最近、と言ってもまだ一週間も過ぎていないのだが、デュノアの周りに人が集まりつつある。
それ自体は特に不思議なことではない。体が小さいとはいえ中性的な顔立ちで、非常に整っている。よく日本人が憧れを覚える外国人とはこういう凛々しい顔立ちだろうか。ちょっと違うか。
だが何より愛想がすごくいい。きちんと相手の目を見て話を聞く。来る前に全員の名前を覚えていたようで、会話中に名前を呼びながら話をしている。夜竹さんの名前を間違えて覚えていたことさえあった一夏どころではない。
受け答えがちゃんとしているのも大きな要因だろう。一夏は聞こうとすらせずに流すし、俺は聞いているふりをして流す。だから会話を弾ませてくれるデュノアといれば、男子と楽しく話ができるという身近に男がいなかった女子の願望がかなえられるのだ。
さすがはフランス人、女の望むものを心得ている。
「シャルルってすげえなあ。あんなにペラペラ話してて疲れたりしないんだろうか? 俺も見習った方がいいのかな?」
「そういうのは人それぞれだ。自分の性質に合わないことをしても仕方あるまい」
「そうですわ。一夏さんは一夏さんらしくあればいいのです」
この二人がそういうことを言うのはもちろん一夏に愛想よくされてしまってはライバルが増えるからである。
元パイロット班連中から手痛い反撃を喰らって、さすがに調子に乗っていた二人も目を覚ました。
以前のように元パイロット班連中の輪に戻っていたので、謝罪でもしたのか関係は修復されたのだろう。
今はもう二人とも終始一夏にべったりするようなこともなく、篠ノ之さんは剣道部に行くようになったし、オルコットも四十院さん達とお茶をするようになっていた。
「谷本さん、もうそれくらいで」
「ううう……しっつれいしましたあー!」
「甲斐田君、だからいい加減謝った方がいいですよ。ほら、本音さんは本気で怒ってます」
そして俺の周りにいるのはこれである。
政略結婚狙いに相方募集のための芸披露、あとは余計なお節介。色気の欠片もない。
向こうでは小学生が相変わらず頬を膨らませているし、わざわざ俺のところにまで集まってくる人間など何かしら方向性を間違えたのばかりだ。クロエもこういうのを相手にしろとか無理が過ぎるのではないだろうか。いや、やはり話の種にしているだけであって、本気で言っているわけではないのだろう。
もっとも、弾や数馬ならこういう光景でも血の涙を流して羨ましがるのだろうけれど。
「どうした智希? 珍しく静かだけど?」
「僕普段そんなに騒がしい?」
「そう言われるといつもは周りが騒いでるか泣いてるかって感じだな」
「まさに今の状態ではないか」
「それもそうか。でも智希、もういい加減布仏さんに謝れよ。いつまで意地張ってんだ」
「だからそれは」
「甲斐田さんにしては意外ですわね。口だけで済むのだからとすぐに謝ると思っていましたわ」
ナチュラルに失礼なオルコットだが、俺も痛いところを突かれて思わず顔をしかめてしまう。
その通りだ。口で済むのならなんということはない。勘の鋭い一夏だって騙せるのだから謝罪する空気を出すことなど大した手間でもない。
俺にとっての問題とはそれだけでは済まないことだ。ここまで怒ってみせているということは、布仏さんの狙いは明確だ。だから嫌なのだ。
「みんな待って。そんなに責めたらかえってやりづくなるよ」
「シャルル?」
そんな中横から口を出したのはデュノアである。整備班連中と話をしていたはずなのに、聖徳太子か。
一夏の向こう、整備班女子に囲まれた中から優雅に立ち上がるその姿は貴公子。漫画ならバックに花でも咲き誇っていそうだ。意識してか無意識か、どちらにしても自然でさまになっているのは間違いない。
「きっとどちらにも言い分はあるんだろうけど、このままじゃ何も変わらないよね? まずはお互いに、意地を張ったのを謝ることから始めたらどうかな?」
「おお」
「きゅきゅーん」
またバカな擬音を口に出したのがいる。
だがそんなのはどうでもいい。問題はそういうことではないのだ。
「ダメ? まだ立ち上がれない?」
「ならば立ち上がらせてみせましょう!」
「あ、ちょっと!」
俺の腕を引っ張って強引に立ち上がらせようとするのは谷本さんだ。今しがた泣きながら走り去ったはずなのに、いつの間にか戻ってきている。
しかし残念だったな。女子一人の力では俺を持ち上げるには足りないのだ。
「何……!? 動かない!?」
「だって相棒がいないじゃない」
こういう時いつも谷本さんに反応して助けていたのは布仏さんである。だが今は向こうで膨れている。
「くっ……!」
「そ、それなら私が……」
と思ったらここで四十院さんが出てきた。相変わらずのおっかなびっくりへっぴり腰だ。
照れてないでもっとがんばれ四十院神楽。
