問題児+バカ一名が異世界から来るそうですよ?   作:慈信

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第十二話

 

 

 境界壁・舞台区画。”火龍誕生祭”運営本陣営。

 

 明久達が北側までやってき、その後すぐに十六夜達と黒ウサギの追いかけっこが続行している最中、真っ赤な境界壁を削り出すようにして作られた宮殿の中に明久達がいた。

 

 この宮殿の中はゲーム会場と直結しており、そこでは”火龍誕生祭”のイベントのひとつ、”造物主達の決闘”の決勝枠争いが行われていた。

 

 何故このような催しに明久たちが参加してるのか、それは少し前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「なるほどのぅ。おんし達らしい悪戯だ。しかし、脱退とは穏やかではないな。ちょいと悪質だとは思わなかったのか?」

 

 サウザンドアイズ支店の白夜叉の座敷にて明久と黒ウサギの手によって捕まった耀はここまでの事を説明した。

 

「それは……少しは思ったけど、黒ウサギや明久だって悪い」

 

「う……でも、言えば絶対こうなると思ったし……」

 

「せめて近いうちに祭典があるくらいには言ってくれればこんな強行手段には出なかった」

 

「本当に?」

 

「…………本当」

 

「随分間が空いたね」

 

 拗ねたように言う耀に明久が苦笑しながら言う。

 

 白夜叉から出されたお茶と和菓子を頬張りながら3人の歓談は続く。

 

「そういえば、大きなギフトゲームをやるって言ってたけど、ホント?」

 

「うむ。特に、おんしら2人にはぜひとも出場してほしいゲームがある」

 

「私達に?」

 

「それって、どんなゲームなんですか?」

 

「うむ。これなのじゃが」

 

 白夜叉は袖から先程見せたチラシを取り出して2人に見せる。

 

『 ギフトゲーム名”造物主達の決闘”

 

 ・参加資格、及び概要

   ・参加者は創作系のギフトを所持。

   ・サポートとして、一名までを同伴を許可。

   ・決闘内容はその都度変化。

   ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ずる。

 

 ・授与される恩恵に関して

   ・”階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。 ”サウザンドアイズ”印 ”サラマンドラ”印』

 

「……創作系のギフト?」

 

 チラシを見た耀が首を傾げた。

 

「うむ。人造・霊造・神造・星造を問わず、製作者が存在するギフトの事だ。北では、過酷な環境に耐え忍ぶために恒久的に使える創作系のギフトが重宝されおってな。その技術や美術を競い合うためのゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしが父から譲り受けたギフト、”生命の目録”は技術・美術共に優れておる。人造とは思えんほどにな。明久のそのギフトも、耀の”生命の目録”ほどでないにしろ、人造物によるギフトじゃから参加資格はある。どうせなら展示会に出してもよかったのじゃが、そちらは出場期限が切れておっての。その木彫りに宿る恩恵ならば、力試しのゲームも勝ち抜けると思うのだが」

 

「そうかな?」

 

「そうだね。春日部さんのギフトって、すごい素敵なものだし」

 

「……そう?」

 

「うむ。幸い、パートナーとして吉井は申し分なさそうじゃし、サポーター役としてジンもおる。祭を盛り上げるために一役買ってほしいのじゃが。勝者の恩恵も、強力なものを用意する予定だが、どうかの?」

 

「……ねえ、2人共」

 

「ん?」

 

「何かな?」

 

「その恩恵で……黒ウサギと、仲直りできるかな?」

 

 耀の言葉に2人は若干驚いた表情を浮かべたが、すぐに暖かい微笑みで頷いた。

 

 耀も悪戯っ子の気はあるが、何より友達思いなのだ。

 

「できるとも、おんしにそのつもりがあるならの」

 

「そっか。それなら、出場してみる」

 

「うん。僕も、優勝できるよう目いっぱい頑張るよ」

 

 そうして、明久と耀がギフトゲーム”造物主達の決闘”に出場する事を決めた。

 

 

 

 

 そうして明久たちはギフトゲーム”造物主達の決闘”に参加し、優勝を競っていた。

 

 このギフトゲームのルールとしてまず、数多いコミュニティが自分達の自慢の創作ギフトを披露し、戦わせ、トップになるまで勝ち残るというもの。

 

 そして、今現在、この舞台上にて最後の決勝枠が争われていた。

 

「と! おわ、よっ!」

 

「………………」

 

 舞台上では明久と耀が相手の創作ギフトの決勝であるゴーレム、巨大な獣、機械兵器らしい外見をした自動人形(オートマター)の攻撃を躱していた。

 

