なんだ…あれは…。
僕は現在の状況に震えていた…。
僕達と戦っているのは30を超えるISの大群…。
右手にライフル、左手にはシールド、バックパックには飛行をするための大型ブースターとミサイルポッドが一体化されたパッケージが装備されている。
そして、なによりもその技術体系はストライクと酷似している。
「あの銀の福音だった奴もそうだけど取り巻きの奴らはなによ…。
真優のインパルスやアンタのストライクとそっくりじゃない…」
「そっくりどころじゃない。あれはストライクを基に改良、量産された機体だ」
「なによそれ!?」
いや、セイバーチームの一員として開発チームに加わっていた僕とシャルロットにはわかる。
あれは、ストライクの系譜だ。
単純なスペックならばストライクを上回る性能を持っているだろう。
それだけでも厄介なのにその中心でアルトリア達と戦っている天使のような姿のISがいる。
おそらくあれが銀の福音【だった】もの。
今では姿を大きく変え、ボディは僕達が戦っているISのようなシャープなボディに、瀬のウイング部分は2対となり、その間には強力なビームキャノン、右手には僕達が使っているビームライフルとよく似たライフル、左手には堅牢なシールドを持ち、腰にはレールキャノンが装着されている。
そして、その強さはアルトリアと箒とチルノとグラディスとラウラと簪の6人がかりで仕掛けてなんとか戦えているという圧倒的な強さを持っている。
その取り巻きと戦っている僕達もボロボロだ。
セシリアは全ての固定装備が破損して拡張領域に追加されているあの剣一本で戦い、鈴音は二振りの青龍刀と龍砲が一門破壊され、現在はシャルロットから借りたアサルトライフルで応戦し、浜辺からアンチマテリアルライフルで狙撃していたランスロットさんは弾が切れたために援護射撃が行えなくなり、シャルロットは拡張領域にある装備の8割が弾切れになって残りの武装はハンドガン系かハンドグレネードとシールドピアスのみの状態になり、僕もランチャーストライカーの全武装の弾が切れてソードストライカーは武装がすべて破損、今はエールストライカーで戦っているけど残りのエネルギーが30%を切っている。
まさに絶望と呼ぶに相応しい状況だ…。
だけど…
「だけど、ここから逃げるわけにはいかない。ここを抜かれれば私達の後ろに居る真優達が犠牲になってしまう」
「そのとおりですわ。真優さん達を守れるのはわたくし達だけです」
「そんなの言われなくてもわかってる!」
僕達の後ろには戦う力を持たない人達と専用機を持っていない真優がいる。
だから僕達は負けるわけにはいかない!
第26話「未来へと繋がる明日を求めて…」
◆ Side アルトリア
臨海学校近海 海上
「くっ…」
「あーもう!なんて弾幕なのよ!!」
「これは…流石に辛いな」
今、私達は目の前に居る告死天使と刃を交えています。
いや、私達が一方的に攻撃されていると言った方が正しいでしょうか。
圧倒的な火力とスピード、そして堅牢な装甲とシールド…何もかもが私達を上回る告死天使は私達を嘲笑うかのようにじわじわと嬲ってきている。
その姿はシンの記憶にあったあの告死天使と寸分も違わぬものでした。
私は全て遠き理想郷【アヴァロン】のおかげであちらの攻撃を完全に遮断することができますがホウキ達はそうもいかず、回避に専念していたもののライフルのビームを少し掠ってしまい、残りのシールドエネルギーは残り僅かしかありません…。
もし、この状態で翼の中に収納されている砲門からのビームを受けてしまえばホウキ達の命は容易く刈り取られてしまいます。
このままでは…。
ドガアァァァァン…!
「きゃあ!?」
「っ、カンザシ!」
そして、告死天使の弾幕を捌ききれなかったカンザシはレールガンの攻撃をまともに受けてしまい、黒煙を上げながら海へ落ちていきました…。
私が不甲斐ないばかりに…!
