「でぃぃぃぃぃぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁっ!? ぶぼっ!? ぶぶっ! ぶほっ! ガボボボ!」
上空4000mから落下した4人と1匹は、落下地点に用意されていたかのように張ってあった緩衝材のような薄い水膜を幾重も通って湖に投げ出される。
そして、明久は何が起こったのか理解できないままだったが、このままでは生命が危ないと判断してまずは地上へと向かってもがいた。
「ぶはっ! い、一体何!?」
「きゃっ!」
「わっ!」
「ん?」
見ると他にも3人ほど明久の傍で着水した者達がいた。
「……大丈夫?」
「に、にゃあ! にゃにゃぁ!」
訂正。どうやら3人と1匹のようだと明久は再認識して明久はとりあえず着水した他の人達を助けようと一番傍に落ちた少女へ手を差し伸べる。
「えっと、大丈夫?」
「え、えぇ……」
見た目15・6歳の少女が明久の手を握って水底に足を着いて立った。
「もう、信じられないわ! まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃ、その場でゲームオーバーだろコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「……。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「というか、息すらできないんじゃ……」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
「身勝手で済むレベルなの? コレ」
突然現れた2人の少年少女はフン、と互いに鼻を鳴らして服を絞って水分を落とす。
明久も岸に上がって同じように制服を絞って水分を落とした。
「ここ……何処だろう?」
もう1人の女子が辺りを見回しながら呟いた。
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが空から見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
「怪獣映画じゃあるまいし、でも……全然別の世界だってのはなんとなくわかるよ」
明久が男子の言葉にツッコミを入れながら辺りを見回す。
空模様も自分のいた世界とは若干異なる部分があった。
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が来たのか?」
「手紙? ひょっとして、アレかな?」
明久はこの世界に来る直前に見た手紙のことを思い出した。
「そうだけど、まずはそのお前って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえているあなたは?」
「……春日部耀。以下同文」
「そう。それから、そこのおバカな顔のあなたは?」
「なんで初対面でバカって言われなきゃならないのかな? まあ、僕は吉井明久」
「そう。よろしく、春日部さん、吉井君。最後に、そこの野蛮で凶暴そうなあなたは?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と3拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ、お嬢様」
「取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
「ていうか、何で君達はいきなり売り言葉に買い言葉なの?」
明久は十六夜と飛鳥の間に漂うただならない雰囲気に気圧されていた。
どうにかできないかと耀に期待の視線を送るが、耀は我関せずに猫を抱いたままだった。
そして悟った。自分の味方はここにはいないと。
心からケラケラと笑う逆廻十六夜。傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。我関せず無関心を装う春日部耀。他の3人を見て膝を着く吉井明久。
その4人を物陰から見ていた黒ウサギがいた。
(うわぁ……なんだかほとんど問題児ばかりみたいでございますねぇ……」
彼らを見て召喚したことを早速後悔しはじめていた。
それからしばらくして十六夜が苛立たしげに言う。
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間がいるもんじゃねえのか?」
「そうね。何の説明もないままでは動き用がないもの」
「……。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」
「いや、春日部さん。君も他人のこと言えないからね? 普通はもっとこう、一体何なんだって大騒ぎするところでしょ?」
(あなたもです……)
物陰に隠れていた黒ウサギが明久の言葉に心の中でツッコミを入れていた。
「でも、本当におかしいよね。ゲームでもこういう時はまず案内人というか、そういった人が出てくると思うんだけどな。あ、でも……」
ここまで来て落ち着いている4人を見て黒ウサギは出てくるタイミングを計れず、ため息をついていた。
もう少しパニックにでもなってくれればもっと凝った演出ができるかと期待していたのだが、召喚した者達が思いの外落ち着きすぎているために完全に停止していた。
(まあ、悩んでも仕方がないです。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りますか)
黒ウサギがいざ出ていこうかと思った矢先だった。十六夜がため息混じりに呟く。
「──仕方ねえな。こうなったら、そこにいる奴にでも聞くか?」
いざ物陰から出ていこうとした黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。
4人の視線が一気に黒ウサギの方へと集中していった。
「なんだ、あなたも気づいてたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ? そっちの2人も気づいてたんだろ?」
「……風上に立たれたら嫌でもわかる」
「僕はまあ……今まで暗殺されかけたこととかもあるから、こういった気配察知は割と得意だったり」
「へぇ? 面白いな、お前ら。特にそこのお前の理由がな」
軽薄そうに笑っているようで十六夜の目は全く笑ってなかった。
明久以外の3人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の篭った冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。
明久としては状況が状況だけに、むしろ感謝していたりしたので殺気は愚か、怒気すらもなかった。
3人に殺気を向けられた黒ウサギはやや怯んで出てくる。
「……バニーガール?」
明久はそんな感想を抱いていた。
「や、やだなぁ4人。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ、穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますよ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「3者共に問答無用っ!?」
「あっは、取り付く島もないですね♪」
