「あれは10年くらい前、束さんがまだピチピチのJCだった頃だ。つまらない日常に嫌気が指した束さんは篠ノ之神社の地下に秘密基地を作ったんだ」
始まる束さんの過去回想。始めからクライマックス並みに吹っ飛んでいる気しかしないが、束さんなら納得してしまう。俺も大分毒されているのかもしれない。
「そんなある日、秘密基地を広げている最中に束さんは神社のご神木の下で掘り出し物を見つけたのさ。とてつもない大きさの謎の物体を見つけたのさ。ちょろっと調べたらウチの土地は何年もの大昔に隕石が落ちたらしくてね。そこの跡地になんやかんやあって篠ノ之神社が建ったんだ。で、束さんが掘り当てたのは隕石だったんだよ」
篠ノ之神社……箒の生家か。実際に見たことは無いが箒は剣道場と神社が一緒にあると言っていた。
まさか神社にそんなエピソードがあったとは。原作でもそういう設定だったのか?よく分からない。
「で、その隕石を調べると、大部分は宇宙のチリやゴミ塗れだったんだけど、その中に未知の物質で構成された球体がいくつも発見されたの。いやー、束さんは喜んだね、世の中には私でも分からない解析できないものがあるんだ、って……これが束さんがISの元となるコアを発見した経緯だよ」
「コアは束さんが作ったんじゃないんですか?」
今の話を聞くとISコアは隕石の中から出土したような言い方だが……。
「そだよ?確かにISのコアとして使えるように調整はしたけど、一から作ったワケじゃない。コアの内部は束さんの頭脳を以てしても分からないブラックボックスだった。分かったのは、地球の科学とは違う技術で作られたことと、コアには人間のような意識があること。正体不明のオーパーツなんだよ、ISのコアは」
「よくわからないものをパワードスーツに出来るものなんですか?」
「こうくん、世の中には不安定だったり不明瞭だけど成り立っているものがたくさんあるのさ」
ふふん、と胸を張って束さんはそう言う。うまくはぐらかされた気がする。
「じゃあ、ISって……」
「宇宙人が作った超兵器なのか、別の生態系で超進化した生物なのか、それとも怖い怖い侵略者なのか……束さんはそれが知りたいの。それを知るためにはISのコアを解き放ち、コアの意識を覚醒させるしかない。わからないことは本人に聞けってね」
「それが、ISを世界に提供した目的かい?」
顎に手を当て考えていた輝さんが口を開いた。
それに対し束さんは違う違う、と首を横に振った。
「覚醒させるだけなら束さんでも出来るよ、時間が必要だけどね。確かに覚醒させるのは目的、でもそれが全てじゃない。人間、植物、動物だって生活環境でそれぞれ違いが出る。ISもそうさ、あの国はどうISを活用するのか、どんな人間が使用するのか……それによってISはどう育ち学習するのか、それが知りたいの」
「つまりはISの覚醒に関するデータが欲しいワケか。それが、本来の使用目的である宇宙開発以外に使用されているISを黙認している理由……だね?」
「イェス!本当はISの力を見せつけて、戦争なんてバカやめて宇宙行こうぜ!ってやるはずだったんだけどまさか皆そのまま兵器にしちゃうなんてね。白騎士はほんの一例を見せるためのデモンストレーションだったのに」
「束様、それは白騎士事件を引き起こしたのは自分だと言っているようなものです」
「いいよいいよ、二人の疑問に答える約束だし」
さらりと爆弾発言をした束さんを見かねたクロエが口を挟むが本人は全く気にしていない。
確かに白騎士事件については誰も言わないだけの、公然の秘密の様なものだったが……あっさり自分で言ったよこの人。
「ハァ……此処にいるのが我々だけで良かったよ」
「あっくんには感謝してるんだよ?あっくんみたいにきちんとISを理解してくれる人がいるから束さんはまだこの世界に飽きてないし、貴重な《プロトタイプコア》を4つも渡したんだし」
呆れた様子で溜息を吐く輝さんに束さんは笑顔で迫る。
「《プロトタイプコア》ってなんですか?」
聞きなれない単語に思わず疑問が口に出る。
「《プロトタイプコア》はその名の通り最初に作ったISコアだよ。神社の地下で見つけた10個をそう呼んでるの。あとは束さんがIS発表後に作った量産品。性能に大きな違いは無いけど特別にそう呼んでるの」
「後の量産型はどうやって……?」
「いろいろ頑張って見つけたんだよ。ISコアは価値のわからない人から見ればただの石ころだし、束さんが集められるだけかき集めたのが364個なわけ。オッケー?」
いや、あの……肝心なことに答えていないのだが。
「ISの発表時に既に作っていたのが《プロトタイプコア》、政府の監視を抜けた後の逃亡生活中に作成したのが《量産型》ということ……で、あっているかい?」
察したのか、輝さんが横からそう教えてくれた。便利ですニュータイプ。
「そうそう。あれ?あっくんに説明してなかったっけ?」
「かなり断片的な説明ならね。ようやく全てが繋がったところだ」
はぁ、とため息をついて輝さんは首を横に振る。行動を共にしてきた輝さんにも伝えていないことはたくさんあったらしい。輝さんお疲れ様です。
いま出てきた情報をまとめると……ISは束さんが隕石の中にあったオーパーツから作り出したもので、コアの原石は束さんすら知らない正体不明で独自の意志を持ちいずれ成長し覚醒する……でいいのか?