「はいはい分かりました」
だがさすがにみっともない姿なので諦めて立ち上がった。顔を上げると視線の先には、布仏さんがそっぽを向きながら俺を待っている。
そしてデュノアが笑った。
「大丈夫。そういうのってきちんと話をしたら全然大したことなかったりするんだ。すごく不安だろうけど杞憂だよ」
確かに、デュノアのことも杞憂であってくれるとすごく嬉しかった。
調べたが、はっきり言ってこのIS学園に転入制度などない。
これまでIS学園にいる外国籍の生徒は全て入試を突破した人間だった。
今年合格した一年生は五人。一組にイギリスのセシリア・オルコット、スペインのマリア・リアーデ。二組に中国の鳳鈴音とカナダのティナ・ハミルトン。そして三組にイタリアのアニータ・ベッティである。四組五組にはいない。
彼女達は一般の生徒とは別枠で、だがある意味一般の生徒以上の倍率の中で勝ち上がってきている。
まず受験資格からしてその国の中で一人。つまり最初に国家の推薦を受けなければならない。日本は元々IS先進国として有名で、世界最初のIS教育機関であるIS学園の人気は高かった。その上一昨年からあの織斑千冬が教壇に立つということになり、激戦度はこれまでの比ではなく高まっている。
だからオルコットも鈴も、母国の選抜試験を勝ち抜いて来ている。嘘か本当か知らないが、鈴はライバル達を全員なぎ倒したと言っていた。
もうこの時点でおそらく一般の生徒よりも上である。だが彼女達が合格するにはもう一段階、今度は別の国のライバル達を上回らなければならない。そして応募国は五十以上。実に倍率十倍である。
今年はこれまでよりも定員が増やされたことにより、留学生の枠も増えると言われていたのだが、蓋を開けてみれば例年通りの五人だけだった。これはIS学園が建前はともかく事実上日本のための教育機関であり、国策上外国籍の人間を受け入れることに消極的なのだろう、とテレビでは言っていた。
ただ批判が相当に大きかったそうなので、来年どうなるかは分からない。
ともかく、そんな状況なのだからぽっと出の人間が転入生として簡単に入ってくるなのど普通はありえない。それなら入試は何だったのかという話になってしまう。
しかし、ここに来て例外が二例も生まれてきていた。
一人はシャルル・デュノア。だがこれは誰もが納得できる。世界に四人しかいない男性IS操縦者の一人で、しかも残りのうち二人がIS学園にいる。安全上の問題など特別許可を出す理由はいくらでもあっただろう。ちなみに俺と一夏は形式上だけではあっても入学試験を受けており、制度的な問題はない。
だがラウラ・ボーデヴィッヒ。この例外は意味不明である。
たとえ専用機を持っていようと女だ。入試をすっ飛ばして転入しましたなど落ちた人間からすればとても許されることではないだろう。
一瞬本当は男である可能性を考えたがすぐ打ち消された。男ならそもそも隠す必要がない。それに男に偽装するのは調べればすぐ分かる話だし、IS学園のような軍隊並みの組織がまず見逃すはずがない。織斑先生に話のついでに聞くとボーデヴィッヒは女だと失笑された。やはりボーデヴィッヒは女生徒として入学してきている。
結局詳細までは教えてくれなかったものの、織斑先生は言外にボーデヴィッヒが特別であることを認めた。つまりボーデヴィッヒの入学には前例のない例外が認められるほどの理由がある。
もちろん、VTシステムだろう。そして主導したのは織斑千冬に違いない。少なくとも、ボーデヴィッヒを指名したのは織斑先生だ。
そしてどうしてこのタイミングでなのか。
「智希ー、シャンプーとか貸してくれ」
ノックもせずに一夏が入ってきた。思考が中断される。
鍵をかけていても合鍵を持っているので好き勝手出入りしてくる。
「まだ買ってないの? 毎日毎日借りに来るのはおかしいと思わない?」
「いや、だから隣に来ればあるしわざわざ買うのもどうかなと思って」
「あのさ、隣でももう別の部屋なんだから、いい加減自分の分くらい自分で用意しようよ。まさかシャルルも持ってないとは言わないよね?」
「シャルルは自分のを持ってるな」
「じゃあシャルルに借りればいいじゃない」
「それが貸してくれないんだよ。これは自分のだからって」
「まあ普通はそうか」
寮のような共同生活をしている人間は、次第に自分の物という感覚が薄れてくる。
共用で使った方が楽だし便利なので、使えるものはみんなで使おうになるのだ。これがエスカレートすると服などにまで至ったりする。
「でもシャルルはちょっと潔癖なところがあるかもしれない。何かと自分のものは自分のものだって感じで」
「欧米人は個人主義だ的な話じゃない? それに風呂にしてもあっちはシャワーだけで浴槽とかあんまりないんでしょ?」
