ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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第4話/Break the Chain -魔皇の紋章-

 

渡とギーシュの決闘騒ぎが起きる少し前の図書館。

 

コルベールは昨夜から図書館に詰めていた。

 

ここには始祖ブリミルがハルケギニアを新天地に築きあげてよりのあらゆる歴史が詰め込まれている。

 

彼は教師のみが閲覧できる『フェニアのライブラリー』で古文書、禁書を読み漁っていた。

 

昨日からずっと気になっているのは、あのヴァリエールが召喚した使い魔の事だ。

あの圧倒的で我々メイジとは比べ物にはならない…そう、『純粋』とも言っていい強力な魔力。

 

そして、何より気になった、その手に刻まれた契印(シール)は見覚えあるものでもあった。

 

それはけして普通に見覚えがあるのではなく。

 

古文書に刻まれていた事に覚えがあったのだ。

 

そして彼は一つ目の正解に辿り着いた。

 

「なっ!…キ、『キバの紋章』……!?」

 

ミスタ・コルベール。火の系統のスペシャリスト。

 

『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つ彼はこのトリステイン学院でも古参の部類に入る。

 

その容貌に似合わず彼は博識でもあり実力もある。

 

その彼をしてそれは驚かざるを得ないものだった。

 

それは伝説だからだ。この紋章はある伝説の存在を示す紋章であり、伝説通りならば、あの使い魔は…

 

彼は、古文書を手にしたまま、自らの持てる最大速度で学院長室へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルベールが向かった先は本塔の最上階にある学院長室。

 

そこには今現在二人の人物がいる。

 

この学院の最高指導者であると同時に最強の魔法使いでもある『オールド・オスマン』

 

その秘書を務める『ミス・ロングビル』である。

 

オスマン老。二つ名は知られていない。

 

その理由は二つ名を知り生還できた者が居ない事に起因する。

 

かの大老が二つ名を名乗るのはその存在を必滅する時のみだと言う。

 

だが、ミス・ロングビルは彼以上に謎が多い。

 

この学院に来る前の経歴は一切不明。

 

本人も曖昧に逸らすだけで決して語ろうとしないからだ。

 

そんな二人の関係は……

 

「…のう。モートソグニル。やはりミス・ロングビルの下穿きの色は黒が良いと思わんか?」

 

「…オールド・オスマン。使い魔に私の下着についての考察を述べるのはやめてください」

 

「じゃがのぅ…その身体つきで白はギャップがあるんじゃよ。もしやそれを狙って?」

 

「…狙っている筈ないです。何故そんなことしなければならないんですか!というより何故、私の下着の色を知っているんですか?!」

 

エロじじいとセクハラされる秘書にしか見えなかった。

 

そんな二人の情事に割ってはいる闖入者がいる。コルベールである。

 

「オールド・オスマン!!」

 

けたたましい足音は寸分狂い無くけたたましい音を立てドアを開け放った。

 

「何じゃね?騒々しい」

 

先ほどまでの痴態はどこにいったのか。

 

そこには威厳あふれる大魔法使いとその有能な秘書がいた。

 

「はぁはぁ…し、至急報告したい事があり、参上しました」

 

「…くだらん事ではないじゃろうな?」

 

「まずはこれを」

 

コルベールはその手にした古文書を差し出した。

 

そして一言。

 

「…『魔皇』が再臨しました」

 

「…詳しい報告を聞こう。ミス・ロングビル。以降の発言は第三者による見聞きは許されん。退室を」

 

オスマン老はその手に渡された古文書と彼の発言から言わんとする事を察した。

 

そしてその目に鋭い光を宿して自らの秘書に命を下した。

 

彼女も反意を見せることなく退室をする。

 

あの目をした老オスマンに異を唱えれるほど彼女は自信家ではない。

 

そして、部屋には二人の魔法使いが残され、コルベールはオスマン老に話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上です。学院長」

 

コルベールは自らの見解と昨日の出来事を差し向かったオスマン老に告げた。

 

二人の間の空気は緊迫している。それほどまでの出来事なのだ。

 

この紋章が現れたという事は…世界が滅びるかも知れないということなのだ。

 

