問題児+バカ一名が異世界から来るそうですよ?   作:慈信

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第九話

「レティシア様!? 明久さん!?」

 

 ノーネーム領の屋敷の中庭で禍々しい褐色の光が突然明久とレティシアを包み込み、黒ウサギが悲鳴を上げた。

 

 そして、光が収まるとそこには石像に変わり果ててしまった明久とレティシアが隣り合わせて並んでいた。

 

 その変わり果てた2人の姿を見て飛鳥は口を抑え、耀とジンは言葉を失って呆然と立ち尽くした。

 

 更にそこで光の差し込んだ方向から翼の生えた靴を装着した騎士らしい外見をした男達が大挙して押し寄せてきた。

 

「いたぞ! 吸血鬼は石化させた! すぐに捕獲しろ!」

 

「オマケでもうひとり石化してるのと、傍らにノーネームの連中もいるようだが、どうする!?」

 

「邪魔するようなら構わん、切り捨てろ!」

 

 空を賭ける騎士達の言葉を聞いて十六夜は不機嫌そうに、尚且つ獰猛に笑っていた。

 

「まいったな。生まれて初めてオマケに扱われたぜ。手を叩いて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか、黒ウサギはどっちだと思う?」

 

「と、とりあえず本拠にお戻りください!」

 

 レティシアや明久の安否も気になるが、今はそれどころではない。

 

 レティシアの方はペルセウスの所有物なのだ。それが主の命もなく勝手に出歩いていたのだから理由がどうあれ庇い立てすることもできない。

 

 何よりペルセウスはサウザンドアイズの幹部を務めているコミュニティ。万が一揉め事を起こしてしまってはタダでは済まない。

 

 黒ウサギが慌てて十六夜を本拠へ引っ張りこみ、他3人もそれについていって本拠に戻ると空の軍団の中から3人ほど降り立ち、石化したレティシアを取り囲む。

 

 男達は意思になったレティシアを取り囲むと安堵したように縄をかける。

 

「これで、よし……危うく取り逃がすところだった。ところで、傍らのこいつはどうする?」

 

「捨て置け。そいつに商品価値はない。ギフトゲームを中止にしてまで用意した大口の取引なんだ。余計なものを連れて商品価値を下げてはたまらんし、台無しになってしまえばサウザンドアイズに我らペルセウスの居場所はなくなってしまう」

 

「それだけじゃない。箱庭の外とはいえ、交渉相手は一国規模のコミュニティなんだ。もしも奪われでもしたら──」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

 黒ウサギの叫びに運び出そうとした男達の手が止まる。

 

「一体どういうことです! 彼らヴァンパイアは──箱庭の貴族は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!? そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて……!」

 

「我らの狩猟が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ」

 

 黒ウサギの言葉を騎士達は一瞬で、位置的にも視線的にも見下した態度で切り捨てる。

 

「こ、この……! これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!? それでよく双女神の旗を掲げられるものですね、あなた達は!」

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷がつくわ。身の程を知れ名無しが」

 

「な……なんですって……!?」

 

 黒ウサギの中から何かが爆発するような音をその場にいた全員が聞き取った。

 

 レティシアの扱いや明久を巻き込んでの騒動、コミュニティを侮辱する行動及び発言の数々に、黒ウサギの沸点が一気に振り切れていた。

 

 怒りに震えだした黒ウサギを見て騎士達は鼻で笑った。

 

「フン。戦うというのか?」

 

「愚かな。自軍の旗も守れなかった名無しなど我らの敵ではないぞ」

 

「恥知らず共め。われらが御旗の下に成敗してくれるわ!」

 

 口々に罵り猛る騎士達。彼らはゴーゴンの旗印を大きく掲げると、陣形を取るように広がる。

 

 しかし、壮絶な薄笑いを浮かべるウサギのウサ耳に彼らの侮蔑の声は届いていなかった。

 

「ふ、ふふふふ……いい度胸です。多少は名のあるギフトで武装しているようですが、そんなレプリカを手にして強くなった気でいるのですか?」

 

「な、何!?」

 

 黒ウサギの言葉に今度は騎士達が怒声を上げた。黒ウサギは黒い髪を淡い緋色に変幻させる。

 

「ありえない……ありえないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた月の兎をここまで怒らせるなんて……!」

 

