神様転生した者だけど毎日が苦痛   作:八雲 紅

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ネタ補給のために買ったACVDを、気付いたら本気でやりこんでました、八雲です
更新遅れて申し訳ありません
ですが、立派なフロム脳になって帰ってきました

今回、戦闘あるんで長いです
それではどうぞ



福音迎撃の第57話

 

作戦開始時刻。

太陽の光がまぶしい昼時に、作戦メンバーである俺は砂浜にISを展開して待機していた。

 

他のメンバーもISを展開し、いつでも出られるようにしている。

 

俺は陽炎の情報を確認し、エネルギー及びパーツに異常がないか最終チェックをする。

 

 

「箒。よろしく頼む」

 

「ああ」

 

 

少し離れたところで一夏と箒が会話している。

箒の様子は落ち着いている。まだ若干の緊張はあるようだが、さすがに浮かれてはいなかった。

 

まず一つの懸念が消えた。

俺は誰にも悟られないように安堵のため息をつく。

 

機体チェックは異常なし。いつでも行ける。

 

と、誰かがオープンチャネルを繋げてきたので回線を開いてみれば相手はセシリアとラウラだった。

 

 

『鋼夜さん。移動の速度は練習通りにお願いしますわ』

 

『了解した』

 

 

『頼むぞ、二人とも』

 

『ええ。ラウラさんは今回の作戦では大事な役割がありますから』

 

『気合い入れて行こう』

 

 

そして軽く作戦の内容を確認し合い、二人との回線を閉じた。

こういう状況を覚悟していただけあって、代表候補生の二人は非常に落ち着いている。実に頼もしい。

 

 

「弱気になってる場合じゃないな」

 

改めて言葉に出して自身を鼓舞する。本当に気合い入れていこう。

 

 

と、ここでまたしても回線が入った。

プライベートチャネルの方だが。

 

 

『鋼夜くん、聞こえる?』

 

『簪さん?どうしたの?』

 

 

意外にも、それは簪さんからのものだった。

回線は打鉄弐式のものを使っていた。

 

まぁ、外は出来てるし中も基本動作くらいなら打鉄のデータを使えば一応は動くんだよな。

コアは生きてるし。

 

しかし持ってきてたのか。

 

 

『いきなりごめんね。でも、ちょっと気になって……』

 

『ああ、いいよ。ちょうど手持ち無沙汰で誰かと話したいと思ってたから』

 

 

申し訳なさそうな表情の簪さんに全然大丈夫、という旨を伝えると彼女の表情が少し晴れた。

 

 

『鋼夜くんは高速機動の訓練は何時間したの?』

 

『……五時間くらいかな。入学前の詰め込みだったからそんなにしてない』

 

 

簪さんに言われ、ラビアンローズでの訓練の日々を思い出す。

厳しくも優しかった先輩方の指導、相談に乗ってくれた岩野おじさん、シィちゃんミィちゃんとの遊び、週末の社長室。

 

 

『…………』

 

思い出したら帰りたくなってきた。

 

『ご、こめんね』

 

そんな俺の様子を察した簪さんは慌て謝罪の言葉を述べる。

多分、作戦前に不安にさせてしまったと思っての謝罪だろう。

 

大丈夫、別に簪さんのせいじゃないから。これは俺の心の問題だから。

 

 

『いや、いいんだ。俺も頑張るから、そっちも頑張ってね』

 

『……うん』

 

『テロリストがここに来る可能性は0じゃないから』

 

 

鈴、シャルロット、簪さんの三人は海域封鎖には参加せずにこのまま旅館へ残る。

理由はテロリストだ。

 

アメリカから機体を奪ったテロリストが潜伏、ないし更にISを強奪するために学園が滞在しているこの旅館を襲撃する可能性は0ではない。

だから、海域封鎖は先生に任せて三人はここに残るのだ。

 

まぁ、輝さんと束さんと織斑先生という最強のセキュリティに守られたここに襲撃してくるテロリストはいないだろう。むしろテロリストの方が可哀想になる。

 

 

