ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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第6話/『微熱』の誘い、街への出発

 

「あ~、今日は疲れたね」

 

「そうだな…疲れたな…」

 

「キバットはずっと喧嘩してたからね」

 

「うるせい」

 

キャッスルドランから降りるまでキバットとルイズは口喧嘩をし続けていた。渡はキャッスルドランから一通り自分の荷物を持って来る為に残ったが、ルイズはさっさと行ってしまった。さっそく食堂に次狼達の食事を頼みに行ったらしい。

 

「もう夜じゃないか。結構時間かかったね」

 

「ああ、擬態するのに結構かかったな。まったく、周りに大きな建物がないと困りものだ」

 

「仕方ないよ…あれ?」

 

「ん、どした?」

 

「あれ、フレイム君だ」

 

曲がり角を利用して隠れながらチラチラこちらを見ているのは、今朝会ったメイジ、キュルケ・フォン・ツェルプストーの使い魔、火竜山脈を根城とする火蜥蜴(サラマンダー)の『フレイム』だった。

 

まだ渡の事を怖がっているみたいで、こちらに近づいてこない。

 

「まったく、使い魔達は渡の本質を見抜いているのにここのメイジどもは現実みるをまで動きもしなかったな」

 

「まあ、仕方ないよ。ねぇフレイム君。僕の言ってる事わかる?」

 

『……キュルゥ』

 

と頷く。

 

「よかった。大丈夫。僕は何もしないよ。信じて」

 

そういうとフレイムは恐る恐る渡に近づいてきた。

 

そして渡はフレイムの頭に手を載せて、

 

「よろしくね」

 

『キュル♪』

 

と一瞬笑顔を見せる。するとフレイムは…

 

『キュルルゥ』

 

「え?ツェルプストーさんが僕を?」

 

「おいおい、渡、コイツの言ってる事わかるの?」

 

「うん、僕も一応『使い魔』だからかな。なんとなくね」

 

「で、なんて?」

 

「うん、ツェルプストーさんが僕に何か用があるみたいなんだ」

 

「おお、あのグラマラスなネーチャンが!渡とっとと行って来い!紳士は女性を待たせるもんじゃないぞ」

 

「う~ん、なんだろう」

 

『キュルゥ…』

 

「うん、いいよ。じゃあ、キバット。ルイズちゃんに少し遅れるって言っておいて」

 

「アイアイサー。渡、ファイト!」

 

 

 

「こんばんわ。僕に何か用ですか?」

 

「扉を閉めて?」

 

 暗がりから、キュルケの声がした。渡は素直にドアを閉める。

 

「ようこそ、こちらにいらして」

 

「ちょっと暗くて、どこにいるのかわからないんだけど?」

 

すると指を弾く音が聞こえた。すると、部屋に立てられた蝋燭に一つずつ火が灯り、部屋が明るくなる。室内は淡い灯の光によって、幻想的で、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す。

 

そして、部屋の奥を見ると、キュルケは誘惑する為の下着のみを身につけた姿でベッドに足を組んで座っていた。

 

「そんなに離れてたら、ちゃんとお話出来ないわ。もっとこちらにいらして」

 

「その格好…風引くよ?」

 

渡は動じず、そう答える。キュルケは少し顔をひくつかせて

 

「座って?」

 

 キュルケは自分のすぐ隣を進めると、渡は普通に近づいてきて座った。

 

「ところで、僕に何の用ですか?」

 

この自分のプロポーションとこの姿を見せてるのにまったく動揺もしない渡に少しキュルケのプライドが傷つく。

 

しかし、それにめげずに燃えるような赤い髪を優雅にかきあげ、キュルケは渡を見つめ、大きく溜め息を吐き、悩ましげに首を振った。

 

「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」

 

「……?」

 

キュルケは声色を変え、誘惑の言葉を吐く。。

 

「思われても、しかたがないの。わかる? あたしの二つ名は『微熱』」

 

「…?」

 

ピト…

 

「…あの~、なにしてるの?」

 

急に自分の額に手を当てた渡にキュルケは驚きながら聞く。

 

「え?だって微熱って…そんなかっこうするからだよ」

 

渡はキュルケの体を持ち上げた。

 

 

 

 

「このバカ蝙蝠!何で止めないのよ!よりにもよってキュルケの部屋に!」

 

「ふっ、それは男と女の問題だ。お子様にはまだはや…」

 

「うるさい!こんのヘンテ蝙蝠!ああ最悪!よりにもよってキュルケなんて!」

 

「なあ、なんでそう毛嫌いしてるんだ?」

 

「…因縁があるのよ。あいつの家とは」

 

ルイズは実に情感が溢れた言葉を出す。

 

「因縁とは、穏やかじゃねーな…どんなだ?」

 

まさか昔から殺し合いの決闘や戦争をしているのだろうか?

