神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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お久しぶりです
半年以上も更新を疎かにしてしまい、申し訳ありませんでした

福音の追撃を命じられた箒たちと、束とクロエに救助され簪と無事合流した鋼夜の話です



福音激闘の第62話

 

 

学園の部隊、そして亡国機業の追っ手を切り抜けた『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はどことも分からない海上の200メートル地点で静止していた。

 

第二移行(セカンド・シフト)によって新たに生まれた4対のエネルギー翼で自身の周りを覆い膝を抱くような姿勢でその空域に留まっている。

その姿はまるで幼虫が成虫に変態するまでに自身を守るための『繭』のようだった。

 

だが、余りにも異質なそれを彼女達が見つけるのに時間はかからなかった。

 

 

 

福音が展開していた翼の繭に砲弾が直撃し、爆発を起こす。

続けて2発、3発と何処からか砲弾が放たれ繭に直撃し爆発が起きた。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う!」

 

爆発はラウラの砲撃だった。

砲戦仕様となった機体を駆り、5キロ離れた地点から砲撃を行ったのだ。

 

敵襲と判断した福音は繭を解除するとエネルギー翼を広げてラウラへ向かって加速する。

ラウラも両肩のレールカノンで迎撃するが、福音はひらりひらりと身を翻し確実にラウラに近付く。

 

「最初より格段に早い……!」

 

砲撃仕様となったラウラの機体は機動力が格段に落ちており、砲撃姿勢を解除する間もない。

 

第二移行により格段に性能が上がった事は考慮していたが、福音の速さは彼女の予想を越えていた。

 

あっという間に距離を詰められたラウラだったが、その表情が不敵な笑みへと変わる。

 

「セシリア!」

 

「お任せを!」

 

ラウラの上空からステルスモードで待機していたセシリアが現れ大型のレーザーライフル『スターダスト・シューター』による狙撃を福音へ向けて開始する。

レーザーによる射撃が入ったのを確認した福音はラウラを諦め、レーザーの回避へ移る。

 

しかしそれは彼女達の狙い通りだった。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

突如として海面が爆ぜ、その中から2つの機影が飛び出して福音に迫る。それは箒の紅椿と、その背に掴まった鈴の甲龍だった。

 

「受け取りなさい!」

 

紅椿の背から飛び立った鈴は甲龍の増設された衝撃砲を展開し、一斉射撃。不可視の弾丸とは違う、炎を纏っている弾丸が福音へと降り注ぐ。

 

射程と視認性を犠牲にし威力と速射性を向上させた衝撃砲。それが『崩山』により得た装備だった。

 

福音はエネルギー翼から弾幕を展開して相殺を試みるが弾幕は衝撃砲の威力によって掻き消されて消滅しそのまま福音は被弾する。

 

しかし衝撃砲の直撃を受けてなお福音は健在だった。

 

「それも想定内だけどね!」

 

セシリアと共に上空にてステルスモードで待機していたシャルロットが右手にパイルバンカーを構え、瞬間加速(イグニッション・ブースト)で福音に向かって急降下し接近。

 

福音はエネルギー翼を上方に展開し防御の姿勢を取るが、突如として放たれた攻撃に阻害されてしまう。

 

「いけ、シャルロット!」

 

福音を攻撃したのは展開装甲により紅椿から独立して動く二機の肩部ユニットだった。

箒の呼びかけにシャルロットは微笑み、速度を殺すことなく福音に迫る。

 

「いけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

ゴッシャァァァ!!!

 

シャルロットの振り上げた右腕が、搭載された大口径の杭が、福音の腹部装甲へ炸裂する。

パイルバンカーを受けた福音は様々な音を上げ錐揉み回転しながら海中へ堕ちていき海面に巨大な水柱が上がった。

 

 

「やった!?」

 

「変なフラグ立てるんじゃないわよ!」

 

「相手は軍用ISだ、この程度では倒れん!」

 

 

シャルの言葉に鈴からのツッコミが飛ぶ。フラグが建ったのかどうか定かではないが実際にラウラの言う通り福音は海中に叩き落とされてなお反応が消えていなかった。

 

「──来るぞ!」

 

箒の叫びと同時に海面が爆ぜ、その中から福音が飛翔する。

完全に五人を敵と認識した福音は4対のエネルギー翼を最大に展開する。

 

奇襲は通用しない。

この先は福音との真っ向勝負。

言わずとも五人全員はそれを理解し、武器を握る手に力を込める。

 