『こちらランスロット、撃墜されたカンザシを回収しました。気絶はしているようですが命に別状はありません』
「…っ、皆、私の後ろに!」
「わかった!」
どうやら船を調達してきたランスロットがカンザシを回収してくれたようです。
命に別状もないらしく、一安心したいところでしたが告死天使の砲門がこちらを狙っていることに気がつき、ホウキ達を私の後ろへ後退させ、私は全て遠き理想郷【アヴァロン】を構えて真名を開放しました。
「全て遠き理想郷【アヴァロン】!!」
私が全て遠き理想郷【アヴァロン】の真名を開放すると同時に告死天使の攻撃が私達に殺到し、私達を中心に大爆発を起こしました。
「くぅっ…!」
「くっ…このままではジリ貧だぞ!」
何とか攻撃を防ぐことが出来ましたがこのままではジリ貧のまま、ただやられていくのを待つのみになってしまいます。
なんとかこの状況を打破しなければ…。
「何をするつもりだ!?」
「知れたこと!」
告死天使の攻撃が一瞬だけ止まった瞬間、私の後ろにいたグラディスが告死天使へ突撃を慣行しました。
「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!」
「まさか!?やめるんだ!!?」
『!』
ドシュゥゥゥンッ!!
「この程度!!」
『!?』
「とったぞ!告死天使よ!!」
グラディスの意図を察したホウキは彼女を止めようとしましたが次々と飛んでくる弾幕を回避することで手一杯になり、突撃を敢行したグラディスは告死天使の弾幕を掻い潜り、シャルルから渡されていた予備のビームサーベルの出力を最大にして告死天使の脇腹に突き立てました。
しかし…
『!』
「ぐふ…ここまでか…!後は、任せたぞ…!!」
「「「「グラディス!!」」」
グラディスの渾身の一撃は告死天使の脇腹を僅かに掠めただけに留まり、グラディスの打鉄はビームサーベルの出力を最大にしたことでシールドエネルギーがレッドゾーンに突入し、告死天使にカウンターの蹴りを受け、海へ落ちると同時に機能を停止しました。
私達が束になって戦っても歯が立たない…こんな化け物を相手にシンは一人で戦っていたというのですか…!
「っ!?しまっ!!?」
二人が撃墜された一瞬の隙を突かれ、告死天子の放つ死の光が私を貫こうとした瞬間、その光は後ろから現れた者の手によって止められました。
「なんとか間に合ったな…」
「シン…?」
「俺もいるぜ。父上」
「モードレッド…」
私を死の光から救った者の正体…
それは、ISを起動することが出来ないはずであるシンでした…。
私を庇う様な形で私の前に佇むシンとモードレッドの背はとても頼もしく、それと同時にシンとモードレッド共に戦えるということが嬉しかった。
「嬉しいのはわかるがそれはこの戦いが終わってからだ。次がくるぞ」
「おいおい、デストロイが5機か…こりゃ本気で俺達を潰すつもりだな」
ですが、ずっと嬉しがっている暇も無いようです。
どうやらあのときの黒い巨人を5機同時に投入してきたようですね…。
あれを放っておけばここ一帯が焼け野原になってしまいます。
でも、あの告死天使を放っておくわけには…。
「大丈夫、あの子のことは私に任せて」
「マユ!?ですがあの敵は…」
「いいから!今はあの黒い巨人を倒すことに専念して!」
そこへ、本当なら旅館にいるはずのマユがやってきました。
どうやらシンからインパルスを受け取ったようです。
ですが今のマユがあの告死天使と戦うなんてあまりにも無謀すぎます!
