシルの連中は自分を支配者だと思っているの。
人類を救えるのは自分たちしかいないってな……お前にいいこと教えてやるよ。
さっき奴が言っていた証拠隠滅……何のことか分かるか?」
奴の独り言と称した話は呆然としながらも聞いていた。
奴らはイニシャライズをオミットした誰でも変身することができるドライバーを生産し、
それによって作られた部隊が証拠隠滅をしていると言っていた。
一度、その光景を俺は見たことがある。
……あれは水際で抑えているんじゃなくて証拠隠滅だったのか。
「……ヘルヘイムの森の侵攻だよ。以前よりも増してクラックが開き、
インベスが出てくる頻度が高くなっていることはお前も気づいているだろう。
そして人の植物化、果実によるインベスへの変貌……ここまで言えば分かるだろ」
「……ヘルヘイムの森がこの世界を飲み込もうとでもしているのか?」
そう言うとサガラは肯定も否定もせずに小さく笑みを浮かべると、
俺の目の前から去るようにゆっくりと歩きだし、扉の前で立ち止まった。
「やつらは……特に貴虎はユグドラシルがこの世界の命運を握っていると、
考えている……が、それは誤りだ。本当にこの世界の命運を握るのは、
ヘルヘイムの森に選ばれた者。選ばれし者が、
誰なのかは誰にもわからない……じゃあな」
そう言い、サガラは一瞬だけ俺の顔を見てから、
扉を少し開けた状態で牢屋から出ていった。
俺は慌てて立ち上がって顔を出して、
外を見てみるが既にサガラの姿はどこにもなく、
ただ単に通路には沈黙だけが満たされていた。
……あの短時間で一体どこへ消えたんだ……まぁ、良い。
俺はテーブルの上に置かれているロックシード、および機器をポケットにしまい、
カードを持って通路に出ると俺の隣の牢獄に戒斗が閉じ込められていた。
「よう、戒斗」
となりの牢屋を見るとそこには相当、イライラしているのか自分の手を、
血がにじむほどの力で握りしめているやつがいた。
「お前……なんで外に」
「そのことについては後だ……今、出してやる」
そう言い、認証機器にカードをタッチすると、
扉をロックしていた鍵が解除されて牢屋の中から戒斗が出てきた。
これで二人とも外に出ることはできた……なんで護衛が居ないのか、
なんで奴は俺にカードを渡したのかなどの疑問は残るがそれは後に回しておこう。
「……」
「俺の顔なんか見てどうした」
「いや……なんでもない」
その時、通路の曲がり角から誰かの足音が聞こえ、
一瞬、戻ろうかとも考えたがその姿を見てその考えはやめた。
「健太さん!」
「光実……なんでお前が」
「僕も独自でユグドラシルを調べてたんです。
お二人のドライバーがある場所も分かってます。行きましょう」
光実の案内のもと、通路を突き進んでいくが不思議なくらいに、
警備を担当している連中がおらず、逆に罠じゃないかと考えたいくらいに、
すいすいと進むことができ、ホールのような広い部屋がある場所までたどり着き、
認証機器にカードを当てると扉が開いて中に入ることができた。
部屋の中央には机が置いてあり、そこに俺と戒斗のドライバーとロックシード、
そしてイニシャライズがオミットされたドライバーが一つ放置されていた。
「これが奴が言っていた誰でも使える奴か……貰っていくか」
回収すべきものを回収し、部屋から出ようとしたときに、
机の上にあったモニターに映像が映り、視線を移すとそこに裕也の姿があった。
思わず食い入るようにモニターを見ると突然、後ろから光実が手を伸ばし、
キーボードをたたくと画像が消え去り、サイレンが鳴り始めた。
「行くぞ」
俺の頭の中であの映像の続きが再生されていく。
……そうでないことを祈るしかないのか。
そこまで考えていた時に左右の通路から十人ほどの黒影があふれ出し、
通路をふさぐが俺達の背後から変身を終えた戒斗が槍を持って俺達の前に飛び出し、
奴らに向かって振り下ろすとバナナの幻影がまっすぐに振り下ろされ、
黒影を一気に吹き飛ばした。
「行け! こいつらに一泡吹かせてからじゃないと俺は気が済まん!」
「頼んだ」
黒影をバロンに任せるのはいいものの全員がそっちに集まるわけではなく、
数人が俺たちを追いかけてくる。
「健太さん! 僕はこっちから行きます!」
「あぁ、またな」
俺は光実と分かれてそのまままっすぐ突き進み、通路をジグザグに曲がりながら、
我武者羅に走っていくと広い空間に出た。
ホールのような広さの場所で中央には大きな木の幹に縦に開いたクラックがあり、
何かしらの方法を使って木に開いたクラックを今の状態に維持していた。
……連中はこの街に開いたクラックを利用して研究を進めていた。
その中で一つのクラックを拠点とし、この木を中心とした辺り一帯を買収し、
ユグドラシルタワーを建てた。
そう考えればユグドラシルが突然、この街に拠点を移したことが分かる。
