IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

7 / 32
第2話「箒の幼馴染とイギリスの代表候補生と汚部屋と…」

ここはIS学園…

ISに関する知識の教育を専門とする女子高(ここ重要)だ。

この学園には世界各国から可能性を秘めた女子達がとんでもなく高い倍率から

合格を勝ち取り、入学する場所だ。

本来ならここに俺の様な男が俺の様な男が!(大事なことだから2回言った!)

いるべき場所じゃない!!

なんで俺がこのIS学園にいるって?

そりゃ俺がISを動かせてしまったからだよ!!

うっかり触っただけで動くなんて聞いてねぇよ!!

一瞬俺が女として生まれたのかと勘違いしたんだぞ!!

まあそんなわけで俺は強制的にIS学園へ入学させられたわけで…

しかもいくら試験官のミスだからといって

俺が試験官に勝っちまったんだから余計に騒ぎが大きくなったわけで…

 

 

ジー…

 

 

「………」

 

 

誰か助けてください…。

俺の様な豆腐メンタルじゃこの視線に耐えられるわけがない。

ん…?

他の人の視線と違う視線を感じたから俺は頭だけ動かして視線の先を見ると

俺がずっと沈黙していることに首をかしげていた隣の席の子…

(確か真優さんだったか?)が突然席を立った。

 

 

「先生!ちょっと織斑君の気分が悪そうだから保健室まで連れて行ってあげてもいいですか?」

 

「え?は、はい!わかりました」

 

 

ギロッ!

 

 

「よし、織斑君、立てる?」

 

「あ、ああ…」

 

 

クラスの大半の子が俺の隣にいる真優さんを睨みつけているけど真優さんは

そんな視線に気が付いていないのか俺の前に立って満面の笑顔で手を差し出してくれた。

天使様だ…。

ここに天使様がいる…。

そして、俺が目の前におわす天使に手を差し出した瞬間

 

 

ザクゥッ!!

 

 

「ひゃわっ!?」

 

「ぬおわっ!?」

 

 

俺と真優さんの間に何かが通りすぎ、俺が座っている席の机に刺さった。

これって…出席簿?

 

 

「入学式早々のSHRで何をしている?」

 

「げぇ!?関羽!!?」

 

「誰が三国志に出てくるの英雄だ」

 

 

千冬姉!?

なんで千冬姉がここにいるんだ!?

あ、千冬姉が回収した出席簿が俺の頭に振り下ろされる…。

ざんねん おれのじんせいは ここでおわってしまった !

そう思った瞬間、俺と千冬姉の間に誰かが割って入って

 

 

ズガンッ!!

 

「オウフ…」

 

「「ま、マユーっ!?」」

 

 

え?真優さん!?

さっき出席簿が出すような音じゃなかったぞ!!?

窓際に居た金髪の子(確か名前はアルトリアさん)と箒が真優さんの名前を叫んでいたけど

本当に生きているのか!?

 

 

「いたた…」

 

「衛宮、なんで割って入った?」

 

 

え?痛いだけで普通に立ち直った!?

俺も何度か千冬姉の拳骨を受けたことがあるけど普通の女の子が耐えられるものじゃないぞ!?

そんな真優さんに千冬姉は冷たい目で尚且つ敵意丸出しで問いかけたけど大人気ないぞ千冬姉…。

 

 

「理不尽に殴られる人をほっとけませんから…」

 

「ほう?」

 

「だって殴られたら痛いじゃないですか。それよりも織斑君の体調が良くなさそうなので

 保健室に連れて行ってあげてもいいですか?」

 

「やれやれ。一応色々な人間を見てきたがお前の様な大馬鹿者は初めて見た…」

 

「それで織斑君を保健室に連れて行ってもよろしいですか?」

 

「それは許可できん。せめて自己紹介を終わらせてからにしろ」

 

「………織斑君。大丈夫?顔がさっきよりもっと悪くなっているけど」

 

 

というか真優さんも千冬姉の威圧に物怖じもせずに言い返すどころか

千冬姉を根負けさせるとか凄いなおい!?

ってか俺はもう大丈夫だから!!

それよりも真優さんの方がヤバイから!!

寧ろ今俺の顔が青くなっているのは真優さんのことが心配だからだよ!!

正直これからの学園生活は不安で一杯です…。

 

 

第2話「箒の幼馴染とイギリスの代表候補生と汚部屋と…」

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 一年一組教室

 

 

「はじめまして。私は一年一組の副担任をする山田麻耶です。

 皆さん、IS学園への入学おめでとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

「では、順番に自己紹介をお願いしますね!」

 

 

ISの入学式が終わり、私達は部屋割を確認して自分達が同じクラスであることを喜んだ。

だって同じ学校になったのにクラスがバラバラになったらいやだもん。

それで、私達は自分達がこれから1年間お世話になる教室に着くとそれぞれ指定された席に別れた。

まあ流石に席が離れるのは仕方ないよね…。

SHRに入るとぽやっとした印象を受ける山田麻耶先生が教壇の上に立って自己紹介が終わるとクラスメイト達の自己紹介が始めていた。

 

 

「次、衛宮真優さんお願いしますね」

 

「はい!」

 

 

あ、私の番が来たみたいだ。

麻耶先生の指名に返事をした私は少し深呼吸をして自己紹介を始めた。

 

 

「私の名前は衛宮真優です。趣味は料理と機械いじり、特技は壊れたものを直すことです!

