「う~……酷い目に会ったぁ……」
「あれは吉井君が悪いのではなくて?」
「…………」
明久は飛鳥と耀の覚めた視線を受けて萎縮した。
フォレス・ガロとのギフトゲームの後、明久はノーネームの本拠に戻り、コミュニティの工房へと移動した。
そこに置かれていた数々のギフトを付加された医療器具を使って明久の体を全快させたのだった。
「しかし、明久さんも随分と規格外の体をしてらしたんですね」
「え、そう? これってあの医療ギフトのおかげじゃないの?」
「それもあるでしょうけど……普通ならあと2日くらいはかかるくらいの重症をたったの数時間で全快させるなんて。それに器具を扱うのにやたら慣れてる感じでしたので……」
明久の体はフォレス・ガロとのギフトゲームの際、フォレス・ガロのリーダー、ガルドの手によって重症を負っていた。
更にギフトゲームが終結した後、とあるトラブルにより更に重症化した筈の明久なのだが、数時間たった今こうして元気に歩いている。
「まあ、回復力は割とある方だし……ああいう医療器具を扱うのは向こうで慣れちゃったし」
「慣れてるって……あなた、軍人か医者か何かかしら?」
「ううん。ただの学生だよ」
「ただの学生が医療器具を扱う場面なんてあるのかしら? 未来ではそれが普通なのかしら?」
「……聞いたことない」
「別に大したことが起こったわけじゃないからね。至って普通の学生生活だよ」
「……ちなみに、どんな学生生活だったの?」
「そうだねぇ、具体的にいうと……」
明久は顎に指を当てて自分の世界で過ごした学生生活を思い出して、
「学校で異端審問会って集団相手に刃物や筆記用具とかを人体急所に向かって投擲されて殺されかけたり、それで追ってくる相手に罠を張ったり、迎撃したり……後は友人が(鼻血で)大量出血して失血死しそうなところをAEDとかで一命取り止めたり、他にも輸血したり……後はクラスメイトの女の子から、死ぬほど痛い関節技かけられたり、塩酸や硝酸の入った差し入れのお弁当を食べて死にかけたこともあるけど……別になんてことない普通の学生生活だけど?」
「「それ全く普通の学生生活じゃないでしょ(わよ)!!」」
「えぇ!? 何で2人共にツッコミ!?」
明久のあまりにあんまりというか、異常すぎる学生生活にジンと飛鳥が同時にツッコミを入れた。
「いや、僕は箱庭で生まれて箱庭で育ったのですから……明久さんのいう学生生活の定義はよくわかりませんが──」
「私も普通の学生生活とは程遠い身だと自負してるけれど……あなたのそれはもう常軌を逸してるとかいう次元じゃないわよ」
「……絶対に普通じゃない」
「にゃ~にゃ~(というか……今こいつ、すげえ事言ってなかったか? なんや、塩酸や硝酸が入った食いもん口にした言うたけど)」
「うん……何で塩酸や硝酸の入ったお弁当を?」
「待って……確か、塩酸と硝酸を混ぜたら、王水ってものができるんじゃなかったかしら?」
「はい。プラチナですら溶解する危険な薬品の筈ですけど……そんなもの食べたら内蔵なんてひとたまりもないんじゃ?」
「まあ、それはそのクラスメイトの女の子や姉さんの料理で慣れちゃったからね」
「慣れだとかそういう問題じゃないと思います」
「というか、何なのかしら? その異端審問会というのは? あなたの時代にできた新しい宗教の集団かしら?」
「ううん。ただ女子と話とかしたり一緒に歩いてたりすると鎌とか持って追いかけられたり──」
「ちょっと待って! 何で女子と話や歩いたりでそんな殺伐とした空気になるのかしら!?」
「え? 別に普通だと思うけど?」
「そんなわけないでしょ! あなたは友人が女子と一緒にいたらどう思うのかしら!?」
「え? う~ん……」
飛鳥の疑問に明久は再び顎に指を当てて数秒間考えて、
「これがあの赤ゴリラとムッツリーニ、他の異端審問会のメンバーだったら……ころ──潰す」
「言い直しても意味があまり変わらないわよ! というか、折角の友人を殺す気なの!?」
「別に、僕をいつも殺そうとしてるような奴らだし……殺したって死ぬような連中じゃないから」
「あなたの友人は全員不死のギフトでも持っているのかしら?」
「いや、まさか……ああ、でも……あいつらならありえそう」
いつもスタンガン最大出力の攻撃を食らわせても罠をしかけて屋上から落としても少しすれば生き返るような連中だ。あれがギフトだと言われれば納得してしまう。
「……そんな殺伐とした中を生きてるの? 明久は」
「いや、そこまで多いわけじゃないけどね。大体週に……」
「2・3回かしら?」
「いや、飛鳥さん。そもそも一週間のうちに複数あるのがおかしいかと──」
「3・40回くらい?」
「「そんなにあるの(んですか)!?」」
「え? まだこっちは少ない方だけど? 多い時は60を超えてるけど。大抵僕か赤ゴリラが追いかけられる側だけど」
「そんなに命を賭けた逃走劇を繰り返してたの、吉井君は!?」
