IS~衛宮の娘は遥か高き宇宙を目指す~   作:明日香

14 / 32
※原作とは大きく設定が異なるキャラクター達が登場します。
特にチルノとラウラは原作と大きく違う設定です。


第9話「4人の転校生」

あたいの親友のお墓参りが行った日の翌日のことだった。

学校に通った方がいいとエルに言われてギルがあたいに持ってきたのは封筒入りの手紙だった。

それで、その手紙に書かれた場所に行ってみるとそこは河童が目を輝かせるような場所だった。

見たことがない機械ばかり…。

凄く好奇心をそそらせる様な機械ばっかりだったけど今は総合受付っていう場所に行かないと…。

それからしばらく歩いているとイギリス英語で【総合受付】と書かれた場所に着いた。

たぶんここが目的地だと思う。

 

 

「すみませーん」

 

「はい。IS学園イギリス支部へようこそ。今日はどのようなご用件ですか?」

 

 

目的地に着いたあたいは受付の人に声をかける。

するとすぐに受付の人が応対してくれた。

うん。いきなり門前払いされると思ったけどそういった心配はないみたい。

あたいはナノトランサー(エルから貰った)からギルに貰った手紙を取り出して受付の人に渡した。

 

 

「…しばらくお待ちください。今、担当の者を連れてきます」

 

 

手紙を受け取った受付の人は手紙を見た瞬間、一瞬だけ顔色が悪くなったけどすぐに対応してくれた。

うーん。ただの手紙の筈なのになんであんなにも焦ったんだろう?

受付の人が電話で誰かに連絡をするとしばらくして無駄に豪華な服を着たおばさんがあたいの前にやってきた。

このおばさんが受付の人が連絡をしていた人かな?

 

 

「こんな時期にIS学園への入学を希望しているのは貴女ですか?」

 

「………はい。そうです」

 

 

おばさんの声を聞いた瞬間、あたいは背筋が凍るような感覚がした。

あたいの本能がここにある全てのモノの精霊があたいに警鐘を鳴らしている。

こいつは危険な奴だと…。

こいつは汚物を詰めた袋を装飾で誤魔化している様な奴だと。

だけどここで逃げるわけにはいかない。

あたいはエルに教えてもらった時の様にちゃんとした礼儀作法で返事をする。

 

 

「このような時期にあの学園へ入学しようというのですからそれなりの代償がいりますわね」

 

「………その代償とはどのようなものでしょうか?」

 

「ふむ。貴女が腰に下げているその剣…それを渡して頂いたら認めましょう」

 

 

………このBBAはなんて言った?

あたいが持っているこの剣を渡せ?

バカを言うんじゃない。この剣はもう居なくなったあたいの親友の形見だ。

こんな見てくれだけの汚物に渡せるようなものじゃない。

寧ろこんな奴が触ることはもちろん、見ること事態が許されない剣だ。

そんな代償で入るくらいならこっちが願い下げだ。

 

 

「お断りします。この剣は私の親友の形見です。おいそれと渡すことはできません」

 

「…そうですか。ならば私が呼んだ試験官に勝つことが出来たならば入学を認めましょう」

 

「わかりました。その条件でかまいません」

 

 

どうやら実戦による試験をクリアすれば入学を認めてもらえるらしい。

その方があたいとしてはありがたい。

難しい試験とかさっきの様な賄賂を渡して入学するなんてまっぴらごめんだからね。

あたいは受付の人に案内されて第2ピットという場所に入り、そこにあった鋼鉄の鎧を着た。

受付の人の話によるとあたいの相手をする人はこの鎧を着た大会で優勝した人らしい。

だとしてもあたいは止まるわけにはいかない。

あたいは親友の形見である剣を片手にアリーナへ飛び出した。

その後は簡単だった。

試験官の人をこの剣だけで打ち倒して入学を認めてもらい、今はこうして学園に来ている。

とはいっても今はもう夜中だから適当に剣が振れそうな屋上で剣を振っていた。

そこであたいは真優と出会った。

あたいはこの出会いを一生忘れない。

だって、真優の眼はあたいと同じように強い決意を持った眼をしていたから…。

 

 

第9話「4人の転校生」

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 一年一組 教室

 

 

あの襲撃事件から一週間が経ちました。

破壊されたアリーナの復興も終わり、システムのクリーニングも完了したということで

今日からまたいつもの授業が始まります。

座学が心配だったマユとイチカもしっかりと予習をしたので授業が遅れることはないでしょう。

何せ私達が総掛りで教え込んだのですから。

 

 

「突然ですが今日は転校生の方が一組に編入されることになりました」

 

 

転校生ですか…。

この時期に編入ということは新型ISのテストの為でしょうか?