 壊れた時計とか端末とかあったら私のところに持ってきてね!」

 

 

うんうん。我ながら良く出来た自己紹介だった。

でも周りの反応はない…。

というか麻耶先生も私の自己紹介が終わったのに反応してくれないなんて…。

こうも反応が無いと流石に泣きたくなるよ…。

がっくりしながら私は席に座るときになんとなく隣の席を見ると

そこには机に突っ伏している男の子がいた。

 

 

「………」

 

「(あの子は…織斑一夏くんだったかな?)」

 

 

名前は…確か織斑一夏君だったっけ?

あ、みんなは一夏君のことを見ていたんだ。

そんで今の一夏君は動物園の客寄せパンダ状態…。

たぶんみんなの視線を一身に受けているから突っ伏しているんだろうなあ…。

うん。私も同じ立場だったら一夏君の様になってる自信がある。

 

 

『マユ。どうかしたのですか?』

 

『どうした?真優』

 

『ちょっと隣の席の子が気になってさ…』

 

『オリムライチカ…確かホウキの幼馴染でホウキの想い人でしたね』

 

『お、想い人!?た、確かにそうだけど…』

 

『なんか机に顔を突っ伏したままで山田先生に呼びかけられてもまったく反応していないし…。もしかしたら風邪かもしれないし声をかけてみるね』

 

『…わかりました』

 

『あ、ああ』

 

 

そんな私に気がついたのか箒とアルトリアが念話で私に話しかけてきた。

確か一夏君は箒が6年前からずっと想い続けている人だったよね。

もし昔の箒ならそんなことない!とか言って暴れてただろうけど箒も成長したな~

で、一夏君のことは隠す気はないから私はさっきから机に突っ伏したままで

まったく反応がない一夏君のことが心配だから声をかけると伝えて席を立った。

 

 

「先生!ちょっと織斑君の気分が悪そうだから保健室まで連れて行ってあげてもいいですか?」

 

「え?は、はい!わかりました」

 

ギロッ!

 

 

ん?なにか一夏君を見ていた視線が私に向けられて敵意を向けられた気がするけど…気のせっか!

とにかく今は織斑君を保健室に連れて落ち着かせないと…

 

 

「よし、織斑君、立てる?」

 

「あ、ああ…」

 

 

私は一夏の前まで歩いて一夏の前に立つと麻耶に向かって一夏の体調が悪そうだから

一夏を保健室に連れて行ってもいいかと確認した。

麻耶先生も織斑君の隊長が悪そうなのを察していたからなのかあっさり許可してくれた。

周囲の視線(箒とアルトリアと麻耶先生は除く)が更に厳しくなった気がするけど

気のせいだろうし一夏君が立てるように私が手を差し出した。

そして何か殺気に近いものを感じた私は咄嗟に手を引いた瞬間…

 

 

ザクゥッ!!

 

 

「ひゃわっ!?」

 

「ぬおわっ!?」

 

 

何かが私と一夏君の間を通り過ぎて一夏君の机に刺さった。

何が刺さったのか気になって一夏君の机を見ると一夏君の机には黒い板状の物…

どう見ても出席簿が一夏君の机に深々と刺さっていた。

あれ?これって新しい暗器?

どう考えても出席簿が机に深々と刺さるなんて考えられ…

うん。シンなら普通にやりそうだから困る。

 

 

『真優。さっき俺のことをバケモノとかそんな扱いをしなかったか?』

 

 

そう思った途端にシンから念話が届いた。

あれ?確かシンは用務員のお仕事でここからかなり遠い場所に居るよね!?

なんで私が考えていることが分かったのさ!?

 

 

『勘だ』

 

 

勘って…。

うん。やっぱりシンはとんでもないバケモノだ。

とまあ現実逃避も程々にして出席簿が飛んできた方向を見ると

そこにはスーツを着た人が青筋を立てながら私と一夏君を見ていた。

というかこの人、凄く怒ってない?

 

 

「入学式早々のSHRで何をしている?」

 

「げぇ!?関羽!!?」

 

「誰が三国時代の英雄だ」

 

 

結構有名とはいえまさかそんな古い漫画のセリフを知っているなんて…。

一夏君とはうまい酒が飲めそうだ。とはいっても私達は未成年だからまだお酒は飲めないけど。

って、ちょっと待った。

あの人机に深々と突き刺さるくらいの出席簿で一夏君を叩く気だよね!?

入学式早々に殺人事件の現場に立ち会うなんて流石にいやだよ!

ええい!間に合え!!

 

 

ズガンッ!!

 

 

「オウフ…」

 

「「ま、マユーっ!?」」

 

 

お、思ったより痛い…。

でも私の狙い通り振り下ろされる出席簿の脅威から一夏を守ることができた…。

だけどその分一夏君に行くはずだった衝撃全てが私に襲いかかかるわけで…。

私は一夏の机に叩きつけられ、その様を見ていた箒とアルトリアは悲鳴にも近い声で私を呼んでた。

 

 

「いたた…」

 

「衛宮、なんで割って入った?」

 

 

机に叩きつけられた私は出席簿が直撃したところをさすりながらなんとかスーツ服姿の人に

向き直るとなんか青筋を増えてた。あれ?私はこの人を怒らせるようなことをしたかな?