「道理で気配に敏感だったり、ガルドと戦っていた時、やたらと攻撃を躱すのに慣れてるかと思いましたよ。それだけ回数逃走劇を繰り返してたら納得がいきますよ」
「にゃ~(こいつ……本当、よく箱庭に来るまで生き残れたな)」
「うん。今日のギフトゲームに負けないくらいすごい生活だね」
「そう? 普通だと思うけど?」
「「「絶対に普通じゃない(です)」」」
「にゃ~(それが普通なわけあるかい!)」
今度は3人と1匹に同時にツッコミを入れられた。
飛鳥と耀は明久の学生生活に戦慄を感じ、ジンは最初十六夜達よりはまともだと思っていたのに、明久も他の異世界組に負けるとも劣らないくらいの非常識っぷりだったことに対して頭痛を感じた。
明久はそうかな、と今まで当たり前だと思っていた生活が普通じゃないと否定されたことにあまり納得がいかないような表情で頭をかいた。
そんな会話を繰り広げていた時だった。何処からか何かが爆発して吹っ飛んだような音が屋敷に響いた。
「な、何!?」
「一体何の騒ぎ!?」
「……談話室の方」
「十六夜さんと黒ウサギのいるところですよ!」
「何があったか知らないけど、行こう!」
明久達が廊下を駆け抜けていく途中で厨房の方から黒ウサギが飛び出してきた。
「あ、黒ウサギさん! 一体これって!?」
「わかりません! とにかく十六夜さんが何かしたとしか!」
黒ウサギも状況がわからないので明久達も急いで談話室の前に駆け寄ると明久が勢いよく扉を開けて中に入った。
中に入ると、そこにはフォレス・ガロとのギフトゲームで見た不気味な木々の根や枝が部屋中に纏わりつき、一部は十六夜が破壊したのか、崩壊しているものもある。
そして、その先には透き通るようなプラチナブロンドの髪を煌びかせた少女が立っていた。
「え……」
「あなたは……」
その少女を見てジンと黒ウサギを驚いて声を上げた。そんな2人に気づくこともなく、十六夜がファイティングポーズを取ったところで2人が正気に戻り、止めに入る。
「い、十六夜さん!?」
「ま、待ってください!」
「止めるんじゃねえぞ、黒ウサギ」
「違うんです! その方が、私達の仲間のレティシア様なんです!」
「は? 何だと?」
黒ウサギの言葉に十六夜は驚いて、黒ウサギとレティシアと呼ばれた少女を交互に見てから構えを解いた。
同時に少女も部屋の中に入って枝や根を引っ込めた。
それから居心地の悪い空気が漂ったが、黒ウサギがお茶を入れてきますと厨房へ行き、ジンがレティシアをソファーに座らせ、その正面に明久達が向かい合う形で座った。
「で、あんたが黒ウサギ達のお仲間の……」
「YES! 箱庭の騎士と謳われる希少な吸血鬼の純血。それが、レティシア様なのです」
「よせ、黒ウサギ。今の私は他人に所有される身。単なる物に過ぎん」
黒ウサギの言葉にレティシアは苦笑しながら否定する。
「そんなことございませんよ」
「でも、会えてよかった」
「……すまない、ジン。君には、合わせる顔がなかった」
「そんなこと──」
「ひとついいかしら?」
ジンの台詞に飛鳥が割って入った。
「仲間の筈のあなたが、何故ガルドに手を貸したのかしら?」
「え?」
飛鳥の言葉に明久が疑問符を浮かべたが、他の者達はやはりといった表情をした。
部屋に入った時に見た木の枝や根を見て予想はついたが、フォレス・ガロの領で見た鬼化した木々はやはり彼女が用意したものだったのだ。
「それが原因で、友達が怪我をして……危うく命を落とすかもしれなかったの。私達には理由を聞く権利があると思うのだけど?」
ガルドの時のように強制を与える力はないが、決して反論や沈黙を許さないといった気迫が篭っていた。
隣に座っていた耀もレティシアにキツめな視線を向けていた。
「……あなた方の力量を確かめたかったのだ。このコミュニティを託すに値するかどうかを。負傷した君には、心よりお見舞い申し上げる。すまなかった」
レティシアが明久に向かって頭を下げる。
「あ、いえ……それより、何でそんな試すような事を? それも、ガルドを使って」
「君達にガルドをけしかけた理由は、黒ウサギ達の事を耳にしたからだ。実は黒ウサギ達がノーネームとしてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を……と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前がわかってないとは思えなかったからな」
「…………」
レティシアの言葉に黒ウサギはウサ耳を垂れ下げて俯いた。
「コミュニティを解散するよう説得するためにようやくお前達と接触する機会を得たと思った時、看過できぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」
黒ウサギ達の視線が十六夜に移った。