そういえばシンの話を聞く限りだとマユのISのプロトタイプの使い手であるあの兄妹が

今日編入されると言っていましたからおそらく転校生はその二人なのでしょう。

…その割には廊下からする気配は四人も居ますが。

マヤの声に従って廊下から四人の転校生が入ってきました。

金髪の兄妹はデュノア兄妹なのはわかりますがあとの二人は…。

 

 

『っ!?』

 

 

残りの二人はとてつもない魔力を持っています。

それぞれ名を名乗ったので名前はわかりました。

銀髪の少女…ラウラはイリヤスフィールに匹敵するほどの魔力を…。

もう一人の水色髪の少女…チルノはイリヤスフィールをも遥かに上回る魔力を持っています。

そして、ラウラは明らかに此方へ…正確にはマユへ殺気を放っています。

この殺気は普通の人生を生きてきた者ではなく戦場に居た者の殺気…

つまり戦いに身を投じている者が持つ特有の殺気です。

このような殺気に対する耐性のない者は既に何人か気絶しています。

 

 

「貴様が衛宮真優か?」

 

「ん?確かに私が衛宮真優だけど…」

 

 

いけない!

マユは自分に向けられている殺気に気付いていない!

まさか衆人環視のこの場でマユを亡き者に!?

すぐに止めなければ!

私と同じくラウラの殺気に気がついたホウキとセシリアが反射的に立ち上がった瞬間、

マユは私達の想像の斜め上をいく行動をとりました。

 

 

「ラウラだったっけ?よろしく(スッ」

 

 

…まさかラウラに握手を求めるとは。

思わず私は机に顔を突っ伏してしまいました。

ホウキとセシリアも私と同様に机に顔を突っ伏しています。

自分に対する好意と悪意にとても鈍感で肝心なところで【うっかり】をやらかす…。

本当にマユはシロウとリンの娘だと改めて痛感させられます。

それで、当のラウラは…

 

 

「ああ。よろしく頼む(スッ」

 

『(ええ~…?)』

 

「うん。仲が良いのはいいことだね」

 

 

あっさり殺気を抑えて普通に真優と握手をしました。

その光景に思わず当の本人とチルノ以外が全員脱力しています。

まさかあれだけ殺気を放っていたのに特に手を出すようなことをせず普通に握手するなんて…。

しかも心なしか嬉しそうな顔をしています。

ちなみに脱力しなかったチルノは何故か腕を組んで得意気に首を縦に振っていました。

なんでしょう。私が率いていた円卓の騎士達よりも遥かに厄介な気がします。

…色々な意味で。

 

 

◆ Side 真優

 

 

IS学園 第3アリーナ 放課後…

 

 

「どうした!足を止めていては的になるだけだぞ?」

 

 

昨日の夜に出会ったチルノと今日のSHRに出会ったシャルロット達を加えた私達は

距離が遠いからあまり使われていない第3アリーナを借りていつもの訓練をしていた。

今、シンは一夏と箒を相手に、アルトリアはセシリアと鈴音を相手に模擬戦を

チルノとラウラはISを使わずに白兵戦の訓練をしている。

で、残った私はシャルルとシャルロットからインパルスの前身である

【ストライク】と【ラファール・リヴァイヴⅡ】の開発コンセプトと

現在おじさんが経営している間桐グループで行われているプロジェクトの勉強している。

 

 

「へー…私のインパルスガンダムとシャルルのストライクはシャルロットのISが原型なんだ」

 

「うん。僕のラファール・リヴァイヴⅡは拡張性が高かったラファール・リヴァイヴを

拡張領域を20まで増やして防御力を上げた機体なんだ」

 

「そして、僕のストライクには装甲にフェイズシフト装甲が使われていて、

実弾やレーザーに対して最強といってもいいくらいの防御力を持っているんだ」

 

 