そのあとスーツ服姿の女性は何故割って入ったのかと尋ねてきた。

そんなの簡単すぎる問題だ。

頭がとってもいい学者さんが小学校1年生の問題を解くよりも簡単な答えだ。

だから私は目の前の人の質問に対して自分の答えをこの人に返した。

 

 

「理不尽に殴られる人をほっとけませんから…」

 

「ほう?」

 

 

世の中理不尽な出来事が多すぎる。

私の心を救ってくれたミラクル求道者さんだと【間が悪かった】と答えるだろう。

私も自身に降りかかる不幸はその言葉で割り切れる。

でも、私以外の人が理不尽を被るのなら話は別だ。

一夏君は確かに怒られるような言動をしたけど流石に殴られるほどのものじゃない。

だから私は割って入って出席簿の脅威から一夏君を守った。

確かに痛かったけれどミサイルが近くに着弾した程じゃないから問題ない。

一夏君を守れたんだから万事OKだ。

私の返答を聞いたスーツ服姿の女性の青筋はなくなり、

代わりに感心したような表情で私の返答の続きを待っていた。

 

 

「だって殴られたら痛いじゃないですか。それよりも織斑君の体調が良くなさそうなので

 保健室に連れて行ってあげてもいいですか?」

 

 

私、衛宮真優にとっての信念は『誰かが理不尽な暴力を振るおうとするのなら全力で止めるし、

理不尽な暴力を振るわれる者を全力で守る』というものだ。

その信念で動いている私は理不尽な暴力を振るおうとする者が例えISが相手だろうと

世界最強だろうとお構いなしに敵対する。

あ、でもその場に居るのが自分だけだったら逃げるかも。

しばらく睨みあいが続いたけどスーツ服姿の女性がため息を吐いた。

 

 

「やれやれ。一応色々な人間を見てきたがお前の様な大馬鹿者は初めて見た…」

 

「それで織斑君を保健室に連れて行ってもよろしいですか?」

 

 

バカとかアホとかはよくみんなから言われていたけど大馬鹿者と言われたのはこの人が初めてだ。

でも睨みあいは私が勝ったんだ。

勝者の特権として一夏君を休ませるために保健室へ連れて行くことを許可してほしい。

 

 

「それは許可できん。せめて自己紹介を終わらせてからにしろ」

 

「………織斑君。大丈夫?顔がさっきよりもっと悪くなっているけど」

 

 

ぐぬぬ…。この人もなかなかに強情だ。

って、あれ?さっきから一夏君の顔色が物凄く悪くなっているけど大丈夫なの?

そしたら一夏君は手で私を制した。

一夏君が大丈夫って言うなら私は引き下がるしかない…。

 

 

「…えーと、織斑一夏です。趣味は料理、特技は家事全般です。

 ISに関する知識があまりありませんがよろしくお願いします」

 

 

短いけれどわかりやすい自己紹介…。

一夏君…なかなか侮れない…。

というか一夏君も料理が好きなんだ。

今度、私が作った弁当を食べてもらって評価してもらおうかな~。

箒もアルトリアも美味しいって言ってくれたけど人の味覚は千差万別、

同じく料理が趣味であるシンも色々な人からの評価を得たほうが伸びやすいって言っていたし…。

そんなこんなでクラスのみんなの自己紹介が終わると

最後に教壇に立っているスーツ服姿の人が自己紹介を始めた。

 

 

「諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。お前達新人を

 一年で使い物になるようにするのが私の役目だ」

 

 

あ、この人があの有名な織斑千冬さんなんだ。

うーん。私はISの勉強と鍛錬ばかりに費やしていたから名前しか知らなかった。

というかこの人凄く有名人だよね?

そんな人を一教師として雇用しているなんて…。

IS学園恐るべし…。

 

 

『マユ、ホウキ。耳を塞いでください』

 

『わかった』

 

『え?』

 

 

え?アルトリア?

耳を塞げって…でもアルトリアがご飯以外で真剣に話しかける時は

大抵自分達を危険から守るために言ってくれるものだ。

だから私はアルトリアに言われた通り耳を塞いだら…。

 

 

【キャーッ!!!!!!!!】

 

 

『うわっ!?』

 

『ひやあっ!?』

 

『くっ!』

 

 

バインドボイスがクラス中に響いた。ううん、違う。轟いた。

アルトリアですら顔を歪めさせるなんてどんだけ…。

しかもそんな大声にもかかわらず隣のクラスから苦情が来ないし窓ガラスも割れてない…。すげぇ。

アルトリアでさえも顔を顰めるバインドボイスが終わったと思ったらクラスメイトみんなが急に騒ぎ始めた。

 

 

「…毎年よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる」

 

「きゃああああああ!お姉さま!!もっと叱って!!罵って!!」

 

「でも時には優しくして!!」

 

「そしてつけ上がらないように躾けして~!!」

 

「私!今死んでもいい!!」

 

「「「「(うわあ…)」」」」

 

「ぎゃあぎゃあ騒ぐな小娘共。まったく、私が担任するクラスはこんな変態しかおらんのか…」

 

 

なんだろう…このHENTAIの集まりは…。

というか最後の人死んでもいいとか言っちゃいけないよ。

うん。IS学園のトップはわざと扱い辛い生徒を織斑先生のクラスに押しつけているんだと思います。

 

 

「む、そろそろSHRが終わるか。それでは一限目の準備をしておくように」

 

 

それでもしっかり職務を果たす織斑先生は立派な教師だと思います。

今度ケーキを焼いて差し入れに持って行こうかな…。

この前シンに教えてもらったブッシュ・ド・ノエルを作って持っていこう。

そうと決まればシンに買い出しをお願いしておこう。

 

 

『シン。ちょっといい?』

 

『ブッシュ・ド・ノエルを作るから材料を勝って来いと言うのだろう?