『わかった……いきなりごめんね』

 

『だから大丈夫だって』

 

簪さんの申し訳なさそうにしている様子を察した俺は明るく返答する。

 

 

『帰って、一緒に弍式を完成させよう』

 

『っ!……待ってる』

 

『じゃ、そろそろ時間だから』

 

 

簪さんに断りを入れ、プライベートチャネルの回線を切る。

 

 

……余計な死亡フラグを建てた気がする。

いや、でも、簪さんを安心させるにはああ言うしかなかったし……。

 

ダメだ、気をしっかりと持て。

フラグクラッシャーだ、不死身のコーラサワーを思い浮かべろ。スペシャルで二千回で模擬戦で最後に幸せを掴んだあの男を。

 

 

『全員、聞こえるか?』

 

炭酸男をイメージしているとオープンチャネルから織斑先生の声が聞こえてきた。

俺はすぐさま意識を切り替え、返事をする。

 

『もう一度確認する。今回の作戦は福音を日本まで近づけさせないことだ。撃墜するのが望ましいが、最悪の場合はエネルギーを削るだけでも構わん。指揮はボーデヴィッヒに任せる。現場での状況に対応して動け』

 

『了解しました』

 

『第一攻撃隊が出た五分後に第二攻撃隊は出ろ。いいか織斑、初撃で撃墜しても構わん。仕事を奪うつもりでやれ。篠ノ之は織斑を運んだ後は織斑のサポートに入れ』

 

『了解』

 

『了解』

 

織斑先生からの指示を受け、一夏と箒の二人が返事をする。

 

さすがは姉弟といったところか、一夏の扱いが上手い。

一夏のムキになりやすい性格を考えると「無理するな」や「仲間を頼れ」と言うよりは、ああ言った方が正しいだろう。

 

箒に関しては落ち着いている。

浮ついた気持ちは感じない。

 

 

『第二攻撃隊は目標地点到着後、状況を見て二人のサポートに入れ』

 

『了解』

 

『了解』

 

『了解』

 

 

あくまでメインは一夏。

その事を意識しながら俺は了解の返事を出した。

 

 

『ーー作戦、開始!』

 

織斑先生の号令により周りの雰囲気が一変し、緊張が走る。

 

 

「では、先に行かせてもらう」

 

「箒さん、ご武運を」

 

「余計な仕事させんなよ、俺は面倒が嫌いなんだ」

 

「おう、任せろ。ーー白式、いつでも行ける!」

 

「紅椿、出撃するぞ」

 

 

二人と少し会話した後、白式を載せた紅椿が飛び立って行った。

これで終わってくれればいいんだが。

 

 

そして待つこと数分。織斑先生からオープンチャネルでの通信が入ってきた。

 

『第一攻撃隊は福音の撃墜に失敗。第二攻撃隊は直ぐに出撃し、援護に入れ』

 

『了解』

 

『了解』

 

『了解』

 

案の定、織斑先生から出撃を命令される。

知ってた。ええ、知ってましたとも。

 

 

『陽炎、いつでも行ける』

 

『ストライク・ガンナー、出撃しますわ』

 

『シュヴァルツェア・レーゲン、出撃()るぞ!』

 

俺とセシリアの機体が浮上し、ラウラの機体を吊っているワイヤーの持ち手を掴む。

 

 

『3、2、1……行きますわ!』

 

『出撃』

 

そしてセシリアとタイミングを合わせ、陽炎のスラスターを全開。

 

赤と青が黒を引き連れ、海岸を飛び立つ。

 

 

全身に風を受けながら、機体をどんどん上昇させていく。

二人の交戦位置は上空五百メートルの高度だと情報が送られて来る。

 

 

『目標高度五百メートルに到達した』

 

ラウラの目標高度を知らせる通信に『了解』と返答。

 

セシリアとうまく連携し、水平に飛行するよう機体を操作する。

後は交戦位置まで加速するだけだ。

 

 

しばらく加速を続けると、前方に高速でジグザグに動く三つの軌道を発見した。

 

