「ああ、疲れた……」
僕は今までで最高と思えるほどの疲労感を抱いて屋上にヘタレこんでいた。
それというのも、今回のサプライズに使った仕掛けの後始末をしたからだ。
まあ、それだけでなく、高坂さんやムラサキさんからもかなりのお叱りをもらったからだ。
『あたし、あんたのこと信じてたんだけどな~』とか、『今まで従順だと思えば、影でこっそりと私たちを嘲笑っていらしてたのですね~』とか、笑顔で詰め寄ってきた。もちろん、眼はちっとも笑ってないけど。
そんな形容し難い恐怖感に包まれながら数十分の説教をくらって精神的に参った上に、この重労働。
そりゃあヘタレこんだっておかしくない。
「あはは、お疲れさま♪」
屋上で寝そべってると頭上から聞きなれた声が聞こえた。
「って、ななかちゃん? まだ残ってたの?」
「私以外にも残ってる人いっぱいいるよ。実家での時間もいいけど、進路の関係で別れたお友達とここで語りつくそうって子もいっぱいだから」
「ああ……」
僕や雄二たちは芳乃家に戻って明日になったら二次会って決めてたけど、思えば本島で
散り散りになった人はたくさんいるんだ。
「ななかちゃんは?」
「私は実家に帰るよ。ちょっと遅くなるって言ったけど」
「そう? まあ、小恋ちゃんたちと久しぶりに会ったんだもんね。気の済むまで語り合うといいよ」
「違うよ~。私は明久君とお話したかったんだな~」
「え? 僕と?」
頻繁にではないけど、週に1・2回はデートに行ってるんだし。それに対して小恋ちゃんとは月に1回会えればいい方だ。
「もう~、大好きな人と一緒にいたいって思う女の子の気持ちわかんないかな~?」
「えっと……その、ごめんなさい」
「まったく、恋人になっても女の子の気持ちに鈍感なのは変わらないんだから」
もう、全く返す言葉もございません。自分じゃそんな鈍感だとは思ってないんだけどなぁ。
「でも、本当にいいの? やっぱり小恋ちゃんたちと久しぶりに会ったんだから、会えるうちに色々話したりとか」
「いいの。というか、あんなの見てたらなんか対抗意識燃やしちゃって……」
あんなのって……ああ、あのサプライズか。
「もう、びっくりしたよ。義之君があそこでプロポーズするなんて」
「あはは、告白させるつもりではいたけど……アレは僕も予想外だったよ」
告白するシチュエーションを与えただけで、まさかプロポーズまで行くとは思わなかったし。
「ところで、あのミスコンって……元々あのために?」
「まあ、どんな結果になろうと杉並君が臨機応変に義之が出られるようにはからったんだろうけど……集計の段階でまさかあんなミラクルが出るなんて思いもしなかったけど」
集計を確かめてみればまさかの全員同票だってんだから、本気で驚いたよ。
まあ、そのおかげで盛り上がる展開に持ち込めたわけだけど。
「ちなみに、明久君は誰に入れたのかな?」
「もちろん、ななかちゃんに」
「うん、よろしい。それで、私のファッションはどうだった?」
「できれば近いうちにまた」
「水着ならいいけど、着物は来年の正月までお預けだね」
「ちくしょ~……」
流石に時期が時期なんだから、わかっていたけど。それでもちょっと残念に思うのは仕方なかろう。
「は~、今日は本当に楽しかったな~。学生時代に戻った気分♪」
そう言ってななかちゃんは僕の隣に座り込んだ。
「……ななかちゃん」
「ん?」
僕はななかちゃんと見つめ合い、口を開く。
「僕と、結婚してください」
「…………」
屋上から音が消えた気がした。
「いや、義之があんなこと言うもんだから、僕も対抗心がっていうか……いや、元々それは将来的にって考えていたよ。でも、いつ言おうかって思ってたら今日あんなことがあったわけだから」
言い訳気味に言葉を並べてるが、本当のことだ。実際いつこの話を持ち込もうかというのは結構前から考えていた。
でも、成人いってるとはいえ僕らはまだ学生だ。結婚しようといって、仮に承諾したところでそれからどうするのかという考えも纏まってない段階で言うべきかどうか悩んでいた。
でも、義之のプロポーズを聞いてから僕も真剣に向き合いたいって思った。
「だから、えと……僕もななかちゃんもまだ夢に向かっている最中だからすぐにってわけにはいかないだろうけど、今の学校を卒業して……また同じ場所にいられるようになったら、その時は……結婚してほしい」
「…………」
僕はできる限り真剣な気持ちを込め、頭を下げて言った。
「……どうでしょうか?」
