問題児+バカ一名が異世界から来るそうですよ?   作:慈信

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第六話

 

 ──箱庭2105380外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

 

 飛鳥、耀、明久、ジン……そして黒ウサギと十六夜、三毛猫の6人と1匹はフォレス・ガロのコミュニティの居住区を訪れる道中で六本傷の旗が掲げられた、先日フォレス・ガロのトップのガルドと一悶着あったカフェテラスで声をかけられる。

 

「あー! 昨日のお客さん! もしや今から決闘でしょうか!?」

 

「みゃ~みゃ~(お、鈎尻尾の姉ちゃんか。そやそや、今からお嬢達の討ち入りやで!)」

 

 ウエイトレスの猫耳娘が近づいて明久達に一礼する。

 

「ボスからもエールを頼まれました! うちのコミュニティ連中の悪行にはアッタマきてたところです! この2105380外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てであいつらやりたい放題でしたもの! 二度と不義理な真似ができないように叩きのめしちゃってください!」

 

 ブンブンと両手を振り回しながら応援する鈎尻尾の猫娘。

 

 これを見て本当に好き放題に悪行を重ねていたのだなとわかる。

 

「ええ、そのつもりよ」

 

 猫娘の応援に苦笑混じりに飛鳥が返す。

 

「おお! 心強いお返事です!」

 

 満面の笑みで返す猫耳娘だが、突然声を潜めてつぶやき出す。

 

「実は皆さんにお話があります。フォレス・ガロの連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

 猫耳娘の言葉に黒ウサギが訝しげに返す。それと初めて聞く言葉に飛鳥が小首を傾げた。

 

「黒ウサギ、舞台区画とは何かしら?」

 

「ギフトゲームを行うための専用区画でございますよ」

 

「ん? 演劇とかをするためのとかじゃなくて?」

 

「そういうものではなく、この場合の舞台というのはコミュニティが保有するギフトゲームを行うための土地です。白夜叉様のようなあの別次元のゲーム盤も舞台のひとつですが、それが出来る人達は極めて少ないですけどね」

 

「ふ~ん」

 

「しかもしかも! 傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

 

「……それはおかしな話ね」

 

 飛鳥達は顔を見合わせて首を傾げた。今朝ジンにも聞いたが、昨夜ノーネームの子供達をさらいに来たのは全員ガルドの脅迫によって無理やり傘下に入れられた者達だった。

 

 それらが裏切りに走ることを考慮して参加させないのならまだわかるが、全員となると少しばかり不自然だった。

 

「でしょでしょ!? 何のゲームなのかは知りませんが、とにかく気をつけてくださいね!」

 

 熱烈なエールを受けて一同はフォレス・ガロの居住区画を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆さん! 見えてきました…………けど──」

 

 目的地に着いた筈なのだが、黒ウサギは目の前の光景を見て目を疑った。

 

 他のメンバーも同様、目の前の光景……居住区が木で覆い尽くされていた。壁のあちこちにも植物の蔦が伸びており、まるでこの辺りだけ異世界のようになっていた。

 

「…………。ジャングル?」

 

「うん、ジャングルだよね」

 

「虎の住むコミュニティだしな。別におかしくないだろ」

 

「まあ、それを言われたらそうかもね」

 

「いえ、おかしいですよ。フォレス・ガロのコミュニティの本拠は普通の居住区だったはずなのに……それにこの木々は、まさか」

 

 ジンがそっと木々に手を伸ばした。表面に触れるとそこから生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じた。

 

「やっぱり、鬼化している? いや、まさか」

 

「ジン君。ここに契約書類が貼ってあるわよ」

 

 飛鳥が声が上げると、門柱に貼られた羊皮紙に今回のゲームの内容が記されていた。

 

『 ギフトゲーム名”ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧  久遠 飛鳥・春日部 耀・吉井 明久・ジン=ラッセル

 

 ・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は契約によってガルド・ガスパーを傷つけることは不可能。

 

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・指定武具 ゲームテリトリーにて配置

 

 宣哲 上記を尊重し、誇りと御旗のした、ノーネームはギフトゲームに参加します。 ”フォレス・ガロ”印 』

 