拡張領域が20か…一夏が聞いたら泣いて羨ましがりそうな数だね。

もともと拡張性の高さと後付け可能な装備の数が売りだったラファール・リヴァイヴの

拡張領域を倍増と防御力を一気にはね上げたのがシャルロットのラファール・リヴァイヴⅡで

更に装甲を変更してビーム兵器を使用可能にしたのがシャルルのストライクらしい。

どちらも非常に高いスペックを誇っているこの二機にも欠点がある。

シャルロットのラファール・リヴァイヴⅡはラファール・リヴァイヴよりも

重量が増しているから機動力が原型となった機体よりも遥かに落ちている。

一方シャルルのストライクは装甲をPS(フェイズシフト)装甲にしたことで

高い防御力と機動性を実現した機体に仕上がったのは良いけれど

何も装備されていない状態のストライクは対IS用のナイフである

アーマーシュナイダーだけしか装備がないため火力が非常に落ちている。

これはシャルロットのISであるラファール・リヴァイヴⅡにも言えることだけどね。

 

 

「色々と欠点はあるけどその欠点のデータを収集するのも重要な仕事なんだ」

 

「確か6機のテスト機を使って得たデータを基に1機のISを作るプロジェクトだったっけ?」

 

「うん。その中でアルトリアさんが使っているISがその第1段階のISで

僕達のISはそれぞれ第3、第4、第5段階のISなんだ」

 

 

これは間桐グループがありとあらゆるデータを得るために

今、間桐グループではISの製作チームである【セイバーチーム】が新しいIS開発のプロジェクトとして【セイバープロジェクト】が計画されている。

完全に操縦性外視の超高反応ワンオフ機と反応速度最高の搭乗者が乗ることによって

ISの最高峰の運用データをとるための【フェイズA】、

整備性と生産性を重視した設計でどこまでスペックを上げられるかを調べる【フェイズB】、

ISの拡張性と旧世代の装甲素材での防御力の限界を調べる【フェイズC】、

新しい装甲素材として開発されたPS装甲の使用による鉄壁の防御力のと

4つのパッケージの交換で様々な状況に対応できる機体を生み出す【フェイズD】、

フェイズDで得たデータを基にイメージインターフェイスやビーム兵器、

AB(アンチビームシールド)を搭載し全体的な性能の向上を図る【フェイズE】、

極限までに人間の動きに近づけるためのデータを得る【フェイズF】、

そして量産するISの起点であり最高峰のISを製作する最終フェイズ【フェイズG】の

全部で七つのフェイズに合わせた計7機のISを製作するプロジェクトが

現在間桐グループの開発チームで行われている【セイバープロジェクト】の全容だ。

そのうち製作されたのが全部で5機…つまり【セイバープロジェクト】は

第6段階であるフェイズFの段階にまで入っている。

Aセイバー…博士が1から製作して極限の反応速度を持ったアルトリアのリリィ。

Bセイバー…現在自衛隊が使用している災害救助用IS【防人】。

Cセイバー…膨大な拡張領域と脅威の防御力を誇るシャルロットのラファール・リヴァイヴⅡ。

Dセイバー…近年発見されたPS装甲と4つのパッケージを持つシャルルのストライク。

Eセイバー…ストライクのOSと基本装備を充実させた私のインパルスガンダム。

この5機が現在完成しているセイバーシリーズだ。

そして、今もFセイバーの開発が進められているらしい。

 

 

「時間切れですか。また強くなりましたね。セシリア」

 

「光栄ですわ」

 

「………(チーン」

 

 

どうやらセシリアは無事にアルトリアとの模擬戦を終えたらしい。

ちなみに一緒に参加していた鈴音は速攻で斬り伏せられていたから

殆どアルトリアとセシリアの一騎打ちと言っても過言じゃない。

そんな状態で時間切れになるまで粘ったのだからセシリアはさらに強くなっている。

ただ、鈴音は初見だっただけに…ご愁傷様。

 

 

アボーンッ!!

 

 

『ウボアーッ!!』

 

「あ、一夏と箒が同時に堕ちた」

 

「初めて見るけどほとんど蹂躙だよね。あれ」

 

 

私が心の中で鈴音に合掌していると後ろから爆音が聞こえた。

爆音がした方向を見るとそこには二人揃って気絶している一夏と箒の姿が見えた。

うん。いつも通りだね。

この前は5分で落ちたんだっけ。

今回は7分で落ちたから前よりは長く戦えているね。

ちなみに私が最後にシンと模擬戦をした時は1合ももたなかった。

箒達も以前よりかなり強くなっている。

…私も頑張らないといけないね。

ちなみにシンとの模擬戦を初めて見たシャルルとシャルロットはドン引きしている。

まあ、そりゃ生身で専用機を相手にして圧倒しているんだからドン引きするよね。

あとはチルノとラウラだけど…。

 

 

イメージBGM:空の境界より paradigm

 

 

ガァンッ!ガァンッ!キィンッ!カァンッ!