別の惑星で作られた超兵器か、姿を変えた宇宙人か、それはISのみぞ知る。
なるほど、束さんが興味を持つわけだ。
「じゃ、ISはこれで一旦切り上げて次はニュータイプについてね」
ニュータイプ。その単語を聞いて思わず身に力が入る。
俺や輝さん、クロエの様な存在はISと何か関係があるのだろうか。
「ニュータイプっていう人種は昔から存在したんだよ。もっとも、ニュータイプって呼んでる人は少ないけどね。ニュータイプっていうのは脳の機能が常人より発達し、人の感情や思考を感じ取ることに特化した新人類だと思っているよ」
ガンダムでもニュータイプはそんな感じの存在だという認識だったはずだ。
「超能力者も今ではニュータイプに含むのかな?」
「そうだね、クーちゃんのモデルになった人間も優秀な成績を残した軍人でどうやらニュータイプっぽいよ。それでこうくん……どうだった?」
「何が、ですか」
話の途中、束さんは意味深な笑みを浮かべてこちらへ視線を向ける。それに対して俺は困惑することしかできない。
「ISに意識があるのはさっき言ったでしょ?操縦者のコントロールを受け付けずに暴走するってことは、IS自身が動いているって事。……目覚めてたんでしょ、福音のコア。対話はできたかな?」
「ああ……そういうことですか」
束さんのこの言葉で疑問のピースが埋まった気がした。
なぜ学園に協力したのか。なぜ福音の暴走を放置したのか。なぜ暴走したコアを潰すのを惜しいと言ったのか。
「束さんの言う通り、福音には意識がありました。少しですが対話もしました」
「さすがこうくん。それで、福音は何か言ってたかな?」
「いえ……福音は生まれたばかりの赤ん坊、みたいな感じでしょうか。とにかく不安定で、搭乗者を守ろうと必死でした」
脳裏に悲痛な機械音の叫びがフラッシュバックする。
「途中で亡国機業が襲ってきて福音は再び暴走。結局、守れませんでした」
「そっか、いやいやこうくんは頑張ったよ」
よしよしよしよーし、とどこぞの動物愛好家並みに撫でてきたので身をよじって束さんを避ける。
「あー、やっぱり一回潰した方がいいかな亡国なんとか」
「まあまあ、すこし落ち着いてくれ」
隣で恐ろしいことを話す束さんを輝さんが諌める。無人機やクロエの件が引っかかっているからだろうが、この人がこんな発言をするには極めて珍しい。だから本気かどうか判別できない。
しかし、色々と明らかになってきて気になったことがある。
「束さん。束さんの目的ってなんですか?」
これは原作でも気になっていた事だ。束さんはニュータイプとISを使ってなにをしたいのか……すごく気になる。
「束さんの目的かい?束さんの最終的な目的は宇宙さ」
「宇宙……」
「うん。ISはもともと宇宙用だからね。いまは仕方なく、仕方なーく、大衆向けのスポーツ用にしてあるけど宇宙探査は一度も諦めたことはないよ。ISを見つけた時から私の夢は変わらない。この狭い地球を飛び出て広い宇宙へ旅立つのが束さんの夢。広い宇宙の手がかりを握っているのがIS、そしてISと意志疎通が可能なニュータイプ。この二つを揃えるのが今の目的かな」
だからこそ束さんの夢を応援してくれるあっくんには感謝してるよー!とそのまま夢を語った勢いで輝さんに飛びつく束さん。そしてそれを黙って受け入れる輝さん。カオスなやり取りが横で繰り広げられている、本当にカオス。
「あっ、そうだこうくん。こうくんがニュータイプになったら一つお願いしたいことがあったんだよ」
思い出したかのように声をあげ、輝さんから離れると束さんは俺の隣へ移動するとこっそりと耳打ちする。
「学園の地下に行ってみて」
それだけ言うと束さんはそばから離れる。
「これで話したいことは全部話したかなー?そろそろ帰っていい?」
「ストレートだね君は。いいよ、今日はありがとう助かったよ」