 ちなみに今行っているのは複数のコミュニティがひとつの舞台で最後まで残ったコミュニティが決勝ゲームに参加する資格を得るという。一言でいうと、バトルロワイヤルである。

 

 そして舞台に上がり、ゲームが始まった瞬間、ノーネームメンバーである明久と耀が真っ先に狙われ、今に至るという。

 

「勝つ、とは、言った、ものの……まさか、初っ端、から、大ピンチ、に、陥る、とはね!」

 

「……別にピンチでもない」

 

「まあ、春日部さんは、そうかも、しれない、けど! 僕は、春日部さんの、ような、すごい力を、もって、ないから!」

 

『くっそぉ! ちょこまかちょこまかと! ノーネーム風情が生意気な!』

 

『あの娘も相当すばしっこいが、相方のあのガキもなんて回避力だ』

 

『バカ面してる癖して意外とやりやがる』

 

「バ、バカ面って……誰のことだあああぁぁぁぁぁぁ!! 起動(アウェイクン)! 召喚(サモン)! 展開(アンテ)!」

 

『『『のおおおぉぉぉぉぉ!?』』』

 

 明久が怒涛の連続技を仕掛け、明久をバカにした者たちが自分達のギフトで創った作品ごと次々と上空へと吹っ飛ばされていく。

 

 そして耀も、鷲獅子から授かった旋風を操るギフトを用い、石垣の巨人の背後を取り、そこから両足を揃えて巨人を蹴り飛ばす。

 

『おぉ! それは、ゾウの旦那からもらった力ああぁぁぁぁ!!』

 

 舞台の外から三毛猫が興奮した声を上げていた。

 

 そして、耀が石垣の巨人を倒すと同時に明久が吹っ飛ばした者達とその創作物が地面に落ちると、割るような歓声が会場内に沸き起こった。

 

『お嬢おおぉぉぉぉ! うおおおぉぉぉぉ! ようやりましたぜええぇぇぇぇ!』

 

 耀の活躍に感動した三毛猫が雄叫びを上げていた。傍目にはにゃーにゃーと言っているようにしか聞こえないが、動物の言語を理解できる耀には聞き分けられたことだろう。

 

 その顔にはわずかながら笑みが浮かんでいた。

 

 ──パンパン!

 

 会場が震える程の歓声の中だというのに、ハッキリと明久達の耳に柏手を打つ音が聞こえた。

 

 同時に会場内の歓声が一気に静まり、宮殿の上に白夜叉の姿があった。

 

「見ての通り、最後に決勝に進む事が決まったのは、ノーネーム出身の春日部耀、及び吉井明久に決定した。これにて最後の決勝枠が用意され、決勝のゲームは明日以降となっておる。明日以降のゲームルールは……ふむ。ルールはもうひとりの主催者にして、今回の祭典の主賓から説明願おう」

 

 白夜叉が振り返り、しばらくすると白夜叉の後ろからテラスへと現れる影が現れた。

 

 それが黄昏時の夕日に晒され、真紅の髪が炎のように輝き、色彩鮮やかな衣を幾重にも纏った幼い少女の姿があった。

 

「ご紹介に与りました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。東と北の共同祭典・火龍誕生祭の日程も、今日で中日を迎える事ができました。然したる事故もなく、親交に協力くださった東のコミュニティと北のコミュニティの皆様にはこの場を借りてお礼の言葉を申し上げます。以降のゲームにつきましてはお手持ちの招待状をご覧ください」

 

「え? 北のマスター? 本当にジン君と変わらないくらいの歳だ……」

 

 明久は北のマスターを名乗ったサンドラを見て軽く驚いていた。

 

 話には聞いていたが本当にあそこまで幼い娘だとは思ってなかった。

 

 それからは今後の火龍誕生祭の予定をサンドラが説明し、マスターとしての挨拶を最後に本日の大祭はお開きになった。

 

 その後で明久と耀の前に白夜叉が現れ、少々話があると言って明久達はそれについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

 

「ああ、ご要望通り祭を盛り上げてやったぜ」

 

「胸を張って言わないでください、このお馬鹿様!」

 

「ほい、明久シールド──」

 

「そう何度も喰らうか!」

 

「甘い」

 

「ぐぼぁ!?」

 

 明久が盾になりそうなところで回避したと思ったが十六夜は裏をかいて明久の首根っこを掴んで自分と黒ウサギの間に割って入れた。

 

 それにより、明久は黒ウサギの渾身の力の篭ったハリセンをまともに受けた。

 

 その光景を見ていた白夜叉が必死に笑いを堪えているが、極力真面目な姿勢をとっていた。

 