一目で一夏たちだと判断出来た。

 

 

『目標確認しました』

 

『俺も確認した』

 

『私も確認出来た。戦闘空域まで約二十秒。戦闘空域突入後は作戦通りに頼むぞ』

 

『了解ですわ!』

 

『了解。更に加速するぞ』

 

 

作戦と言っても俺が前衛で二人の援護。セシリアとラウラは後衛からの援護だ。

 

 

言い終えて俺は機体のブーストを更に吹かせる。

セシリアも俺に合わせて加速する。

もうすぐで戦闘空域だ。

 

『5、4、3、2、1、今だっ!』

 

 

ラウラの掛け声でセシリアと俺はワイヤーの持ち手を離す。

 

ラウラのレーゲンはワイヤーが外れると同時に機体各所のスラスターを展開し、姿勢制御を取る。

 

セシリアは速度をそのままに上昇し、ターン。ラウラのように後方へ向かう。

 

俺は勢いを殺さず更に加速し『不知火』を右手に呼び出す。

 

一夏と箒による二人掛かりの攻撃を回避していく福音の回避ルートを予測し、一直線に突っ込む。

 

 

『不知火』を構え、その刃が迫る刹那ーーーー福音と、目が合った。

 

銀の名を冠する通り、その機体は銀色の全身装甲に覆われている。

背中にそびえる銀色の巨大な翼は、スラスターと武装を融合させたユニットだとデータに記されていた。

確か『銀の鐘(シルバー・ベル)』とかいう名前だったか。

 

頭部も例外ではなく装甲に覆われており、カメラアイの光が点灯している。

なのに俺は比喩表現ではなく、本当に福音と視線を交わした感覚を覚えた。

 

「!!?!」

 

福音は言葉にならない機械音を上げながら、背中のスラスターを展開し身体を捻って回避運動を取った。

しかし完全回避とはいかず、不知火の刃が福音の腰部の装甲を浅く斬りつけた。

 

俺はそのまま『不知火』を振り抜き離脱。高速で旋回し、福音の方へ向き直ると同時に不知火を構える。

 

 

「……なんだこいつ」

 

俺は福音を見て、思わず言葉に出してしまった。

 

目の前の相手から明確な「敵意」を、そして搭乗者とは別の意識(・・・・・・・・・)

を感じる。

 

非常に不安定で弱いけどそこにはっきりと存在している。

 

まるで、生まれたての赤ん坊のような、そんなーーーー

 

 

『来てくれたか!鋼夜、援護頼む!』

 

『三人で仕掛けるぞ!』

 

 

一夏と箒の呼びかけで我に帰る。

考えるのは後、まずは福音をどうにかするのが最優先だ。

 

『了解』

 

二人にそう返し、不知火を構えて再び福音へ向かう。

 

『気をつけろ!背中の翼から撃ってくるぞ!』

 

一夏が武装について忠告すれば、福音は複雑な機動をしながら一回転。

その時に背中の装甲がスライドし、砲口が現れそこから大量のエネルギー弾が吐き出される。

 

俺はスラスターを吹かせて横にダッシュしエネルギー弾を回避。

一夏も箒も、それぞれのやり方でエネルギー弾を回避する。

 

しかし回避に専念した隙を狙い福音は距離を取り更に攻撃に移ろうとするが、突如飛来するレーザーと砲撃によりそれを邪魔される。

 

 

『ここから逃がす訳にはいかん』

 

『わたくし達を忘れてもらっては困りますわ』

 

ラウラのレーゲンの大型カノン砲。

そしてセシリアのストライク・ガンナーの専用装備である大型のレーザーライフル『スターダスト・シューター』による援護射撃。

 

二人は、福音が領域からの離脱の阻止及び牽制を行う。

一分一秒でも長く、福音をこの場に縫い付ける。

 

 

避けては避け、隙を狙い、牽制し、縫い付け、隙を狙い、また避ける。

地味とも言えるこの戦法をひたすら繰り返す。

 

しかし、福音に有効打を与えることは未だに叶わない。

 