「ありがとうございました」
輝さんに続いて礼を述べる。束さんは「バイバーイ」と言いながら森へ消えていった。クロエは立ち去る前にぺこりと一礼してから束さんを追って森へと消えた。
その場に残った俺と輝さんの間にしばしの静寂が流れる。
「学園の地下って何かあるんですか?」
束さんの言い残した言葉、学園の地下について輝さんに訊ねてみる。学園の地下は基本的に立ち入りが禁止されており生徒は入れない。中に何があるかなんて俺には当然分からない。
「確か、織斑先生が搭乗していた機体があるんじゃないかな?」
鋼夜くんが入学する前にフェニックスに調べてもらったんだよね、と続けながら輝さんは携帯端末を操作する。
「あったあった。学園の創設時に当時の織斑千冬が搭乗していた第二世代ISの《暮桜》が地下に封印されてる。モンド・グロッソ以降使われなかったけど封印されてるなんてね」
「ニュータイプはISとの意思疎通を可能にする。つまり束さんは俺と暮桜にコンタクトするようにと?」
「そういう事だろうね。学園の地下についてはこっちで調べてみるよ」
そう言えば輝さんは携帯端末を弄りフェニックスさんへ指令を飛ばしていた。あの人本当便利だなぁ。
「これでよし……さて、どうだい鋼夜くん?束の目的が分かった感想は?」
携帯端末をしまい込み、輝さんは微笑んでこちらへ訊ねてくる。輝さん自身もぶっちゃけたトークがしたいようで、ワクワクや嬉しさといった感情が伝わってくる
「コアの出自にニュータイプの存在、色々と得た物は多いですけど考えさせられますね」
結局コア自体は束さんにも分からないらしいし、ニュータイプはニュータイプでオリジナルの理由付けがされている。ニュータイプについては輝さんがこの世に存在出来るようにするための計らいだろうか。
「輝さん、この世界の宇宙って大丈夫ですか?既にテラフォーミングが進んでて火星や木星辺りに移民を送ってないですか?もしくはゴキブリ」
どの世界線が混ざっていてもロクなことにならないのは確実だ。特にゴキブリ。
「その辺は大丈夫。宇宙開発は鋼夜くんが居た元の世界とほぼ同じ。移民なんて影も形もないよ」
数十年後に核戦争が始まるかもしれないけどね?と輝さんは笑いながら続ける。ははーん、さてはこのネタだな?
「首都星オーディーンでゴールデンバウム王朝を築かなきゃ」
俺の返事が嬉しかったのか、輝さんは更に笑みを深くしてネタを続ける。
「マインカイザー!」
「くたばれカイザー!」
銀河の英雄的なネタのやり取りをしばらく繰り広げた後、落ち着いた俺は深呼吸をして改めて輝さんへ向き直る。
「輝さん、この臨海学校で俺が知ってるこの世界の流れの範囲は終わりです。後はぶっつけ本番です」
そう、この臨海学校の福音撃破でインフィニット・ストラトスというアニメは終わる。しかし実際は原作小説では続きがあるし原作小説が終わってもこの世界での俺の生活が突然終了する訳ではない。
「もちろん、ラビアンローズはこれからも鋼夜くんのサポートを続けるよ」
「ありがとうございます」
笑顔で親指を立てる輝さんが頼もしすぎる。
束さんの目的は一応は明かされたが、テロリストの亡国機業に強化人間の構成員、俺の身の上に一夏を取り巻く恋物語などなど不安要素は盛り沢山だ。
「あぁ、鬱だ」
輝さんと共に旅館へと戻る道すがら口癖となった言葉を呟くのだった。
この設定は神転苦痛を書き始めるにあたって温めていた自分なりのISについての考察です。
ISABのイマージュオリジスを見るとあながち間違ってなさそうですね。公式にネタをパクられました(錯乱)
まだ原作11巻以降は読んでませんので設定違いがありましてもご容赦ください。
だらだら続いた神転苦痛も次回で最終回です。
ISの原作より先に終わらせたいとは思っています。