「そうそう! 湯船に浸かったりしないんだってな。ここの大浴場の話をしたらびっくりしてたぞ」
「それなら今度みんなで入ろうか。僕も結局まだ一回しか入れてないし」
「俺もそう言ったんだけどシャルルはあんまり乗り気じゃないんだよ。やっぱあの素晴らしさを知らないからなんだろうな」
「体験してみないと分からないことってあるよね。そういうのは連れて行かないと」
「そうだな。まあ一回入れば病みつきになるだろ。よっと」
結論は出たはずなのに、なぜか一夏は俺のベッドに寝転がった。
シャンプー一式を借りに来ただけではなかったのか。
「まだ話でもあるの?」
「別に」
「じゃあなんで寝転がってるわけ?」
「なんかさあ、シャルルがやたら気を遣うんだよ」
「何を?」
「智希のところに行った方がいいんじゃないかって」
「それ監視的な意味?」
「違う違う。自分が割り込んだのが申し訳ないとかなんとか」
「それはまた気にし過ぎだなあ」
と言うものの、今の俺ではデュノアが自由に行動したいためではないかと思ってしまう。
よし、今後は基本一夏を張り付けておくか。一夏は目立ち過ぎるし、側にいると怪しい行動もできないだろう。
「つーわけでしばらく時間潰させてくれ」
「駄目駄目。それならなおのことさっさと戻る」
「はあ? なんでだよ?」
「だって言う通りにしてたらシャルルの余計な気遣いが正しいってことになっちゃうじゃない。それじゃますます気を遣わせちゃうよ」
「それは……そうかもな」
「ほらすぐシャンプーとか持って戻る」
「いや、だからってそんな急ぐことないだろ。シャルルは今風呂に入ってるんだからさ」
「どうせシャワーなんだからすぐ終わるよ。今戻れば入れ替わりでちょうどいいんじゃない?」
「あいつ結構長いぞ。それにまだ入ってたのかと思ったらいつの間にか出てるし、なんかタイミングを読みづらいんだよ」
「それならなおのことシャルルが出た時に一夏が部屋にいないとね。はいさっさと行く」
「へいへい」
「あ、自分の部屋の鍵はちゃんと閉める」
「はいはい分かりました。シャルルも鍵かけろってうるさいんだよなあ……」
ブツブツ言いながら一夏はシャンプー一式の入ったたらいを持って出て行った。
「甲斐田、今度は何があったのだ?」
「また僕?」
「そ、そう言われましても、甲斐田さんなら事情を知っているのではと……」
この二人は何かあるとすぐ俺のところにやって来る。一夏については。
「僕が一夏に何かを吹き込んだって言いたいわけ?」
「そ、そういうことではない。だが一夏の様子がおかしいのは事実であって……」
「別に甲斐田さんが悪いということではないのです。急に一夏さんに余所余所しくされてはむしろわたくし達が何かをしてしまったのではないかと……」
普段であれば俺のせいだと決めつけて怒鳴り込んで来るところだろうが、ここのところ弱気になっているのかいつもの勢いがない。
この前まで調子に乗っていた反動でもあるのだろう。
「と言われてもさ、僕も篠ノ之さん達と同じ立場なんだけど」
「だ、だから、何かを知っているのではないかと……」
「理由もなく登校をご一緒させてもらうことを拒否されるだなんて初めてですので、重大な事件が起こってるのでは……」
「数分の距離を先に行っててくれって言われたのがそんなにショックなわけ? そんなの今までもあったことじゃない」
もちろん二人の言いたいことは分かっているが、あえてこう言って問題を矮小化させる。
というか勝手に火花を大きくされる方が面倒臭い。
「違う! い、いや、確かに事象としてはそうだ。だがな、あの一夏の態度はやはり普通ではないと思うのだ。何か問題を抱えているような、そして私達を巻き込ないようにしているような、そんな印象を受けてしまうのだ」
「わたくしはそこまでは申しませんが、わたくし達が一夏さんにご迷惑をおかけしているのであれば、一刻も早く謝罪をしまして原因を取り除かなければならないと……」
「二人ともちょっと深刻に捉え過ぎてない? 一夏の一挙一動にあたふたしてたらきりないし身が持たないよ?」
俺は何でもないことであるかのように、呆れた口調で言う。
二人の疑念を和らげることもそうだが、周囲に大したことではないと思わせるためだ。
そうしておけば多少一夏の態度がぎこちなくても、騒ぎにまではならないからだ。
「それはそうかもしれないが……」
「甲斐田さんがそうおっしゃるのでしたら……」
結局この二人はまだ一夏のことを信じきれていない。自分の感覚にすら不安を覚えている。
そしてこうやってすぐ俺に頼ってしまうがゆえに、自分で考えることを放棄してしまっているのだ。
水は低きに流れるではないが、二人揃って安直な道を求め過ぎだ。
鈴がいるときは全部鈴任せにしてあぐらをかくし、四月の頃の努力する姿勢はどこへ行ってしまったのか。