「『キバの紋章』か…訊くが。本当にこの紋章だったのかね?」

 

「間違いありません。そして一瞬とは言え、あの魔力の奔流を眼前で見れば納得できます。あの…」

 

コルベールは息を呑んで…

 

「あの魔力を自在に使えるのなら…伝説通りになります」

 

「…伝説の魔皇、『キバ』…か」

 

「学院長。何故、『キバ』が現れたのでしょう?伝説ではキバは世界を『一度』滅ぼした後、消滅したと聞きます」

 

そう、キバは何らかの方法で『一度』世界を滅ぼしたと伝えられている。

しかし、伝説には続きがあり、始祖・ブリミルが世界を滅ぼすチカラから人々を護り、新天地をハルケギニアに築いた。

 

「…時に聞くが。ミスタ・コルベール?」

 

「何でしょう?」

 

オスマン老は言葉を切り、件の件に置いて秘するべきある一つの事柄を口にする。

 

「…火のエキスパートたる君ならば、解る様に爆発という現象は火が引き起こす場合は、まず火が発生し結果として爆発が起きるものじゃ」

 

「ええ。それがどうしたのでしょうか?」

 

「ならば、ミス・ヴァリエールの引き起こす『失敗』を君は再現できるかね?」

 

「…あれをですか?」

 

「そう…出来まい。ワシですらあれは出来んのだよ。そも失敗などという形ではな」

 

オスマン老の眼光が厳しさを増す。

 

「わかるかね?火の粒に干渉しない光を生じる爆発。これは四大属性では再現不可能じゃ」

 

「…まさか…虚無?」

 

「…あくまで、これはその可能性があるという事じゃ。だが……」

 

コルベールは息を呑む。学院長の言わんとする事を察しれぬほど腑抜けた覚えは無い。

 

もし、その可能性が通ると、彼女と『キバ』は何かしらの因縁がある。

 

「だが、もし、その使い魔が『キバ』なら、紋章が浮かんでも不思議ではない」

 

 

オスマン老は小さく嘆息する。

 

沈黙が部屋を支配しようとしていた矢先。

 

部屋の扉をノックする音が響く。

 

「…誰かね?」

 

「私です。オールド・オスマン」

 

「ミス・ロングビルか。口頭で済む用件かね?」

 

「はい。ヴェストリの広場で生徒達が決闘をしているようです。教員達で止めようとしましたが生徒達に阻まれ止められない模様です」

 

オスマン老はこめかみを軽く押さえた。

 

頭痛の種がまた飛び込んできたのだ。

 

「…騒動の発端は? 誰が中心じゃ?」

 

「一人はギーシュ・ド・グラモンです」

 

「…グラモンのバカ息子か…事の発端は女性関係かのぉ…要らん所の血が濃いな…で、相手は?」

 

一瞬、躊躇うかのような間があった。

 

そして、その後に告げられた言葉は室内の二人を驚愕させ、目の前を一瞬真っ暗にしてしまうものだった。

 

「…それがメイジではなく…ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔だそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キバ』に変身した渡はワルキューレに向かって走り出した。

 

超人的なスピードで間合いを詰める。

 

(まずは様子見…パンチで牽制しよう)

 

『キバ』は拳をワルキューレに叩き込む。

 

ワルキューレの体に亀裂が入り、砕けながら吹っ飛ぶ。

 

破片の一つがギーシュの顔をかすり、一筋の血を垂らす。

 

「……あれ?」

 

「おい、渡。大人気ないぞ。決闘なんだから相手にも少しは見せ場をだな」

 

「いや、ちょっと待って。今すっごく手加減したんだけど」

 

当の渡本人も驚いている。

 

確かに手加減した。向こうで全力で叩き込んだ時の10分の1くらいの力で。

 

(まさか…こっちに来て力が上がってるのかな?)