「でも、あの告死天使は私達が束になってかかっても全く歯が立たなかったんだぞ!?」
「大丈夫、私は大丈夫だから…」
ホウキも私と同じ考えだったらしくマユを止めようとしましたがマユの目は真剣そのものです。
おそらく私達がどう言ってもマユは譲ろうとしないでしょう。
このまま説得に時間をかけてここを抜かれてしまっては元も子もありません。
ならば、ここはマユに任せるのが最善の行動ですね。
「真優、この敵はまかせたぞ」
「絶対に勝ってね!!」
「…わかりました。ここはお願いします」
「…わかった。絶対に生きて戻ってくるんだぞ!」
黒い巨人の元へ飛んでいくシンとモードレッドの後を追い、私達も黒い巨人の元へ向かいました。
今の私達ができることは少しでもはやくあの黒い巨人達を撃破し、マユの許へむかうことです。
マユ、御武運を…!
◆ Side 真優
臨海学校近海 海上
「アルトリア達は行ったか…」
アルトリアはあの黒い巨人…デストロイの許へ向かってくれた。
アルトリアには悪いけどこの子とアルトリアの相性は最悪だ。
あの剣の真名開放以外の攻撃ではあの装甲を超えることが出来ない。
そして、アルトリアの機体はとにかく装甲が薄い。
一発でも受ければ撃墜される上にスピード面でも勝ち目が無いから全て遠き理想郷で引き篭もるしか生き残る手段が無い。
それは同じ聖剣使いであるチルノやセシリアにも言えること。
私を除いて唯一対抗手段を持つシャルルも取り巻きのISとの戦闘で手を出すことが出来ない。
ならば、この子の相手は私が相手をするしかない。
【真優様、真優様は先程の戦闘でかなり消耗しています。今はインパルスの搭乗者保護機能と
私の能力でなんとか戦えますが真優様が戦える時間は最長5分です】
【それ以上は安全装置が起動して戦闘ができなくなる。いいな?】
「わかった。要は5分以内にあの人を助ければいいんだね?」
【…そういうことだ】
戦いを始める前にアーチャーとサファイアから注意があった。
今の私はインパルスとサファイアの使用者保護機能によって無理矢理動かしている状態らしい。
だから戦闘機動に耐えられる時間は5分だけらしい。
それ以上時間が過ぎれば安全装置が起動して戦闘機能を停止してしまうらしい。
ならば話は簡単だ。
安全装置が起動する前にあの子を止める。
イメージBGM:空の境界より paradigm
「アーチャー、サファイア、ソードとブラストの兵装を一斉展開、その後にデスティニー・シルエットを使うよ」
【大盤振る舞いだな…だが、この状況ではそれ以外に手は無いな】
「さあ、いくよ!!」
今私ができることは全力でこの子を止めるということだけ。
あとで慎二おじさんたちに怒られるかもしれないけど今は人命がかかっている。
この状況で出し惜しみなんてしていられない。
「ターゲットロック!」
【釣りはいらん。全弾もっていけ!】
ズガガガガガガガガッ!!!!
『!』
ドシュゥゥゥンッ!!!!
私の弾幕とあの子の…フリーダムの弾幕が激突し、大爆発を起こす。
爆発のせいで一瞬だけだがセンサーが利かなくなる。
だけどその一瞬さえあれば十分だ。
【セーフティー解除、デスティニー・シルエットを起動します!】
デスティニー・シルエットを起動し、デスティニー・シルエットのオプション装備であるソリドゥス・フルゴールを展開した左腕を前に構えて強化されたスラスターを全開にしてフリーダムの懐に飛び込む。
「このまま突っ込む!!」
セイバーチームの人達はとんでもないものを作ってくれた。
フリーダムの砲撃は並のシールドならば容易く貫通するほどの威力があるのにその砲撃をまともに受けてもびくともしていない。
「はああああああああああああ!!!!!!」
『!』
バチィッ!!
フリーダムの猛攻を防ぎながら私はフリーダムが砲撃できない距離までフリーダムに接近し、エクスカリバーを振り下ろす。
フリーダムも砲撃が出来ないと判断したのか腰にあるビームサーベルを抜き、逆袈裟に振り上げた。
互いのビームの干渉によって激しくスパークを起こしている時、私の頭の中に見たこともない光景…否、フリーダムの記憶が流れ込んできた。
間違いない。フリーダムは私のインパルスと同じでシンの居た世界に存在したMSを基に生まれた存在だ。
『!』
「そこ!!」
ドシュゥゥゥゥゥンッ!!!