そういえばこれは前にも思った気がする。その時は篠ノ之さんに対してだったが、ということはあれから一ヶ月経っても何も変わっていないということだ。
リーグマッチで俺が出張りすぎたせいだろうか。
「うーす」
「みんなおはよう。今日は雨だねー」
一夏とデュノアが教室に入ってきた。
一夏はさっきよりはマシか。デュノアが笑顔で平然としているのは当然として。
「みんなさっきは悪かったな」
「戸締まりを意識するようになったのはいいことだと思うよ」
「ま、まあ智希にもシャルルにもあんだけ言われたらさー」
がんばれ一夏、もう少しだ。
なんとも言えない表情で見ている篠ノ之オルコットなど気にするな。
「デュノアくんおはよう!」
「やあ鏡さんおはよう。あれ、今日は髪がしっとり目なのは雨のせい?」
「あ、気づいてくれた!? 実は昨日言ってくれた通りシャンプーを変えてみて……」
横では実に面倒そうな会話が繰り広げられていた。
一生懸命な鏡さんの姿を見ているといつものお返しに鼻で笑ってやりたくなってしまう。
だが今は一夏のフォローが先決だ。
何しろ早くも一夏はデュノアから、何事かの秘密を打ち明けられたようなのだから。
「ほんとだ。一夏がちゃんと宿題してる」
「俺だってやるときはやるのさ」
「ほんとシャルルさまさまだなあ。僕の時はすぐ投げてたのに」
「だってお前は教えてくれないし」
「分かるものは教えてたつもりだけど? それに僕だって自分の分があるし、一夏に付きっきりってわけにはいかないよ」
「それはそうだけどさあ」
俺と一夏が会話し始めると、篠ノ之さんとオルコットは諦めたようで自分の席へ戻って行った。
俺を間に挟まないと成立しない関係など健全ではない。どうしたらいいかは自分で考えろ。
一夏とくだらない話をしているうちに、織斑先生達が教室に入ってきた。
全員すぐさま会話を止めて席につく。
織斑先生が教壇に立ち、一瞥して欠席者がいないのを確認する。この人は出席簿を持ち歩いている割に口に出して出席を取ろうとしない。出席簿は魔剣としてしか意味を為していないのではないかと最近思うようになってきた。
「では今月末に行われるタッグマッチの詳細を配る」
「タッグマッチ?」
織斑先生は何も答えず無言で紙を配っていく。
手にした紙を見ると一年生は二対二のトーナメント戦だと書いてある。二対二だと。
「先生!」
「どうした鷹月?」
「タッグマッチって二学期の行事じゃなかったんですか!?」
こういう時反応の速い鷹月さんが手を上げて立ち上がる。
そうだ、去年の年間行事を調べた時はそうだった。六月は一対一であって、二対二になるのは二学期のはずだった。
「昨年まではな。今年から変更になった」
「変更にって……クラス代表の人達と違って私達はいきなり二対二なんですか? どうしてそんな変更を」
「元々決まっていた話だ。入学人数が大幅に増えたことにより一対一の個人戦では一週間で終わらせることが厳しくなってしまった。運営の問題ではない。生徒達の体力上の問題だ」
「それなら日程を伸ばせば……」
「カリキュラム上不可能だ。長期休みを潰す検討もしたが今年は特殊事情もあってそれができない」
織斑先生はちらりと俺と一夏に視線をやる。
確かに夏休みはカナダ訪問があるし、おそらくそれだけでは済まないのだろう。別に俺達を不参加にすれば済む話ではない。例えば俺達の警備だなんだでIS学園の人員を取られてしまうというような問題もある。
この前の外出の準備を見ていて、たったあれだけのイベントに数多くの人間が関わっていることを知った。
「とはいえお前達にとってそれは不利なことではない。むしろ大いに有利に働くだろう」
「どういう意味ですか?」
「二人になればできることが大幅に増えるという話だ」
「ああ。一足す一が三になるって言う……」
「昨年までは見るに耐えず益も少ない行事だった。学園側としても改善という意識で変更を決定している。お前達は余計なことを考えずただ目の前に全力を尽くせばいい」
何を無茶な、と一瞬思ったが、よく考えればこれは一夏にとってこの上なくありがたい変更だ。
特に一夏のような特化型は一人ではできることが少ない。レベルが低い状態で縛りプレイをしているようなものなので、工夫を凝らそうにもそもそも選択肢がないのだ。それはリーグマッチで散々思い悩んだので実感として痛いほどよく分かる。
だが相方がいれば、一夏のその攻撃性能は飛躍的にその存在感を増す。例えば相方が防御・サポートを担当すれば一夏は攻撃だけに専念できるかもしれない。それは対戦相手にとって手のつけられない程の脅威だ。
「対戦の組み合わせは一週間前に発表する。であるから来週の金曜までに自分のパートナーを決めて申請しろ」
