ゼロの使い魔 -KING OF VAMPIRE-   作:歌音

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ゼロの使い魔 ‐Roots of the King‐ EX-001/輝きの契約 ~黒き皇の復活~

 

 

 

「お願い…」

 

少女は懇願する。

 

「お願い…」

 

それは虚しく響く。

 

「お願い…!死なないで!」

 

目の前の血塗れの青年は今にも命を失いそうだった。

 

 

少女は願っただけだった。

 

自分の話を聞いてくれる人が欲しい。

 

優しくて、頼りになって、強くて、子供に優しい人…そんな物語に出てくる騎士や王子様みたいな人がいたらいいなと思っただけだった。

 

しかし、その願いが叶ってしまった。

 

突然、自分の目の前に血塗れの青年が現れたのだ。

 

「私の…私のせいで…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

自分のせいでこの青年は死に掛けていると少女は思った。

 

自分が、自分なんかが、人から恐れられている・・・・・・・・・・自分なんかが大それた事を願ったせいだ。

 

「私の…私のせいで…」

 

「お前のせいじゃない。気にするな」

 

「え!?」

 

突然の背後からの声に少女は驚いて振り向く。するとそこには

 

「きゃっ!?」

 

「…驚かしてすまない。しかし、少し時間がなかったのでな」

 

『〇"гゞΞ』

 

喋る黒い蝙蝠と奇妙な物体だった。

 

「娘よ。こいつを助ける為の手助けをしてくれないか?」

 

「え?」

 

「お前の魔力を少しくれるだけでいい」

 

「わ、私の魔力でよければ、好きなだけ!だから、助けてあげてください」

 

「…ふっ、ありがたい。それでは手を出してくれ」

 

「は、はい」

 

黒い蝙蝠は差し出された少女の手に近づき、

 

「ガブリッ!」

 

「きゃっ…!あっ…」

 

蝙蝠が少女の手から魔力を吸い取る。

 

「ふむ…随分と芳醇な魔力だな。お陰でこいつを助ける事ができる」

 

蝙蝠は瀕死の青年に近づき、

 

「ガブリッ!」

 

「ぐっ…」

 

今度は青年に噛み付いた。

 

蝙蝠はどんどん、少女から貰った魔力を青年に流す。

 

すると、青年の傷がたちどころに治っていった。

 

蝙蝠はこの行為を2~3回繰り返した。

 

「これでよし…すまない、どこかでコイツを休ませてくれぬか?」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

「ん…うう…」

 

青年は体から感じる軽い痛みを感じながら眼を開く。

 

青年は辺りを見回す。簡素ながら清潔な部屋…しかし、造りが現代日本の家屋ではない。

 

自分の知識にある限りではまるで中世代の家屋のようだ。

 

「ここは…俺はいったい…」

 

 

ガチャ…

 

 

不意に扉が開く。

 

「あっ!?」

 

現れたのは見たことも無いような、とても美しい顔立ちの金髪の少女。

 

(…天使?)

 

天使はこちらに近づいてくる。

 

「よかった。目を覚ましてくれたんですね」

 

「起きたか?」

 

『☆♪♪†♪♪☆』

 

天使の後ろから自分の従者でもある『キバットバットⅡ世』と『サガーク』が飛んでくる。

 

「Ⅱ世…サガーク…」

 

「礼をいうぞティファニア殿。おかげでこいつを死なせずにすんだ」

 

『#†$$$г』

 

「そんな気にしないでください。この方が目覚めてくれてなによりです」

 

少女…ティファニアとⅡ世とサガークの会話から自分が生きている事がわかる。

 

そして、自分の左手を見て、つらい現実を叩きつけられる。

 

(『紋章』が…『王の証』が…ない…)

 

絶望が青年を襲う。

 

「あの、これ…お口に合うかどうかわからないのですが…」

 

「何故だ…」

 

「え?」

 

「何故俺がここにいる!?何故俺は生きているんだ!?」

 

「そ、それは…」

 

「それは俺が説明しよう」

 

Ⅱ世は青年が眠っている間にティファニアに聞いた事と、量は少ないが本からの情報、そして世界に充満している魔力と二つの月の話を簡潔に纏めて話した…今いる自分達の場所が異世界だということに。

 

「本当にごめんなさい。こんなところに…呼び出してしまって…」

 

「何故…何故俺を生かした…!?」

 

青年の声が暗く、そして激しくなる。

 

「何故だ!何故俺を呼び出した!どうしてあのまま死なせてくれなかった!?」

 

青年が絶望に染まった顔でティファニアを責める。

 

「わ、私は…」

 

「俺は…俺は…」

 

「落ち着け」

 

Ⅱ世は二人の間に割って入る。

 

「ティファニア殿。少しこいつを一人にしてやってくれないか。おい、少し頭を冷やしておけ」

 

そういってティファニア達は部屋の外に出た。

 

 

 

 

 

 

「すまない」

 

「え?」

 

部屋を出てからのⅡ世の最初の言葉は謝罪だった。

 

「気を悪くしないでやってくれ。あいつにも色々あった」

 