 流石に幼いとはいえ、北のマスターとなったサンドラの前ではしたない真似はできないようだ。

 

「ふん! ノーネームの分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな! 相応の厳罰は覚悟しているか!?」

 

「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろう?」

 

 白夜叉がサンドラと呼ばれる男を制する。

 

「あの、一体何があったの?」

 

 明久は傍らにいるジンに小声で尋ねた。

 

「あぁ、実はここに来た直後で十六夜さんと黒ウサギの追いかけっこがありまして」

 

「うん、それは知ってる。あのあとどうなったの?」

 

「それで、その時に2人がお互いに一回限りの奴隷権を賭けてギフトゲームを始めて……その時に近くにあった建造物を十六夜さんが──」

 

「オーケー……大体何があったのかはわかった」

 

 いくら状況を読み取る能力が低めの明久とて、ジンの一言で何があったのかは容易に想像がつく。

 

 どうやらまた十六夜が何らかのトラブルを引き起こしての状況のようだ。

 

 それから正面の玉座からサンドラが立ち上がり、十六夜と黒ウサギに声をかける。

 

「箱庭の貴族とその盟友の方。此度は火龍誕生祭に足を運んでいただき、ありがとうございます。あなた達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様からのご厚意で修繕してくださいました。負傷者は奇跡的になかったようなので、この件については私からは不問とさせていただきます」

 

 サンドラの決定にマンドラが舌打ちするのが見えた。そしてサンドラの言葉に意外そうに十六夜が声をあげる。

 

「へぇ? 随分太っ腹な言だな」

 

「うむ。おんしらは私が直々に協力を要請したのだからの。何より怪我人が出なかった事が幸いした。よって路銀と修繕については報酬の前金とでも思っておけ」

 

 白夜叉の言葉に黒ウサギ、明久、ジンがほっと胸をなでおろした。

 

 勢いだけで飛び出した問題児3人の行動でどんな大変な代償が出るかと思ったが、この時3人は白夜叉に感謝の念を抱いた。

 

「……ふむ。いい機会だから昼間の続きを話しておこうかの」

 

 白夜叉がサンドラに目配せをするとサンドラは頷き、マンドラを除く王室の中にいる同士を下がらせた。

 

 サンドラは同士達がいなくなったのを見ると先程までの硬い表情を崩して玉座を飛び出し、ジンに駆け寄って愛らしい表情を浮かべる。

 

「ジン、久しぶり! コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」

 

 サンドラが発した声はこれまた先程の堅い雰囲気とは無縁のものだった。笑顔で接してきたサンドラにジンも笑顔で返す。

 

「ありがとう。サンドラも元気そうでよかったよ」

 

「ふふ、当然。魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐにでも会いに行きたかったんだけど、お父様の急病や継承式の事でずっと会いに行けなくて」

 

「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて──」

 

「そのように気安く呼ぶな、名無しの小僧!」

 

 ジンとサンドラが親しく話しているところでマンドラが横から帯刀していた剣を抜いてジンに向かって振りに行った。

 

 刃がもう少しでジンの首筋に届くといった距離で十六夜が足裏でそれを受け止めた。

 

「……おい、知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねえな。止める気なかっただろお前」

 

「当たり前だ! サンドラはもう北のマスターになったのだぞ! 誕生祭も兼ねたこの共同祭典に名無し風情を招き入れ、温情をかけた挙句馴れ馴れしく接されたのではサラマンドラの威厳に関わるわ! この名無し風情が!」

 

「っ! テメェ、友達の話し合いに横槍入れといてふざけんじゃねぇ!」

 

「明久さん! 落ち着いてください!」

 

 マンドラの言葉に明久も先の彼同様表情を険しくして攻撃を仕掛けようとしたが、黒ウサギがそれを必死に止める。

 

「マンドラ兄様! 彼らはかつてのサラマンドラの盟友! こちらから一方的に盟約を切った挙句にそのような態度を取られては我らの礼節に反する!」

 

「礼節よりも誇りだ! そのような事を口にするから周囲から見下されるのだと──」

 

「マンドラ、いい加減に下がれ」

 

 呆れた口調で諌める白夜叉だが、マンドラは尚も食い下がって睨み返す。

 

「サウザンドアイズも余計な事をしてくれたものだな。同じフロアマスターとはいえ、越権行為にも程がある。『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはっよく言ったもの。此度の噂も、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」

 

「テメェ、もういっぺん言ってみやがれ!」

 

「落ち着いてください、明久さん!」

 

「マンドラ兄様も、いい加減にしてください!」

 

 再び明久が攻撃を仕掛けようとしたところを黒ウサギが全力で止め、サンドラもマンドラの言葉に叱りつける。

 