福音が4対のエネルギー翼を翻し大量の弾幕を放つ。

仕切り直しなのだろう。五人はそう読み、こちらも態勢を整えるために回避へ集中した。

 

しかし、それは悪手だった。

 

『Aaaaaaa--!』

 

雄叫びのようなマシンボイスを上げながら、福音はこちらに突っ込んで来たのだ。

エネルギー翼を翻し、加速する福音の進行方向にはラウラの機体があり、ラウラはプラズマ手刀で応戦しようとするが目の前に迫った福音は突如として翼を広げてラウラを機体ごと包み込んだ。

 

「な、にっ!?」

 

ラウラの視界が白く染まる。

鳴り止まぬ警告アラームと戦場で培った彼女の勘が、危険だと告げるが彼女はどうしようもなかった。

 

「ぐっ、うあぁぁぁぁぁ!」

 

白い視界の中で眩しい光が炸裂し、その光は機体ごとラウラを傷付ける。

 

「ラウラさんを離しなさい!」

 

セシリアが『スターダスト・シューター』で射撃を行いラウラの救助を試みた。福音は翼を戻し、ラウラを解放すると身を翻してセシリアの射撃を避ける。

 

「福音は私が引きつけます!シャルロットさんはラウラさんをお願いしますわ!」

 

「わかった!」

 

ダメージを負い、落下していくラウラのカバーにシャルロットが向かう。

そしてセシリアは福音へ数度レーザーを放ち、意識を向けさせる。狙い通り福音は次のターゲットをセシリアに切り替えたのか、翼を広げセシリアの機体を追う。

 

「しつこいですわっ!」

 

『Laaaaaaa!』

 

見事に福音を引き付けることには成功したが、今度は引き離せずにいた。

ビットを全て推進ユニットに回すことで多大な機動力を得た『ストライク・ガンナー』に福音は食らいついているのだ。

 

「これでっ!」

 

いたちごっこをいつまでも続けられないと判断したセシリアは機体を反転させて福音の背後へ回り込み『スターダスト・シューター』の引き金を引く。

が、福音は振り返ることもせず光の翼を密集させ弾幕ではなく圧縮された高密度の巨大なエネルギー弾を放つ。

しまった、と思う間もなくセシリアの放ったレーザーは掻き消され、眼前に迫った銀の奔流が直撃し容赦なく彼女の意識を刈り取った。

 

 

「おのれえぇぇぇぇぇっ!」

 

「気持ちは分かるけど突出しないでよ箒!」

 

「鈴!箒!福音をお願い!僕はセシリアを助けるよ!」

 

仲間を落とされた事に箒は激昂する。

今にも一人で突撃し兼ねない箒を鈴が諌め、ラウラを戦闘範囲外に安置したシャルロットが二人へ指示を出した。

 

 

「了解!行くわよ箒!」

 

「応っ!」

 

鈴と箒の機体は福音へ接近する。

箒は射撃と近接格闘を兼ねた刀の武装で福音へ張り付き鈴が中距離から援護射撃を行う。

 

『Laaaaaa!』

 

福音はマシンボイスを響かせながら二人の猛攻に耐える。

翼を刃の代わりに広げ箒の斬撃を受け止めながら鈴の炎弾をエネルギー弾によって相殺する。

 

「あーもう、食らいなさい!」

 

鈴は二振りの青竜刀『双天牙月』を連結し、福音へ向けて投擲する。投擲武器としての機能もあるこの剣はブーメランと同じく投擲者の元へと帰って来る機能がある。

福音は双天牙月をひょいと避けるとお返しとばかりに鈴に向けて大量のエネルギー弾を放つ。

投擲の隙を狙われた。しかし、鈴の表情は変わらない。

 

「やらせないよっ!」

 

突如、福音と鈴の間にシャルロットの機体が割り込む。

シャルロットのラファールはエネルギーシールドと物理シールドがフル展開されており、福音の弾幕を全て受け止める。

 

「サンキュー、シャルロット」

 

「間に合って良かったよ」

 

鈴はわざと福音に隙を見せ、福音の攻撃を誘導したのだ。セシリアの回収を終えたシャルロットのシールドで弾幕を防ぎ────

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

本命の箒の一撃を与えるために。

瞬間加速(イグニッション・ブースト)にも勝る加速で降下しながら福音に迫った。

 

右の一刀を振り下ろす

腕を交差して防がれた、浅い。

 

左の一刀で薙ぎはらう

胴を狙った一撃は身を引くことで躱された。

 

まだだ、まだ足りない

後退する福音に一歩踏み込み右脚の蹴りを放つ。展開装甲の機能で脚部の一部分にエネルギーの刃を纏った蹴りは福音の体勢を大きく崩すことに成功する。

 

もう、一撃

箒は即座に両手の刀を粒子に戻すと両肩のアンロック・ユニットのスラスターの一部をそれぞれの手で掴み、勢いよく振り下ろす。

脚部と同じくエネルギー刃を纏ったそれは、福音を真正面からX字に斬りつけた。

 

────今度こそ、仕留めたか!?