 そう言うと思って既に調理室の冷蔵庫に材料を保管し、調理室の使用許可も既にとっておいた』

 

『おお、流石シン!話がわかる!』

 

『おおかた織斑教諭に差し入れのつもりだろう?ならば俺も手伝おう』

 

『ありがと。それじゃあアルトリアが冷蔵庫の中身に気がつく前に作らないとね』

 

『了解だ。こちらも用務員の仕事が終わり次第調理室に向かおう』

 

 

念話でシンにお願いしようとしたことを伝える前にシンは既に準備をしてくれていた。

彼は本当に気がきく兄貴分だ。

そうと決まれば授業をしっかり受けて早く調理室に向かわないとね!

…調理室ってどこだっけ?

 

 

『君がいる校舎の1階の食堂の隣だ。何かをしようと考えるのはいいが場所くらいは把握しておけ』

 

 

…返す言葉もございません。

 

 

◆ Side 箒

 

真優の奴また無茶をして…。

と、まあ無事?にSHRが終わったわけだが周囲の真優に対する反応はあまり良いとは言えない。

 

 

「千冬様に対してなんて失礼な奴なのかしら!」

 

「なんという世間知らず…。こんな奴が同じIS学園の生徒とは思いたくないわ!」

 

「ねぇ。今度あいつを〆ちゃおうよ」

 

「賛成」

 

 

まったく…。

寧ろ千冬さんに対しておびえもせずに堂々と話をしただけ凄いと思わないのかこいつらは…。

まあ、真優の世間知らずさに関しては反論のしようがないがな。

そして最後の2人、どうなっても知らんぞ?

 

 

「失礼。そこの2人、少し話があるのですが…」

 

 

あ、終わったなあいつら。

正直アルトリアが敵に回ると考えただけで身体が震える。

シンが生身でISを装着したISの操縦者を倒したのと同じように

アルトリアも生身でISを倒せるだろう。

恐らく全盛期の千冬さんすらアルトリアは勝つだろう。

アルトリアと言う奴はそんな奴だ。

私がアルトリアに絡まれた女子生徒達に心の中で合掌していると

アルトリアが念話で話しかけてきた。

 

 

『ホウキ。私はしばらく席を外すのでイチカと話をしてきたらどうですか?』

 

『いいのか?アルトリアも一夏に興味があるのだろう?』

 

『ええ。ですがそれは後でも出来ますので今はホウキが話してきてください。

 6年も離れていたのなら積もる話もあるでしょうし』

 

『…ああ。それじゃあ話してくる』

 

 

確かに私は一夏に話したいことが沢山ある。

あれから剣の腕はどうなったのか?

しっかりと学業をこなしていたか?

今までどんな人と出会ったのか?

あげだしたらきりがない…。

だからアルトリアは私に話をして来いと言ったのだろう。

本当にアルトリアは食事以外で気がきく奴だ。

 

 

「…ちょっといいか?」

 

「え?箒か?」

 

「…廊下でいいか?」

 

「あ、ああ。だが休み時間もそんなに長くない」

 

 

すぐにわかってくれたか。

一応廊下に出たのはいいのだが…

 

「………」

 

「…………」

 

正直、緊張する。

なにせ6年ぶりの会話だ。

だけど何から話せばいいかわからない。話したいことは山ほどあるはずなのにな。

 

 

「そういえば…」

 

「なんだ?」

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう。箒」

 

 

私が何を話せばいいのかわからないでいることが一夏はわかったのか

一夏の方から話しかけてきた。

 

それに私が剣道の全国大会に優勝したことも知っていてくれた。

自分のことのように一夏が喜んでくれた。

嬉しくて涙が出そうになる…。

 

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ。すまない。一夏が私のことを覚えてくれ居たのが嬉しくてな…」

 

「そうか。でも当たり前だろ?幼馴染なんだからさ」

 

「ふふ、そうだな」

 

「っと、そろそろ一限目が始まる。戻ろうぜ、箒」

 

「ああ」

 

 