 

『このままでは埒が明かん……総員、エネルギーの残量は?』

 

『70%といったところですわ。スターダスト・シューターの残弾も、まだまだあります』

 

『半分といったところか……武装のエネルギー残量は怪しいな。無駄使いは出来ない』

 

『40%だ。あと、零落白夜は出来て二回……』

 

『エネルギー残量は70%だ。武装については問題無い』

 

 

ラウラの通信で全員を呼びかけ、改めて今の状態を確認する。

未だに福音は健在だ。

 

 

『決めに掛かる必要があるか。プランBだ!』

 

『了解!!!!』

 

ラウラから号令が飛び、全員がそれに応え、動く。

 

 

「行け、『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』」

 

俺は陽炎のアンロックユニットである『天叢雲剣』を解放する。

背部のスラスターを形成する三対のユニットが分離。

細長く、先端が鋭い形状をしたそれは先端に光の刃を形成し、それぞれが複雑な機動を描きながら福音へ向かって行く。

 

「La……」

 

福音は甲高いマシンボイスと共に一回転し、銀の鐘を展開。

周囲にエネルギーの弾幕を張って抵抗する。

 

「それくらいじゃ墜ちねぇよ」

 

俺の操作する天叢雲剣……叢雲は弾幕の間を器用にくぐり抜けて福音にどんどん接近。

 

『素晴らしい操作技術ですわ』

 

セシリアの賞賛にサムズアップで応えながら、銀の鐘を狙って六つの叢雲を操作する。

 

一撃目。右翼を狙った攻撃は旋回することでかわされる。

二撃目。スラスター展開による急加速で掠る程度に終わる。

三撃目。四撃目。五撃目。六撃目。腕や脚に当たるが致命傷まではいかず。

 

叢雲は六つとも大した打撃を与えられなかった。が、それでいい。

俺の役目は叢雲で福音を縫い付け、誘導すること。

 

 

本命はーーーー

 

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

福音が叢雲の六撃目を受けた瞬間を見逃さず、箒が福音に突っ込む。

 

回避運動中の福音は、無理やり銀の鐘を展開し、弾幕を張る。

しかし狙いも位置も高度も甘い弾幕は箒が持つ二振りの刀《雨月》と《空裂》から繰り出されるエネルギー刃で無理やり相殺。少々の被弾も気にすることなく、箒は福音へ迫る。

 

「La!?」

 

福音はマシンボイスでも分かる焦りの声を上げ、機体各所のスラスターを吹かせ回避しようとするが無理と悟ったのか。

翼を楯のように前面に展開。防御体勢をとった。

 

福音と交差する直前に箒は刀を振る。

雨月と空裂から放たれたエネルギー刃は福音に殺到。爆裂し、煙を上げる。

 

「La…………!」

 

しかし福音は無事だった。

福音は損傷した自らの翼を顧みず、自身を傷付けた紅椿へと狙いを定めーーーー

 

 

「まったく、予想通りに動いてくれるな」

 

煙を突っ切って福音に迫ったラウラが右手を突き出し、そう言った。

彼女の右眼の眼帯は外れ、金色の瞳が露わになっている。

 

 

福音はラウラが発動したAICにより、固定されてしまう。

 

 

 

俺と箒は囮。本命はラウラ。

ラウラのAICで福音を止めるための三段構えの作戦、フォーメーション。

それがプランBだ。

 

福音は見事に引っ掛かった。

 

 

「よし!」

 

「成功だ!」

 

「やりましたわ!」

 

動きの止まった福音を見て俺はガッツポーズを取り、セシリアと一夏は歓喜の声を上げる。

箒は緊張の糸が切れたのか、刀を降ろし「ふぅ」とため息を吐いた。

 

 

『織斑一夏、早くトドメを刺せ!』

 

 

AICの拘束から抜け出そうと、福音が必死に暴れているのだろう。

少し険しい表情となったラウラは一夏にそう呼びかけた。

 

一夏は「分かった」と返事をすると雪片を構え、止まったままの福音に向かって行く。

 

