舞から謝罪を受けた日から数日が経ったある日、
俺は今、工場跡で暴れているインベスを視界に入れていた。
自然に開いたクラックからインベスが出てきて暴れている以上、
それを放っておくわけにはいかない。
が、それと同時に何故俺がこんな事をしなければならないんだという感情も胸の中にあり、
俺は今、放っておくわけにはいかないという感情と今の感情で板挟みの状態だった。
「……変身」
『ソイヤ! オレンジアームズ・花道・ON・ステージ!』
その板挟みの苦しみを吹き飛ばすかのように勢い良く、
インベスめがけて駆け出したと同時にブレードを降ろして変身を完了させ、
奴の背後から飛び蹴りを喰らわせ、体勢が怯んだところを引き金を引いて弾丸を放ち、
直撃させるとさらに追撃として左右の刀を連続で交互に振るって次々と切り裂いていく。
「はぁ!」
大きく斬ったところで相手の腹部を蹴りあげ、大きく蹴り飛ばした。
「トドメだ」
「ソイヤー!」
ブレードを下ろそうとした瞬間、突然後ろから声が聞こえ、慌ててその場から離れると、
俺がさっきまでいた場所にブラーボの二本の刀が地面に突き刺さった。
ブラーボを無視してインベスに止めを刺そうとするが、
刀が俺に向かって振り下ろされ、それを避けた。
「ブラーボ!」
「悪いけどあの方との契約で貴方を倒すわ。
それに町を脅かしている悪を倒すためにもね!」
「誰と契約したか知らんがインベスを倒してからにした方が良いんじゃないのか?」
「そんなの知らないわ~。ワテクシの最優先課題は契約の遂行よ!」
ブラーボが振り下ろしてくる刀を避け、逃げようとするインベスを追いかけようとするが、
目の前に刀を突きだされ、俺の進路を阻む形でブラーボが飛び込んできた。
『オレンジスカッシュ!』
「そんなもの効かないわ!」
ブレードを降ろし、エネルギーがたまったオレンジの刀を奴めがけて投げるが、
いとも簡単に奴の刀で弾かれた……が、もう一度ブレードを降ろして、
弾かれた刀めがけて跳躍し、それを空中でエネルギーを纏った足で蹴り飛ばすと、
刀からエネルギーが放出され、その形が徐々にオレンジの形へと変化し、
それがインベスに直撃した瞬間、爆発と同時に果汁が辺りに散るようにしてオーラが消え去り、
俺の手に刀が戻ってきた。
戻ってきた刀を手に取り、それを振り返りざまに振るうと、
ブラーボの刀に直撃し、火花が散った。
「あらあら、悪者のくせに正義の英雄気取りかしら?」
「ふん。契約だけを遂行するロボットごときに悪も正義も理解できるか?」
「はぁ!」
突然、どこからともなく槍を持ったバロンがブラーボめがけて飛びかかって来て、
慌ててブラーボから離れると俺に代わってブラーボと戦闘を開始した。
そう言えば奴はブラーボに一度、負かされてたんだったな……。
ブラーボの攻撃を避け、一度後ろに下がったバロンが俺の隣にやってきた。
「戒斗。力を貸せ」
「……その見下した言い方は気に食わんが今は気にせん。この戦いだけだがな」
……またその言葉か。
「アマチュアが何人になっても同じよ!」
ブラーボが二本の刀を投げてくるがそれを己の得物で弾き返し、
奴めがけて斬りかかっていくが相手の刀で防がれていく。
が、さっきとは違って間隔を開けずに次々と攻撃が奴に放たれていき、
それらをいなしているうちに隙が大きくなっていく。
「「はぁ!」」
「ぬぁ!」
俺の刀とバロンの槍がブラーボに直撃し、体勢を怯ませると間髪入れずに、
同時に蹴りをいれ込み、軽く奴を吹き飛ばすとバロンがマンゴーのロックシードを解錠し、
それをドライバーへとはめ込んでブレードを一回降ろし、
バナナアームズからマンゴーアームズへと姿を変えた。
『カモン! マンゴーオーレ!』
「三直!」
『ソイヤ! オレンジスカッシュ!』
バロンが二回、ブレードを下ろした直後にマンゴーのハンマーを空中へと投げるのを見て、
俺はすぐさまブレードを一回降ろし、空中へ跳躍してそれを全力で蹴り飛ばすと、
ハンマーの先端からオレンジの形をしたエネルギーが放出されてハンマーを覆い隠し、
外をオレンジが、中にマンゴーのオーラの塊ができ、
そのままブラーボに突っ込んでいく。
『カモン! ドリアン・オーレ!』
「ぬあぁぁぁぁ!」
奴も二回、ブレードを降ろすと二本の刀を交差させて、
その交点にエネルギーが凝縮していき、その形をドリアンへと変化させると、
奴はそれを俺達が放ったものへとぶつけるが高々、
奴一人の技が俺たち二人の合体技にかなうはずもなく、一瞬で奴の技を掻き消し、
俺達の合体技が奴に直撃して、見えなくなるほどに大きく吹き飛ばした。
「ふぅ……」
「……ふん」
ブラーボの姿が見えなくなりホッと一息ついた瞬間!