 

渡は自分の拳を見ながら、そう思った。

 

「なっ、なっ、なっ…」

 

そして、この場で一番冷静になれないのがギーシュだ。

 

いきなり平民が感じた事が無いような強力な魔力を放出したと思ったら、異形の姿に変身し、あまつさえ、自分の自慢のワルキューレを一撃で粉々にしてしまったのだから。

 

「こ、ここここ、こい!僕のワルキューレ!」

 

ギーシュが花弁を振ると、七枚の花弁が落ち、それが新たなワルキューレ七体となる。

 

「おい、不味いぞ。あの坊ちゃんテンパッてやがる」

 

「どうやら、ああやって何回でも呼べるらしいね」

 

「でも、最高七体までらしいぞ」

 

「なんで?」

 

「俺があの坊ちゃんの立場なら全力で向かうからな」

 

「でも、追加されていったら面倒だよ」

 

「よし、それじゃあな、ゴニョゴニョ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんなのよ、あいつ……?」

 

ルイズは我が目を疑っていた。自分の使い魔である渡がキバットに噛まれた瞬間、恐ろしい程の魔力を放出して、異形の存在になった。

 

そして異形の存在となった渡は今、ギーシュのワルキューレ達を一撃で粉砕していく。

 

ギーシュは自分のもてる力を全て使って、ワルキューレを量産していく。それでも力の差は歴然だった。

 

しかし、渡の戦い方はなんと猛々しい戦いぶりだろう。

 

周りのギャラリーも息を呑んでいる。そう、まるで…

 

そしてワルキューレを何体か破壊した後、渡は間合いを離した。

 

(どうして!?どんどんギーシュを追い詰めてったはずなのに?)

 

すると渡は腰のベルトから何かを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか渡。これは『決闘』なんだ。手加減は一切するな。あの坊ちゃん狙えとは言わないが、あの人形を何体か徹底的にはぶっ壊した後は…』

 

『キバ』はベルトの右側から一本の『笛』を取り出す。

 

「キバット!」

 

「おう!『Wake Up』!」

 

キバットが飛び、その『笛』で魔性の音色を奏でる。

 

『キバ』の体から魔力が溢れる。

 

『な、なんだこれ!?』

 

『嘘だろ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私…夢でもみてるの…」

 

キバットがあの『笛』を吹いた瞬間、渡の魔力があがった事がわかった。

 

でも…世界の絶対の理を曲げる魔法なんて聞いた事が無い!

 

周りのみんなも騒いでいる。

 

そう、今はまだ昼…人間の時間なのだ。

 

だが、今は『夜』が世界を支配していた。

 

さらにルイズを驚愕させたのは天上の月だ。

 

「これが…渡の世界の夜…」

 

そう空に輝く三日月が…たった一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が夜になった時、学園にも異変が起きる。

 

突然学園校舎から強大な竜の首が生えた。

 

竜の首が吼えると、校舎の一部が怪しく光る。

 

すると、校舎の一部がペーパーのようにクルクル巻かれ、まったく別の建物が出現した。

 

そう、それはサモン・サーヴァントを騒がせた原因…キバの居城『キャッスルドラン』だった。

 

咆哮と共に翼を羽ばたかせて飛ぶキャッスルドラン。

 

すると校舎が魔法のように繋がる。

 

さあ、主の所に向かおう。

 

我が主の無事と誇り高き勝利を祝福しに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へやっ!」

 

『キバ』は右脚を天に上げる。

 

後ろに映る月は、完全な三日月となる。

 

キバットが右足の脛の部分に舞う。

 

すると、鎖が飛び散り、力が解放される。

 

蝙蝠の翼を象った扉、『ヘルズゲート』が完全に開放される。

 

そして、片足だけで、空に飛び上がった。

 

『キバ』は一瞬逆さになるように回転すると、強大な力を纏わせて、右足をワルキューレに向け突進していくような蹴り、『DARKNESS MOON BREAK』を喰らわせた。

 

ドゴォォォォォォォォン!

 

その衝撃波はワルキューレ数体を粉砕して、砂煙を上げる。暴虐な程の魔力の余波が辺りに満ちる。

 

ギーシュは完全に腰を抜かして倒れてしまう。

 

ギャォォォォォォォォォォッ!