「アーチャー!残り時間は?」
【あと1分だ!】
しばらくの膠着の後に私とフリーダムが同時に距離をとり、ビームキャノンを発射する。
一時的に視界がホワイトアウトするがそれは相手も同じ状況だ。
ビームライフルを連射しながらアーチャーに残り時間を聞く。
どうやら既に4分経過しているらしく制限時間は残り僅かとなっていた。
だが、その価値はあった。
ピピピッ!!
「ん…【光の翼】…?」
【おそらくこのパッケージ専用の能力だと思われます】
「この能力は…アーチャー、サファイア!この能力は今から使える?」
【はい、問題ありません】
【問題ないがかなりのGが掛かる。相応の覚悟はしておけ】
ひとつはデスティニー・シルエット専用の能力である光の翼の開放。
もうひとつはあのフリーダムは性能こそシンの居た世界のMSを忠実に再現されているがその担い手の動きはほんの僅かしか再現できていない。
その証拠にフリーダムの脇腹辺りにほんの僅かだがビームサーベルによる傷跡がある。
ならばそこに勝機がある。
「アーチャー、サファイア!これで決めるよ!!」
青い翼のスラスターから大出力の粒子が放出され、光とほぼ同等の速さでフリーダムとの距離をつける。
一方、フリーダムはまともにターゲットをロックできていなかったのかあさっての方向に砲撃を乱射している。
それもそうだ。この光の翼はただの加速装置ではなく、放出されている特殊な粒子による幻惑効果とレーダーの無効化を行っているのだ。
故に砲撃“のみ”しか再現できなかったフリーダムではまともに迎撃することができない。
これで終わらせる!
「はあああああああああ!!!」
『!?』
ドスッ!!
サイドアーマーに搭載されていた対装甲ナイフを取り出し、フリーダムの脇腹にある僅かな傷に突き刺す。
そう。グラディスさんが捨て身で傷つけた場所こそエネルギーを全体に伝播させるISの動脈ともいえる部位だ。
例え無限のエネルギーを持っていたとしてもそのエネルギーを供給するパイプを破壊してしまえばエネルギーは無くなる。
これで、この子が暴れることはないはずだ。
動脈を破壊されたフリーダムはしばらくカメラアイが連続で点灯させるとカメラアイから輝きが無くなると糸が切れた操り人形のように力を失い、私にもたれかかる形で機能を停止した。
どうやら無力化に成功したらしい。
「アーチャー、残り時間は?」
【残り1秒だ。まったく、無茶をする…】
アーチャーに残りの戦闘可能時間を聞くと残り時間はラスト1秒だったらしい…。
アーチャーから小言を言われたがその無茶のおかげで“操られていた”フリーダムとそのパイロットの命を救えたのだ。何の問題も無い。
ただ、身体が鉛のように重い…。
【真優様、これ以上の戦闘は不可能です。あとはアルトリア様達にまかせましょう】
【いや、どうやらその戦闘も終わったようだぞ】
「そっか、良かった…」
【マスター!?】
【真優様!?】
どうやらアルトリア達も無事に勝てたらしい。
っと…安心したら急に眠くなってきた。
やっぱあの博士との連戦は流石に堪えたみたいだ…。
せめてこの人を安全な場所に届けないと…。
「大丈夫、僕が何とかするから今は休んでもいいよ。真優…」
薄れゆく意識の中聞こえたのは私を抱きかかえながら心の底から安心した顔をしたシャルルの声だった…。
「ああ、安心したよ…」
シャルルの声が聞こえて安心しきった私は意識を闇に放り投げた…。
今日は長く眠れそうだ…。
どうも、明日香です。
今回で第1章最大の山場を終えました。
あの後、デストロイがどうなったかは次回でわかります。
さて、次の話で長かった第1章が終わります。
次回を楽しみにしていただければ幸いです。