 

しかし箒の一抹の希望は直ぐに消えることとなる。あの連撃を受けてもなお、福音は倒れなかった。

全ての攻撃を受け切ったのだ。

福音はぐるりと一回転し、光の翼を振り回すと共に弾幕を展開する。

箒もすぐさま我に返って弾幕を数発貰いながらも回避に動く。

 

「……嘘っ!?」

 

鈴の驚きの声が上がる

仕切り直しとばかりに再び構える三人を尻目になんと福音は背を向けて飛び去ったのだ。

 

「逃げる気か!」

 

箒はすぐさま福音を追うべく機体を走らせようとするが途中で思い留まる。

鈴とシャルロットの機体はまだ健在のようだが、今の福音の速度に追いつけるのは箒の『紅椿』だけ。

更に専用機持ち達に課せられた任務は『福音の撃退』である、目的は達成した。

だが、こんな結果では誰も納得しない。

 

歯嚙みする三人だが、どうすることもできない。既に白い点としか認識できない距離まで福音は離脱している。

 

三人が諦めた時、一筋の赤い光が白の点とぶつかった。

 

「えっ!?」

 

これには三人も驚きの声を上げるが、その驚きも直ぐに解消されることとなる。

 

『こちら、更識簪。逃走を図る福音を補足、援護お願い』

 

ISのオープンチャネルから聞こえてきたのは自分たちとは別行動をしていた四組の専用機持ちだった。

恐らく、彼女の機影は赤と白の点から少し離れた場所に存在する黒い点がそれだろう。

ならば今、福音と戦っているのは一人しか居ない。

箒はすぐさまハイパーセンサーを遠視モードに切り替えてその戦闘を確認する。

 

炎を彷彿とさせる真紅と橙のカラーリング。縦横無尽に飛び回り、福音を翻弄する6つの独立したユニット。エネルギーの刃を放つ一振りの長刀。

 

それは、間違いなく彼の機体だった。

 

 

 

────────────

 

 

「見えたよ!」

 

「ああ」

 

簪さんの声に反応した俺は近接ブレードの『不知火』を握る手に力を込める。

彼女の言葉通り、自分達の遥か前方には複数のISの反応があり、戦闘の様子も見て取れた。

 

「一夏は居ないようだな」

 

「うん……」

 

冷静に考えれば、一夏が移動特化の俺と簪さんの機体に間に合う可能性の方が低い。

恐らく第二移行(セカンド・シフト)し性能が上がった白式の状態であってもだ。

一夏の有無は関係ない、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。

 

「っ!福音が戦闘空域から離脱する!」

 

簪さんの言葉通り、福音は学園の専用機持ち──反応があるのは箒、鈴、シャルロット──の機体から急速に離れている。

 

「どうする?」

 

「今から福音に突っ込む。簪さんには援護をお願いしたい」

 

俺の要望に簪さんは頷き、ライフルを呼び出すことで応えた。

ありがとう、そう簪さんに一言告げて俺は一気に機体を加速させて福音に迫る。

福音は俺の知っている展開通り既に二次移行して姿形が変わっていた。

逃亡を図る福音は俺の接近に気付き、くるりと機体を反転させる。

 

『Aaaaaaaaa!!』

 

福音は敵意と殺意を撒き散らしながら迎撃のために背中の4対のエネルギー翼を広げる。

 

「間に合わなかったか……」

 

福音の感情を読み取ってしまった俺は戒めも込めてそう呟く。

今の福音は自己を無理矢理成長させ、全てを敵と認識して翼を広げ暴走する怪物に成り果ててしまった。

だが、その理由はたった一人の大切な搭乗者を守るためだ。

福音に……罪は無い。

 

俺があの時に上手く立ち回っていたら、福音はこんな事にならなかったかもしれない。

福音に言葉を投げかけるが返ってくるのは明らかな敵意と殺意のみで、説得は通じない。

 

ならば、俺が止めるしかない。

「搭乗者を守りたい」という福音の想いを分かってやれる俺が。

 