「えっ?」
俺はその事実に思い当たり、思わず声が出る。
織斑先生も分かったようで、笑って俺を見下ろした。
「どうした甲斐田?」
「うちのクラス、奇数ですよ?」
「全体では偶数であるから問題ない。期日までにパートナーを決められない人間はこちらで勝手に決めるので心配するな」
「シード権は?」
「そのあたりは全部書いてあるから読め。一組の生徒は規定通り全員がシード権を持つ。それは他クラスの生徒が一組の生徒と組んだ場合にも適用される。もちろん、シード権を持つ生徒が増えるほどシードの価値は下がるがな」
ようやく俺の頭を働かせる時が来た。
まずは奇数となってしまっている一組をどうするか、そして一夏のパートナーを誰にするのかだ。
「ちょっとみんな聞いて!」
授業が終わり織斑先生が出て行くやいなや、鷹月さんが教壇に立って両手を付き、教室中に声を広げる。
よし、予想通りだ。もっとも出て行かないようなら焚き付けるつもりだったが。
「タッグマッチの件でみんなに話、いやお願いがあるの。強制するようなことではないんだけど、話くらいは聞いてもらえないかしら」
「どうぞー」
相川さんが即座に反応する。と言っても聞きたくない人などいないだろうけれど。
「ありがとう。タッグマッチのパートナーなんだけど、できれば余ってしまう一人を除いて全員がこのクラスで組んでもらえないかってことなのよ。理由はもちろんあるわ。それがシード権を一番有効活用できるから」
「具体的にはですね」
と四十院さんが立ち上がって前へと出て行く。このへんの呼吸は一ヶ月一緒にいただけあってぴったりだ。まさか織斑先生の授業中にこっそり打ち合わせをしていたわけではないだろうが、組み合わせのことを考えれば同じ結論に到達するのはごく自然な話である。
「私達がクラス内のみで組むことによって、全員が二回戦まで免除になります。日程的にはおそらく月火水の三日間を観戦と準備に費やすことができるでしょう。組み合わせは事前に分かっていますし、対戦相手の試合を二回も見ることができます。これは圧倒的なアドバンテージです」
「優勝まで五回、他のクラスは七回。連日試合を続けることになるし、疲労度を考えると相当に有利よ。優勝はともかく上を目指すことを考えると、乗らない理由はないんじゃないかしら」
「組み合わせ数の都合上初戦で一組同士の対戦が一つ出てきてしまうのですが、そこはどうしようもありません。と言っても他クラスの代表に当たる場合もありますし、このあたりはもうくじ運だと思います」
メリットのみを示さないあたりは良心の現れだろうか。俺ならこのあたりは決まってから言うし聞かれない限り自分から口にするつもりもない。
まあどの道逃げられない部分がある。さてこの二人はどうするつもりか。
「でもさあ、一番大事なことがあるよね?」
「もちろんよ。曖昧になんてしないわ」
踏み込んだのは相川さんだった。この人は今やクラスで完全に中立の立ち位置にいるので、自由に発言ができる。度胸もあるし頭の回転も早いし本当に惜しい。何かの拍子に気が変わって一夏の愛人になりたいとか言ってくれたりしないものか。
「余ってしまう一人は誰なのかという話ですね?」
「そうそう。その人だけは他のクラスの人と組まないといけないわけじゃない。奇数なのは三組だから三組の人になるの?」
「いいえ、どのクラスの誰でも構いません。織斑先生が言っていました。パートナーが決まらなかった生徒はこちらで勝手に決めると。別にわざわざ私達が配慮をする必要もないのです」
「それでいいんだ」
相川さんは一瞬俺を見ていた。
そう、鷹月さん達の意見を素直に解釈すると、余りの人間は俺一択になる。なぜなら俺は戦力として全く当てにならず、そもそも組む相手として不適当だからだ。そういうババは外に押し付けるに限る。
だがこの二人は俺の存在を意識しあえて配慮を見せている。余る人間の立場を外の人間を連れてくる権利を持つと置き換えたのだ。
俺ならそんな七面倒なことはせずババのままで通す。鷹月さんの立場なら全く別なところに対価を用意した上で説得するだろうか。
「はい。ですから例えば説得できるのであれば二組の凰さんを連れて来てもいいわけです」
「うわ、それは魅力的だ。まあさすがに説得は無理だろうけど」
「そうでしょうか? シード権というメリットもありますし、無下にはされないかもしれませんよ?」
なるほど確かにそれはメリットだ。優勝を目指す代表クラスにとっては。
いや、これは使いようによってはどうとでもなるか。
鷹月さん達でさえそれをメリットと捉えているのだから、言わんや他クラスをや。それなりに魅力的な取引材料として映るかもしれない。
本質を考えると、シード権をメリットと呼べるかどうかはかなり怪しいのだけれど。
