「……おはよう、鋼夜くん」
「おはよう、簪さん」
月曜日の朝のIS学園。
日課のトレーニングを済ませてシャワーを浴びた後に制服に着替えた俺はのほほんさんを起こし、朝食を摂るため食堂に向かった。
そこで簪さんと出会った訳である。
「かんちゃん、おはよー」
「おはよう、本音」
前は簪さんがのほほんさんを避けていたが、いつの間にかそれも解消されたようで今では普通に会話する仲になっている。
簪さんを交えた三人で朝食を摂ることになり、それぞれのメニューが届くとテーブル席へ向かう。
簪さんが先に座ったので反対側に座ったらのほほんさんが隣に座った。
いや、この流れだと君は簪さんの隣に座るべきだと思うのだが。
「そういえば今日はタッグの発表だね~」
頼んだサンドイッチを食べているとのほほんさんがふと口にした。
「こうやんは誰と組んだの?」
「ボーデヴィッヒ」
「ああ……ドイツの人」
別の人と組んだことは教えたが、相手までは言っていなかった。
数時間後には分かることなので俺は正直に答えた。
「む~、てっきりかんちゃんと組むかと思ったのに~」
そう答えればのほほんさんは不満そうな顔で頬を膨らませる。
確かに今までの経緯を見ればそう思えるが、こちらにも事情があるのだ。
「あいつの面倒を見るよう織斑先生に頼まれたんだ」
必殺、責任転嫁。
実際に頼まれたのは本当だし。
「それは知ってるけど……」
「もういいよ本音。……鋼夜くん、私達と当たった時はよろしくね」
引き下がらないのほほんさんを簪さんが止めた。
この口ぶりからすると簪さんとのほほんさんの二人で参加するようだ。
「ああ。やるからには優勝したいからね、お手柔らかに頼むよ」
「うん……」
そしてお互いの健闘を祈る。
……のほほんさんは最後まで不満そうな顔をしていた。
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「よろしく頼む」
「うむ。素直に私に教えを請いに来たのはいい判断だ」
放課後のアリーナにて俺とボーデヴィッヒはISを展開して向かいあっていた。
ペアが発表されたため、こうして堂々と練習が出来る訳である。
だから俺も行動を起こした。
ちなみにペアについてはボーデヴィッヒが問題を起こしていないのと俺の介入で色々変わっていた。
セシリアと鈴が参戦しているのが大きな理由だ。
一夏は原作通りシャルルと。
鈴は同室のハミルトンさんと。
セシリアは意外なことに箒と組んでいた。
そして簪さんとのほほんさんはやっぱりペアだった。
ボーデヴィッヒと組むことは今まで訓練に付き合ってくれた簪さんには申し訳ないが、彼女も「本音と仲直りするいいきっかけ」と納得してくれた。
簪さんには本当に感謝しなければ。
だからこそーー
「よし、では教官直伝のツーマンセルによる特訓を開始する!途中で音を上げることは許さんぞ!」
「了解!」
トーナメントでの騒動を阻止し、優勝して俺を鍛えてくれた皆の恩に報いること。
そのためにもこのトーナメント、本気でいかせてもらうぞ。
「いい闘志だ。まずは小手調べに貴様の実力を図らせてもらう。私と模擬戦だ」
腕を組んでそう宣言すれば彼女のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載されている大型のカノン砲がこちらに照準を合わせる。
「あまり男をなめるなよ?」
それに対し、俺はアンロックユニットの『天岩戸』をいつでも展開出来るように起動する。
ニヤリと笑ったボーデヴィッヒがカノン砲を放ち、俺がそれを『天岩戸』で弾く。
それが開始の合図となった。
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「貴様……中々やるな……」
「それはどうも……」
お互いに肩で息をしながら武器を構えて睨み合う。
すると、ちょうどいいタイミングでアリーナ使用の交代の知らせが流れた。
「さすがに止めにしませんか」
「そうだな……そうしよう」
終了するよう提案すれば彼女は了承した。武装を粒子に戻し、それぞれがピットへ戻る。
『四天』の簡単な整備と補給を済ませて更衣室へ向かい、シャワーを浴びて着替える。
「はぁー」
更衣室内にあるベンチに転がり、ため息をつく。
ボーデヴィッヒとの勝負は意外にも拮抗した。
ボーデヴィッヒはカノン砲が効かないと分かると即座にそれをパージしてブレード付きのワイヤーと手から展開するプラズマブレードで接近戦を仕掛けてきた。
ボーデヴィッヒの機体に積まれているとされる『AIC』の恐ろしい効果を知っている俺は四天の機動力と勘で接近戦を避けて射撃武器で牽制した。