 

 

「やるね!」

 

 

キィンッ!キィンッ!カァンッ!カァンッ!

 

 

「そういう貴様こそなかなかの腕だ!」

 

 

どちらも眼にも映らぬ速さで一進一退の攻防を繰り広げている。

どのISの公式試合の資料映像なんかとは比べ物にならない神速の攻防だ。

故に私は目の前の戦闘に目を奪われる。

先に訓練が終わった箒と一夏、私の隣にいるシャルルとシャルロットも私と同じだろう。

こんな戦闘なんて今まで一度も見たことがない。

………それは、まさしく神話の再現だった。

 

 

キィンッ!カァンッ!キィンッ!キィンッ!!

 

 

「ふふ…軍に居た頃はここまで接戦を繰り広げられる者が一人もいなかった。

嬉しいぞチルノ!ここまで楽しい模擬戦は生まれて初めてだ!!」

 

 

カァンッ!キィンッ!カァンッ!カァンッ!

 

 

「そっか。あたいも楽しいよ!」

 

 

金属と金属がぶつかり合う音がする。

本来なら不快感を与える音の筈なのにこの二人の戦闘から出ている音はとても心地良い音だった。

そう感じるのは二人の顔がとても楽しげな表情をしているからだろう。

二人が模擬戦を初めてもう何合目になるだろうか?

少なくとも200合はしている。

神速の攻防を続けているというのに二人の顔はまったく疲れを見せていない。

 

 

「「………」」

 

「アルトリア?シン?」

 

 

少しだけチルノとラウラの激闘から視線を外すとアルトリアとシンが

真剣な表情で二人の攻防を見ていた。

…もしかしてアルトリアとシンはあの二人の攻防がしっかりと見えているのだろうか?

まあ、この二人ならありえなくはないね。

だけど二人が見ているものは神速の攻防じゃないような気がする。

とりあえず私もアルトリアとシンに習って二人の動きを注視してみる。

すると二人からとても大きな力が放たれているのがわかった。

もしかしてアルトリアとシンが見ていたのは二人から発せられている力の流れなの?

でもこの二人から放たれている力にはまったく不快感がない。

それは、この二人の力が純粋な意志の力によるものだと思う。

互いの力の激突でお互いに後ろに弾かれた二人はすぐに体勢を立て直している。

おそらく次が最後の一撃になるだろう。

 

 

「「これで…終わらせる!!」」

 

 

ガキィンッ…!!ゴォッ!!!!

 

 

チルノとラウラは思いっきり踏み込んで互いの距離を一気に詰めた。

そして手にしたナイフを突き出すと二人のナイフの切っ先が激突し、

とてつもない衝撃波が私達を襲った。

 

 

ゴォッ!!!!

 

 

「「うあっ!?」」

 

「「「「きゃあっ!?」」」」

 

「くっ…」

 

「「………」」

 

 

そして、その衝撃波をもろに受けた私達は踏ん張ろうとするけど

ISの補助も無い状態で踏ん張れるわけがなくアルトリアとシン以外の全員が吹き飛ばされた。

吹き飛ばされなかったアルトリアとシンも表情はかなり強張っている。

どうやらアルトリアとシンも飛ばされないように踏ん張るので必死だったらしい。

土煙によってチルノとラウラの姿が見えなかったけどシンが持っているブレードで

土煙を払うと刀身が根元まで砕けたナイフを持ったチルノとラウラの姿が見えた。

 

 

「クク…」

 

「ハハ…」

 

「改めて名乗ろう。私はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あたいはチルノだよ」

 

 

チルノとラウラはお互い見つめあうと笑うと握手をした。

二人の顔は晴れ晴れとした表情をしている。

どうやらさっきの激闘を通じてお互い気があったらしい。

もしこの試合が公式試合だったら資料映像として残るだろう。チルノとラウラの戦闘はそこまで凄まじい激闘だった。

まあ、それほどの激闘を繰り広げたのだから自然と仲良くなるよね?