本当に一夏はあの時から変わっていない。

いや、悪い意味ではなく良い意味でだ。

本当ならもっと一夏と話していたかったが時間が待ってくれない。

後の話は放課後に聞くとしよう…。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

6年ぶりに箒と話せた時は嬉しかった。

6年前に別れた時のあいつの顔は本当に『酷い』の一言だった。

目は涙のせいで真っ赤だったし目の下もとっても濃いクマが出ていた。

あの時の箒の顔はまさに死人の顔だったんだ。

正直あのまま別れたら箒は二度と帰ってこないと思ったくらいだ。

だから俺は箒と別れた後もバイトを挟みながら師匠に剣の稽古をつけてもらっていた。

何かの奇跡で箒に会えたら今度こそ箒を守れるように…ってな。

でも、新聞であいつの名前が載っている項目を見つけて

一緒に載っていた写真の中に映る箒の表情を見た時はとても安心した。

最後に俺と別れた時の様な死人の様な顔じゃなくてとても生き生きとした顔をしていた。

箒の隣で一緒に笑っている子…

たぶんさっき俺に助け船を出してくれた真優さんだと気がついた。

正直、俺は真優さんに少し嫉妬している。

でも、それと同時に真優さんには感謝している。

箒にあの笑顔を取り戻したのはたぶん真優さんだ。

会うことが出来なかった俺ではあの笑顔を取り戻せそうになかったから…。

それで、休み時間が終わって一限目の授業が始まったわけだが…。

 

 

「――で、あるからしてISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、

 枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

「…………」

 

 

………正直何を話しているのかさっぱりわからない。

違法なISの運用は罰せられるのはわかったけど正直授業についていけない。

一応参考書は事前に貰っていたけどいつの間にかなくなっていた。

一応同じような参考書が本屋に売っていたけど

値段があまりにも高かったから買うのを断念した。

不幸中の幸いか俺は参考書に書いてあったISを動かす理論の内容は

ノートに書き取ってあったからノートに書き取った範囲内で

復習していたけどそれも完全じゃなかった。

特に法律関連がまるっと読めなかったのがツライ…。

うん、要勉強だな。

 

 

「織斑君。何かわからないところはありますか?」

 

「あ、えっと…」

 

「わからないことがあったら訊いてくださいね?なにせ私は先生ですから!」

 

 

山田先生が俺に話しかけてくる。

たぶん俺のことを心配してくれているのだろう。

胸を張って堂々としているところはとても頼もしい。

少し恥ずかしいが聞くは一瞬、聞かぬは一生と言うし正直に話そう。

 

 

「山田先生!」

 

「はい、織斑君!」

 

「ほとんどわかりません」

 

「え?ほとんどです…か…?」

 

 

うん。そりゃ引き攣るよね。

俺が同じ立場だった絶対引き攣る。

だが、わからないのも事実だ。

虚勢を張って後で取り返しのつかないことになったらそれこそ一大事だからな。

事故が起こってからでは遅いんだ…。

 

 

「え、えっと…織斑君以外で、今の段階でわからないって言う人はいますか?」

 

 

シーン…

 

 

うん。予想通りの反応ありがとう。

そりゃそうだよな。

みんな俺よりも勉強をしているから当然だよな。

そう思った矢先だ。

 

 

「はい!一夏君と同じでほとんどわかりません!!」

 

「はへ?」

 

 

真優さんェ…。

俺が言うのもなんだが最初から駄目だって相当だぞ…?

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 

「織斑、衛宮。お前達は入学前の参考書は読んだのか?」

 

 

うん。千冬姉がこれ以上となくご立腹です。

正直に言ったらあの出席簿で一発貰うだろうが黙っているよりはいいよな。

 

 

「ISの運用理論が終わったところでいつの間にかなくなってました」

 

「IS学園に入学する子が参考書を失くしたと言っていたからあげました!」

 

 

俺も大概だが真優さんも理由が酷いなおい!!

ってか、その知り合いに返してもらえよ!!

…なんか後ろに座っているアルトリアさんがおもいっきり落ち込んでいるのは気のせいか?

心なしか癖っ毛が萎びれている様に見えるが…。

ああ、2人揃って叩かれるな…。

 

 

「………放課後に新しい参考書を渡す。放課後になったら職員室まで取りに来い」

 

「「………はい」」

 

 

叩かれなかっただと…?

あ、でもこれは千冬姉の警告なんだろうな。『次はない』っていう意味で。

でも再発行してくれるのはありがたい。

放課後に取りに行こう。

そして、今度は失くさないようにしっかり管理しよう。

まあそんなこんなで長い一限目が終わった…。

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

ふぅ…ようやく一限目が終わりましたか。

まさか真優が全てを読み切っていないのに

参考書を失くした私に渡してくれたとは思いませんでした…。

もっと私がしっかりしていればマユに恥をかかせずに済んだというのに…。

で、マユはというと…。

 

 

「うーん…」

 

「なあ真優。ここわかるか?」

 

「ここはあらかじめ勉強していたところだから大丈夫だよ。

 あ、一夏。こっちの問題はわかる?」

 

「ん?ああ。こっちの問題は俺が勉強できていたところだから解けるぞ」

 

 

あの2人を見ているとなんだか和みますね。

ホウキも私と同じことを考えていたのかあの2人を見て和んでいます。

というかお互い名前を呼び捨てで呼び合うまでの仲にまで発展するとは…。

やはり血は争えないといったところでしょうか。

ですがイチカからシロウと同じ気配を感じるのですが気のせいでしょうか…?

…ん?