『♪♯жゝкΞШ』

 

サガークもティファニアに頭を下げるような動きをする。

 

それを見てティファニアは笑って

 

「大丈夫です。今はあの方が眼を覚ました事を喜びましょう」

 

それを聞いた一匹と一体は

 

(できすぎた娘だ)

 

と思った。

 

「あの方は…何かとてもつらい事があったのですか?」

 

ティファニアが見た青年の瞳は、本当に悲しい色をしていた。

 

それがティファニアの心を離さなかった。

 

「…あいつは自分の道を歩んだ。生まれついた運命さだめに、弱音を吐かず、種族の為に生きた。だが、その結果全てをなくした…皮肉な話だ」

 

「Ⅱ世さんとサガークさんは何故あの方と?」

 

「俺は『ある者』との約束でアイツを護る立場にある。その為にあいつと一緒にこの世界に呼ばれたのだろう。サガークは元々アイツのモノだ」

 

『*@~|¥*』

 

「よければ…あいつを助けてやってほしい。俺にはできないことだ…」

 

(俺は…止められなかったのだから…)

 

とⅡ世は空を飛んでいった。

 

残されたティファニアは青年の事を考えていた。

 

(あの人は…今、とっても寂しいのね)

 

青年は全てを失くしたといっていた。

 

もし、自分が姉や子供達を失くしたらどうなるだろう。

 

考えただけで絶望のようなものが襲った。

 

青年は今、こんな気持ちを味わい続けているかと思うと…

 

「晩御飯も持っていってあげなくっちゃ」

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったかわからない。

 

数分しか経っていないのか、それとも数時間経ったのか。

 

しかし、今の青年にはどうでもいいことだった。

 

自分にはもう何もないのだ。何かを考えるなんて無駄だった。

 

(俺は…何かを間違っていたのか?俺は…何処で間違った)

 

実際に青年は懸命に生きていた。

 

種族の『王』として選ばれ、その期待に『力』と『証』で答えようと研鑽を積み、種族の繁栄に貢献した。

 

そして、自分の『女王』となる人を愛し、『弟』と共に歩み、そして…許されるなら『母』を迎えにいこうとも思っていた。

 

しかし、全てを失くしてしまった。

 

種族から用無しの烙印を押され、『王の証』は消えた。

 

そして、『女王』を亡くし、『弟』と争い、そして…『母』を…

 

「どうして…」

 

青年の瞳から涙が溢れる。今までずっと…ずっと堪えていた…

 

「どうして皆『僕』の前からいなくなるの…『僕』は『王様』なのに…」

 

青年は泣きじゃくる。

 

「『深央』…母さん…『渡』…どうして…僕から…」

 

最愛の人達の名を呼んでも誰もいない。

 

自分は…一人だった。

 

 

 

夕食を持ってきたティファニアは青年の部屋の前で、偶然にも聞いてしまった。

 

青年の泣き声、そして、本心を…

 

(私は…)

 

『あんたには私がいる。だから大丈夫だよ』

 

ふと、昔の姉の言葉を思い出した。

 

(そうだ…今度は…)

 

ティファニアが青年の部屋の扉を開ける。

 

青年は流している涙を拭こうともせずに、ティファニアを見る。

 

「晩御飯を持ってきました」

 

ティファニアは青年に近づく。

 

「…聞いていたのか?」

 

青年の言葉にドキッとしたがティファニアは

 

「はい」

 

と答えた。

 

「…お前から見たらどう見える。こんな無様な姿を…」

 

青年は堪えきれない思いを言葉にする。

 

「『僕』はもう何も持っていない!何も手に入れる事ができない!全て!全て失ったんだ!『僕』は…一人ぼっちだ…」

 

ぐいっ、ぎゅっ

 

「あ?」

 

ティファニアは青年を少し無理矢理な感じで引き寄せて、青年を抱きしめた。

 

子供をあやすように青年の頭を撫でてあげる。

 

「安心して。あなたは一人じゃない」

 

彼をゆっくりと優しさで包み込む。

 

「私が傍にいます。これで貴方はもう一人ぼっちじゃない」

 

 

 

 

-この人の涙は私が拭おう-

 

-この人の悲しみは私が包もう-

 

-私が…この人を助けよう-

 

 

 

 

「だから泣かないで、寂しがり屋の使い魔さん」

 

その時のティファニアの笑顔は本当の天使のようだった。

 

「あなたのお名前は?」

 

彼女の声に青年は恐る恐る…

 

「太牙…『登 太牙』…」

 

「タイガ…素敵な名前ですね。私はティファニア。テファって呼んでね」

 

ふと、ティファニア…テファの頭に呪文が浮かんでくる。

 

「我が名は、ティファニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与えて、我の使い魔とせよ」

 

そして『契約』を交わす。

 

青年…太牙の右手に蝙蝠を象った紋章が現れた。

 

 

 

 

翌日

 

起きた太牙はベットから立ち上がり、外に出た。

 

外に出ると数人の子供と、

 

「であるから、これは1と1を足すと2なる。こうやって数を足していくのが足し算だ」

 

『は~い、キバット先生』

 