突然、俺達を大きく吹き飛ばすほどの衝撃波が俺たちに襲いかかって、
碌な受け身も取れずに衝撃波をまともに食らって廃工場の壁を突き破り、
中に入り込むまで大きく吹き飛ばされた。
「かっ! 何なんだいったい」
『ロックオン・ソーダ・メロンエナジー・アームズ』
体の痛む部分を抑えながら何とか起き上がった直後、音声が工場内に木霊し、
誰かの足音が聞こえてきて、だんだん近づいてくるのが分かると、
俺と戒斗は背中合わせになり、迫ってくる敵に備えていると、
工場内に設置されている入口らしき部分から見たこともないドライバーを腰に装着し、
手には赤色の弓らしきものを持った初見のアーマードライダーが現れた。
……メロンに似ているが違う……第一、
俺たちと付けているベルト自体が違う……だが、
俺たちに向けられている殺気は奴のもの。
奴は俺達を階段の上から見下ろすと跳躍し、
俺達の上を通過して俺達の目の前に降り立った。
「お前……呉島貴虎か」
「貴様には随分と部下が世話になったな……そのお礼を今ここでしてやろう」
……あまりよさそうなお礼じゃなさそうだ。
そう思い、俺が武器を構えた直後、奴の後方から初瀬がフラフラと覚束ない足取りで、
姿を現したかと思えば突然、顔色を変えて、
目の前になっていたヘルヘイムの森の果実をむしり取った。
「初瀬……何を」
「お前のせいで……お前のせいで俺は力を失ったんだ! ステージも、
仲間も……何もかも全部失ったんだ! お前のせいで!」
初瀬はうっすらと目に涙を浮かべながらメロンめがけて吐きだしていく。
……確か奴はヘルヘイムの森でメロンにドライバーを破壊されたんだ……あの様子だと、
ドライバーの力に随分と依存し、そして無くなった反動でおかしくなった感じか。
ステージも仲間も失った……力を失ったことがどこかからか漏れだして、
その隙を突かれて全てを他のチームに奪われたのか。
「俺はもう一度……もう一度こいつであの力を!」
そう叫ぶや否や、奴は一心不乱にヘルヘイムの森の果実を貪りだした!
「おい! 吐き出せ!」
「うっ!」
メロンが初瀬に叫んだ直後、突然初瀬が苦しみ出したかと思えば、
全身から緑色の発光が発せられ、薄暗い廃工場の中を緑色の照らし出した。
……なんだ……ヘルヘイムの森の果実を喰らえばいったい何が起こるんだ。
今、起きている目の前の状況を見逃すまいと、ただじっと見続けていると、
奴の全身から植物のツタが一気に大量に生えたかと思えば、
奴の全身をすっぽりと包みこんだ。
そしてツタが辺りに散らばり、姿を現した初瀬の姿はもう既に人間ではなかった。
『オオオォォォォォォォ!』
ただ、人を襲い続ける化け物……それが今の初瀬の姿そのものだった。