私もあるきっかけで起こった大喧嘩の後に箒と親友になったし…。

 

 

「さて、真優。彼らとの座学で君のISの運用方法がわかっただろう?」

 

「うん。大体は掴めたと思う」

 

「ならば今から俺と模擬戦をしてもらう」

 

「わかった」

 

 

っと、チルノとラウラの模擬戦が終わったから遂に私の番が回って来た。

インパルスの動かし方のイメージは大体できた。

あとは実践を繰り返して慣れるだけだ。

私は目を閉じて心の中でインパルスに語りかける。

 

 

「『力を貸して…インパルス』」

 

 

カッ!!

 

 

私がインパルスにそう呼びかけると待機状態になっていたインパルスが光を放つ。

確固たる力が私を包み込む。

温かい力が私を守るように形を成していく。

各センサー異常なし。

各関節部分異常なし。

ABCシールド異常なし。

装備選択―エクスカリバー。

火器管制システム異常なし。

VPS装甲異常なし。

システムオールグリーン。

システムのチェックが一瞬で済まされていく。

そして、システムのチェックが終わると私は紅の甲冑を身に纏っていた。

 

 

「そちらも準備が出来たようだな。さあ、ついてこれるか?」

 

「そっちこそ。私についてきてよね!」

 

 

シンがブレードを構えると私もエクスカリバーを構えた。

シンは私に挑発するけどこれはいわば挨拶の様なものだ。

だから私もシンについてこいと言い返した。

私とシンは同時に距離を詰め、同時に得物を振り下ろす。

 

 

ガキィンッ!!

 

 

「ほう。流石に1合目で終わるなんてことは無くなったか」

 

「伊達にアルトリアの特訓を受けているわけじゃないからね!」

 

 

金属同士がぶつかり合う音がアリーナ中に響く。

どうやら最初の一撃で負けるなんてことはなくなったようだ。

最後にシンと模擬戦をした後も私はずっとアルトリアに稽古をつけてもらっていた。

稽古自体は一度もアルトリアに勝つことができなかった。

でも、どのように剣を振り下ろせば攻撃が当たりやすくなるか。

どのように動けば無駄なく敵の攻撃を避けられるか。

どのような動きをすれば相手に隙ができるか。

その他etc…。

その経験の全てが少しずつだけど私の血となり、肉となり、力となり、私を支えている。

さあ…行くよ!!

 

 

◆ Side アルトリア

 

 

IS学園 学生寮 真優とアルトリアの部屋 訓練から1時間後…

 

 

「…つ、疲れた(ボテン」

 

「おやすみなさい。マユ」

 

「うん。おやすみー…」

 

 

日課である鍛錬を終えた私達は食事と湯浴みを終えて私達の部屋に戻ってきました。

マユは今日の鍛錬に疲れたのかそのままベッドに倒れこんでそのまま寝始めました。

マユはホウキ達と比べるとかなり体力がある方ですがあの模擬戦は凄まじかったです。

一応30分という制限時間での模擬戦だったのですがマユはその30分を耐え抜いたのです。

これにはマユの相手をしていたシンも驚いていました。

今までの鍛錬が確実に実を結んでいるのです。

今はこうして疲れて眠っているとはいえ鍛錬を続けていけばそれも減っていくでしょう。

間違いなくマユは確実に強くなっています。

 

 

「さて…」

 

 

マユに布団をかけた後、私は支給された端末を使ってリリィの簡易メンテナンスを始めました。

理由はもちろんセシリアとリンインとの模擬戦をしたからです。

今回の模擬戦は接近戦だけでしたが今回もかなり荒く乗り回しましたから

どこか異常がないか確認が必要ですからね。

だから鍛錬をした後や模擬戦を始める直前、そして試合が始まる前には

必ず簡易メンテナンスをするように心がけています。

 

 

「ふむ…各部異常はありませんか。良い機体を仕上げてくれたものです」

 

 

今回も特に異常はありませんでしたか…。

間桐グループも良い機体を仕上げてくれましたね。

私の反応についてくることができる高い反応速度。

私の手にしっくりとくる剣。

そして、失われたと思っていた全て遠き理想郷【アヴァロン】…。

おそらくこのリリィは現在稼働しているISの中でも最高峰の機体でしょう。

 

 

「さて、明日も早いですから寝ましょう」

 

 

ISの簡易メンテナンスも終わりましたし、今日はもう寝ましょう。

明日も早朝から剣の稽古がありますからね。

私は部屋の照明を落としてマユのベッドの隣にあるベッドの中へ入って目を閉じました。

おやすみなさい。マユ…。

 