 黒ウサギを中心に周囲の空気が一気に重く変わった。息を吸うことさえ思い通りにいかないほどの力の奔流が敵を襲い、空を駆ける騎士達は黒ウサギの放つ重圧にたじろいた。

 

 そして黒ウサギがギフトカードを天に向けて掲げると、空気が裂けるような甲高い音が響き、閃光が奔る。

 

 落雷のような閃光と轟音が響き渡り、その右手に閃光のように輝く槍が握られた。それを見て騎士達に同様が走った。

 

「ら、雷鳴と共に現れるギフト……まさか、インドラの武具!? そんな話はルイオス様から聞いてないぞ!」

 

「あ、ありえない! 最下層のコミュニティが神格を付与された武具を持つはずが……!?」

 

「本物のはずがない! どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

「その目で真贋を見極められないのならば……その身で確かめるがいいでしょう!」

 

 刹那、雷鳴が轟き、槍に閃光が奔った。インドラの槍を振りかぶって天に打ち出そうと構えた時だった。

 

「てい」

 

「フギャァ!?」

 

 後ろから十六夜が黒ウサギの耳を力いっぱい引っ張った。

 

 思いもよらないアクシデントに対処しきれなかった黒ウサギは思いっきり体勢を崩し、投擲した槍が明後日の方向へと飛び、箱庭の天井に着弾した。

 

 着弾した瞬間、槍に秘められた稲妻と熱量が着弾した場所を中心に直径数kmに渡って天幕を照らした。

 

「お・ち・つ・け・よ! 白夜叉と問題起こしたくないんだろ? つか俺が我慢してやってるのに、ひとりでお楽しみとはどういう了見だオイ!」

 

「本当よ。私達にアレコレ言っておいて自分だけ好き勝手?」

 

「……ズルい」

 

「フギャァ!? っていうか、怒るところそこなんですか!? ていうか痛い! 本当に痛いですから、十六夜さん!」

 

 十六夜はリズミカルに、力いっぱい、両耳を根っこから何度も引っ掴んで持ち上げるのだった。

 

「痛い痛い痛い痛い! いい加減にしてください十六夜さん! ボケていい場面とそうでない場面をわきまえてください! 今あの無礼者共に天誅を──」

 

「それならもうみんな帰っていったみたいだけど?」

 

「え? って、逃げ足速すぎでしょ!?」

 

 飛鳥の言葉に黒ウサギは十六夜の手から逃れ、辺りを見回した。

 

 もうそこには騎士達の姿はなく、無数の星が空に浮かんでいただけだった。黒ウサギのギフトを見て敵わないと判断するや否や、すぐさま退却したようだ。

 

「でも、アレだけいた大群がこんな短時間で……」

 

「……まだそんなに離れてない。でも、姿が見えない」

 

「それは、まさか……不可視のギフトですか!?」

 

「ペルセウスってコミュニティの名前が俺の知ってるものと同じなら間違いなくそうだろうよ。……しかし、箱庭は広いな。空飛ぶ靴や透明になる兜が実在してるんだもんな」

 

「十六夜さん!」

 

「わかったから、そう睨むな。気持ちはわかるが、今はやめとけ。俺は別に構わないが、ノーネームとサウザンドアイズが揉めたら困るんだろ?」

 

「そ、それはそうですが……でも、明久さんが……レティシア様と一緒に──」

 

「おいおい。アイツは別に大したことはないだろ」

 

「なっ!?」

 

 十六夜の言葉に黒ウサギの感情が再び高ぶった。

 

「十六夜さん! いくらなんでも同じコミュニティの仲間になんてことを──」

 

「あの~……色々怒ってくれる気持ちは嬉しいんですが、そろそろこれ解くの手伝ってくれませんか~?」

 

「……へ?」

 

 黒ウサギが十六夜に怒鳴ってる最中、後ろから妙に聞きなれた気の抜けた声が聞こえてきた。

 

 黒ウサギは恐る恐る後ろを振り向くと、

 

「あの~……これ、中々解けないんですけど~」

 

「あ、明久さん!?」

 

 なんと、石化した筈の明久が右半身を元に戻していた状態でバタついていた。そしてまだ解いてない左側も徐々に石化が解けていってる。

 

 突然の事態に動揺を隠せなかった黒ウサギだが、明久の無事が確認できたことに一瞬ホッとし、すぐに今の事態を頭に入れるとすぐさま明久のもとへ駆け寄った。

 