「そういうわけだから、他クラスの人と組みたい人がいたらその人に声をかける前にこちらに教えてもらえないかしら? 別に先着一人だけなんて言わないわ。せめて奇数にしておきたいのよ。そうすればシード権の流出を最低限に抑えられるから」
「声をかけられちゃった場合はどうするの?」
「その時はできれば即答しないで欲しいけど……無理なら事後で構わないわ。トーナメントの山にいびつな部分が出てくると思うけど、そこはもう運ね」
鷹月さんはあっさり譲歩してしまった。これは甘過ぎではないだろうか。
俺からしたら運で片付けてしまうような問題ではない気がする。
自分の力でどうとでもなるのであれば、自分でどうにかすればいい。自分の手の及ばない事柄に対して運という単語を使うべきではないか。
この場合の運とは、おそらく織斑先生達が恣意的に決めるであろうトーナメントの組み合わせである。
「実際誰と組むかは今すぐ決められるようなものでもないし、少し時間をかけましょうか。来週の金曜までまるまる二週間あるわけだし、クラスの中で調整していけばいいと思うのよ」
「相性や自分のスタイルがあると思います。誰と組めば一番効果的かをこれから考えて行きましょう」
二人は一夏とデュノアを見ながら言った。この後すぐに始まる一夏デュノア争奪戦を見据えての話なのだろう。
だが俺にはそんな悠長なという感想しか出てこない。
そんなものは今日中に決めてしまうべきだ。別に本決まりでなくて仮でいい。申請を止めておけばよくてあくまで対外的な話だ。最低でも枠組みを作って、クラス全員を囲い込んで外から余計なちょっかいを受けないようにしておかなければならない。それにそうしておけばクラスの連中も外を見なくなる。奇数とかそういう問題ではない。
今すぐやるべきなのは余りの一人を確定させることで、そのためにまず俺の説得を始めるべきなのだ。俺がごねてこれは無理だとなった段階で次の可能性を考えればいい。
はっきり言って俺は条件をつけて受けるつもりだった。俺がISに興味を持っていないことはみんな知っているのだから、変に気を遣う必要など全くない。
説得を受ける立場なのだからと前に出るのを自重したのは失敗だったか。
いや、それとも単に俺が焦っているだけで、深刻に捉え過ぎなのだろうか。
鷹月さんと四十院さんの意図は分かる。
彼女達はクラス全方位に配慮をした。
別にそれ自体が間違っているわけではない。今回は全員が当事者であり、一夏のためというリーグマッチでフル活用されたこの大義名分を使えない。悪いけど今回はババ引いて、など絶対に通らない。無理を言うからには最低でも相応の対価を必要とする。
配慮自体は必要なのだ。各自の要望を聞いた上で、調整しなければならない。
そのことは俺だって考えていた。
問題は、指揮班の立ち位置をどこに置くかだ。
俺がさっきの授業中に考えていたのは、指揮班が全てを統括する形だ。
要望は聞く。仲の良い者同士で組みたいのであればそうすればいい。それ以外はそれぞれに自分がやりたいISでの戦闘スタイルを聞いて、それらをマッチングさせる。
あくまで誰と誰が組むかを考えるのはこちらである。言われた方が納得できるのであればそれで決め、できないのであれば理由を聞いて再度考える。複数候補を出して本人同士で直接話し合って決めてもいい。
俺から見れば代表クラスが抜けているだけで、他はそこまで差もない。だから先に形を決めてそれに沿ってやらせればいい、と考えていた。
もちろんそうするのは一夏のパートナーを俺の好きなようにできるという利点があるからこそである。一夏は俺が説得するので問題ない。
一方で鷹月さん達が言ったのは、基本的に本人に全てをやらせる形だ。
自分がどうしたいかは自分で考える。組みたい相手との交渉も自分でやる。決まった後二人でどうやって行くかは二人で考えよう。そういう形だ。
だからこの場合指揮班は全体の状況を把握している程度で、特に何かをするわけではない。あくまでシード権の保持だけを目的としている緩い枠である。
しかしそれはある意味仕方のない部分もある。何しろ鷹月さんと四十院さんも当事者、自分のことも考えなければならないのだ。
問題があれば間に入るし、困っている時は相談に乗る。だがわざわざこちらから乗り込んでいくことまではしない。極論を言えばそうなる。
まあそんなにうまくいくはずは絶対にない。一夏やデュノアの争奪戦が当事者間で解決できるわけがない。仲の良い者同士で組んだとして、戦闘スタイルやバランスをどうするか二人で突き詰められるのか。間違いなく不安になって相談しに来るに決まっている。
その方面に詳しく手慣れている、と目されている指揮班に面倒ごとが集まってくるのは火を見るよりも明らかだろう。