 だが、十六夜が首を傾げた。

 

「おい、その噂って何だ? それは俺達に協力してほしい事と関係があるのか?」

 

 十六夜の言葉にうむ、と頷いて白夜叉は全員の顔を見回した後で一枚の封書を取り出した。

 

「この封書に、おんしらを呼び出した理由がある。己の眼で確かめるがよい」

 

 そう言って白夜叉は手紙を十六夜に向けて放ると十六夜はそれを怪訝な表情で受け取り、封書を広げて文章に眼を通す。

 

 そして中身を見ると十六夜の表情から普段の軽薄な表情が完全に消えた。

 

「十六夜君? 一体何て書いてあるの?」

 

「自分で確かめな」

 

 十六夜は珍しく抑揚のない声音で明久に手紙を手渡した。

 

 明久が手紙を開き、黒ウサギと耀も背中越しから手紙の内容を読む。そしてそこには一文だけ内容が書かれていた。

 

『火龍誕生祭にて、”魔王襲来”の兆しあり』

 

「へぇ……魔王が来るのか。…………はい?」

 

 明久が手紙の内容を読み上げると少しだけ間を置いて間抜けな声を上げた。

 

 同じように手紙を確認した黒ウサギも次に確認をしたジンも青ざめた表情を浮かべた。

 

 そんな中で十六夜はただひとり無表情に白夜叉へ問い返した。

 

「へぇ、正直意外だったぜ。てっきりマスターの跡目争いとか、そんな話題かと思ったぜ」

 

「何っ!?」

 

 牙をむくマンドラを慌ててサンドラが嗜める。

 

「謝りはせんぞ。内容を聞かずに引き受けたのはおんしらじゃからな」

 

「はは、違いねぇ。それで、俺達に何をさせたいんだ? 魔王の首をとれってんなら喜んでやってやるぜ。つーか、この封書は何だ?」

 

「ふむ。まずそこから説明しておこう」

 

 白夜叉が再びサンドラに視線を移すとサンドラは頷いた。一応機密事項を話す同意が欲しかったのだろう。

 

「まずこの封書だが、これはサウザンドアイズの幹部のひとりが未来を予知したものでの」

 

「未来予知?」

 

「そんなことができる人もいるんだ……」

 

「うむ。知っての通り、我々サウザンドアイズは特殊な瞳を持つギフト保持者が多い。様々な観測者の中には、未来の情報をギフトとして与えておる者もおる。そやつから誕生祭のプレゼントとして贈られたのが、この魔王襲来という予言だったわけだ」

 

「なるほど。予言という贈り物ってことか。それで、この予言の信憑性は?」

 

「上に投げれば下に落ちる、という程度だな」

 

 白夜叉の言葉に十六夜が疑わしそうに顔を歪め、明久と耀は小首を傾げた。

 

「それ、予言なのか? 上に投げれば下に落ちるのは当然のことだろ」

 

「予言だとも。何故ならそやつは誰が投げた(・・・・・)のかも、どうやって(・・・・・)なのかも、何故投げた(・・・・・)というのもわかってる奴での。

 ならば必然的に何処に落ちてくる(・・・・・・・・)というのも推理することができるだろ? これはそういう類の預言書なのだ」

 

「へぇ…………あれ? それじゃあ、その予言を言い渡した人は魔王がどんな奴なのかも、その魔王が来る理由も知ってるってことじゃ?」

 

 明久がポツリといった呟きに全員が言葉を失った。

 

 明久の言う通り、そこまでわかっているならその予言を言い渡した者は犯人も、犯行も、動機も、全てを見通している筈。

 

 だというのに、それを未然に防ぐ事ができないと言うのだ。マンドラは顔を真っ赤にし、怒鳴り声をあげる。

 

「ふざけるな! それだけわかっているというのに、魔王の襲来しか教えぬだと!? 戯言で我々を翻弄しようという狂言だ! 今すぐにでも棲み家に帰れ!」

 

「兄様……! これには事情があるのです……!」

 

 憤るマンドラを必死に止めるサンドラ。これに関しては明久も同感だった。

 

 そんだけわかっていながら何故預言者は魔王が来るという予言だけを記したのだろうか。明久だけでなく、黒ウサギやジンも同様の考えだった。

 

 だが、十六夜は頭の中で情報を整理してから確認するように白夜叉に問いかける。

 

「なるほどな。事件の発端に一石投じた主犯は既にわかっている。……けど、その人物の名前を出す事ができないんだな」

 

「うむ……」

 

 十六夜の確認に白夜叉は歯切れの悪い返事をする。そこに十六夜が再度強く問いなおす。

 