「あ、明久さん、大丈夫なのですか!?」

 

「う、うん……いきなりあの不気味な光を浴びたと思ったら石になっちゃうんだもん。びっくりしたなぁ。まあ、色々ドタバタしてみれば少しずつ石化が解けていったからもう少しすれば……」

 

 黒ウサギは信じられないと言いたげな目で明久を見ていた。

 

 神格が失われたとはいえ、レティシアをあんなにも簡単に石化した強力なギフトを明久は時間はかかっているものの徐々に無効化している。

 

 別にギフトを無効化したりするギフトがあるのは珍しくはない。しかし、それは武具などの形で肉体と離れて顕現している物に限った話だ。

 

 肉体にそういったギフトを宿す前例は今のところ確認されなくも、全くありえないとは言い切れないためそのような者もいるかなという考えもあるにはある。

 

 しかし、明久のギフトの無効化はそれとは何かが違う気がしてならなかった。

 

 だが、いずれにしても明久の無事が確認できただけでも不幸中の幸いだった。どうにかコミュニティ内の被害は最小限に抑えられたのだから。

 

「まあ、とりあえず無事でなによりです。すぐにペルセウスのギフトを解きますからすぐに工房へ──」

 

「いらねえよ」

 

 黒ウサギの言葉を十六夜が一蹴して止めた。

 

「な、何故ですか? 一応無事は確認できたものの、ギフトが明久さんの体を蝕まない保証もありませんし……すぐにでも元に戻さなければどうなるか……」

 

「その前にこの事態に詳しそうな奴を当たるべきだろう」

 

 十六夜の言葉に黒ウサギはハッとした。レティシアを連れてきたのがもし白夜叉なのなら詳しい事情を知ってるかもしれない。

 

「で、ですが明久さんの体は……」

 

「まあ、ある程度は回復させてやる。ただし、身体の一部は石化させたままにしておけ」

 

「へ? いや、そう言われればやるし、出来るかどうかもわからないけど……でも何で?」

 

 十六夜の言葉に明久は首を傾げた。

 

「ま、折角の楽しみに水を差したペルセウスのリーダー様にちょっとお礼をな」

 

 十六夜は醜悪な笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更け、夜空には星が輝いていた。一晩遅れの満月が箱庭を照らしている。

 

 街灯ランプは仄かな輝きで道を照らしているが、周囲から人気らしいものは一切感じられない。

 

 その中を黒ウサギ、十六夜、飛鳥、明久が歩いていた。耀とジンは念のための屋敷の警護ということで屋敷に残った。

 

「こんなにいい星空なのに出歩いている奴はほとんどいないな。俺の地元なら金取れるぜ」

 

「本当にね。こんなに星空がハッキリ見えるのに、もったいない」

 

 十六夜と明久の時代では夜になってもほとんど眠ることのない街で生きていた。

 

 昼は太陽の明るさで、夜は夜でネオンライトや昼夜問わずに走る車に電車などの発する明かり、そして街中に広がる騒音と歓声、喧騒に人波。

 

 それがはびこる中を生きてきた2人にとってこういった星空は珍しいものだった。

 

「でも、これだけハッキリ満月が出ているのに、星の光がかすまないなんておかしくないかしら?」

 

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られておりますから」

 

「そうなの? だけどそれ、何か利点があるのかしら?」

 

 太陽の光から吸血鬼を守るというのなら理解はできる。だが、星空を見やすくしたからと言って、それが何の利点になるだろうか。

 

 それを喜ぶのは精々もの好きな天体観測好きの者くらいだろう。

 

「ああ、その理由はですね──」

 

「おいおいお嬢様、その質問は無粋だぜ。夜に綺麗な星が見れますようにっていう職人の心意気がわかんねえのか?」

 

「あら、それは素敵な心がけね。とてもロマンがあるわ」

 

「……そ、そうですね」

 

「えっと……本当に今のであってるの?」

 

「まあ、全く違うというわけでももありませんし……このことはまた今度ということで、今はそういうことにしておきます」

 

「そう……」

 

「それより、足の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

「うん、これくらいなら大丈夫だよ」

 

 黒ウサギは未だに石化している明久の左足を心配そうに見ていた。

 

 あれから何十分かかけて明久はようやく左足を除いた身体中の石化を解くことができた。残った左足は十六夜の言う通りそのまま残して包帯で巻いておいた。

 