止まった標的を斬る作業だ。

これにて作戦は終了。後は帰るだけ。

 

 

 

この時の俺は、作戦終了の達成感で完全に気が緩んでいた。

 

だからこそーーーー

 

 

『ん?ちょっと待ってくれ、船が入り込んでるぞ!』

 

 

密漁船の存在に気付かなかった。

一夏のこの報告を聞いても、大して気にも留めなかった。

むしろ「今更来たのか」とすら思っていたし、セシリアを向かわせようと呑気に考えていた。

 

 

 

 

AICの操作には、多大な集中力を要する。

常に相手に集中しなければならないので操縦者の集中を乱されるのが弱点ではあるが、一対一の状況下ではまさに最強の力を誇る。

 

 

封鎖された海域に突如現れた密漁船。

ラウラの意識は、一瞬だけそちらに動いた。動いて、しまった。

 

そしてその僅かな隙を、福音は見逃さなかった。

 

 

「しまっーーーーがはっ」

 

 

俺が突如湧き上がる『敵意』に気付いたのと、ラウラの呻き声が上がるのは同時だった。

 

一瞬の隙を突いてAICからの拘束を抜け出した福音はラウラの機体を蹴り飛ばし、自らを傷付けた相手ーーーー箒の紅椿へと迫った。

銀の鐘の砲口が開き、その全てが紅椿へ向けられた。

 

 

「あっ……」

 

意表を突かれ、呆気にとられた表情を浮かべる箒が視界に映る。

今の箒は構えを完全に解いている。迎撃や防御は不可能だ。

 

セシリアは今まさに密漁船の誘導へ向かおうとしていた。狙撃による牽制は間に合わない。

 

俺の天叢雲剣も、間に合わない。

 

 

この絶体絶命の状態で、白式は動いた。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

雄叫びを上げながら一夏は瞬間加速(イグニッション・ブースト)で紅椿と福音の間に割って入り紅椿を庇うように抱きしめた。

 

 

そこに、福音の無慈悲な砲撃が殺到する。

一夏の白式が、何十発ものエネルギー弾を背中に受けていく。

 

 

 

「っ、ざけんなぁ!」

 

俺は不知火を構え、未だ紅椿を狙う福音へ斬りかかる。

福音は紅椿を狙うのを止め、俺の怒りに任せた攻撃をひらりとかわす。

俺はビームの刃を飛ばすことで反撃に移れないよう牽制を続ける。

 

 

「あ……いち、か……」

 

ISが強制解除された一夏を抱えながら

呆然と呟く箒が背後に見える。

 

 

『下がれ!死にたいのか!』

 

『一夏……一夏ぁ……っ!』

 

機体を制御し直して復帰したラウラが箒の元へ向かった。

 

『セシリア!船の誘導を!』

 

『分かりましたわ!』

 

俺はセシリアに密漁船を任せ、福音へ向き合う。

 

『作戦は失敗だ!撤退するぞ、戻れ!』

 

福音とやり合う俺に向けての通信か、ラウラがそう叫ぶ。

 

『セシリアは密漁船(バカ共)を、ラウラは箒と一夏を連れて下がってくれ。皆が撤退するまでの殿は俺がやる』

 

『なっ……!?これは私の失敗だ、殿なら私がーー』

 

『俺の機体なら福音を振り切って旅館に帰れる。適材適所だ。それにアイツを倒す訳じゃない、適当に避けて適当に逃げるさ』

 

『しかし……』

 

作戦の失敗。指揮官としての責任。

尚も食い下がるラウラに向けて、俺はため息と共に答えた。

 

『俺のためを思うんなら、さっさと帰って織斑先生を連れて来てくれよ』

 

そう言ってのけ、俺は回線を無理やり切る。

ラウラは悔しそうな表情を浮かべるが、俺の言葉に従い箒と共に撤退を始めた。

 

それでいい。

 

そして残ったのは福音と俺だけになった。

 

 

「La♪」

 

「お前には少し付き合ってもらう」

 

 