あるべき論でいけば鷹月さんたちが正しい。
自分のことなのだから自分でやれだ。
だがベストを尽くそうと思ったら人に聞くのも一つの手段だ。そんなの知るかと突っぱねてもいいが、組む相手についてお願いをしてしまった以上できることなら邪険にはしたくないだろう。今後のこともある。
だから俺の場合はどうせ来るのなら最初から管理してやる。だ。
俺自身はタッグマッチにやる気もないのでちょうどいい。さすがに鷹月さんたちは俺にやれとは言えないが、俺が自分からやると言えば乗る奴は乗るだろう、と思っていた。
結局鷹月さんと四十院さんは俺に対してまで配慮を見せた。これはその結果だ。
「なーんかみんな大変そうだな。ま、俺達には関係ない話だけどさ」
「どうして関係ないわけ?」
「俺と智希は別に関係ないだろ。同じクラスでいいなら二人で組む分には何も問題ないわけだし」
「は? 僕と一夏が組むとかまだ何も決まってないんだけど」
「え、なんでだよ? 俺じゃ嫌なのか?」
「僕と一夏が組んだ場合、シャルルはどうなるの?」
「それは……あ」
一夏が慌てて振り返る。デュノアは何ともないという顔で笑っていた。
「そんなの気にしなくて全然大丈夫だよ、一夏」
「いや、でもだな……」
「か、甲斐田の言う通りだぞ!」
さあ始まった。
篠ノ之さんが逃すものかと立ち上がる。
「デュノアは転入したてなのだからな。いろいろと不安もあるだろう。ここは学園内の事情に詳しい甲斐田がデュノアの側に付いておくのが一番だ」
「俺じゃダメなのかよ?」
「い、一夏では少々不安が残るだろうし、そのな」
「なんだよそれ。じゃあ俺はどうなるんだ?」
「それは心配するな。私が面倒を見てやろう。だから何も問題は」
「おおありですわ!」
オルコット参戦。
篠ノ之さんの言葉を遮ってそのまま繋ぐあたり息もぴったりだ。一夏の優勝のためにもできれば二人は組まないで欲しい。
「セシリア……!」
「危ないところでした。一夏さん、騙されてはいけませんわ。ですが大丈夫です。万事、このセシリア・オルコットにお任せくださいませ」
「そ、そうなのか。じゃあ俺はどうすれば……」
「それはもちろん、このわたくしとペアになればいいのです! そうすればわたくしが全てを解決してみせますわ!」
「一夏を殺しかけたくせに何言ってんのよ!」
「あ、あなたは……!」
扉が開いて颯爽と鈴登場。
きっとタイミングを見計らっていたのだろう。
あ、鈴の後ろにハミルトンまでいる。これは俺にとってよろしくない。
「ほんっとうに油断も隙もあったもんじゃないわね。でも全部聞かせてもらったわ。あたしがいい解決方法を教えてあげようじゃない。奇数で余るのならそれを一夏にすればいいのよ。一夏はあたしが引き取ってあげるから。よかったわね一夏」
「あれ、それ俺は喜ぶとこなの?」
「り、鈴。それじゃあたしは……」
話を聞いていた割にはこちらも力技だ。それではハミルトンがこの場にいる意味がなくなってしまうのだがそれでいいのか。俺はいいが。
「ちょーっと待った! さっきからデュノアくんと甲斐田くんが組む前提になってるけど、それは違うでしょ! 親友なんだから普通に織斑くんと甲斐田くんが組めばいいじゃない!」
「そうだそうだ!」
「鏡さん……! 親友なんだから普通はそうだよな!」
ここで伏兵鏡さん率いる整備班の突撃。
後方支援があるあたり組織化までされている。
一夏が親友とかいう単語に感動しているのは別にどうでもいい。
「だいたい甲斐田くんみたいな人間と組もうって人は織斑くん以外いないんだから、素直にそうしとけばいいのよ」
「そうだそうだ!」
「いや、それはいくらなんでも智希に対してひどいんじゃないかと……」
「織斑君の言う通りです。少なくとも私は……」
「あっ……」
「ニヤニヤ」
俺をディスるのに余念がない鏡さんはもういいとして、相川さんがよろしくない。
わざわざ口にまで出して、四十院さんとハミルトンについて完全に勘づいている。自由人とはすなわち傍観者。視界が広ければ見えるものは見えるだろう。
「でもそうなったらシャルルは」
「それは問題ない。デュノアくんは私が面倒見るから平気平気」
「そうだそう……ナギそれは普通におかしくない?」
「いきなり素に戻るな田嶋!」
「つまり男子は全員バラければいいという話ですねー! それはそうとして織斑君はそろそろ私と組むべきですよー!」
「リアーデさんは急に大声出さないで!」
場は順調に混沌へと突き進んでいる。
鷹月さんはいったいどうやってこの場を収めるつもりなのだろうか。
「デュノア君、いつもこんな感じではあるんだけど、ここはデュノア君がはっきり言わないと収まらないと思うのよ」
「鷹月さん? そうなのかな……?」
「ええ、間違いないわ。逆に言えばデュノア君が口にすればいいだけの話。だからビシっと言ってあげて」