 痿疾な身体障害者ってこんなものかなとこの状態になった明久はしみじみと思った。

 

「でも、何で一部とはいえ、石化を残しておかなくちゃならないんだろ?」

 

「さぁ? でも、十六夜さんのことですから何か考えてはおられるのでしょうけど」

 

「う~ん……まあ、すぐにわかるでしょう。僕達は流れに身を任せればいいってことで」

 

 それからすぐしてサウザンドアイズの店先に来た。7桁支店の門前には最初に出会った例の無愛想な女性店員が待っていた。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

「黒ウサギ達が来ることは承知の上、ということですか? あれだけの無礼を働いておきならがよくもお待ちしておりましたなんて言えばものです」

 

「……事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

 以前のような淡々とした口調に憤慨しそうになった黒ウサギだが、今はこの店員に文句を言っている暇はないので一礼してささっと店内へと入った。

 

 事の元凶であるルイオスがいるというのなら鞠訊するのは今しかない。

 

 中に入り、中庭を横切った部屋には白夜叉とルイオスらしき男が座り込んでいた。

 

 ルイオスらしい男は黒ウサギの姿を見ると歓声を上げていた。

 

「うわぉ、ウサギじゃん! うわー実物初めて見た! 噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった! つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな! ねー君、うちのコミュニティに恋よ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ」

 

「それ、完全に奴隷じゃん……そんなの喜ぶのは赤ゴリラくらいだよ」

 

 いきなりのルイオスの羈束宣言に明久は嫌悪感を隠すこともなく呟く。なんだか以前の世界にいたカッパ頭の外道を思い出す。

 

 それから飛鳥が壁になるように前に出ると、

 

「これはまた……わかりやすい外道が来たものね。先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は──って違いますよ飛鳥さん!」

 

 突然の所有宣言に頷きかけたが、すぐにツッコミを入れる黒ウサギ。

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のもんだ」

 

「そうですそうです。この脚は──って、もう黙らっしゃい!」

 

「よかろう! ならば黒ウサギの脚を言い値で──」

 

「売・り・ま・せ・ん! あーもう、真面目な話をしに来たのですから、いい加減にしてください! 黒ウサギも本気で怒りますよ!」

 

「馬鹿だな。怒らせてんだよ」

 

「この、お馬鹿様ぁー!」

 

「ほい、明久シールド」

 

「って、またぁ!? ふごぉ!」

 

 黒ウサギがハリセンを出したところで十六夜が明久を盾にして明久が代わりに黒ウサギのハリセン攻撃を顔面に受けた。

 

 その光景を眺めていたルイオスは一瞬呆けたが、5人のやり取りを見て笑い出す。

 

「あっはははははは! え、何? ノーネームって、芸人のコミュニティなわけ!? もしそうならまとめてペルセウスに来いってマジで! 道楽には好きなだけ金をかけるのが性分だからね。生涯の生活は保証してやるよ。もちろん、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

 

「結構です。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません」

 

「でも、その割にはそれ結構露出あるよね?」

 

 明久のもっともな言葉に黒ウサギは慌てて肌を隠そうと身体を縮ませる。

 

「ち、違いますよ! これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三倍増しにすると言われて嫌々……」

 

「白夜叉さんのだったんだ……白夜叉さん」

 

「む? 何じゃ?」

 

もう少し(この服)黒ウサギさんの(最高に)気持ちを考えてください(よろしいです)

 

「って、本音と建前を逆に言ってますよこのお馬鹿様!」

 

「ふごっ!?」

 

 明久の本音と建前を逆に言うというある意味器用な言い回しに再び黒ウサギのハリセンが一閃した。

 

「そうじゃろそうじゃろ。ゲームの審判に相応しいものをと厳選したものじゃからな。中々、良いもんじゃろ?」

 

「かなり!」

 

「超グッジョブ」

 

「うむ」

 

 明久と十六夜がサムズアップすると白夜叉もそれを返し、意思疎通していた。

 

「う~……話が進みません~」

 

 黒ウサギがため息混じりに項垂れて数分後、ようやく本題に切り出せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分かかってようやく仕切り直し、4人とサウザンドアイズの幹部2人が向かい合う形で座る。

 

 そして黒ウサギはノーネームの領地で起こった事を詳細に離す。

 