「じゃあ、この調子でもっと難しい足し算から憶えていこう。計算を憶えれば世の中少しらくになるぞ」

 

『は~い』

 

「ナニをしている」

 

「お、起きたか。見てわからんか?青空教室だ。食事の代価をこうして払っている。お前も手伝え」

 

子供達は太牙を好奇な目で見ている。

 

そんな子供達を見て、太牙は

 

「そうだな。でも先にテファに礼をいいたい。それと…」

 

太牙はⅡ世に右手の紋章を見せる。

 

「これは何だと思う」

 

「…『キバの紋章』だな。たぶん『使い魔のルーン』だろう」

 

「…使い魔か…」

 

「『KING』が使い魔になるのは前代未聞だな」

 

「俺はもう『KING』じゃない…だから、使い魔も悪くないさ」

 

「…やけに効いているな。お前まさか…」

 

Ⅱ世は眼を細める。

 

「ち、違うぞⅡ世。た、ただ俺は…」

 

「なに、お前が下界の言葉で言う『おっぱい星人』でも俺はお前に従うぞ。確かにあれは大きさ・形全てが凄いからな」

 

「変な言葉を何故知っている!誤解するな!」

 

ザワ…

 

『!?』

 

太牙とⅡ世は感じた事のある気配を感じる。

 

「Ⅱ世。ここは確かに異世界なのだな?」

 

「ああ。それは間違いない…そして、俺は過去にこの世界に来た事がある」

 

「なんだと?」

 

「長生きすると色々あるものだ。帰る方法も知っている…が、ティファニア殿では無理かもしれん。どうする」

 

「それは後に考えよう。この世界にも『同族』がいるのか…」

 

そこで太牙は辺りを見回す。

 

「ところでテファは?」

 

そこでⅡ世は思い出す。

 

「森だ!何でも栄養のある果物を取りにいくと言っていた!」

 

「!?いくぞ!サガーク!」

 

『♯♪△□●』

 

「サガの鎧は?」

 

『(シュン)』

 

「修復は不能か」

 

王の鎧の一つ・『サガの鎧』は以前弟に破壊された。

 

「マザーは呼べるか?」

 

『(コクン)』

 

「この子供達をマザーで護っていてくれ。テファの家族だ。重大だぞ」

 

『○♯♪*@+*!』

 

「よし!」

 

そして太牙とⅡ世は森に入っていった。

 

 

 

「まさかこんなところでエルフに会えるとはな」

 

「まったくだ。俺達はついている」

 

「あ、ああ…」

 

二人の下卑た男達に追い詰められるテファ。

 

「エルフを喰えば一気に力が上がる。『男爵バロネージ』になるのも夢じゃねぇぜ」

 

「それにしても上玉だな。喰う前に…」

 

テファの服をつかみ

 

ビリリリッ!

 

「キャアァァァァァ!」

 

服を破かれ、テファの胸があらわになり、それを手で隠し、地面にへたり込む。

 

「楽しむとしようぜ!」

 

「そうだな!」

 

男達の顔が本能に呼応して、ステンドグラスのような模様が浮かぶ。

 

そしてテファに再び手を掛けようとした時、

 

「おい」

 

「な、なんだよ」

 

「お前…なんでふるえてんだ?」

 

「お前こそ…」

 

そのふるえは更に強くなり、冷や汗も出てくる。

 

そして生きた心地もしなくなる。

 

二人はその原因に気づく。

 

悠々と歩いてくる一人の男に…

 

「この下衆どもが…」

 

その声にさらに恐怖が襲う。

 

「誇り高き『ファンガイア』の面汚しめ…」

 

 

 

二人の男の恐怖の原因、太牙は怒りに震えていた。

 

テファに下衆な手で触れた事…テファを怖がらせた事…そしてテファの前にその者達がいる事…それ一つ一つに怒りがこみ上げる。

 

「貴様らに…」

 

太牙の左掌と左甲が熱くなる。そして浮かび上がるのは消えた筈の『KING』の紋章!

 

「貴様らに王の判決を言い渡す!」

 

キバットバットⅡ世が飛んでくる。

 

「死だ!」

 

太牙はキバットバットⅡ世を掴み、自分の左手に近づけると、

 

「ありがたく思え。絶滅タイムだ!」

 

『ガブリ!』

 

力強く噛み付く。

 

太牙の体から魔皇力が溢れ、顔にステンドグラスのような模様が現れる。

 

腰に鎖カテナが巻きつき、『ダークキバットベルト』が現れる。

 

「変身!」

 

怪しく輝く光が太牙を包み、弾けた時、太牙は変身していた。

 

「タ、タイガ…?」

 

それは世界最強を誇る種族『ファンガイア』の王の究極にして最強の鎧。

 

魔皇力により紅く染め上げられた姿は全ての存在モノに恐怖を与え、全てを支配する種族の『支配する者』の証。

 

『死』か『選ばれるか』の二択しか存在しない鎧は『選ばれた者』に絶大なる力を与える。

 

その名も魔皇『仮面ライダーダークキバ』…それが今の太牙の姿だった。

 


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