「それで私はひとつ試してみたくなったのだ。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」
「結果は?」
黒ウサギが恐る恐ると、しかし真剣な眼差しで問うた。レティシアは気落ちしたように首を振った。
「生憎と、ガルドは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼らはまだまだ青い果実で判断に困る。こうして足を運んだはいいが、さて……私はお前達になんと言葉をかけていいのか」
「そんなに心配なら……戻ってくればいいんじゃないの? 所有がどうとかまだよくわかんないけど、そんなのギフトゲームして勝てばいいんじゃないの?」
「そうですよ! 今度のギフトゲームに勝てば、レティシア様は晴れて自由の身です!」
実は今度、とあるコミュニティに対してギフトゲームを挑み、そこで景品に出されたレティシアを取り戻すために挑むことになっていた。
かつての仲間を求めていた黒ウサギやジンにとっては千載一遇のチャンスだったのだ。
それを話題に出すとレティシアは悲しそうな表情をして俯いた。
「……残念だが、ギフトゲームはできない」
「へ?」
レティシアの言葉に黒ウサギだけでなく、その場にいた全員が疑問符を浮かべた。
「少し前に、私のことを巨額で買い取ろうとする者が出てきてな。現在私を所有しているコミュニティのリーダーがそれに判を押した。よって、新たな商品を考えるべく、ゲームは延期。下手をすればギフトゲーム自体なかったことになるかもしれん」
「そ、そんな……ギフトゲームが中止?」
「待ち望んでいたチャンスだったのに……」
ようやく仲間が取り戻せるかと期待していた矢先にその仲間がまた別の者の所有物に移り変わってしまうという事実を聞いて黒ウサギとジンは一気に気落ちした。
「ねえ、折角こうして来てくれたわけだし……いっそのこと、ここでかくまうってのはどうなの?」
「それは無理だな。私がこうして来ていることくらい……連中は既に感知しているだろう。下手をすれば、サウザンドアイズ傘下のコミュニティ全てを敵に回すことになる」
サウザンドアイズの傘下全て……それはつまり、サウザンドアイズのひとりである白夜叉をも敵に回すことになる。
ここにいる全員白夜叉のことをそれなりに信頼していることもあるが、白夜叉を相手に勝てる気がしないのが最大の理由だった。
ここで白夜叉まで敵に回せば最早コミュニティ崩壊どころの問題ではなくなってしまう。
それを聞いて十六夜が口を開いた。
「なるほど。自分が戻れない事が判明したから急いだってわけだ。だったらちゃっちゃと要件を済ましておこうぜ。試したいんだろ? 俺の力を」
十六夜は席を立ち、挑発的な笑みを浮かべてレティシアに言った。レティシアも十六夜の言葉に頷き、同じように席を立った。
「え? ちょっと、御二人様?」
突然の展開に黒ウサギが止めようとするが、当の2人は全く聞いていなかった。
「で? ゲームのルールはどうすんだ?」
「どうせ力試しなんだ。手間をかける秘湯用もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」
「んでもって、地に足を着けて立った者勝ち。いいね、シンプルイズベストだ」
笑みを交わし合い、2人は壊れた壁から外へ同時に飛び出した。そして中庭へ向かい、十六夜は中庭の地面の上に、レティシアは十六夜のいた位置の斜め上の天に位置した。
「お? 箱庭の吸血鬼には翼が生えているのか?」
「ああ。まあ、別に翼の力で飛んでいるわけではないが。制空権を支配されるのは不満か?」
「いいや。ルールにそんなのはなかったしな」
レティシアの言葉に十六夜は飄々と肩をすくめた。
「十六夜君、絶対にこの状況楽しんでるよね?」
「まあいいじゃないの。私達、まだ十六夜君の実力って、目にしてないし」
「……気になる」
言われて明久もそういえばまだ十六夜の実力を目にしたことはなかったことを思い出した。
飛鳥の威光、耀のゲノム・ツリー。十六夜のギフトはコード・アンノウンとあっただけでどんなギフトなのか全く不明だった。
その一部が今ここで見られるのかと思うと、明久も気にならずにはいられなかった。
明久が視線を2人の方へ移すと、レティシアは満月を背負いながらその手に自身のギフトカードを取った。
金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。
「レ、レティシア様!? そのギフトカードは」
「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘であることに変わりはない」
黒ウサギに釘を刺し、十六夜はレティシアへと向き直る。レティシアのギフトカードが輝き、光の粒子が収束して外郭を作り、像がはっきりしていった。
光が収まるとレティシアの手には長柄のランスが握られていた。
