私は自分でも呆れるくらいボーとしていた。
原因はこの眼の前で起きた決闘だ。
自分の使い魔がいきなり妙な姿に変身して、ギーシュのワルキューレをまるで紙屑のように屠り、勝利した。
今、ギーシュに何かを言った自分の使い魔はそのまま私の所に歩いてくる。
一体…
(こいつは何者なの…!?)
「ルイズちゃん、お待たせ」
「待たせたなルイズ」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ん、んん、た、たた…」
変身したままのワタルとキバットに正体を問おうとしたが、呂律が回らない。
何かわかったように二人は互いにうなずくと、
「じゃあ、ちょっとゴメンね」
「へっ…?きゃぁあっ!」
いきなりワタルは私を担ぎ上げた。世間的に言う、『お姫様抱っこ』だ。
「ちょ、ちょっと!何するのよ!」
「話はあそこでするから」
「あそこって…まさか!」
空を悠然と飛んでいる目の前の竜の城を私は見て。
「あ、あれに入るの!?」
「うん。じゃあ、いくよ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
信じられないジャンプで城の中に私は拉致られた。
「こ、ここがあの竜の中…」
中に入ってみると、想像していた内臓的なものじゃなくて、立派な城だった。
材質・細工・調度品は人目で一流とわかる。
そしてこの城は…
「うん、キャッスルドランっていうんだ」
「そう!ドラン族最強の竜、『グレートワイバーン』を元に作り上げた『キバ』の居城!」
変身を解いたワタルとキバットが説明してくれた。今はそれよりも聞きたいことがある。
「…ねぇ、あんたら何者なの?」
私は真っ直ぐに一人と一匹に向いて、問いただす。
「はっきり言って、あんたら普通じゃない。変身したのもそうだけど、何よりもあの魔力。それにこの城…もしかしてあんた、異世界から来たのってのは嘘で、ホントは何処かの国の王様なんじゃないの?」
「…僕達は本当に異世界から来たよ。さっきの『夜』をみたよね」
それは信じるしかなかった。あの『夜』はワタルが作り出した。
月が一つしかない、ワタルの世界の夜なのだろう。
「僕が変身したのは『キバ』っていうんだ」
「キバ…?」
「その通り!ある種族の王…」
「キバですって!?」
私は驚きを隠せない。
だってワタルが自分で変身した姿を『キバ』といったからだ。その名前は…
「伝説の…」
「魔皇?」
「そうよ!『キバ』っていうのは遥か昔、始祖ブリミルの時代に存在した『世界を滅ぼした魔皇』と同じ名前じゃない!」
それを聞いたワタルとキバットは驚いた顔をする。
「御伽噺程度なら誰でも知ってるわ!始祖ブリミルの時代『暗黒の世界より現れ、暗黒の力を使って世界を滅ぼした魔皇』よ!あんたがもしかして『魔皇』なの!」
それならば私は恐ろしいモノを喚んでしまった事になる。
世界を滅ぼす『魔皇』を呼び出すなんて…
「おいおい、渡は違うぞ。確かに『キバ』はもう一人いたがそいつは…」
「…大丈夫だよルイズちゃん」
私は一瞬ドキッとする。ワタルが物凄く悲しそうな顔をしていたからだ。
「ルイズちゃんの言う『キバ』が例え僕の知るもう一人のキバだとしても…安心して。僕が…」
なんでこんな…
「僕が殺したから…」
なんでこんな悲しい顔をするのよ。
「そうだ。渡の持っている『キバの鎧』はまったく違うものだ。それは俺が保障する」
「…信じていいの?」
「ああ。それに考えてみろ。渡が世界を滅ぼすように見えるか?」
私はそれを聞いて、ワタルを見る。ああ、そうだ。出会って少ししか立ってないけど…
「そうね。それもそうだわ。心配して損しちゃったわね」
コイツが世界を滅ぼすなんて事できるわけないじゃない。
「で、そのあんたらの『キバ』ってなんなの?」
「よく聞いてくれた。さっきも言ったように、あれは『キバの鎧』。とある種族の王の鎧だ」
「王の鎧?」
「おう、しかも只の鎧じゃないぜ。あの鎧自体が選定の役割も持っていて、資格を持たない奴が纏うと、その命を奪う『完璧な選定』ができる鎧だ!」
へぇ~、継承者争いが楽そうだけど、怖いわね。あれ?