 

◆ Side チルノ

 

 

IS学園 学生寮 屋上

 

 

「298…299…300っと。今日はこれくらいでいいかな?」

 

 

消灯時間でみんなが寝静まった頃、あたいはいつもの日課である剣の素振りをしていた。

消灯時間になってから剣の素振りをしているのはこの剣を他の人に見せないためだ。

この黄金の剣はあたいの親友の形見だ。

この剣はこの世界でもっとも有名な聖剣だとギルとエルから教えてもらった。

エクスカリバー…この剣の名前であり、この地球が鍛え上げた剣。

コレクター達からすればこの黄金の剣はのどから手が出るほど欲しい剣だろう。

そして、さっきからあたいを見ている奴があたいの後ろにいる。

 

 

「いるんでしょ?」

 

「やれやれ…気配は消していたつもりなんだがね」

 

 

あたいが振り向かずに隠れている誰かに呼び掛けると後ろから声が聞こえた。

この声は…あの用務員さんの声だ。

だけど口調が訓練の時とはまったく違う。

たぶん、敵対したり警戒したりしている奴に対しての口調なのかな?

あたいは剣を握ったまま後ろへ振り向いた。

 

 

「何の用?今日の用務員としての仕事は終わっているんでしょ?(チャキッ」

 

「なに、こんな夜分にそんな物騒な物を振り回しているところを見たのでね」

 

 

…嘘は言っていない。

だけど目の前にいるこの用務員さんはこの剣のことを知っている。

そうでなきゃさっさとあたいを補導するか厳重注意をすると思う。

だからあたいは警戒を緩めずに目の前の用務員さんに剣を向ける。

 

 

「それだけじゃないんでしょ?そうでなきゃさっさと通報しているだろうし…」

 

「ふむ…どうやら勘の鋭さは真優と同じくらいのようだな」

 

 

あたいに剣を向けられてもこの用務員さんはまったく動揺しない。

つまり何度も戦場に立っていた人なんだろう。

なんとなくだけどこの人は大きな十字架を背負って歩いている気がする。

そう…例えば多くの命を奪って英雄として祭り上げられた英霊のように…。

 

 

「御託はいいの。用があるのならさっさと済ませてくれない?」

 

「そうか…なら単刀直入に言おう。その剣をどこで手に入れた?」

 

 

目の前の用務員さんの質問はギルがあたいと初めて会った時の質問とまったく同じだった。

だから少し驚いた。

今までの奴は開口一番「その剣を寄こせ」ばっかりだったのにこの用務員さんは違った。

たぶん、この用務員さん…ううん。世界の守護者はこの剣の持ち主を知っている。

なら、その質問に答えないといけないね。

 

 

「この剣はあたいの親友の形見なの。だからアンタに渡すつもりはない」

 

「そうか。俺はその剣を奪うつもりはないから安心しろ」

 

「え?」

 

「その剣は君の親友の形見なんだろ?なら…大切にしろよ」

 

「…うん。わかった(ス…」

 

 

あたいがこの剣を持っている理由を教えると彼の口調が真優に向けているものと同じになった。

どうやら本気でこの黄金の剣を持っている理由だけを聞きたかっただけらしい。

敵意を感じられなくなったからあたいは剣を降ろした。

これ以上敵意を向けていても意味はないしね。

あたいが剣を降ろすと守護者はあたいに背を向けた。

たぶん、自分の部屋に戻るつもりなのかな?

 

 

「ただ、一つだけ言っておくことがある?」

 

「なに?」

 

「俺の名前はシン・アスカ。今はとある少女の護衛をしている」

 

 

最後に、守護者…シンは振り返らずに自分の名前と今自分がしている仕事を伝えると改めて屋上から去って行った。

シン…か…。

覚えておいて損はないかな。

エルはいつも「人の繋がりを大切にするんだよ」っていっていたしね。

さ、今日はもう寝ようかな。

ラウラとの模擬戦で結構疲れたからね…。

 

 

◆ Side シン

 

 

IS学園 学生寮 廊下

 

 

「やれやれ…。まさかこんな所であの剣を見ることになるなんてな…」

 

 