しかし相手もそれは想定しており、通常の火器は『AIC』により止められ例え当たっても分厚い装甲なためダメージは薄い。
『AIC』に有効とされるビーム兵器は装甲に施されたコーティングにより威力は減少される。
ボーデヴィッヒの操作技術も凄まじく、俺自身もワイヤーのコンボで何度もピンチに陥りかけた。
そんないたちごっこをさっきまで続けていた。
「飯、行くか」
反省もそこそこにして俺は更衣室を出た。
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時は流れに流れて学年別トーナメント当日。
ボーデヴィッヒとのドイツ式特訓を乗り越えてついに訪れたのだ。
厄介な一日が。
だだっ広い更衣室で対戦相手の発表を待つ俺と一夏とシャルルの三人が居た。
トーナメントの対戦相手は直前に発表するタイプのようだ。
「見ろよ、凄い人だぜ」
更衣室のモニターから観客席の様子を見ていた一夏がそう言う。
VIP専用の席を映し出した画面には各国政府関係者や研究員や企業の上層部といった見るからに偉そうな人達が一堂に会していた。
普通なら一年の試合なんて見る奴は少ないだろうが、今年は俺と一夏というイレギュラーが居る。
噂の男性操縦者を見たい。
それが大きな理由だろう。
「あ、鋼夜。輝さんが居るぞ」
一夏に言われてモニターを見れば、画面には高そうなスーツに身を包み、ニコニコと笑みを浮かべる輝さんが写っていた。
ボディーガードと思われる黒いスーツ姿の若い男女が後ろ左右に立っている。
あれは……マークの兄貴とエルフリーデさんか。
そして輝さんに近づく人物が一人。
派手な装飾品と格好の金髪のババア。
デュノア夫人である。
「…………」
画面を見つめていたシャルルが微かに震えた。
横から一夏が「大丈夫だ」と言って彼女の手を握る。
シャルルは顔を赤くしながら「ありがとう」と呟いた。
パターン青、フラグでーっす。
いい加減にしろよこの野郎。
怒りを紛らわすためにモニターに集中する。
画面の中ではデュノア夫人が厳しい顔で何やら言っているが輝さんは笑顔で受け流している。
あの様子なら大丈夫そうだな。
「しっかし驚いたぞ。鋼夜があいつと組んでるなんて」
「本当。僕もこの間の発表でびっくりしたよ」
話題を切り替えるためか、一夏がそんな事を言った。
二人が言っていることは俺がボーデヴィッヒと組んだことだろう。
「やるからには優勝したいんでね。強い奴と組ませてもらった」
俺の答えに一応納得したのか、二人は頷いた。
「でもさ、あいつって俺を見るたびに睨んでくるんだよな。初対面の時は引っ叩かれそうになったし」
「心当たりは?」
「まぁ……あるといえばあるな」
どうやら一夏も公にはなっていないドイツの一件が関係していると薄々感じているようだ。
真面目な雰囲気なのを察してか、シャルルは何も言ってこなかった。
「まぁ、なんにせよ、当たっても手加減しないからな!」
「僕も全力で行かせてもらうよ!」
「ああ……俺も本気で、容赦なく、全力で、やらせてもらう」
笑顔で宣言する二人に俺も笑顔でかえす。
一夏は気づかなかったが、俺の滲み出るドス黒い感情に気付いたシャルルは一瞬だけ凍り付いていた。
「……あ、発表されるみたいだよ!」
シャルルの一言で俺も一夏も画面に注目する。
ある意味、このトーナメントの組み合わせで全てが決まると言っていい。
手っ取り早いのは俺達と当たる前に一夏達が負けるのがいい。
ボーデヴィッヒと一夏が戦わなければ彼女が暴走する可能性はほぼ無くなる。
それに、このトーナメントには鈴とセシリアが参加しているというイレギュラーが発生している。
優勝景品によって燃えている彼女達と一夏達がぶつかれば敗北ワンチャンあるかもしれない。
それに彼女達が参加したということは枠が増えた。つまりはズレが生じたということ。
原作のように一回戦第一試合でぶつかるなんて事は無いだろう。
そして表示される文字、トーナメント表。それらを三人で食い入るように見つめる。
「「「ーーえ?」」」
俺、一夏、シャルルの反応がシンクロする。
しかし出した言葉は同じなれど、俺の言葉は二人とは微妙に意味が違う。
この時、俺はフラグめいた事を口走ったことを非常に後悔した。
モニターに出た対戦表。
学年別トーナメント一年
一回戦第一試合
ラウラ・ボーデヴィッヒ
如月鋼夜
VS
織斑一夏
シャルル・デュノア
俺は見事にフラグを立ててしまったようだ。
相性悪いよラウラちゃん
実際、ラウラの機体って一番強いと思うんだ
あとはラウラがゲルマン流忍術を使えるようになれば完璧だな!(錯乱)
さらっとオリキャラ
マークとエルフさんの二人はずっとボディーガードで出したかった
これ以降に出番は無いと思うので忘れていただいて結構です