「どうしたの?そんな真っ青な顔して」
「…初めて聞いた」
「へ?」
「命を奪うなんて初めて聞いたよ、キバット」
「ありゃ、そうだっけ!」
「そうだよ!」
結構大事な事説明してなかったんだ。ん?ちょっと待って。じゃあ…
「わ、ワタルって王様なの!」
「その通り!渡は現在本当の王様だ!ひかぇい!」
「キバットやめなよ。なりたくて…なったんじゃないんだから…」
ワタルの悲しそうな顔。一体…
(何があったんだろう)
そして私は思い出す。
「ねぇ、ワタルって本当に王様なの?」
「おいおい、疑うのかよ?」
「うん。でも僕は今ルイズちゃんの使い魔だから気にする事ないよ」
「違うの。私ワタルを呼び出す前に、夢を見たの。金の鎧を着た王様…確かにワタルの変身した姿は似ていたけど、あんな感じじゃなかったわ。もしかして、あいつが魔皇なの?」
それを聞いた一人と一匹は少し目を合わせて、
「あ~」
「え~と…まあ、おいおい話すわ」
「それよりもこのキャッスルドラン。今は学園に擬態してるんだよ。前はビルだったのにね」
「大きな建物がここしかなかったからな」
なんかはぐらかそうとしている。でも聞きたい。あの夢の中の王の正体を…
『ゾクゥッ!』
背筋に悪寒が走る。後ろを振り向くとさっきまで何も無かった所に彫像があった。
青・緑・紫の像だ。
只の彫像…でも、何でこんなに怖いの!
「ルイズちゃん、紹介するね」
「おい、お前らもからかってないで戻れ」
『ふんっ』
すると信じられない事が起こった。
彫像がどんどん人間になっていく。
タキシードを着た男、燕尾服を着た大男、あと変わった服を着た同い年ぐらいの少年だ。
「こいつか?俺達をこんな所に呼び寄せた張本人は」
「まったく、いい迷惑だよね!せっかく自由になれると思ったのにさ!」
「まだ、ちっちゃい、子供、だな?」
「まあいい…おい、キバットバット三世」
「なんだアホ狼」
「『契約』は暫く続けてやる。そのかわり、ある程度の自由は貰うぞ」
「そうだそうだ!じゃないとストライキ起こすよ」
「ストライキ…」
「あ~!わかってるよ!でも基本的にはここにいて、遠くまで行ったりするなよ!戻れる時に留守だったら知らないからな!」
「僕もあの約束を守ってくれるならかまいません」
「そうか、じゃあまず…」
それだけワタルとキバットに言うと三人は私を取り囲む。
「な、なによ、あんたら」
「俺は次狼だ。よろしくな」
「僕はラモン。よろしく」
「リキ、だ。よ、よろしく」
「さてと、ご主人。明日からこちらに食事が届くように手配しろ。運ぶのはシエスタに運ばせればいい」
「なっ!何言ってんのよ!」
「そうだ!なんでお前らシエスタちゃんの事知ってるんだ!」
「バカなこと言わないで!何で私がそんな…こ…と…」
今度こそ私は腰を抜かした。
3人の姿が変わったからだ。
今度は彫像じゃない…
「わかったな?」
「お願い」
「た、頼む…」
「は、はい…」
私はガタガタ震えながらいった。
ジロウは青い化け物、ラモンは緑の化け物、リキが紫の化け物にだ。
しかも強烈な魔力を纏わしている。
三人は元に戻って
「判ればいい。それじゃ今夜からな」
「僕、お魚がいいな」
「肉、だ」
と三人は部屋から出て行ってしまった。
部屋を出て行くのを確認すると私はワタルに詰め寄る。
「な、ナンなのよアイツラ!化け物じゃない!」
「お、落ち着いてルイズちゃん。皆いい人達だから」
「信用できないわよ!」
そう、あいつ等は信用できない。あいつ等の感じからわかる。アレは人間の…敵だ。
「じ、次狼さんが『ウルフェン族』、ラモン君が『マーマン族』、力さんが『フランケン族』なんだ。皆僕を手伝ってくれてたんだ」
「まあ、アイツ等もこの世界に来てまさか勝手に出て行くわけにもいかないから。もしもの時は協力してくれるだろ」
「どうすんのよ!今日からアイツラの食事を用意しなくちゃならなくなったじゃないの!」
「ぼ、僕に言われても…」
「き~!あんたが飼い主でしょ!責任取りなさい!」
「うるさい!それぐらい気前見せろ!」
「うっさいバカ蝙蝠!干物にしてやる!」
「言ったなこの大平原!」
キャッスルドランに再び学校に擬態する暫くの間、賑やかな声が響いた。