仮面ライダー鎧武 Another hero   作:kue

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第十六話   崩壊

『貴方は頭が良いゆえに失敗をしたことがない。その状態で生きてきたから、

失敗している他人を見下しているんだと思うんです』

『自分の予想外のことが起きれ周りが見えなくなるタイプの人間は社会にはいらない人間だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっ! ハァ……ハァ」

俺―――三直健太が目を覚ましたのは牢獄のような部屋だった。

置かれているのは小さなテーブルと簡易ベッドのみでテレビなどの娯楽品はおろか、

雑誌の一冊も置かれておらず、さらに没収されたのかドライバーとロックシードもない。

……ユグドラシルか。

柵の間から頭を出して左右を見渡して見ると長い通路が続いており、

出口らしき扉には黒影が二人ほど、常駐して監視をしていた。

以前までは黒影はあんなにいなかった……モルモットである俺達のデータから、

ドライバーの大量生産に踏み切ることができたという訳か。

……正直、目の前にドライバーも何もなくてよかったと思う。

チラッとあいつらのドライバーを視界に入れただけで息苦しさを一瞬だけ感じた。

『お目覚めかい?』

背後から機械質な声が聞こえて振り返ると以前、ユグドラシルタワーの上で、

ホログラムという形ではあったがであった白衣を着て、銀のメッシュを入れた男性だった。

「ドライバーの開発者……戦極凌馬か」

『そう言えば君は基本情報は持っていったっけ。ほんと、ずる賢いね。

結局、君に情報を渡した研究員はその日づけでクビだよ。まったく、

彼にも家族がいただろうに。可哀そうで仕方がないよ』

「……そうか」

そう言うと男は両肩を上げて呆れた表情を浮かべると、

俺のドライバーを手に持って、俺に見せつけるように持ち上げた。

その瞬間にここへ連れて来られる前の光景が一瞬でフラッシュバックし、

俺の両手が突然、大きく震えだした。

いくら震えを止めようと腕を抑えつけても震えが止まる気配はなかった。

なんでだ……なんで手が震えるんだ!