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 

あれは…セシリアですね。

おそらくマユとイチカに話しかけようと思っていたのでしょうが…。

今、あの2人は…

 

 

「で、ここがこうなって…」

 

「なるほど!つまりここをこうすればいいんだな!」

 

「そそ。あ、一夏。この問題がわかんないんだけど…」

 

「ああ、ここはこう解けば…」

 

「出来た!ありがとね!一夏!!」

 

「いやいや、俺の勉強も見てもらっているんだからこれくらいお安い御用さ」

 

 

あれはまったく聞こえていませんね…。

マユはひとつの物事に集中するとまわりが見えなくなるという悪癖があります。

おかげで私が夕食抜きになりかけたこともありますし…。

反応しないマユとイチカにセシリアは話しかけていますが

まったく気づいてもらっていませんね。

流石にあのままでは可哀想ですので声をかけましょう。

 

 

「えっと、聞こえてます?」

 

「いくら話しかけた所で無駄ですよ。セシリア」

 

「貴女は…アルトリアさん」

 

「はい、おひさしぶりです。数ヶ月ぶりですね」

 

「ええ。その節はお世話になりました」

 

 

セシリアも覚えていてくれましたか。

彼女と初めて会ったのは今から数ヶ月前、

私とシンがマユとホウキに出会ったあの日のことです。

彼女は代表候補生と呼ばれる地位にある人物で、強奪されたイギリスの専用機の奪還のために

あの研究所まで来ていた時に私達と彼女が鉢合わせしたのがきっかけです。

 

 

「いえ。無力化したのは私ではなくシンですから」

 

「だとしても、ですわ。…ところであの2人は何とかなりませんか?」

 

「無理ですね。あの2人は一度熱中し始めたら周りが見えなくなるタイプです。

 用があるのなら少し熱が冷めた後にするのがいいですよ」

 

「………そのようですわね」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「…席に戻りましょうか」

 

「…そうしましょう」

 

 

チャイムが鳴った。

これから二限目が始まる。

ISは強力な兵器です。扱うのならば最新の注意を払わねばなりませんからね。

ただ、そのことをマユに言ったら

マユはどこか悲しげな表情をしていましたが何故でしょうか…?

 

 

「この時間にクラス対抗戦に出る代表者を決める。ちなみにクラス代表は

 対抗戦に出るだけでなく生徒会の開く会議、委員会へ出席も行う。

 簡単に言えばクラスの代表だ」

 

 

ほう。クラス代表ですか。

一つのクラスの代表として参加するのですから

責任感をしっかり持った人でなければなりません。

決して珍しいからといって…

 

 

「自推、推薦は問わない。意見がある者はいるか?ただし、一度決めたら一年間変更はない。良く考えて決めろよ」

 

「はい!織斑君がいいと思います!!」

 

「はい!私も織斑君を推薦します!!」

 

「はいはい!私も!!」

 

「私も!!」

 

「私も!!」

 

「え!?俺ぇ!!?」

 

「………」

 

 

見事なイチカ押しですね。

オリムラ教諭に念押しされているにも関わらず物珍しさだけでイチカを推薦するとは…。

正直安易すぎるとしか思えません…。

ですが推薦された以上イチカは拒否することができません。

残念ですが私にはイチカを助ける手段はありません。

申し訳ありません。イチカ。

 

 

「あ、私はアルトリアを推薦します」

 

「私もアルトリアを推薦します」

 

 

なん…だと…?

もう私は誰かを率いるような器は持っていないのです!

もう二度とカムランの丘のような悲劇はごめんです!!

というよりもなぜ私なのですか!?

 

 

「待ってください!納得できませんわ!!」

 

 

ん?

セシリア…?

まさか安易にイチカを選んだことに怒っているのですか?

 

 

「アルトリアさんがクラス代表になるのならまだわかりますわ!!

 ですが物珍しさだけで男を代表にするなどクラスのいい恥さらしになりますわ!!」

 

「セシリア…?」

 

「わたくしはIS技術の修練のために来ているのであって

 この島国に来てまでISでサーカスをする気など毛頭もございませんわ!!」

 

 

いけない…。

セシリアは頭に血が上って自身が思っても無いことを言い始めている!

このままではイギリスと日本の国際問題に発展しかねない!

なんとしても止めねば!!

 

 

「大体、文化として後進的な国で暮らさなければならないこと自体…」

 

「セシリア。もうそこまでに…」

 

「イギリスだって大したお国自慢がないだろ。世界一まずい飯何年覇者だよ」

 

「ガハッ!!?」

 

「「ア、アルトリアーッ!!?」」

 

 

ゴフッ…。

まさかとんでもない伏兵がいるとは思いませんでした…。

恨みますよ…イチカ…。

ああ、何故私の故郷は料理の発展を疎かにしたのでしょうか…。

 

 

◆ Side 真優

 

 

「ガハッ!!?」

 

「「ア、アルトリアーッ!!?」」

 

 

セシリアが色々と国際問題に発展しそうなことを言いかけて

アルトリアがセシリアを止めようとしてくれたんだろう。

でも、思わぬところからアルトリアの弱点を突く伏兵がいるとは思わなかった!!

一夏の反論がアルトリアの急所にクリティカルヒットだよ!?

そのせいでアルトリアの口から血が出てるし!!

 

 

「アルトリア!しっかりして!!」

 

「「え?え?え?」」

 

「気を確かに!!傷は深いぞ!!!」

 

 

私と箒は急いでアルトリアの許に駆け寄ったけれど

アルトリアは今にも死にそうな状態になってる。

一夏とセシリアは驚いているようだけどそれどころじゃないよ!