そしてカモフラージュとして沢芽市に医療や福祉、経済といった分野で、
莫大な恩恵を授けることで確固たる支持と地位を確立させた。
そうすればこの街の連中はユグドラシルの言うことに逆らえない。
「よう、ガキんちょ」
「シド」
右側から声が掛けられ、
そちらを向くと見下したような眼で俺を見てくるシドが立っていた。
「大人しく戻ってろってガキ。また痛い目に合わせるぞ」
シドがドライバーを腰にセットしてそう言ってくるが自分の腕を見ると、
先ほどと比べて弱くはなったものの若干、指の先が震えている。
……トラウマになったのか……こればっかりは時間をかけて治していくしかない。
震えと相反するようにおかしなくらいに落ち付いていた。
「俺を先日の俺と同じにするなよ……俺は今日、この日、この瞬間から生まれ変わる。
もうお前らと戦っていたころの俺はここにはいない!」
俺の大声に気付き、ホールで仕事をしていた研究員たちがいっせいに、
俺達の方を向いてざわめき始めた。
ドライバーをセットし、ポケットからオレンジのロックシードを取り出すと、
震えているせいで一瞬落としそうになるが何とか握り締めて解錠し、ドライバーにセットした。
シドは呆れたようにため息をつき、
同じようにチェリーの装飾が施されたロックシードを取り出し、解錠した。
『チェリーエナジー』
「「変身」」
シドは帽子を深くかぶり、解錠したロックシードをドライバーにセットし、
レバーをロックシードに近づけるように押し込むと左右にチェリーの形を模した模様が割れ、
上空から降りてくるアームズによって変身が完了した。
それと同時に両手に剣を取り、奴めがけて振るい、止められるがそのまま、
鍔迫り合いを行いながらホールへと飛び降り、横走りしながらクラックを抜けて、
森へと入ると突然のことに悲鳴を上げながら、周囲にいた連中が逃げていく。
「はっはぁ!」
相手が振り下ろしてくる弓をオレンジの刀で防ぎ、相手の腹部に蹴りを入れて、
後ろへと下がってトリガーを引くことで弾丸を充てんし、一発を奴めがけて放ち、
弾かれると再び斬りかかっていく。
「てめえじゃ俺には勝てねえよ!」
「ぐあぁ!」
弓で俺が振り下ろした刀がいなされ、切り裂かれた直後に、
蹴りを入れられて軽く吹き飛ばされた。
が、吹き飛んでいる間に奴めがけて残りの弾丸を放つと突然の攻撃に、
反応できずにそのまま全てシドに直撃した。
「……てめえ、明らかにこの前と戦い方、変わってんじゃねえか」
「だから言っただろ。俺は生まれ変わるんだ……闘い方だって変わる。はぁ!」
俺は残っている弾丸の一発をシドの近くの木にぶつけ、根元を折ると大きな木が、
支えていた部分を失ってそのままシドめがけて倒れていく。
倒れていく木は奴が放った矢によって粉砕したがその木屑のなかを通りながら、
俺は刀で奴を斜めに切り裂き、蹴りを入れようとするがその蹴りを弓でたたき落とされた。
「調子に乗るなよクソガキが!」
「うぁ!」
足を弓でたたき落とされ、そのまま2度、3度切り刻まれて顔面を殴られ、
数歩後ろに後ずさった直後、目の前から矢が数発とんできて俺に直撃し、
大きく吹き飛ばした。
……流石にドライバーの性能は覆らないか。
「なんでてめえはユグドラシルに反抗しようとする。従っておけば、
お前だってトラウマに気づかずに過ごせたものを」
「確かにそうかもな……でも、今ここで何もしなければ俺は変われない!」
「はっ!」
「うぉ!」
クラックからバイクに乗ったバロンが飛びだしてきて、
シドを吹き飛ばすと俺の近くに停車した。
どうやらこいつが満足できるほどにまで連中に泡を吹かせることができたらしい。
「待ってたぞ。戒斗」
「行くぞ、三直」
俺もロックビークルを解錠してバイクへと変形させ、
それに跨ってシドの周りを円状に走っていく。
奴も矢を放っておれたちを狙ってくるがバイクで速度を出しているので当たるはずもなく、
速度がマックスに至ったところで花びらが俺とバロンで同時に舞い、
シドを交点として交差し、奴を吹き飛ばした。
「戒斗!」
「あぁ、もう十分だ。ここから出るぞ」
「逃がすかぁ! クソガキども!」
『ロックオン・チェリーエナジー!』
『ピーチエナジー!』
後ろから二つの音声が聞こえ、振り返ってみると桃色のアーマードライダーが、
クラックから弓を構えた状態で出てきた。
なんで俺達を助けるようなことをしたのか知らんが都合が良い。
速度を最大にまで出し、俺達は同時にヘルヘイムの森から元の世界へと抜け出た。
「何故、邪魔をした」
「プロフェッサーからの命令よ。もう少し彼らを泳がせておけとね。
あの方は彼らが今までにないくらいに面白いデータを出してくれる、
便利なモルモットだとお考えになられているわ」
「なるほどね……分かったよ」