福音の甲高いマシンボイスに対し俺は天叢雲剣を周りに展開し、不知火を福音に向けて突き付けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーーーー鋼夜が殿として残ったため、ラウラ達の撤退はスムーズに済んだ。

 

 

一夏は緊急で医務室に運び込まれ、処置を受けた。

命に別条はないという診断だが火傷を始めとする傷が酷く、意識がまだ戻らない。

 

箒は一夏が傷付いたショックや責任を感じてか、ずっと塞ぎ込んだままになってしまっている。

 

セシリアが誘導した密漁船は既に海上自衛隊に通報してある。

 

 

 

ブリーフィングルームでは、作戦失敗の知らせを受けた織斑千冬が険しい表情を浮かべていた。

 

 

「では、まだ如月が残っているのか?」

 

「はい……」

 

「織斑先生!今すぐ鋼夜さんへ救援を!」

 

 

千冬の前ではラウラとセシリアが作戦の経緯を報告していた。

部屋の中には旅館で待機していた鈴とシャルロットと簪も集まっている。

ラウラとセシリアは殿として残った鋼夜のため、帰還するとすぐさま千冬に教員の救援を頼み込んだ。

 

 

「位置が特定でき次第、すぐに向かわせる」

 

「特定している暇なんてーーーー」

 

「オルコット。いま説明したが先ほどアメリカがやっと捜索部隊を結成したらしい。今、日本政府に領海進入の許可を取っているらしいが、迎撃に出ていた我々に引き下がるよう命令が下った」

 

「そんな勝手な命令に従うのですか!?」

 

「鋼夜を見捨てるつもりですか!?」

 

「あり得ん。生徒の命が掛かった今の状況で、こんな馬鹿げていて勝手な要求を受けるつもりはない。……だが、勝手に動けばアメリカに何と言われるか分からん。だから海域に出ている教員をすぐには動かせない」

 

千冬の説明に納得がいかないのか、全員は不満気な表情を隠そうともしない。

事実、千冬自身も表情から分かる通り非常に怒っている。

 

「はぁ」とため息をついた後、千冬は周辺海域の索敵をする山田先生の方を向いた。

 

「山田先生、如月の機体の反応は?」

 

「いえ……ジャミングが未だ晴れず、陽炎と福音の反応は確認できません。通信も駄目です……」

 

 

ラウラ達が帰還する直前、突如として発生したジャミング電波。

これにより福音は元より鋼夜の陽炎の反応さえも消えてしまった。

ずっとアクセスを続けているが、未だに繋がらない。

 

 

「……くっ」

 

助けを求めている生徒がいるのに何も出来ないでいる無力な自分が恨めしい。

 

「全員、次の命令まで……」

 

「お、織斑先生!織斑先生!」

 

千冬はラウラ達に自室での待機を命じようとした瞬間、山田先生が慌ただしく声を上げた。

 

「ジャミングがやっと晴れました!」

 

山田先生の一言に、織斑先生より早く代表候補生達が反応した。

 

 

「何処ですか、教えてください。鋼夜くんは無事ですか」

 

「あっ、ちょっと、今すぐ調べますから落ち着いてくださーい!」

 

「山田先生から離れんか。そして落ち着け」

 

千冬は山田先生に殺到する生徒を引き剥がすと、鋼夜の捜索をお願いする。

 

山田先生は機器を操る。

ブリーフィングルームの中央のディスプレイに海上のマップが表示され、サーチされる。

 

「嘘……」

 

機器を操っていた山田先生の手が止まり、彼女から小さな呟きが漏れた。

 

「範囲内に福音の反応、及び陽炎の反応無し。陽炎、ロストしました……」

 

 

そして彼女の口から、聞きたくなかった残酷な真実が放たれた。

 

 




原作は何回見ても意味が分からなかったのでこの作品ではこんな形になりました
誰も悪くないですね、強いて言えば密漁船が悪いですね

後半が意味不明ですが、次回の鋼夜視点で明らかになります
なんかそろそろ簪が漆黒の殺意に目覚めそう


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