前にうっかりアルトリアの故郷の料理のことを聞いたら

その日の夕食がお通夜状態になったんだよ!!?

聞いただけであんなダメージだったのにまずい飯

とかそれの何年覇者とか言ったら致命傷になるは当たり前じゃん!!

 

 

「ああ、シロウ…リン…ランスロット…モードレット…ガウェイン…

 今そちらに行きますよ……ガクッ」

 

「アルトリアが死んだ!!」

 

「この人でなし!!!」

 

「なぜに!?」

 

「なぜですか!?」

 

 

必死に呼びかけたけどアルトリアはそのまま倒れて遂には息をしなくなってしまった。

今の自分たちではアルトリアを生き返らせる方法はない。

周りのみんなや山田先生はもちろん織斑先生も固まっている。

ああ、アルトリア…こんなところで死ぬなんて情けない…。

だけどそんな私達のところに救世主が現れた。

 

 

「失礼する」

 

「む、確かシン・アスカといったか。何の用だ」

 

「なにぶんイヤな気配を感じたので。それで何事かと思ってこの教室に来た次第です」

 

「シ、シンさん!?」

 

 

たぶん念話でも叫んでいたのが聞こえたのだろうか…。

本来なら用務員の仕事をしているシンがわざわざこの教室にまで来てくれた。

私と箒では手詰まりの状態だけどシンならアルトリアを復活出来る手段を持っている。

シンがアルトリアを復活させる手段とは…

 

 

「なにが起こったのかと思ったらまたかよ。ほら、これを食え」

 

「ハムハムハム…ゴクン。…はっ!?私は今まで何を!?」

 

「ふむ、これで大丈夫だろう。失礼した」

 

「コホン、クラス代表は来週の月曜日に決める。それで異論はないな?」

 

「「は、はい」」

 

「わかりました」

 

 

シン特製プレミアムロールケーキ。

その美味さは一度心臓が止まった人さえも復活させられる程である。

私と箒も何度か再現しようとしたけれど足元にも及ばないのが現状だ…。

でもまあこれでアルトリアも元通りだ。

とりあえずクラス代表の決定戦は来週行われることになった。

…セシリアはともかく一夏は大丈夫かな?

 

 

◆ Side シン

 

 

「………はあ、本当に大馬鹿者だな。君は」

 

「返す言葉も無いよ…」

 

 

アルトリアが倒れてから数時間が経ち、放課後になった後、用務員の仕事を終わらせた俺は

先に調理室で準備をし、約束の時間をから20分ほど遅れて調理室に入ってきた真優から

遅れた事情を聞いた時は本当に呆れた。

誰に対してかというと真優とアルトリアだ。

何故あんなにも大きい参考書を失くすことができる?

ある意味芸術的だ。

そして、完全に読んでないにも関わらずその参考書をアルトリアに渡す真優も真優だ。

遅れたのも参考書を受け取りに職員室までいっていたからというのだからな。

 

 

「そう思うのならもう少し自分を鑑みろ。それで幾分か良くなる」

 

「そうは言ってもこれが性分だしな~」

 

「本当に君という子は…。完成したぞ」

 

 

一応注意はしておいたが真優は自分の生き方を変えようとはしないだろう。

まったく、誰に似たのやら…。

っと、愚痴を言っている間に完成したな。うむ。我ながらいい出来だ。

後はこれを箱に詰めて織斑教諭の許へ届けるだけだ。

 

 

コンコン

 

 

『誰だ?』

 

「衛宮真優です。少し織斑先生に差し入れを持ってきました」

 

『………入れ』

 

 

というわけで寮長室まで来たわけだが…。

真優が来たことに心底驚いていたのだろう。ドタバタと音がした2分後に入室の許可が出た。

 

 

「失礼します。………」

 

「………」

 

 

中に入った瞬間、俺と真優の目に映ったのは見事なまでの汚部屋だ。

脱ぎ散らかされたスーツ。周囲に転がるカップ麺の器。

所狭しと転がった空き缶。

正直見るも耐えない惨状だ。

 

 

「少し散らかっていると思うがそこは目をつぶれ」

 

「は、はあ…?」

 

「…………………………」

 

 

これが少しだと…?

これが散らかっている程度だと?

これは差し入れを渡す前にやるべきことが出来たな。

 

 

「真優、君は今からアルトリアと箒と一夏君を読んでこい」

 

「え?う、うん。わかった」

 

「何をするつもりだ?」

 

 

俺は真優にアルトリア達を呼んでくるように指示を出すと差し入れの

ブッシュ・ド・ノエルを冷蔵庫へしまい、掃除用のエプロンを着用した。

何をするつもりだと?そんなことは決まっている。

 

 

「織斑教諭、失礼ですがこの汚部屋を“掃除”させていただきます」

 

「いや、そこまでする必要は…」

 

「“掃除”させていただきます。寮長たるもの

 寮長らしい部屋を維持していただかなければ困ります」

 

「私だって掃除くらいは…」

 

「それで弟君の参考書を誤って捨てたのでしょう?」

 

 

この汚部屋の掃除だ。

ここがプライベートな場所なら放っておく。だがここは公共の場であり、

尚且つその部屋に居るのは【世界最強のブリュンヒルデ】織斑千冬だ。

大方一夏君の参考書がなくなったのも彼女が原因だろう。

 