 

「一言には言えないわね。何せ、隣国ゲルマニアとの境界にあるヴァリエール家にとって、領地を隣接させるツェルプストーの家は。父祖伝来よりの領土争いの相手だもの…」

 

そこで言葉を区切るルイズ。怒りを露わにし、憤激に彩られた口調でその後を続ける。

 

「…寝盗られているのよ。好きになった人とか、恋仲だった相手とか、婚約者とかを」

 

「……そりゃ深刻だ」

 

(…ああ、渡が取られないかと心配なんだな)

 

そうしてキュルケの部屋の前に到着すると…

 

「すいません。ツェルプストーさんは体調が悪いみたいなんで今日は無理です」

 

「き、君は昼の…!おい、なんでキュルケの…」

 

「お引き取りください」

 

渡はキュルケの部屋の前で男と話し、完全に拒絶すると、一方的にキュルケの部屋に入ってしまった。

 

「…!?」

 

「あ~、やるな渡」

 

ゴンッ!べチャッ!

 

地面に叩きつけられるキバット。

 

「いくわよ!キバット!」

 

「へ、へい」

 

ルイズはキュルケの部屋の前まで走り、

 

ドゲシッ!

 

「ギャンッ!」

 

項垂れてた男を蹴飛ばして、

 

ドバンッ!

 

「ちょっとツェルプストー!人の使い魔にな…にやって?」

 

部屋の中の光景をみて、ルイズは声のトーンを落としていった。

 

「あれ?ルイズちゃんとキバットもきたんだ。ダメだよ。扉は静かに開けなきゃ」

 

「あの~、渡。なにしてんだ?」

 

部屋の光景は…ベットで寝ているキュルケの姿だった。しかし、頭に濡れタオルを載せている。

 

その横で椅子に座った渡が林檎をナイフで剥いていた。

 

「なにって、看病だよ。どうりでフレイム君が僕を呼んだかわかったよ」

 

『看病?』

 

ルイズとキバットは同時に喋る。

 

「うん、微熱があるんだって。ツェルプストーさんが林檎を食べたら僕も一度部屋に戻るよ。はい、ツェルプストーさん。あ~ん」

 

ルイズとキバットは流石に呆れかえって、呆然としている。

 

その間に渡はキュルケに林檎を食べさせた。

 

 

(な、何なのよ、この男)

 

自分に林檎を食べさせている男を睨む。

 

(私がこんなにまでしてるのに鈍すぎるったりゃありゃしない!)

 

最後の林檎が口に入るとそれを噛み砕く。

 

(まったく、とんだ的外れだったわ…ちょっと、戦い方が派手だっただけね。まったくなんでこんな男に少しでも『恋』を感じたのかしら)

 

「ツェルプストーさん、大丈夫?」

 

「あっ、ええ。大丈夫よ」

 

「そう?」

 

ピトッ

 

『!?』

 

当のキュルケも、ルイズとキバットも停止する。

 

渡が自分の額とキュルケの額をくっつけたのだ。

 

「うん…」

 

渡は心底安心したような顔をして

 

「もう大丈夫だよ」

 

『本当の優しさ』を含んだ、優しい笑顔を見せた。

 

 

キュンッ

 

 

「え、え、え、ちょっ、」

 

(い、今の何!?)