疑問を投げると、僕の視界に手が伸ばされた。
「ちゃんと……ちゃんと、白河ななかを愛してくれますか?」
ななかちゃんは笑顔で僕を見つめた。
「……もちろん。これからもずっと、ななかちゃんを、世界中の何よりも愛し続けるさ!」
僕は迷わずその手を取って宣言した。そして、ななかちゃんが僕の胸に飛び込んできた。
それから互いに見つめ合い、互いに唇を重ね合わせた。
誰もいない屋上、星が散らばる空のもと、ひとひらの桜の花びらが舞った。
これからも、嬉しくて、ちょっぴり照れくさい……桜色の日常が続いていく。
その日のうちに喜びや幸せを奏で、1日を終え、また繰り返す……ダ・カーポのように。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ! 遅刻だあああぁぁぁぁ!」
初音島の住宅地にある一軒家……。
そこから響く叫びから一日が始まった。
「ほら、
「そんなのはいいから! 母さんも父さんも何で起こしてくれなかったのさ!」
今大慌てで身支度を整えているのは息子の明光。今年で風見学園付属に上がった。
「起こしたけど……全く起きないんだもん。だから夜中までゲームするなって言ったのに……学生時代から睡眠不足が続くと健やかな成長を妨げて──」
「ごめん! 医学的な説教はまた今度で! じゃあ、行ってきます!」
「あ、こら明光!」
明光は妻のななかちゃんの声を無視して急いで家を出た。
あはは……随分と騒がしい息子だ。
「も~、明光ったら~」
「あはは、我が息子ながら忙しいね」
「そういう落ち着きのない所、明久君に似たんじゃない?」
「う……でも、勉強に不真面目なところはななかちゃんに似てるじゃん?」
「それは明久君も同じだったじゃん」
はい、その通りでした。
「あ、私はそろそろ病院の方に行かなきゃ」
「じゃあ、僕はさっさと家事を片付けなきゃね。昼近くから忙しくなるし」
「あはは。お店のオーナーは大変だ♪」
「そっちほど引っ張りだこじゃないけどね」
僕らは互いの学校を卒業してから2年ほどで結婚した。
いや、色々大変な日々だったよ。まず結婚に当たって、ななかちゃんの両親の説得。
ななかちゃんの親にはあいさつできても、僕の両親というか、家族はこっちにはいないから色々怪しまれるところもあったし。
まあ、そうでなくても、ななかちゃんのお父さんから無言のプレッシャーをかけられて胃が痛くなったけど。
そして結婚してからも最初はマンションでそれぞれの仕事をこなすだけでも大変だったけど、何年か経ってようやく落ち着き、ななかちゃんは今じゃ児童を専門とした看護師。
僕は商店街に店を出して、そこのオーナー。ちなみに店の名前は『July Rainbow』。
七月の七光りという意味でつけた。なんでこの名前か?
それは察して欲しい。
とまあ、とにかく僕もななかちゃんも互いの夢を実現し、今では子供もいて毎日賑やかな日々さ。
ちなみに義之や親友たちも初音島で暮らしてるが……それはまたいずれ話すとするかな。
「さて、今日も忙しくなるな」
僕はいつもと同じ日常を歩み始める。
これからもきっと同じ日々が続く。それはダ・カーポのように。
いつまでもこの時間を奏でていく。
突然、と思える人がいるのか……ともかく、これにてこの作品は終了となりました。
読者の皆様、最後までありがとうございました。
この作品を始めたのが12年くらいだったか……それが2度にわたって削除され、それでも読者の皆様の声を原動力に3年かかってようやく完結することができました。
少々飽きっぽい自分が3年も執筆を続けられたのがちょっと信じられない気持ちです。
ここまで来れたのはこの作品を見てくれた皆様のおかげだと感謝の念でいっぱいです。
この3年の中で描写の書き方が変わったり、その時間の中で色んなゲームやアニメが更新されてそちらに時間を費やすこともあったり、色々ありながらも執筆を続けました。
この作品を書いているうちに続編を書くのかなどのメッセージがありましたが……それは頭の中で描いてはいますが、リアルでやり残したこともありますし、これからのために勉強したいこともあるので、いつ書けるかは不明です。
それまでは読み専になりますね。いずれ成長した作品を出せるよう頑張りますのでどうか気長にお待ちください。
では、これでこの作品を終了します。最後にもう一度、この作品に最後までお付き合いいただき、真にありがとうございます。