「──ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。ペルセウスの所有物のバンパイアが勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日に──」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。ペルセウスに受けた屈辱は両コミュニティの決闘を持って決着をつけるべきかと。サウザンドアイズにはその仲介をお願いしたく、参りました。もしペルセウスが拒むようであれば主催者顕現の名の下に──」

 

「いやだ」

 

「……はい?」

 

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れまわったって証拠があるの?」

 

「それなら彼女の石化を解いてもらえば」

 

「駄目だね。あいつは一度逃げ出したんだ。出荷するまでは石化は解けない。それに口裏を合わせてないとも限らないじゃないか。そうだろ? 元お仲間さん達?」

 

 嫌味ったらしく言うルイオスだが、筋が通っているだけに言い返せなかった。

 

 しかし、そこに十六夜が立ち上がった。

 

「証拠なら……まあ、なくもないかな?」

 

「あ? そんなもんが何処に──」

 

「ここにあるぜ」

 

「へ? 僕?」

 

 十六夜は明久を引っ張り上げて前に出し、引っ張られた明久は首を傾げていた。

 

「はぁ? なんでそんなバカ面が証拠なんだよ?」

 

「最後まで聞け。証拠は……こいつの脚だ」

 

 十六夜は明久のズボンをめくり、その下にある包帯を解いて更にその下にあった石化した状態の脚をルイオスに見せつけた。

 

「なっ!?」

 

 思いもよらないものを見てルイオスは驚愕した。

 

 ここまで来てようやく明久達も十六夜が何故明久の身体の一部を石化させたままにしたのかがわかった。

 

 普通に口論したところでルイオスはそれに応じることはしない。それどころかレティシアを材料にアレコレ無茶な要求をする可能性もある。

 

 それこそ物的証拠でも見せつけない限りはだ。

 

「確か………ゴーゴンの威光だったか? あれはペルセウスの奴らが持つギフトだった筈だが、どうなんだ?」

 

「ふ、ふざけんな! それはレプリカだろ! ギフトを複製することだって、ちょっと創作系のギフトを持ってる奴なら……」

 

「そうか。ならそこの白夜叉にでも調べてもらうか。一応ギフト鑑定者なんだしな」

 

「なっ!?」

 

 更なる追い打ちにルイオスは明らかに動揺した。白夜叉は十六夜の顔を見て笑い、十六夜に乗っかってきた。

 

「そうじゃのう。まあかなり夜も更けてはおるが、儂と知り合いとですぐさまその小僧の脚を調べて──」

 

「ま、待て! わかった、応じてやる。決闘はここで受理してやろうじゃないか!」

 

 ルイオスが大慌てで割って入り、決闘を受理することを宣言した。

 

「オッケーだ。ただし、決闘は一週間後だ。こっちにも相応の準備があるからな。それと、一週間の間にあの金髪ロリは絶対に売り飛ばすな。もしそうなれば困るのはお前だろうからな」

 

「(十六夜君……それ、明らかに脅迫だよね?)」

 

「(いんや、他人の楽しみを取り上げた奴への俺なりの礼だ。別にいいだろ)」

 

「(……まあ、そうだね)」

 

 なんとも見事な悪計だと思った明久だった。

 

「ていうわけで、白夜叉。何か契約書とかねえか? 口約束だけじゃどうにも信用ならねえ」

 

「よかろう。少し待っておれ」

 

 白夜叉は何処からか契約書を取り出し、それをルイオスに放り投げた。

 

 ルイオスは屈辱に満ちた表情で契約書に羽ペンを走らせ、書き終えると契約書を乱暴に十六夜に放った。

 

 十六夜はそれを受け取るを契約書の表面に目を走らせ、確認する。

 

「……オッケー、確かに受理したぜ。一応この件についてはしばらく検討しておいてやるよ」

 

「くっ……」

 

「さて、言うことは言っておいたし。忙しくなるだろうから、帰るぞ」

 

 十六夜達は立ち上がって部屋から出ようとした。

 

「あ、そういえば……ペルセウスのリーダーって、お前か?」

 

「今更なんだよ?」

 

 十六夜は確認してからルイオスをしばらく眺めるとため息をついた。

 

「なんだよそのため息は?」

 

「いや、お前名前負けしすぎだなって」

 

「テメェ……」

 

 ルイオスは怒りに満ちた瞳で十六夜を睨むが、十六夜は興味なさそうに部屋を出て行った。

 


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