黒ウサギはバンザーイ、と降参のポーズを取った。しかし、その目はどこか品定めをするようなものだった。
(肝っ玉に関しては及第点。この状況でNOと言える勝気は買いです。あのボーッとしたような方はまだわかりませんが、この状況で普段通りでいられる精神もまあ、オッケーですね。少々扱いにくいのは難点ですけども)
黒ウサギはおどけつつも、4人にどう接するか冷静に考えを巡らせている。
そんな時、耀が黒ウサギの隣に立って黒ウサギのウサ耳を根っこから鷲掴みして引っ張ってきた。
「えい」
「うきゃぁ!? ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
黒ウサギはどうにか耀の手から逃れて彼女の正面に立った。
「へぇ? このウサ耳って、本物なのか?」
「じゃあ、私も」
しかし、その背後から更に十六夜と飛鳥が黒ウサギの耳を左右から引っ張る。
「え? ちょ、ちょっとお待ちを!? あ、あ……あ──っ!」
耳を引っ張られた黒ウサギは悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。
「あ、ありえない。ありえないのですよ。まさか話を聞いてもあるために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのです」
「えっと、大丈夫ですか?」
「は、はい……ご心配なく」
「……ところで、その服ってコスプレ? そしてその耳は本物?」
「それは今聞くことでございますか!?」
「いいからさっさと話を進めろ」
話ができない状況に持っていったのは誰の所為だとツッコみたかった黒ウサギだが、そこはグッと堪えて深呼吸する。
なんであれ、話を聞いてもらえる状況を作ることに成功したのだ。黒ウサギは咳払いをしてから4人の前をゆっくり移動して後ろを向く。
それから4人に向きなおって両手を広げた。
「ようこそ、”箱庭の世界”へ! 我々は4人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる「ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました」
「ギフトゲーム?」
「箱庭の世界?」
耀と明久は首を傾げた。
「そうです! 既に気づいてらっしゃるでしょうが、4人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者が面白おかしく生活できるために造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げ、箱庭の大きさをアピールする黒ウサギ。飛鳥は挙手して黒ウサギに質問をする。
「まず、初歩的な質問からいいかしら? あなたの言う我々って、あなたを含めた誰からなのかしら?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者hが箱庭で生活するに当たって、数多とある”コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます!」
即答で拒否した十六夜に向けて黒ウサギは語調を強めて先を口にする。
「そして、『ギフトゲーム』の商社はゲームの主催者、即ちホストが提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造になっております」
「……主催者って誰?」
「それは様々ですね。暇と持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴としては、前者は自由参加が多いですが、主催者が修羅神仏だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、その分見返りは大きいですよ。主催者しだいですが、そのゲームに勝ってギフトを手にすることも夢ではありません。校舎は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て主催者のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね。で、チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そして、ギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう」
「……えっと、要するに……ゲームでいうとこのクエストっていうか、冒険してボスを倒したりダンジョンクリアしたりしてお金や力を手に入れるって感じのアレ?」
「YES! 例えが少々アレですが、その解釈も間違ってはいません。また、ギフトを賭け戦いに負ければ当然、ご自身の才能も失われるのであしからず」
挑発とも取れる黒ウサギの愛嬌たっぷりの笑顔の裏にある黒い影。そこに負けずと挑発的な声音で飛鳥が問うた。
「そう。なら最後にもうひとつだけ質問いいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「……つまり、ギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
飛鳥の言葉にお? と黒ウサギが驚いたような声を上げた。
「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは8割世界の2割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞な輩は悉く処罰いたします──が、しかし! ギフトゲームの本質は全く逆!一方の商社だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能ということですね」
「そう。中々に野蛮ね」
「ごもっともです。しかし主催者は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは始めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」
「それはなんとも怖いものだね……」
「まあ、身の丈以上のものに参加しなくても生活できないわけではありませんよ。まあ、その分苦しい日々になりますが」
「あ、それはそうと。そのギフト、だっけ?」
「はい」
「僕、そんなもの持ってないと思うんだけど? そもそもそんなすごいのがあったらバンバン使う自信あるし」
「ですが、ここに来た以上あなたにも何らかの恩恵はあるはずでございますよ」
「ん~……」
黒ウサギの言葉にイマイチ納得がいかない明久だった。
「まあ、ギフトに関することはまたの機会にしましょう。さて、皆さんの召喚を依頼して黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらを全て語るには少々お時間がかかるでしょう。あなた様のギフトにおいても同様に。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出しておくのは忍びないです。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきないのですが……よろしいですか?」
「おい、待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