 

竜の咆哮が響く。空から現れたのは巨大な竜。この竜も奇妙な姿をしていた。胴体の部分が見事な城となっているのだ。

 

この竜も強大な魔力を宿らせている。

 

ギャオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

 

さらなる咆哮が響く。

 

誰もが認める。この竜はこの異形の存在を祝福しているのだと。

 

ギーシュはそれを見る事しかできない。

 

まるで、何かを取り憑かれるように見つめている。

 

(なんなんだ、こいつ…コイツはまるで…)

 

異形の姿、圧倒的な力、月夜の闇に空を飛ぶ竜…

 

まるでコイツは、

 

(伝説の魔皇じゃないか!?)

 

「ギーシュ君」

 

「は、は、はい!」

 

「シエスタちゃんにちゃんと謝ってくれるかい?」

 

「は、はい!申し訳ありませんでした!」

 

「…よかった」

 

その瞬間、『キバ』の右足に再び鎖が巻かれる。その瞬間、夜が終った。

 

そして大地には、『キバの紋章』が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景の一部始終は、離れた場所の学院長室からも観察されていた。

 

『遠見の鏡』と呼ばれる魔法具の効能である。

 

「…圧倒的じゃったな。しかし、信じられん力じゃ」

 

オスマン老はそうとしか言えなかった。

 

『キバ』のあの姿は伝説とは少し違うが、酷似していることはわかる。

 

そしてあの圧倒的な魔力。多分、オスマン老自身でも相手にならないだろう。

 

そして魔力が一段と高まった時、『キバ』は世界の絶対の理を破った。

 

そしてあの巨大な竜の城…

 

「あれは報告にあった…」

 

「はい、サモン・サーヴァントの時に現れた竜です。今思えば、『キバ』の使い魔…いえ、『居城』なのでしょう」

 

「君の所見を聞こうか?コルベール君」

 

「みてもわかる通り、彼は最初魔力の放出といった形の戦闘をしておりませんでした。つまり、身体的能力も信じられないほどのものです。そして…昼を夜…しかも月が一つの世界を作るなど…今見るまで考えたこともありません」

 

オスマン老は頷く。

 

そして二人は同じ結論を出した。

 

『…キバ』

 

オスマン老の目は、より深刻さを増す。

 

コルベールもまた面持ちを改める。

 

「…では、学院長? どうなさいますか? 王室に報告いたしますか?」

 

「…不要じゃ」

 

「何故ですか? 彼が本当に『キバ』であるならば…」

 

「だからじゃよ」

 

オスマン老は重々しく口述する。

 

「君も古文書や禁書を読み漁る身だ。『キバの伝説』の不明解さは知っているな?」

 

「…はい。確かに古文書には『世界を滅ぼした』となっておりますが、『一体どういった力で』世界を滅ぼしたかがまったくの不明です」

 

「そう。始祖ブリミルと同等にその存在を認められている。しかし、その力はまったくの不明じゃ」

 

コルベールが頷き、その後を繋げる。

 

「王室に報告すれば、軍がでるかもしれん。もし、その時に『キバの力』を完全に解放されたらどうなる?」

 

「そ、それは…」

 

過去には始祖ブリミルがいた。しかし今は…

 

「伝説の魔皇と伝説の虚無の系統者やも知れぬ少女。これは秘匿し、こちらで調査しなければなるまい。見る限りでは、まだ『キバ』はまだ件の少女に従っておるみたいじゃしな」

 

オスマン老の目は、重さを灯したままだ。

 

オスマン老は座していた椅子より立ち上がると窓に向かう。

 

窓から見える空には先ほどの一件の影響か、魔力がいまだに残留している。

 

そして振り向き、決定事項を告げる。

 

「この事は他言無用じゃ。折を見て、件の少女を招聘し、直接この件を説明しよう」

 

「…了解しました」

 

この話題はこれで終わりだと言わんばかりに、オスマン老は再び背を向ける。

 

それを見て取ったコルベールもまた、一度頭を下げると音も無く部屋を辞した。

 

オスマン老は誰も近くに居ない事を確認すると自らの執務机の中よりある一つの書物を取り出した。

 

そして呟く。

 

「…始祖の祈祷書、その外典の一。我が手にこれがある意味は、この為やも知れんな。しかし、『キバ』か…」

 

 


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