屋上で黄金の剣を振っていた少女…チルノを見かけたのは偶然だった。

外で今回使用したAISBのメンテナンスをしていた時に月の光が屋上から反射していたことに気がついた。

俺はメンテナンスを早々に切り上げて光が反射した屋上に向かった。

そして、屋上でチルノが振っていた剣は間違いなく、アルトリアが持っていた聖剣だった。

だから俺はチルノの様子をしばらく観察させてもらっていた。

もしあの聖剣がチルノの剣であることを拒絶しているのなら取り上げるつもりでいた。

だが、当の聖剣はチルノを自身の使い手として認めていた。

心なしか彼女が持っていた時よりも輝きがより強くなっていた気がする程にだ。

…どうやら俺に用事がある奴がいるようだな。

 

 

イメージBGM:機動戦士ガンダムSEED_DESTINYより ignited ~piano version

 

 

「おひさしぶりです。シン様…」

 

「ああ、ひさしぶりだな。ラウラ。いや、ラウスフィールと呼んだ方がいいか?」

 

「貴方様が望むのならどちらの名でもかまいません」

 

 

彼女のことを俺はよく知っている。

編入生のリストを見てまさかとは思ったが本当に彼女がここに来るとは思わなかった。

ラウラ・ボーデヴィッヒ…旧名ラウスフィール・フォン・アインツベルンは

聖杯戦争が終結し、アインツベルンを討伐する時に俺が再び召喚され

士郎と凛と共にマキリの手助けアインツベルンを討伐した際に保護した少女だ。

その正体は聖杯を諦めきれないアインツベルンが生み出した最強のホムンクルスであり、

小聖杯としての機能を持ったホムンクルスだった。

このことを本人以外で知っているのは俺とマキリそしてこの世を去っている士郎と凛の四人だけだ。

本来なら彼女を保護したかったが俺は役目を終えたことで消え去ることになり、

士郎と凛は魔術教会から彼女を守りぬける程の力を持っておらず、

だから、俺達はマキリにラウラを託し、彼女に新しい名前を与えた。

ラウラ・ボーデヴィッヒという名を…。

 

 

「私はシン様達のおかげで自分の道を歩み始めることができました」

 

「そうか…」

 

 

改めてラウラの顔を見た時、彼女の左眼には眼帯が着けられていた。

おそらくドイツ軍がIS部隊に所属する兵士に装着を義務付ける義眼を取り付けられたせいだろう。

正直、取り付けられた際にその義眼とラウラの体質が合わなかったために暴走し、

一時は失明の危機もあったと知った時は本気でドイツ軍の基地を壊滅させようかと考えたが

ラウラ自身がこの眼を受け入れているためにこれ以上強く言うことはできなかった。

 

 

「ラウラ…」

 

「はい。シン様…」

 

「今、この世界は楽しいか?」

 

「もちろんです。良い教官を、良い部下を、そして良い仲間と出会えました。

共に笑い、共に泣き、共に楽しみ、共に競い合う…。

あの時の私では絶対に手に入らなかったものが全てあります。

だから、私はこの世界が楽しいですし、なによりもこの世界を守りたいと思っています」

 

 

あの時俺が彼女を保護した時の彼女の眼は世界の全てに絶望していた。

そんな状況で当時のドイツ軍に預けることしかできなかったのがあの時の心残りだった。

だから俺は尋ねた。

「今、この世界は楽しいか?」と…。

そして、ラウラの答えはYESだった。

この質問自体俺のエゴそのものだった…。

彼女が楽しいかなんて、そんなこと、彼女の眼を見ればすぐにわかることだったのに…。

 

 

「では私は自室に戻ります」

 

「ああ、おやすみ。ラウラ」

 

「はい。おやすみなさいませ。シン様…」

 

 

ラウラは俺の質問に答えるとドイツ軍式の敬礼をして自室に戻って行った。

…その後ろ姿は今を精一杯生きる一人の少女だった。

今のラウラの後ろ姿こそが俺という存在への最大の報酬だった。

見ているか?士郎、凛…俺達が救った少女は今も懸命にこの世界を生きているぞ…。

 

 

 




どうも、明日香です。
今回は四人の転校生の編入とチルノとラウラの模擬戦、そしてシンとチルノの出会いとシンとラウラの再会という内容になりました。
本作のラウラは軍が生み出したデザインベイビーではなくアインツベルンが生み出したホムンクルスという原作よりもさらに重い設定となっております。
そのラウラの救助にシンが深くかかわっているためにラウラは千冬信者?ではなくなっています(その副産物で一夏を憎んでいません)。
詳しくは後で更新する予定のキャラクター設定集を参照にしてください。
それでは、ノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。