「ガルドの身をクリア条件に…………指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

 ルールを読むとジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げて慌てていた。飛鳥は心配そうに2人に問う。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで操ることも、耀さんのギフトで傷つけることもできないことになります」

 

「……どういうこと?」

 

「えっと……それって、ゲームで言えば特定の属性の付加された武器でしか倒せないってこと?」

 

「はい。ガルドは恩恵ではなく、契約によって身を守るつもりです。これでは神格があろうと関係ありません。彼は自分の命をクリア条件に組み込むことで御二人の力を克服したのです」

 

「すみません、僕の落ち度でした。初めに契約書類を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに」

 

 ジンが申し訳なさそうに呟いた。

 

「敵は命懸けで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」

 

「気軽に言ってくれるわね……条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かというのも書かれてないし、このまま戦えば厳しいかもしれないのよ」

 

「ごめん……僕が何の考えもなしに挑んだから……」

 

 明久が自分の落ち度に責任を感じると黒ウサギが明久の目の前に寄ってきて励ましてきた。

 

「だ、大丈夫ですよ! 契約書類には『指定』武具としっかり書いてあります! つまり最低でも何かしらのヒントがなければなりません。もしヒントが提示されなければ、ルール違反でフォレス・ガロの敗北は決定! この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

 

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

 

「むしろあの外道を粉砕するためにはこれぐらいのハンデが必要なのかもしれないわ」

 

「……うん、わかったよ。自分の言葉の責任くらいは、取らないとね!」

 

 3人の励ましに明久は奮起する。

 

 これに負けたところで表面上ではほとんどリスクはないが、昨夜十六夜がジンに聞かせた作戦を明久も聞き、もしこれに勝てなければ彼はコミュニティを去るを言った。

 

 だからなんとしても負けるわけにはいかない。明久含め、参加者4人は門を開けて突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門の開閉がゲームの合図だったのか、生い茂る森が門を絡めるように他色を塞いだ。

 

 光を遮るほどの密度で並ぶ木々は人が住める場所とはとても思えない。街路かと思われるレンガの並びはしたからせり上げる巨大な根によってバラバラに別れ、もはや人が通れる道ではなくなっている。

 

 これではいざという時の対処が遅れてしまう危険性がある。緊張した麺持ちのジンと飛鳥、明久に耀が助言する。

 

「大丈夫。近くには誰もいない。匂いでわかる」

 

「あら、犬にもお友達が?」

 

「うん。20匹くらい」

 

「五感なら僕達の中でずば抜けてるね、春日部さん」

 

「詳しい位置とかはわかりますか?」

 

「それはわからない。でも、風下にいるのに匂いがないのだから、何処かの家に潜んでる可能性は高いと思う」

 

「じゃあ、まずは建物から探す方がいいかな」

 

「その前に外よ。まずは彼を倒すための指定武具がないことには何もならないもの」

 

「あ、そっか」

 

 飛鳥の意見に明久は頷き、4人は森を散策する。

 

 奇妙な木々は家屋を呑み込んで生長したようで、住居のほとんどが枝や根によって食い破られていた。

 

 少し前まで人の住んだ形跡もある居住区は完全に廃墟と化している。

 

「黒ウサギさん、フォレス・ガロに大きなゲームを仕掛けるのは不可能だって言ってたけど……これだけの森を創りだすんだから、相当力あるよね?」

 

「まあ、彼にしてみれば一世一代の大勝負だもの。温存していた隠し球のひとつやふたつあってもおかしくないということかしらね」

 

「ええ。彼の戦歴は事実上不戦敗も同じ。明かさずにいた強力なギフトを持っていても不思議ではありません。耀さんはガルドを見つけても警戒は怠らないでください」

 

 散策する3人とは別に身体能力、五感共に優れている耀には高いところからガルドを警戒させていた。

 

「……駄目ね。ヒントらしいヒントは見当たらないし、武器らしい武器も見つからないわ」

 

「一応召喚獣使えば武器は出せるけど、指定のとは違うし……しかも木刀だし」

 

「もしかしたら、ガルド自身がその役目をになっているのかもしれない」

 

「だったらやっぱりガルドを探すところからかぁ」

 