『ん~その様子からすると君は挫折を経験したことないみたいだね。

それは残念だな~。君ほどの人間が挫折を経験せずに成長してしまったことは、

非常に残念だ。もしも君が挫折を経験して成長していれば少なくとも、

今の君の状態にはならなかったはずだ……貴虎が言ったとおり、

やはり君は不必要な人間かもしれない』

「お、俺が……不必要だと」

『そうだよ。どれだけ頭がよかろうが仕事ができようが自分の予想外の事態が起きれば、

周りのことなどまったく見えなくなる人間なんて必要がない人間だ。

たとえばある会社にバリバリに仕事ができる新入社員がいるとしても、

その新入社員が何か突然のミスが起きて、周りが見えなくなってしまい、

ミスに対応できなくなる。それが原因で、

会社に多大な損害を与えれば……周りの人間の評価は一気に変わる。

会社に必要な人材君から面倒な人材君に早変わりだ。

やがて誰からも相手をされなくなってしまう』

「……俺の周りの連中はそう思っているとでもいうのか」

『さあ? 君を知らない人はそうは思っていないだろうけど、

知っている人からすれば面倒極まりないことだと思うけどね』

……俺の周りに友と呼べるものが居ないのもそうだ。

『まあ僕にとって君の交友関係などどうでもいいがね……君の経歴を調べたよ。

非常に輝かしいね。いくつもの賞……でも、それと同時に何度か君は罰も受けている。

このことから君の輝かしい経歴は偶然出来上がったといっても良いだろう。

君は今まで偶然、失敗が起きなかったからちやほやされ続けただけなんだよ。

体だけ大人になっても失敗を経験していないから、

どう対応すればいいか分からない……それが君なのさ。

そして社会はそんな人間はいらない』

戦極凌馬の言葉の一つ一つが俺の心に突き刺さっていき、

深い傷をつけていきながら俺を追いつめていく。

いくら言葉が聞こえないように耳をふさごうともフラッシュバックし、

あの戦闘のシーンが流れていく。

『ま、これは私の独り言として聞いてくれたまえ。君たちが、

ヘルヘイムの森で暴れてくれたおかげでドライバーの大量生産に踏み切れたよ。

第一世代のドライバーはイニシャライズによって、

最初に装着した物しか使用ができないが、量産したものは、

そのイニシャライズをオミットすることにも成功している。

それによって生まれたのが黒影トルパーズだ。彼らの目的は旧世代ライダーの討伐、

および新生代ライダーの補佐、そして証拠隠滅……ま、今の君に言っても仕方がないか』

そう言ったのを最後に戦極のホログラムは俺の目の前から消失し、

それと同時に今まで震えていた腕が嘘のようにピタッと震えが止まったが、

額から嫌な汗がだらだらと流れていた。

ベッドに横になって目を瞑ろうとするが戦闘のシーンがフラッシュバックし、

休憩をしようにも全くできない精神状態になっていた。

でも、今になってやっと舞や光実が言っていたことが分かった。

……失敗をしたことがなかったから体は大人になっていても精神が子供なままだった。

それゆえに自分が一番だと思いこんで失敗している他人を見下して、

生きているのが普通になってしまった。

「……俺が今までしたことは何だったんだ」

両親が死んで姉貴が女手一つで育ててくれてそれを見て俺も心配をかけまいと、

やれることは自分でやり、分からないことは誰の手も借りずに自分で解決してきた。

今までそんなことができていたのも偶然、失敗が起きなかったという、

幸運の上に成り立っていたのか。

「……くそ!」

俺を支えていた全てのものが涙と一緒に崩れたような気がした。

もう何が自分なのか、何を自分としていいのか分からず、

途端に今までやってきたことが鮮明に頭の中で再生され、

その自分を見ていると凄まじいほどの恥ずかしさが襲いかかって来て、

頭を抱え込んだ。

……俺はもう何をしたらいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕――――光実は今、ユグドラシルコーポレーションの中にいた。