『Aaaaaaaaaa!』

 

「おおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

真っ直ぐに突っ込む俺に向けて福音は翼から大量のエネルギー弾を放つが、振るった『不知火』から発生したビーム刃が大量の弾幕を相殺していく。

相殺しきれなかったエネルギー弾がいくつか残り被弾するがそれを気にせず、即座にアンロックユニットに搭載されている『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』を展開し福音を包囲する。

エネルギーの弾幕をかわしながら福音のエネルギー翼の内側に『天叢雲剣』を潜り込ませ牽制し、『不知火』からビーム刃を飛ばし攻め立てる。

しかし福音はエネルギー翼をはためかせながら力づくで『天叢雲剣』を払いのけ、ビーム刃を受け止める。

 

「手数が足りない……!」

 

「なら、数が増えればどうだ!?」

 

「僕も居るよ!」

 

「とりあえず、話は後で聞かせてもらうわ!」

 

そう呟いた俺の声に応えるかのように、三つの機影が福音へ向かい躍り出る。

それが箒とシャルロットと鈴の機体だと理解するのに時間はかからなかった。

簪さんが三人に呼びかけたのだろう。

 

「鋼夜くんと篠ノ之さんは前衛、私とデュノアさんと凰さんで二人を援護する」

 

簪さんから通信が入り、簡単な作戦が伝えられる。全員がそれに了解の言葉を返すと同時にそれぞれが動き出す。

 

 

「いっけぇ!」

 

鈴が福音に向け炎を纏った衝撃砲を牽制代わりに放つと、それに続く形で箒が福音へ切り込む。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

手に持つ二刀、『空裂』と『雨月』から放たれるエネルギー刃と銃弾が福音に殺到し、福音はエネルギー翼を前面に展開する事で防御を試みるが突如として別方向から飛来した銃弾がそれを阻害する。

 

「狙撃は任せて」

 

「有り難い!」

 

簪さんへ短く礼を述べながら俺は『天叢雲剣』を再び福音へ向けて展開し、再び突っ込む。

2対1の近接戦は不利と判断したのか、福音は機械音声を上げながらエネルギー翼を翻し距離を取ることを試みる。

 

「だから逃がさないって!」

 

そこに先回りしたシャルが両手に持つマシンガンを連射して弾幕を張り福音無理やりを押し込めた。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!」

 

そこへ俺の陽炎が『天叢雲剣』と共に福音目掛けて加速。先端にビームの刃を纏った8つの天叢雲剣が四方から福音を取り囲むように展開し、同時に切り込む。

一合、二合、三合……福音は天叢雲剣を墜とそうとエネルギー翼を広げるが他方向からの一斉攻撃を完全対処することは難しいようで、徐々にこちらが押していく。

 

「もらった!」

 

俺の攻撃が空く隙を埋めるように、箒が機体を急加速して福音へ迫った。攻撃の合間を縫った奇襲に福音の反応は一歩遅れる。

 

────振り上げられた二振りの刀が福音へと到達する寸前に、その刃は光を失い強制的に粒子へと還った

 

具現維持現界(リミット・ダウン)!?」

 

誰かの悲痛な叫びが響いた。

具現維持限界とは、その名の通りISの展開の限界を知らせる現象。箒の『紅椿』は武器を維持するエネルギーも残っていない非常に危険な状態に陥ってしまったのだ。

 

 

武装を強制的に解除させられた箒の機体は勢いそのままに福音に接近してしまう。福音はこのチャンスを逃さまいと、無防備な箒の機体をひらりと避け後ろから蹴りつけた。

 

「が、はっ……」

 

蹴り飛ばされた箒の機体は海へと落下していく。

更に福音は追い討ちとして落下中の箒へ向けて銀の奔流ともいえる圧縮されたエネルギー弾を放つ。

 

「箒っ!」

 

シールドを持つシャルロットが割って入ろうとするが、あの距離では間に合わない。

 

覚悟を決めた箒が目を閉じたその時────”白”が現れた

 

瞬間、箒に迫っていた銀の奔流は搔き消える。

そして銀の奔流が消えた場所には彼女を守るように左手を突き出す白い機体。

 

「俺の仲間を、これ以上やらせねぇ!」

 

進化した『白式』を纏う、一夏の姿がそこにあった。

 

 

 





なんでパイル撃ったのに福音は生きてるんだろう(フロム脳)

期間を空けながら少しずつ書いていたため、文章がおかしい箇所が多々あると思いますがご容赦下さい
福音との戦闘は次回で決着になります

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