 

「な、なぜそれを!?」

 

「勘ですよ。なんにせよ、このままでは生徒達の示しがつきません。よろしいですね?」

 

「うぐぐ…許可する」

 

 

やはり一夏君の参考書がなくなった原因は彼女か…。

電話帳と間違えて捨てたなら一夏君の過失だ。

だが、急になくなったというのなら原因は目の前に居る彼女だろう。

『織斑千冬の家事能力の無さで弟の参考書が紛失』

これが一般的な家庭ならば家事ができない姉と家事ができる弟というまだ微笑ましいものだ。

だが、その対象が織斑千冬という人物となれば話は別だ。

この事が世間に洩れれば大騒ぎになることは確定だ。

最悪、それが原因で暴動がおこる可能性だってある。

人間という種は最も自分勝手な生き物だ。

自分の信じた織斑千冬が仕事もプライベートも常に凛々しくしているものだと

勝手に“妄想”しているのだ。

俺がいた世界でもその勝手な“妄想”を本人に押しつけて

戦争を引き起こした大馬鹿者がいたくらいだ。

この世界でもそういった輩がいる可能性が高い。

恐らくそれは彼女自身も自覚しているのだろう。

だから俺に掃除をさせる許可を出した。

ならば後はしっかりと責務を果たすだけだ。

 

 

◆ Side 一夏

 

 

「つ、疲れた~」

 

「もうクタクタ…」

 

「まさか部屋の汚さにここまで磨きをかけていたとは…」

 

「これならモンド・グロッソの本選に出場していた方がまだ気が楽だ…」

 

 

「お腹がすきました。食べ物を要求します」

 

「でもこの時間はもう食堂が開いてないよ…」

 

 

 

いきなり呼ばれたと思ったら千冬姉の汚部屋を掃除するハメになった。

なんか真優からシンさんが呼んでいると言われて寮長室へ来てみれば

千冬姉の見事な汚部屋が待っていた。

そしてその中央にはせっせとゴミの分別をしているシンさんと同じく

ゴミ袋にゴミを入れている千冬姉の姿だった。

それで箒とマユとアルトリア(会った時に呼び捨てで呼んでくれと言われたから呼び捨てで呼んでる)

と一緒にこの人外魔境を開拓してみんな疲れ果てていた。

アルトリアは夕飯が食べたいと言っていたけど残念ながら食堂はもう閉まっている。

 

 

「そう言うと思ってあらかじめサンドイッチを用意しておいた。さ、皆で食べるぞ」

 

 

どうしたものかとみんなで天を仰いだと思ったらゴミ袋を集積所へ出してきたシンさんが

俺達のために夕食を持ってきてくれた。

シンさんも疲れているはずなのに俺達のために色々と頑張ってくれている。

正直、同じ人間としてシンさんは俺の憧れと言ってもいい。

 

 

「あと、こちらで用意した紅茶も淹れておいた。ゆっくりと堪能していってくれ」

 

「うまそう…」

 

「パーフェクトです。シン(ジュルリ…」

 

「…わざわざすまない」

 

「シン。いつの間に私達の夕食の用意を…」

 

「そういえばシンの料理を食べるのなんて久しぶりかも…」

 

「悪いが時間が無かったので昼食の残り物で済ませた。口に遭わなければ言ってくれ。ああ、それとアルトリア。1人3個までだから人の分もとるなよ?」

 

「なん…だと…」

 

 

料理も出来て戦闘も出来て家事も出来て本当にこの人はハイスペックすぎる。

弟子入りを頼んでみようか…。

俺も師匠のおかげで戦闘に自信が出来たけど最近は師匠との稽古をしていない…。

師匠は元気にしているだろうか…

 

 

「俺の弟子になりたいのか。だが、今はクラス代表決定戦に専念するべきだ。

 それが終わった後なら別にいいぞ」

 

「マジッすか!?」

 

「ただし、勉学を疎かにしないこと。これが条件だ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

シンさんはクラス代表決定戦が終わった後で

勉学を疎かにしないという弟子入りを許可してくれた。

正直に言って嬉しい。

弟子入りを許すというのは弟子にする人を認めるということだって師匠が俺に教えてくれた。

たぶん俺は誰かに自分のことを認めてほしかったんだろうな…。

っと、感傷に浸っている場合じゃない。

明日からクラス代表決定戦に向けた特訓をしないとな!!

 

 

「なにをボッとしているのですか?イチカ。

 あ、食べないならこのブッシュ・ド・ノエルは私が…」

 

「させるかぁ!!」

 

 

うん。まずはこの食欲魔神が俺のデザートを食われる前に食べることが先決だな!

 

 

 

 

 




どうも、明日香です。
今回から各キャラの視点として物語を進めていきます。
誰の視線なのかは◆ Side ○○ と書いておきます。
さて、今回は箒の幼馴染である一夏、チョロインことセシリア、頼りない服担任山田先生、
世界最強の織斑千冬が登場しました。
ちなみにこの作品におけるシンの性格はシン+エミヤシロウという感じになっています。
次回はクラス代表決定戦になります。

悲報:織斑千冬の家事スキルが原作よりも悪化しました。


感想をいただけると幸いです。

それでは、失礼します。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。