「互いにランスを一打投擲する。受けては止められねば敗北。悪いが、先手は譲ってもらうぞ」
「いいぜ、好きにしな」
レティシアは投擲用に作られたランスを振りかぶる。
「ふっ──!」
レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げ、全身を撓らせてその反動で打ち出すと、空気中に視認できるほど巨大な波紋が広がった。
「ハァ!!」
怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に向けて落下していく。
「炎ぉ!? というか、燃えてる! もう燃えてるからアレ!」
明久はレティシアの投擲技術に驚いて声を上げた。対して十六夜は牙をむき出しにして笑い、
「カッ──しゃらくせぇ!」
放たれたランスを殴りつけた。
「「「「…………は?」」」」
突然の光景に素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ、明久とジン。
目の前で繰り広げられた光景が信じられなかった。営利に研ぎ澄まされたランス、更にそれを流星のような衝撃を乗せて十六夜に向かって放たれたのを殴りつけて破壊した。
その際、十六夜の反撃を受けて砕けたランスの欠片が散弾銃のように散らばり、レティシアへと向かっていった。
「レティシア様!」
砕けたランスの欠片がレティシアの鼻先まで迫ったところで黒ウサギがレティシアの目の前まで跳び、迫ってきた鉄塊を払い落とした。
レティシアは黒ウサギの行動に驚きながらも落下する黒ウサギを抱きとめて翼をたたみ、地面へ降りた。
「く、黒ウサギ! 一体、何を!」
見ると黒ウサギの手にいつの間にかレティシアのギフトカードが握られていた。
それを見つめた黒ウサギの表情は泣きそうなものに変わり、震えた声で向き直る。
「ギフトネーム・『
「え?」
「…………」
黒ウサギの言葉にジンが驚き、レティシアはさっと目を背ける。
「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえのか?」
「……はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵は……」
黒ウサギの口から現在のレティシアの実力を知ると十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。
「ハッ。道理で歯ごたえがないわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」
「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトとは違い、恩恵とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、いわば魂の一部。隷属させた相手から合意もなしにギフトを奪うことなどできません」
「え? じゃあつまり……レティシアさんは自分からギフトを差し出したってこと?」
明久がレティシアに疑問を向けると本人は苦虫を噛み潰したような表情で目を逸した。
「レティシア様は鬼種と純血の神格の両方を備えていたため魔王と自称するほどの力を持っていたはず。なのに今のあなたはかつての10分の1にも満ちません。どうしてこんなことに……」
「……それは」
言葉を口にしようとして飲み込む仕草を何度か繰り返す。だが、結局打ち明けるには至らず、いたずらに時間が過ぎていく。
「……ええっと、そんな大事な話なら……とりあえず、屋敷に戻っておこうか。レティシアさんを所有してるっていうコミュニティのメンバーが何時来るかもわからないし。できる限り話はしておこう」
「……そう、ですね」
沈んだ声で黒ウサギが頷き、みんなも屋敷へと足を向けようとした時だった。
「……っ!?」
明久は背筋どころか、全身が凍りつきそうだと錯覚するほどの寒気を感じた。
明久にこういった寒気が全身を走る時は決まって……命を左右するような出来事が起こる前触れだというのを何度も経験している。
「みんな、急いで本拠に戻って!」
「え?」
「吉井君、一体どうしたの──」
飛鳥が言葉を最後まで言い切る前に遠方から褐色の光が差し込み、レティシアはハッとして叫ぶ。
「あの光……ゴーゴンの威光!? まずい、見つかった!」
焦燥の混じった声と共に、レティシアは光から庇うように明久達の前に立ちふさがった。
「レティシアさん!?」
明久は突然のレティシアの行動に驚きながらもレティシアの後を追い、隣に立った。
「来るな! この光は──」
その光の正体を知る黒ウサギは遠方を睨みつけた。
「……ゴーゴンの首を掲げた旗印……!? だ、駄目です! 避けてくださいレティシア様! 明久さん!」
黒ウサギの悲痛の叫びも虚しく、褐色の光がレティシアと明久を包み込んだ。