「分かった。それで何て言えばいいの?」
「そんなの決まってるわ。僕のパートナーはもう決まってるって言えばいいのよ」
「決まってるの!? そ、それはいったい……?」
「とりあえず私って言っておけば問題ないから。後は私が何とかする」
「なるほど……あれ?」
駄目だ。
まったく役に立ちそうもない。
どいつもこいつも自分のことしか考えていない。
「かいだー、これどうするの?」
「これはもうどうしようもないと思います」
「命じてくれればなんでもやりますよー!」
「谷本さん、なんでもとか言っちゃ絶対に駄目だ。そういうのはひどい目に遭うって相場が決まっているんだから」
「おお甲斐田君が私に構ってくれた……!」
「喜ぶところはそこじゃないなあ」
「かいだー」
布仏さんがまた俺の袖を引っ張る。
昨日ようやく機嫌が直ったのはいいが、その対価をこの後昼に支払わなければならないのは気が重い。
「確かにこのままだと織斑先生が戻ってきて大変なことになる」
「それは! ……別にいいのではないでしょうか? むしろそれで全てが収まるのでは?」
「何言ってるんだ。それじゃ僕達まで巻き込まれちゃうんだよ? 連帯責任という名の下に、あの出席簿が僕達の頭の上に振ってくるんだ」
「そんな! 私は何もしてないですよ!」
「そんな理屈が通じる人じゃない。事実僕は無実なのに何度もとばっちりを受けているんだ。ちゃんと離れたところにいたのに」
あの屈辱の日々は決して忘れるものか。
場の中心にいたのならともかく、しっかり安全地帯まで退避していたのにあの悪魔はわざわざ俺のところにまでやってきて魔剣を振り下ろした。
どう考えても理不尽である。つまり戦闘が始まってしまってはもはや言葉は何の役にも立たないのだ。
「それは逃げたところで罪はなくならないと言うことなのでは……」
「とにかく、このままにしておけないのは確かだ」
「どうするの~?」
「やってみる」
俺は机の中からノートを取り出し、壇上に立つ。
そしてノートを思いきり教壇に叩きつけた。
「ひえっ!」
「甲斐田君!?」
場が一瞬で静まり、一斉に視線がこちらへと向く。
俺は無言で右手のノートを顔の高さにまで上げ、それからノートを横から縦へと手首を返した。
一方で左手はまっすぐに横、すなわち教室の入り口を指し示す。
もうすぐ織斑先生がやってくるぞ、そして魔剣が振り下ろされるぞという警告である。
あえて言葉にしないのはその光景を想像させるためだ。もはや俺達のDNAにまで刻み込まれたその恐怖、分からない人間などここにはいない。
「……!」
効果はてきめんだった。
俺の姿を見たクラスメイト達は脱兎のごとく、蜘蛛の子を散らすように自分の席へと戻って行く。鈴とハミルトンは後ろの扉から脱出していった。
ここまで効果絶大だとは、これなら今後も混乱を収める手段として十分に使えるかもしれない。
「虎の威を借りる解決手段はあまり感心しないな」
心臓が止まった。ここ最近止まり過ぎである。
見たくもないが意志の力で首を左に向けると、目に映るのは腕を組んで扉に寄りかかった織斑先生の姿だ。
なんということか。クラスメイト連中は俺の意図を理解して反応したのではなく、俺の左手の先にある存在に脊髄反射しただけだったのだ。
だがここから俺はどうすればいい。二の句が出てこない。
「とはいえ一発で収めたことは評価しよう。今回に限り見逃してやるからさっさと席につけ。授業を始める」
「は、はい……」
九死に一生を得た俺は我ながら流れるような動きで自分の席へと戻る。あちらこちらから安堵のため息が漏れた。俺の無事にほっとしたからではない。おまけで纏めて自分達も見逃してもらえたからである。
しかし本当に危ないところだった。止めに入ったはずなのに全ての罪を引き受けてしまうところだった。
収めたという言い方からして、織斑先生は一瞬で状況を判断したということになる。さすがは織斑千冬というところか。やはり英雄は英雄……いや待て……違う、これは罠だ。
よく考えればこれはDVの構造と全く同じだ。普段は恐怖で支配し、時折優しい顔を見せてそのギャップで相手を依存させていく。まさに今俺がやられたことではないか。
なんという悪魔的な女だ。俺がどうしても言うことを聞かないから精神面で揺さぶりをかけてきたのだろう。危うく感謝してしまうところだった。
そのまま授業が始まり、俺は織斑千冬に対する警戒の意識を新たにする。
それはまだ先かもしれないが、いつの日か織斑千冬の鼻をあかしてやるのだ。
なおその場は見逃されたクラスメイト連中だが、授業という名の休戦状態が終わった後再び抗争を始め、すぐさま引き返してきた織斑先生の手によって大虐殺の憂き目を見ることとなった。