兄さんが普段から乗っている車のトランクに隠れて車が停車したのを確認して、

外に出て、なるべく監視カメラなんかに映らないようにしながら進んできた。

にしても一瞬、トランクが開かなくなったときは本当に焦った……ここは。

周りを確認しながら会議室のような広い部屋に入るとそこにはスクリーンがあり、

設置されているテーブルの上には兄さんが忘れていったのかタブレットがあった。

そのタブレットの画面を見てみると幸運にもまだ画面が付いていたから、

それをいじっていると動画ファイルがひとまとめにされている場所に入った。

そのファイルは結構な数が入っており、数年前に保存されたものもあった。

試しに一つ再生してみると天井に設置されているプロジェクターから光が放たれて、

スクリーンに映像が映し出された。

『今回は私が調べて判明したヘルヘイムの森の果実についてだ。

君が採取してくれた森の果実を調べて分かったことは食した物を、

細胞から変貌させるということだ。こんな風にね』

そう言い、映像に映っている白衣を着た銀のメッシュの男はピンセットで、

あらかじめ小さく切っていた果実の一部を掴み、それをマウスに見せた。

するとそのマウスは壁をよじ登ろうかというくらいの勢いで、

果実に向かって飛ぼうとしていた。

男性は果実をマウスが居るボックス内に落とすとすぐさまマウスがかぶりつく。

その直後、マウスの身体が光輝きだして数秒も経たないうちに小さなインベスとなった。

「っ! マ、マウスがインベスに」

『このように果実を食したものはインベスへと変貌を遂げてしまう』

さらに僕はファイル内を漁っていると裕也さんが居なくなった日の当日に、

保存されたデータが見つかり、それを開くと映像が映し出され、裕也さんが映った。

そこは男性がヘルヘイムの森と呼んだ場所で裕也さんは脇にドライバーを挟んで迷っていた。

すると果実を見つけた裕也さんは……そ、そんな……。

『ヘルヘイムの森に迷い込んだ青年は果実を食し、インベスとなったが、

被験体第一号の手によって抹殺された』

「そんな…………健太さんが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ。元気か?」

「……サガラ」

どれくらい経ったか分からない頃、外から声をかけられ、

視線を上げるとそこにいたのはDJサガラだった。

サガラは牢屋の外から俺の顔を見た途端に呆れたように小さくため息をついた。

「おいおい、なんだその顔は。今までのお前が嘘みたいじゃねえか」

「……そうだな。今までの俺は偽りだったんだ……なんでもできると勘違いして、

連中を見下して自分が一番、強いみたいに思って……それで、

馬鹿みたいに自信だけあって……」

自分の言葉で自分をそう評する言葉を吐きだしていくたびに、

涙が激しく流れていき、腕だけじゃなくて全身までもが震えてきた。

その時、ピッという電子音が鳴り響き、伏せていた顔を上げると牢屋のカギを開け、

中に入って来て、テーブルをはさんでベッドの逆側にあるソファに座った。

「……何も言わないのか」

サガラが何故、牢屋のカギを開けて俺の目の前にいるのか……もう、

そんな事を問いただす何も言う気力さえなくなった。

酷い虚無感……脱力感ともいうべきものが俺の全身を支配していた。

「たっく」

そう言い、急に立ち上がったかと思えば俺の胸倉を掴んで無理やり立たせると、

全力で腕を振るって俺の頬を思いっきり殴りつけた。

普段なら殴り返さなくとも睨みつけただろうが……睨みつける気力さえなかった。

「そんなんだからてめえは弱ぇんだよ。たった一回の失敗がなんだ。

そんなことで押しつぶされてちゃこの先、大人の社会の中で生きていけねえよ。

人間の寿命は100年ちょっと。そのの中で、

どんなけの失敗があると思ってんだ。失敗は成功の母って言うように、

今お前はチャンスなんだよ」

「……どういう意味だよ」

「今、お前は連中に今まで自分を支えてきた絶対的な自信、

そしてプライドも何もかもを潰され、お前は消えた……ラッキーじゃねえか。

嘘偽り、幸運で成り立っていた過去のお前を代わりに潰してくれたんだよ。今、

潰されたお前を新しく建て直す……新しく生まれ変わるチャンスじゃねえか。

成功が十あれば失敗は百も千も一万もある。その数々の失敗を挫けず、

後ろを振り向かずに懸命に努力して、

それらを乗り越えながら子供は大人になっていくんだよ。

立ち上がれよ、子供よ。今、お前は大人に近付く第一歩を踏み出せるチャンスなんだ」

そう言い、サガラは小さく笑みを浮かべながら目の前のテーブルに、

レモンのロックシードとなんらかの機器を置いた。

その瞬間、あの時の光景が頭の中で鮮明に再生され、

腕がさらに震えはじめた。

「ここでつぶれるも進化するも、お前の自由だ。もしも、

進化を望むならばそれを手にとれ。ここで潰れたきゃ勝手につぶれてろ」

俺は震える腕を押えながらも目の前のロックシードから目を反らした。

……俺は…………俺はもう!

その時、何故かふと俺の脳裏を昔、姉が言ってくれた言葉がよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『健太。もしも何かに失敗してもう嫌だって思った時、目を反らしたらだめよ。

目を反らすってことはその失敗したことをもういいやって、逃げたことになるの。

そこは目を反らすんじゃなくてジッと見るの。絶対に反らしちゃダメ。

ジッと見つめて、自分の何がいけなかったから失敗したのかを考えて欲しいの。

そうすれば健太はきっと、今なんかよりもずっと成長できるから。

失敗した時は目を反らすんじゃなくてジッと見ること。約束だよ?』




変な終わり方ですが長すぎたので二つに切りました。

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