 

かつて何人もの男と交わったことがある。誰もが自分を求めて、誰もが自分に満足した。

 

しかし、こんな優しい顔をしてくれた男は…

 

「今夜はゆっくり寝てね。明日の朝、また様子見にくるから」

 

「う、…うん」

 

「さ、寝るのに邪魔になるから行こ、ルイズちゃん、キバット」

 

「わ、わかったわ」

 

「じゃっ、ツェルプストーさん。おやすみなさい」

 

「お、おやすみなさい」

 

と二人と一匹はキュルケの部屋を出て行った。

 

部屋に一人残ったキュルケ自身はただ事ではなかった。

 

「え、え、ちょ、ちょっと待って。ナンなのこれ。これ…なんなの!?」

 

渡の顔を思い出すと、胸がカーって熱くなり、顔が真っ赤になる。

 

微熱なんてものじゃない。まるで灼熱だ。

 

「まっ、まさか私…え、ええっ!」

 

物凄い衝動が襲う。

 

彼の傍にいたい。彼を独り占めしたい。彼に自分を独占されたい。そして何より…彼に笑って欲しい。

 

その衝動は今まで感じたことがない、がそれが何なのかは知っていた。それは…

 

「こ、これが…『恋』!?」

 

 

 

「ツェルプストーさん、大丈夫かな?元気になるといいんだけど」

 

「アンタ本当に看病してたの?」

 

「うん。だって微熱があるっていってたから。風邪は引き始めが怖いんだよ」

 

「………」

 

「…俺の教育、間違ったか。許せ真夜」

 

「?」

 

ルイズは安堵と呆れの溜息を吐いてから渡に声をかけた。

 

「明日街に行くわよ」

 

「街に?何しに?」

 

「あんたの買い物よ。ほら、アンタも色々揃えなきゃいけないでしょ」

 

「ああ、そうか。うん、色々欲しいな。こっちの服とか」

 

「感謝しなさい。私がお金出してあげるんだから」

 

「うん、ありがとう」

 

と、渡は満面の笑みを浮かべる。

 

「うっ…」

 

「どうしたの?」

 

「な、なんでもない!」

 

(アレは使い魔アレは使い魔…)

 

そうココロの中で唱えながらルイズは寝る準備を始めた。

 

 

 

「まったく、ワタルったら何してるのかしら」

 

今日は虚無の日。それを利用して街に行くという予定を立てた。

 

しかし、今朝方…

 

「え、馬でいくの?」

 

「何いってんのよ。当たり前でしょ」

 

「僕、馬に乗った事ないよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「うん」

 

「困ったわね。どうしよう」

 

「あっ、それじゃあ、僕が乗り物を出すよ」

 

「乗り物…まさか、キャッスルドラン」

 

すぐに竜の城の名前が浮かぶ。

 

「ううん。キャッスルドランだと大騒ぎになっちゃうから、もっと小さいの。そうだ、先に行ってて」

 

コレが今朝の会話。

 

「まったく乗り物ってナンなのかしら…うん?」

 

ブォォォォォォォ…

 

妙な音が聞こえる。聞いたことも無い音だ。ルイズが音がする方に振り向くと

 

「なっ!?」

 

「お待たせルイズちゃん」

 

「待たせたな!」

 

なんと鋼鉄の塊が走ってきて、自分の前に止まった。そしてそれに乗って赤い兜かぶっていたのは渡だった。

 

「な、何これ!?」

 

「ん?バイク。『マシンキバー』っていうんだ」

 

「て、鉄の馬…」

 

「そう!キバット族の工芸の匠・モトバット16世の手による、最強の鉄馬!ふふん!驚いたか!」

 

「こ、これもしかして、ガーゴイルみたいなものなの?」

 

「ああ、馬の脳を使ってるから自立行動はできるし、燃料もガソリンじゃなくて自然エネルギーを変換しているからこの世界でも動くから助かったぜ」

 

「でも、ガソリンでも動くからね」

 

「ふ~ん、鉄の馬が動くなんて凄いわね」

 

「ほら乗って。あっ、はいヘルメット」

 

「何で兜をかぶるの?」

 

「もし扱けたら危ないから。ちゃんとかぶってね」

 

「む~、かぶらなきゃダメ?」

 

「ダメ」

 

ルイズは渋々とハーフヘルメットをかぶる。

 

「あっ、ちょっと待って」

 

「え?」

 

パチンっ

 

ヘルメットのベルトを止め具に嵌める。

 

「はい、コレで大丈夫だよ」

 

「あ、ありがと」

 

「じゃあ、いくよ」

 

ブロロロロロロ~!

 

「わ、す、すごいすごい!きゃ~、はやい」

 

「気に入ってもらえて何よりだよ」

 

渡はスピードを上げた。

 


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