ここまでずっと沈黙して清聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立ち上がる。
その顔からは先のような軽い笑みは既にないことに気づいた黒ウサギが構えるように聞き返した。
「……どういった質問でしょうか? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは、ただひとつ。あの手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は黒ウサギから視線を外すと他の3人を見回し、それから巨大な天幕によって覆われた都市へ目を向ける。
彼は何もかもを見下すような視線でただ一言を口にする。
「この世界は……面白いか?」
他の3人も無言で返事を待った。元々流されやすい上に、元々があの生活だった明久は自身の命さえ無事ならなんでもいいやと思ってるが、飛鳥と耀は違う。
あの手紙にも書いてあったように、『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。
それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、彼らにとって一番重要な問題だった。
「……YES! ギフトゲームは人を越えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より面白いと、黒ウサギは保証いたいます♪」
所変わって箱庭2105380外門。ペリベッド通り・噴水広場前。
箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で見窄らしいローブに身を包んだ少年、ジン=ラッセルが立っていた。
ジンはここで新たなる同士を迎えるべく、期待を胸に込めながら待っていた。
同時に、悩みを抱えているのか、少々顔色が優れていなかった。そんなところに彼のよく知る声が聞こえてきた。
「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れてきましたよ!」
ジンははっと顔を上げると、外門前の街道から黒ウサギと明久達が歩いてきた。
「お帰り、黒ウサギ。それで、そちらの御三方が?」
「はいな、こちらの4人様が──」
「……3人?」
ジンの言葉に黒ウサギの言葉が途中で止まり、明久は疑問符を浮かべて後ろを向く。
「……え? あれ? もうひとりいらっしゃいませんでした? こう、ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児”ってオーラを放っている殿方……」
「ああ、十六夜君のこと? 彼なら、『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
あっちの方と、飛鳥が指を差した方向は4人が上空4000mから見えた断崖絶壁のある方向だった。
それを聞くと黒ウサギはウサ耳を逆立てて飛鳥と耀に問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」
「『止めてくれるなよ』と言われたもの」
「なら何故黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「『黒ウサギには言うなよ』って言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
あっさりと肯定した2人を前に黒ウサギは完全に脱力した。
同時に新たな人材に胸を踊らさせていた数時間前の自分を殴り倒したい気分に苛まれた。
「え、えっと……大丈夫ですか?」
「う~……黒ウサギは、これから多大なストレスと戦わなくてはいけないのですか~?」
ただ、黒ウサギにとって唯一の救いと言えば明久の存在だ。他の3人と比べれば割と素行は悪くないし、この気遣いも、他の3人よりもずっとマシな方だったことに僅かだがほっとした。
「た、大変ですよ! 世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が!」
「幻獣?」
「それって、ゲームとかに出るドラゴンとかペガサスだとかユニコーンだとかの?」
「は、はい。『幻獣』というのは主にギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間が太刀打ちできるものではありません!」
「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ……斬新?」
「それ、どんなクソゲー?」
「冗談を言ってる場合ではありませんよ!」
ジンは必死に事の重大さを訴えるが、飛鳥と耀は叱られても肩を竦めるだけである。
明久は話が難しすぎるのか、首を傾げるだけだった。
「えっと……よくわかんないけど、それって……すぐに連れ戻さないとヤバイのでは?」
「だからさっきからそう言ってるんですよ!」
「はぁ……ジン坊ちゃん。申し訳ございませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「もちろん、問題児を捕まえに参ります。事のついでに、『箱庭の貴族』と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」
黒ウサギは怒りに身を震わせ、全身からオーラのようなものを放出させると、艶のある黒い髪が淡い緋色に染まった。
「え? 黒ウサギさんの髪の色が変わった?」
「一刻半で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
「え? え? でも、ここからあの世界の果てだっけ? そこまで行くのにそんな程度の時間で──」
明久の言葉は最後まで繋がらず、黒ウサギが全力で跳躍すると瞬く間に全員の視界から消え去っていった。
跳躍した際舞った土煙を手で払いながら呆然と見ていたみんなは、
「……箱庭のウサギは随分と速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「戦闘民族?」
「僕、鉄人よりも速く走ったり跳んだりする人初めて見たよ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが」
「そう……」
ジンの言葉に飛鳥がから返事をした。
「えっと……そういえば、君って?」
「あ、はい。コミュニティのリーダーを務めるジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですが、よろしくお願いします」
「11!? うわ、そんな歳でコミュニティのリーダーって、すごいね……」
自分より遥かに年下の少年がチームのリーダーを務めている事に明久は感心した。
「それで、あなた達の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「僕は吉井明久。よろしくね、ジン君」
「はい」
「それじゃあ、箱庭に入るとしましょう。まずはそうね……軽い食事でもしながら話を聞かせてくれるとうれしいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐり、明久と耀はそれについていった。