「今回の一件で魔王が火龍誕生祭に現れるため、策を労した人物が他にいる。その人物ってのが、口に出すことのできない立場の相手(・・・・・・・・・・・・・・・・)ってこと、なんだろ?」

 

 言われてみれば、確かにこちらに来る前に幼い権力者をよく思わない者がいるという事は白夜叉の口からも効いている。

 

 ジンはある可能性を頭に浮かべてそれを口に出す。

 

「まさか……他のフロアマスターが、魔王と結託して火龍誕生祭を襲撃すると!?」

 

「それはまだわからん。この一件はボスからの直接命令でな。内容は預言者の胸のうちにひとつに留めておくように厳命が下がっておる。故に私自身はまだ確信には至ってない。……しかし、サンドラの誕生祭に北のマスター達が非協力的だった事は認めねばなるまいよ。なにせ共同主催の候補が、東のマスターである私に御鉢が回ってきたほどだ。北のマスターが非協力だった理由が魔王襲来に深く関与しているのであれば……これは大事件だ」

 

 唸る白夜叉の言葉に黒ウサギとジンが絶句していた。だが、十六夜は首を傾げたまま口を開く。

 

「なあ、それってそんなに珍しい事か?」

 

「へ!?」

 

「お、おかしいも何も最悪ですよ! フロアマスターは魔王から下位のコミュニティを守る、秩序の守護者! 魔王という天災に対抗できる、数少ない防波堤なんですよ!?」

 

「でもさ……そういった上にいる奴って、大抵ロクな奴がいなくない? どの国でも法律を定めたり秩序を守る人だって、人々のためだなんだとかいいながら、その地位に居座ってることをいいことに、陰謀を謀ったりするんだしさ。本当に善行を果たす政治家なんて、まずいないと思うんだけどな。そんな奴が平気で下の人達見下してる事なんてむしろ大半だと思うし」

 

 明久がそんな言葉を発した事に黒ウサギとジンが大層驚いた。

 

 明久とて、政治には興味はないが、上にいる奴は大抵他人を見下している部分が大きい事は知っていた。

 

 例を上げれば文月の妖怪然り、一個上の学年にいる愉快な変態外道コンビ然り、その他もろもろ、割とそういう人間が多い格差社会という言葉をそっくり体現したような場所で生きていたのだ。

 

 責任を背負っている者が善良な者であるとは言い切れない事は明久でも知っていた。

 

「とまあ、明久が言うように所詮脳みそのある何某なんだ。秩序を預かる奴が謀をしないなんてのは、幻想だろ?」

 

「なるほど。一理ある。しかし、なればこそ我々は秩序の守護者としてその何某を裁かねばならん」

 

「けど、目下の敵は予言の魔王。ジン達には魔王のゲーム攻略に協力してほしいんだ」

 

 サンドラの心からの願いに合点といった風に一同は頷いた。

 

「わかりました。”魔王襲来”に備え、ノーネームは両コミュニティに協力します」

 

「うむ、すまんな。協力する側のおんしらにすれば、敵の詳細がわからぬまま戦うという事は不本意であろう。……だがわかってほしい。今回の一件は、魔王を退ければよいというだけのものではない。これは箱庭の秩序を守るために必要な、一時の秘匿。主犯にはいずれ相応の制裁を加えると、我らの双女神の紋に誓おう」

 

「サラマンドラも同じく。ジン、頑張って。期待してる」

 

「わ、わかったよ」

 

 ジンが緊張しながら頷く。それを見ていた白夜叉は哄笑をあげる。

 

「そう緊張せんともよい! 魔王はこの最強フロアマスター、白夜叉様が相手をする故な! おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれでよい。大船に乗った気でおれ!」

 

 双女神の紋が入った扇子を広げ、白夜叉が呵呵大笑した。

 

 ジンや黒ウサギ、明久がホッとすると逆に、十六夜は眼を細めて不満そうな表情を浮かべる。

 

「なんじゃ? それでは気に食わんか、小僧?」

 

「いや、魔王ってのがどの程度なのか知るにはいい機会だしな。今回は露払いでいいか。……でも別に、何処かの誰かが偶然に魔王を倒しても、問題はないよな?」

 

「……よかろう。隙あらば魔王の首を狙え。私が許す」

 

 これにて、哄笑は成立。その後で一同は謁見の間で魔王が現れた際の段取りを決めて過ごした。

 

 その後でも十六夜の態度や発言に不謹慎と告げるマンドラがノーネームをゲームから追放するよう訴え、一悶着起こったのは想像に難くないだろう。

 

 


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