「もう見つけてる」

 

 3人は木の上にいる耀へと視線を向けた。耀は木から飛び降りると残骸が残る街路を指差して、

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、視認できた」

 

「猛禽類の友達もいたんだ。流石」

 

 明久は感心すると耀の引率の下、本拠の館へ向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て。館まで飲み込まれてるわよ」

 

 フォレス・ガロの本拠に着くと、虎の紋様を施された扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。

 

 豪奢な外観も蔦によって蝕まれ、塗装もろとも剥ぎ取られていた。

 

「ガルドは2階にいた。入っても大丈夫」

 

 耀の言葉に従って入ってみたが、外も酷ければ中も同様の有様だった。

 

 贅を尽くして作られただろう家具は打倒され、散在していた。ここまで来ると皆この舞台に疑問を持ち始める。

 

「この奇妙な森の舞台って……本当に彼が作ったものなの?」

 

「……わかりません。主催者側の人間はガルドだけでしょうが、舞台を作るための代理はたのめますから」

 

「代理を頼むにしても罠のひとつもなかったわよ?」

 

「森は虎のテリトリー。有利な舞台を用意したのは奇襲のため……でもなかった。それが理由なら本拠に隠れる意味がない」

 

「しかも自分の本拠をここまで壊す必要があるとは思えないしね」

 

 ほんの短い会見だったが、ガルドは自己顕示欲が強い男だ。そんな男がここまで贅沢なものを作らせたんだ。

 

 彼の野望の象徴とも言えるだろうものが揃った本拠をここまで無残な姿にするとは思えなかった。

 

「とりあえず、なるべく気づかれないように武具を探そう。ヒントくらいはこの階にあるかもしれないし」

 

「そうね。まずはこっちから探すことにしましょう」

 

「うん」

 

「はい」

 

 それからまた散策するが、がれきを掘り起こしてまで隅々を探していったが、ヒントらしいものも武具らしいものも見つからなかった。

 

 結局ここにもないと悟り、残るはガルドのいる2階だけとなった。

 

「2階に上がるけど、ジン君。あなたはここで待ってなさい」

 

「ど、どうしてですか? 僕だってギフトを持ってます。足手纏いには──」

 

「そうじゃないわ。上で何がおこるかわからないからよ。だから二手に別れて私達はゲームクリアのヒントを探してくる。あなたにはこの退路を守ってほしいの」

 

 飛鳥の言葉にも一理があるのがわかるからか、不満の色を浮かべながらもジンは渋々階下で待つことになった。

 

 明久、飛鳥、耀の3人は正面の階段を物音立てずに進み、上った先にあった最後の扉に着くと、両脇に飛鳥と耀を待たせ、明久はジリジリと正面から近寄って機会を伺う。

 

 意を決し、3人は頷くと勢いよく飛び込んだ。中に飛び込んだ3人が目にしたものは、

 

「──────……GEEEEYAAAAaaaa!!!」

 

 言葉を失い、禍々しい姿をした白い虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守って立ちふさがっていた。

 

「──って、危なああああぁぁぁぁ!!」

 

 扉を開けた瞬間、目にも止まらぬ速さで突進を仕掛けられた明久はギリギリのところで横跳びをして回避した。

 

 しかし、ガルドは明久を追って更に攻撃を仕掛けてくる。

 

起動(アウェイクン)! 召喚(サモン)! 更に展開(アンテ)!」

 

 明久はギリギリのところで腕輪を発動させ、召喚獣を呼び出すと同時に腕輪の力を使って召喚獣と一体化し、ガルドの攻撃を防いだ。

 

「く──っ!」

 

 自分の召喚獣を出したのに点数が全く表示されないことに疑問を感じてる余裕はなかった。

 

 ものすごい力だった。受け止めた明久の腕が痺れた。前回とは比べもにならないくらい力が倍増している。

 

止まりなさい(・・・・・・)!」

 

 飛鳥がギフトの力によって止めようとし、ガルドは一瞬動きを止めるものの飛鳥の言葉による力を振り切った。飛鳥の言葉による圧伏も全く通用しなかった。

 

 その様子を見ていたジンが変わり果てたガルドの姿を見て彼に何が起こったのか理解した。

 

「鬼、しかも吸血種! やっぱり彼女が──」

 

「つべこべ言わず、逃げるのよ!」

 

「え、待ってください! 僕だって──」

 

「いいから、逃げなさい(・・・・・)!」

 

 飛鳥の命令にジンの意識が途切れた。

 

「……一気に逃げます」

 

「え?」

 

 ジンは一瞬で飛鳥を抱きかかえ、普段から想像もできないほどの脚力で館から逃げ出していく。

 

「ちょ、ちょっと! 私じゃなくて、ジン君ひとりで──ちょっとおおぉぉぉぉ!!」

 

 飛鳥もジンの取った行動が予想外だったのか、悲鳴に近い声が徐々に遠ざかっていった。

 

 ガルドも館から出られないのか、飛鳥とジンを見送るだけで追いかけようとしたが、2人が扉を出たところで動きを止め、明久達に牙を向ける。

 

「GUUUUAAAaaaa!!」

 

 ガルドが咆哮を上げ、今度は耀に襲いかかっていく。

 

「春日部さん!」

 

 耀は驚異的な跳躍で壁に跳び、更に壁を蹴ってガルドの背後にあった銀十字剣を手に取った。

 

 耀は手に取った剣を握ってガルドと向き合った。それを見て明久は耀がどんな行動に走るのか直感で理解した。

 

 その瞬間、明久は耀に向かって駆け出していった。その直後、耀は脇目もふらずにガルドに向かって駆け出し剣を振りかぶった。

 

 そこから先は明久の直感通りだった。ガルドがさっきよりも軽快な動きで耀の上を行き、鋭い巨大な爪を耀に向けて振り下ろした。

 

 耀もどうにか避けようとしたが、剣を振りかぶった体勢から瞬時に逃げに徹することはできなかった。ガルドの爪が耀を捉えようとしたところで、横から明久が耀に飛びつき、その勢いのまま抱き寄せて倒れこむ。

 

 どうにかギリギリ耀を助け出せたが、

 

「ぐ……」

 

 耀を助け出せたものの、明久が傷を負った。

 

 少し掠っただけで左肩に少し深めの切り傷を負った。

 

「明久!?」

 

 耀が明久の傷に気づき、叫んだ。

 

「うぅ……春日部さん、大丈夫?」

 

「私よりも、明久が──」

 

「GEEEEAAAAaaaa!!」

 

 耀の言葉は最後まで紡がれず、ガルドの追撃によって中断させられる。

 

 耀は明久の服を掴んで驚異的な脚力を使ってその場から離脱してガルドの攻撃を回避した。

 

「明久、先に行ってて」

 

「ちょ、春日部さんは?」

 

「行って」

 

 明久の言葉に耀はその言葉を繰り返すだけだった。

 

「……ひとりで戦うつもりなの? あんな奴と?」

 

「いいから、早く逃げて」

 

「待ってよ! 今の僕らじゃアイツを倒すのは無理だ! それは春日部さんもわかってるでしょ! 今は一緒に逃げるんだ!」

 

「駄目。逃げようとしてもすぐに退路を塞がれる。私が時間を稼ぐから──」

 

「絶対駄目だ! 春日部さんも逃げるんだよ!」

 

「無理。大体明久は怪我をしてる」

 

「だからと言って! 僕は春日部さんを置いていけないし、傷ついてほしくない!」

 

「……え?」

 

「GUUUUAAAAaaaa!!」

 

 2人が話し込んでいる隙を見てガルドは再び突撃してきた。

 

 明久の言葉に一瞬注意が逸れてしまった耀はガルドの突撃に反応が遅れてしまった。

 

 反応が遅れてしまった耀はなんとか攻撃を防ごうと防御体勢に入るが、あの腕で、あの速さで振り抜かれればいくら動物並に頑丈な耀でもタダでは済まされないだろう。

 

 それでも時間稼ぎくらいはと覚悟を決めた時だった。耀の目の前に明久が庇うように出てきて木刀を突き出した。

 

 だが、明久の行動も虚しく、木刀が砕け散り、ガルドの爪が明久の体を裂いた。

 


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